48 / 73
47
しおりを挟む
王妃様から寄越されたのは“お針子“などという可愛いものではなかった。
「うぅ~ん、胸元の布はもう一センチカットすべきかしら」
「いや、むしろずらしては?ここをこう……」
私に仮縫いであてがわれた布をああでもないこうでもないと切ったり変えたりしてる人は有名なデザイナーらしい。
「ダメよ!夫人の髪の鮮やかさを際立たせるのにこの色では弱いわ……あゝそれも駄目よ、派手なら良いわけではないわ」
「先生!こちらならどうでしょうか?」
「あら良いわね。これの色違いでもう少し濃い色はある?」
「はい。付ける位置はこの辺りで?」
「一.五センチくらい下でやってみてちょうだい。結ってみて微調整するわ」
こちらはヘアデザインの専門家とそのお弟子さんらしい。
(そんな職業もあるのね……)
少し離れた場所で待機しているのはジュエリー専門の方々。
「ドレスが決まらないと付ける宝石は決められない」
と仮縫いのドレスを見ながら候補だけ選んでる段階らしい。
(王妃様っていつもこんな準備してるのかしら……)
身分の高い人は大変だな と自分も“身分の高い人“の括りに入っている自覚のないアルスリーアはため息を漏らす。
そう、翌日やって来たのはデザイン画を描く人から布の裁断・縫製担当、ヘアデザインの担当に身に付ける小物までを“全て完璧に仕上げる“ために送り込まれた“お針子も含む専門チーム“御一行様で、その数総勢十二名。
迎えた私とエドワードは顔を見合わせたが、国王夫妻連名の書状を見せられ、(諦めて)一行を中へと迎え入れ__今に至る。
因みに、エドワードは採寸だけして「奥様と対になるように仕上げますので」と早々に解放された。
ズルい。
なんで私だけ?
いや、こういうことは女性の方が何倍も時間も手間もかかるものだと、理解してはいるけれど。
(宝石も布も、キラキラし過ぎてて目が眩みそう……)
と目をパチパチさせていると、
「フェンティ夫人、お疲れですか?」
とお針子助手の女性から声がかかる。
「申し訳ありません、立ちっぱなしですものね。丈の調整は終わったので、あとはこちらに掛けた状態でいたしましょう」
と背もたれのない椅子を示される。
(あとどれくらいで終わるんだろ……)
アルスリーアは遠い目をした。
__終わったのは日がとっぷり暮れた、少し夕食にも遅い時間(間にティータイムはあった)だった。
デザイナー御一行の皆様を送り出した後、夕食の席に着いた私は「お疲れ様、リーア。その、食欲はありそうかい?」と労われた。
「なくはないですが……」
(こういう時は、ひとりで部屋で食べたいな~とか、言ったらダメなんだろうな)
アルスリーアはどこまでいってもアルスリーアだった。
夜会の前日に出来上がってきたドレスは素晴らしいもので、私もこういったことに無頓着なエドワードも息を呑んだ。
「うぅ~ん、胸元の布はもう一センチカットすべきかしら」
「いや、むしろずらしては?ここをこう……」
私に仮縫いであてがわれた布をああでもないこうでもないと切ったり変えたりしてる人は有名なデザイナーらしい。
「ダメよ!夫人の髪の鮮やかさを際立たせるのにこの色では弱いわ……あゝそれも駄目よ、派手なら良いわけではないわ」
「先生!こちらならどうでしょうか?」
「あら良いわね。これの色違いでもう少し濃い色はある?」
「はい。付ける位置はこの辺りで?」
「一.五センチくらい下でやってみてちょうだい。結ってみて微調整するわ」
こちらはヘアデザインの専門家とそのお弟子さんらしい。
(そんな職業もあるのね……)
少し離れた場所で待機しているのはジュエリー専門の方々。
「ドレスが決まらないと付ける宝石は決められない」
と仮縫いのドレスを見ながら候補だけ選んでる段階らしい。
(王妃様っていつもこんな準備してるのかしら……)
身分の高い人は大変だな と自分も“身分の高い人“の括りに入っている自覚のないアルスリーアはため息を漏らす。
そう、翌日やって来たのはデザイン画を描く人から布の裁断・縫製担当、ヘアデザインの担当に身に付ける小物までを“全て完璧に仕上げる“ために送り込まれた“お針子も含む専門チーム“御一行様で、その数総勢十二名。
迎えた私とエドワードは顔を見合わせたが、国王夫妻連名の書状を見せられ、(諦めて)一行を中へと迎え入れ__今に至る。
因みに、エドワードは採寸だけして「奥様と対になるように仕上げますので」と早々に解放された。
ズルい。
なんで私だけ?
いや、こういうことは女性の方が何倍も時間も手間もかかるものだと、理解してはいるけれど。
(宝石も布も、キラキラし過ぎてて目が眩みそう……)
と目をパチパチさせていると、
「フェンティ夫人、お疲れですか?」
とお針子助手の女性から声がかかる。
「申し訳ありません、立ちっぱなしですものね。丈の調整は終わったので、あとはこちらに掛けた状態でいたしましょう」
と背もたれのない椅子を示される。
(あとどれくらいで終わるんだろ……)
アルスリーアは遠い目をした。
__終わったのは日がとっぷり暮れた、少し夕食にも遅い時間(間にティータイムはあった)だった。
デザイナー御一行の皆様を送り出した後、夕食の席に着いた私は「お疲れ様、リーア。その、食欲はありそうかい?」と労われた。
「なくはないですが……」
(こういう時は、ひとりで部屋で食べたいな~とか、言ったらダメなんだろうな)
アルスリーアはどこまでいってもアルスリーアだった。
夜会の前日に出来上がってきたドレスは素晴らしいもので、私もこういったことに無頓着なエドワードも息を呑んだ。
499
お気に入りに追加
2,960
あなたにおすすめの小説
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます
天宮有
恋愛
婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。
家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる