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声の主はカインド伯爵__無礼令嬢の父親だった。
(止めに入るのが遅すぎでしてよ、伯爵?)
アルスリーアは内心で毒吐いて、
「今こちらのご令嬢に私をフェンティ騎士伯爵の妻とは認めない、と責め立てられておりましたのよ。伯爵家では随分個性的な教育をなさっておられるのですね?」
「それは!……フェンティ伯夫人、娘がまことに失礼を致しました。私に免じて、どうかご容赦を」
何でなんの恩どころか義理もなく初対面のお前のツラに免じなきゃならんのだ?
「まあ困りましたわ、ご令嬢が侮辱なさったのは此度の戦の英雄でもあるエドワード・ル・フェンティ様ですもの。許しを請うならエドワード様に直に言って頂かなくては」
「なっ……?!」
「だってそうでしょう?エドワード様が是非にと仰って今日の為に色々誂えて用意し、手ずからエスコートして下さったから参上致しましたのに、皆様“子爵令嬢ごときが身を弁えろ“と暴言を吐くばかりで私が名乗ってもどなたも返してくださいませんのよ?」
「お言葉を返すようだがそれは貴女にも足りないところがあるからではありませんかな?」
カインド伯爵は最初の殊勝な態度は(それも下手だったが)どこへやら、一転してこちらを落としにかかった。
「まあ、伯爵様は何が起こっていたかご存知で?」
「い、いや?遠目に見ていただけだが__」
その割にはさっき“何の騒ぎだ?“とか言ってなかったっけ。
「ご令嬢が無礼な態度を取る一部始終をただ黙って見ていたと」
「声までは聞こえなかったのだ!ただ挨拶をしていると思っても仕方なかろう?君の方こそ何事に対しても穿ちすぎではないかね?!大体君が元は子爵令嬢なのは事実なのだから腹を立てること自体お門違いだろう、違うか?!」
段々と大きくなる声に徐々に周囲に人の数が増えていく。
流石親子だ。
選民意識の高さも、無礼な所もそっくりだ__声高に主張さえすれば勝ちだと思っているところまで。
論破すべく息を吸い込んだところに、割って入った声があった。
「その主張がエドワード伯の前でもできるなら言ってみるといい」
「こ、国王陛下……」
カインド伯が鉛を飲んだような顔になり、周囲がざぁっと頭を下げる。
もちろん私を含めて。
カインド親子はフリーズしたまんまだったけど。
「あゝ良い良い、皆面をあげよ。今宵は先だっての戦で手柄を立てた者たちへ労いと礼に参ったのだ、堅苦しくならんでいい。会いたかったぞ、フェンティ夫人」
「勿体ない仰せにございます、国王陛下」
「エドワードから散々惚気話を聞かされておってな。其方ら夫婦には長く試練を与えてしまってすまなかった。そ「陛下っ!」ん?」
「どう言うことです?何故陛下が私のいない間にリーアと、「やっと来たか」__は?」
遅いわっ!
アルスリーアはそう怒鳴りたいのを我慢して息を吐いた__扇子の下で小さく舌打ちしながら。
「お前がうかうかと離れたままでいるからご夫人がいらぬ誹りをこやつらから受けてしまったではないか、謝れ」
「何だと?」
エドワードが目を剥き、ヒッと貉どもが一歩下がる。
流石、温室育ちの貉もどき!
アルスリーアは心中で妙な賞賛を送ったが、この世界にそんな生物は存在しない。
(止めに入るのが遅すぎでしてよ、伯爵?)
アルスリーアは内心で毒吐いて、
「今こちらのご令嬢に私をフェンティ騎士伯爵の妻とは認めない、と責め立てられておりましたのよ。伯爵家では随分個性的な教育をなさっておられるのですね?」
「それは!……フェンティ伯夫人、娘がまことに失礼を致しました。私に免じて、どうかご容赦を」
何でなんの恩どころか義理もなく初対面のお前のツラに免じなきゃならんのだ?
「まあ困りましたわ、ご令嬢が侮辱なさったのは此度の戦の英雄でもあるエドワード・ル・フェンティ様ですもの。許しを請うならエドワード様に直に言って頂かなくては」
「なっ……?!」
「だってそうでしょう?エドワード様が是非にと仰って今日の為に色々誂えて用意し、手ずからエスコートして下さったから参上致しましたのに、皆様“子爵令嬢ごときが身を弁えろ“と暴言を吐くばかりで私が名乗ってもどなたも返してくださいませんのよ?」
「お言葉を返すようだがそれは貴女にも足りないところがあるからではありませんかな?」
カインド伯爵は最初の殊勝な態度は(それも下手だったが)どこへやら、一転してこちらを落としにかかった。
「まあ、伯爵様は何が起こっていたかご存知で?」
「い、いや?遠目に見ていただけだが__」
その割にはさっき“何の騒ぎだ?“とか言ってなかったっけ。
「ご令嬢が無礼な態度を取る一部始終をただ黙って見ていたと」
「声までは聞こえなかったのだ!ただ挨拶をしていると思っても仕方なかろう?君の方こそ何事に対しても穿ちすぎではないかね?!大体君が元は子爵令嬢なのは事実なのだから腹を立てること自体お門違いだろう、違うか?!」
段々と大きくなる声に徐々に周囲に人の数が増えていく。
流石親子だ。
選民意識の高さも、無礼な所もそっくりだ__声高に主張さえすれば勝ちだと思っているところまで。
論破すべく息を吸い込んだところに、割って入った声があった。
「その主張がエドワード伯の前でもできるなら言ってみるといい」
「こ、国王陛下……」
カインド伯が鉛を飲んだような顔になり、周囲がざぁっと頭を下げる。
もちろん私を含めて。
カインド親子はフリーズしたまんまだったけど。
「あゝ良い良い、皆面をあげよ。今宵は先だっての戦で手柄を立てた者たちへ労いと礼に参ったのだ、堅苦しくならんでいい。会いたかったぞ、フェンティ夫人」
「勿体ない仰せにございます、国王陛下」
「エドワードから散々惚気話を聞かされておってな。其方ら夫婦には長く試練を与えてしまってすまなかった。そ「陛下っ!」ん?」
「どう言うことです?何故陛下が私のいない間にリーアと、「やっと来たか」__は?」
遅いわっ!
アルスリーアはそう怒鳴りたいのを我慢して息を吐いた__扇子の下で小さく舌打ちしながら。
「お前がうかうかと離れたままでいるからご夫人がいらぬ誹りをこやつらから受けてしまったではないか、謝れ」
「何だと?」
エドワードが目を剥き、ヒッと貉どもが一歩下がる。
流石、温室育ちの貉もどき!
アルスリーアは心中で妙な賞賛を送ったが、この世界にそんな生物は存在しない。
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