上 下
29 / 73

28

しおりを挟む
「まぁっ!エルドア子爵令嬢ではなくて?お久し振り__というより初めてかしら?こういう場でお会いするのは?」
そして、今アルスリーアは“嫌な予感“の的の中にいた。
もちろんエドワードは先ほどまで一緒にいたが、当然彼と親しくなりたい者は多く、中にはコネと権力をフル稼働させて突撃してくる猛者もいて自然引き離された形だ。

彼らの“お近付きになりたいリスト“にアルスリーアの存在は入っていない。
「初めまして。アルスリーア・と申します。覚えがないのですけど、どこかでお会いしましたかしら?」
そしてアルスリーアにはそれがよくわかっていた。
「なっ……!同じ学園にいたのに覚えていらっしゃらないの?随分物覚えが悪くていらっしゃること!」
着ているドレスは高級品、扇子捌きも悪くない。
年の頃は十八からアルスリーアと同じくらい、見覚えがなくもないが化粧が濃すぎて判別し辛い。

家庭教師として勤めていたアルスリーアは知らず人を観察してしまう癖がついていた。
「共に卒業した方なら憶えているのですが」
アルスリーアはスキップで十六になる前に卒業している。
ついでにアルスリーアと同じ年でスキップ卒業した生徒はおらず、順ってアルスリーアと“共に卒業“したのは二、三才年上の生徒のみである。
「し、子爵令嬢の分際で伯爵令嬢の私を覚えていないですってっ?!なんて失礼で頭の悪いご令嬢なのかしらっ!」
(さっきから“子爵令嬢“連呼してるけど、私が名乗ってる以上凄く無礼を重ねてるってわかってないのかな……)
ついでに誰もコレを諭さないのか?とも。

ちらりと周囲を見遣ると気の毒そうな目線よりも良い気味だという目線が、さらにはただ面白い見世物だと思って高みの見物を決め込んでいる目線が一番多い。
扇子で口元は隠せても、目元は隠せない。
アルスリーアは彼らの顔を目に焼き付け、ついでに頭にある貴族名鑑と彼らの顔を一致させていく。

アルスリーアの記憶力は折り紙つきだった。

「記憶中枢が破綻してらっしゃるの?それとも耳が悪くていらっしゃるのかしら?」
「な、なんですってぇ?!」
「あら、耳が悪いわけではないのですね。では障害があるのは記憶力の方なのかしら?」
アルスリーアの容赦ない物言いに茹で蛸のように口をパクパクさせる令嬢に今度は嘲笑が向けられる。

周囲の反応を見るに、あまり人望のある令嬢ではないようだ。
取り巻きはいても友達はいないって感じかな?
「わ、私は伯爵令嬢なのよっ?本当なら貴女ごときが__「あゝカインド伯爵家のご令嬢でしたか、確かに中等学年の頃何度かお見かけしたことがございますが親しくお話ししたことはありませんわね、私の方が三学年ほど飛び級スキップさせていただきましたから、それきり学内でお見掛けした覚えもございませんし」え?」

__こういった連中と“お近づきになりたくないリスト“を作成しているのはアルスリーアも同様だった。














しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます

天宮有
恋愛
 婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。  家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~

希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。 離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。 反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。 しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で…… 傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。 メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。 伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。 新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。 しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて…… 【誤字修正のお知らせ】 変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。 ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。 「(誤)主席」→「(正)首席」

処理中です...