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ひと通り聞いた後のアルスリーアの反応は、
「はぁ……、そうですか」
のひと言だけだった。
「えぇと……リーア?」
あまりに反応が薄いので心配になったエドワードが声を掛けると、
「えぇと、お話は以上、ですか?」
「以上って、リーア、あの?」
口を挟まずに聞いていたアルスリーアはここまで聞いても何ら反応を示さない。
不安を覚えたエドワードは、
「そうだな、怒ってるよな?ごめん。不安にさせて__でも早く出世すれば君にも良い暮らしをさせてあげられるとも思ったからがむしゃらに駆け回ったのも本当なんだ、ろくに便りも送れなかったけど、戦場でもリーアをずっと想ってた」
熱っぽく語るエドワードに対し、
「__それをどうやって証明できますの?」
アルスリーアの声には何の温度もなかった。

「っ……それは、」
「アルスリーア嬢!」
「何ですかディーン様?確かにお二方は国を私達民を護ってくださった英雄、長きに渡っての戦い本当にお疲れ様でございました。その点に関しては感謝しております、この国に住まう大多数の国民と同じように」
「__個人としては違うと?」
「ディーン様に関しては本日が初対面ですので個人的に思うところは何もございませんが、」
アルスリーアは一旦躊躇いがちに言葉を切った。

「……言ってくれ、リーア」
「無礼を承知で申し上げますエドワード・フェンティ閣下、貴方様のその計画は“貴方様だけのもの“ですわ。だって相手の女性には実行する前もした後も、何ひとつ告げていないのですもの。」
「えっ……」
「良いですか?確かに婚約者ではありましたが、で出征を決めた貴方は婚約者が止めるのも聞かず、またその理由も説明しませんでした。貴方様が婚約者に与えたのは“デビュタントには迎えに来る“のひと言だけ。そして出征直前に勝手に婚姻届を出して行ってしまった、いつ戻れるかもわからない場所に。二週間後、婚約者の女性は既に書類上の婚姻が成立していると聞かされ慌てて両家の親に確認するも“特に理由は聞かされていない“と言われ訳がわからず途方に暮れますが、フォローしてくれる人は誰もいないわけです、何故ならそれも決めて実行したことだから。はい、ではこの時点で婚約者の心に真っ先に浮かぶものはなんでしょう?」
生徒に優しく問う教師のように微笑んでいるが、その実 目が笑っていないのでな
んだかとても恐ろしい。

背中を冷や汗が伝って答えられないエドワードに変わってディーンが答える。
「不信感、ですね」
「はい正解です。私がフェンティ様に不信感を抱いたのはその時が初めてでした。それ以前はただひたすら慕って、離れてしまうことを哀しんでいただけの心に不信感が芽生え、それは私の心身が成長するのと同時に大きく伸びていきましたのよ?それでも必死に伸びるのを止めようと努力はしました、“デビュタントには迎えに来てくださると言っていた、それを信じて待てばいい“、“あの優しいフェンティ様が一方的に籍だけ入れて捨て置くなんて酷いことをなさるはずがない“って」
胸に手をあてて呟くさまは敬虔なシスターのようだ__エドワードはメデューサを前に盾を無くした勇者みたいになっているが。

















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