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それから四年後、私は十六になった。
最初の一年は戦地から
“何も言わずにごめん、帰ったらちゃんと話そう“
“大きな怪我はない、君も息災であることを願う"
とかひと言だけのメッセージは来ていた。
文字数や書けないことも多いのだろう、基本、戦地からの情報は少ない。
居場所を転々とするから返事も出来ない。
年を追うごとに数は減っても無事だという知らせは来ていた。

そして、私のデビューは明日に迫っていた。
「エドワード殿から、何か連絡は来たか」
「……何も」
「そうか」
父は何の感情も乗せずに言う。
わかっている、来ているのはまだ生きているという〝知らせ〟だけ__それ以外には何もない。
私が今年デビューだということも、忘れているのかもしれない。

それでも、信じていたかった。縋っていたかった。
守ると言ってくれた言葉を、幼い頃からの想いを否定したくなかった。
けれど、デビュー当日も、それから一週間経っても、彼からの連絡はなかった。
エドワード本人からはもちろん、彼の実家である侯爵家からも。
夫が戦地にいる以上、父にエスコートされて出るのに問題はなかったがそんな気にはなれなかった。

やっぱり、私は捨て置かれたのだ。
父も書類上は侯爵家の息子の妻とはいえあちらが私や実家に何かしら援助をしているわけでもなくこれではただの穀潰しだ。
「ここで惨めに待ってても、仕方ないわよね……」
やけになって勉強をサボらなくて良かった。
本来ならデビューしたはずの日から一週間後の翌日、
「お父様、お願いがあります」
私は除籍を願い出た。
父は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに真顔になって、
「フェンティ殿のことはどうするのだ、形だけとはいえお前は、」
「形にすらなっていませんわ。書類上そうなっているだけ。あの方もあちらの家も私の存在など忘れているでしょうし婚姻時も私の承諾やサインなど求めなかったのですから離婚だって同じようになさるでしょうし何らお父様が気になさることはありません。十六年間、育ててくださってありがとうございました。そうそう、除籍していただくにあたってひとつだけお願いがありますの」
「何だ」
「紹介状を一筆、お願いできますでしょうか?」





こうして私は貴族籍を抜け、少しだけ旅をした後ある地方領主の子息の住み込み家庭教師として落ち着いた。
領主夫婦はとても感じの良い人達で私の生徒でもあるご子息ジェイミーも両親の愛情を一身に受けているせいかとても良い子で教え甲斐があり、良く懐いてくれていた。
ジェイミーは私がここに来た当時九歳、今は十二歳である。
そんな中、ついに「戦争がこちらの勝利にて集結し、全軍が帰還する」
という話が流れてきた。
王都から離れた地方に流れてくるまで多少のラグは生じるだろうから、王都ではもう帰還しているのかもしれない。
「まぁ、今の私には関係ないけれど……」
あれから元実家とも、“元嫁ぎ先”と言ったら語弊があるが___フェンティ侯爵家とも一切連絡は取っていない私は、そう信じて疑わなかった。

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