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カイン・ローゼンタール(完結)
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僕カイン・ローゼンタールはローゼンタール公爵家の嫡男として生まれた。そして、生まれてすぐから前世の記憶があった。
赤児は喋れないから周りを不思議そうな顔で観察していても不審がられる事はなかった。
前世の自分は日本人で、大学二年生の時に事故で死んだ。
ここに生まれ落ちて、どう見ても日本ではない世界を観察しながら過ごし「ここはどうやら妹(当時中学生)がやっていた乙女ゲームの世界らしい」と気付く。
らしい、というのは自分は妹がやっていたのを何度か見かけ、
「ほらほら、これがメイン攻略対象の王子様なんだよ!カッコいいでしょ?!」
「レアスチルやっとゲットした!見てみて、超美麗ビジュアル~~絵師様神!」
とか無理矢理画面を見せられた事があるからだ。
そして、頼んでもいないのに詳細にストーリーの解説も受けた。
そんな僕はやがて七歳になった時親が催したお茶会で未来の悪役令嬢、セイラ・ローズと対面した。
父伯の黒い髪と瞳を受け継いだ少女は夜の猫みたいな瞳といい、きゅっとひき結んだ口元といい人に懐かない猫のような印象を受けた。
だが社交界の黒幕といわれる父伯はそんな娘が可愛くてならないらしい。
少女の我儘な言動にもにこにこと頷いている。
なるほど、確かにこのまま実力者である父伯に甘やかされて育ったなら我儘で傲慢な悪役令嬢に仕上がってしまうのかもしれない。
(まあ、関係ない)
乙女ゲームのような展開があろうとなかろうと、別にこの令嬢本人に記憶があるわけではないみたいだし。
見たところ、至って普通の貴族令嬢だ。
興味もましてや忠告する気なんてさらさらなかった。
「もし、本当に目の前で〝断罪劇〟なんてコントが見られるなら存外面白いかもしれない」
そんな風にすら、思っていた。
とりあえず公爵家に生まれた自分にはやらなければならない事がいっぱいあったし、不思議な事に彼女は成長するにつれ社交界には顔を出さなくなった。
後にレオン殿下と王妃と王太后が共謀して他の貴族子弟と顔を合わせないようにしていたのは後から知ったが、彼女が第二王子の婚約者筆頭候補になったとは聞いていた。
同じ年の第三王子ではなく、第二王子……だとしたら、レオンルートという事か?
そんな事を考えながら役員補佐を務め、生徒会長として新入生を迎えた。
入学式直後セイラ・ローズが倒れ入寮が見送りになったのには驚くと同時に「まさかそれで記憶が戻ったり?」などと思ったりもしたが、そんなことはあり得ないと思っていた。
だが、どうも登校してきたセイラ嬢は幼少期の高慢さは消え失せ、代わりに凛とした貴族子女らしい佇まいをみせていた。
だが、それだけだった。
それでなくても今生徒会は大変なのだ。
皆が王立の理念のもと平等を促す努力をしているというのに〝世界の中心は自分だ〟と信じている馬鹿王子もといラインハルトとキャロル・ステインとその取り巻きたちがおそるべき早さで特権派閥を形成していった。
キャロル・ステインがヒロインにあたるらしいという事は暫く観察していて気が付いた。
名前はゲーム開始時に好きな名前を付けられるのでわからなかったのだがそもそもゲーム内ではファーストネームでしか呼び合わないし、家名など どこかに出てきたかも知れないが覚えていない。
それに、そもそもラインハルトと悪役令嬢たるローズ伯令嬢が婚約していない。
だから、単に妃狙いなだけかとも思ったのだ。
が、セイラ嬢が遅れて学園入りした途端状況が一変した。
セイラが正面から彼等の行動に斬り込んで行ったのだ。
これには息を呑んだ。
自分もその現場を見てはいた。
遠目から、人目につかないように、巻き込まれないように__生徒会長という役職にありながらどこか展開を知ってる者の特権だと言わんばかりの傲慢さでただ見ていた。
ヒロインたる キャロル・ステインと悪役令嬢たるセイラ・ローズが互いを認識した時、どんな行動を取るのだろうかと、高見の見物を決め込んでいたのだ。
虐げられている生徒を助けもせずに。
自分にはその力があったのに、相応しい立場も与えられていたのに。
自分の〝見てみたい〟欲望を優先させた。
まだ生徒会役員でもない彼女はすぐ助けに入ったのに。
それを思い知って、自分で自分の胸ぐらを掴みたくなった。一体自分は、何をしているのか。
彼女をもっと知りたくなった。
だから生徒会に入れた。
生徒会として利点もあった。
実際彼女は〝ローズ伯の令嬢〟〝王妃の姪〟という立場を踏まえた上でもそれ以外でもとても有能な役員だった。
そしてある日我が家が代々風紀委員兼隠密の中核を担う家だったのと、自分に記憶があったから気付いた。
彼女が密かに追放された後の準備をしているらしい事に。
あゝやっぱり彼女には記憶があるのだ。
もっと近くで見ていたい、話したい。
見ているうちに興味が湧いて、どんどんその瞳と行動力と誇り高さに気付けば目が離せなくなった。
だから、ほんのちょっと思った。
もし、彼女がどの攻略対象とも結婚しない未来を選んだなら、又は何がしかの理由で誰とも婚約しなかったら__婚約を打診してみてもいいかもしれない。
幸いうちは公爵家だし、身分的には何の問題もない。
だから、婚約者から外れたなら話してみよう__なんて。
だけど、きっともうそれは言っちゃいけない事なんだ。
「悪役令嬢とヒロインの対決が目の前で観られるとか面白そう」
そんな風に高見の見物を決め込んでいた僕に、そんな資格はなかったね。
だから、あの時部屋にいた自分は何も言えなかった。
彼が口にしたのは既に皆が退室した室内でひと言だけ。
「一番ざまぁされたの、国王陛下だったみたいだね?」
〝悪役令嬢〟という枠に囚われず、自分の力で、自らの意思とその強い瞳で己の未来を切り開いた君こそがこの世界の主人公。
「さようなら、僕の悪役令嬢」
彼は膝を折り深く騎士の礼を取った。
そして結婚式当日 、仲睦まじい二人をどこかほろ苦い笑顔で見ていたカインは二人がドラゴンフラワーシャワーを浴びるのを見て笑みを深め呟いた。
「ハッピーエンド、おめでとう」
多くの参列者と心からの拍手と共に。
*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*
カイン・ローゼンタール。彼が継いだローゼンタール家は長きに渡り時に盾となり時には相談役にまわり助言を与え、時流によって立ち位置を変えながらも王家に寄り添う公家として発展し続ける事になる。
*・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・*
王城迷路~令嬢は薔薇の庭で愛でられる~ というタイトルの乙女ゲームには二人の〝隠しキャラ〟がいた。
一人目のリュート・ローズに比べ難易度が高くそもそもリュートも含めた全キャラのルートを小さなイベントまで余す事なく網羅しないと出現自体なく終了してしまう為、〝出現までが鬼レベル〟と世の乙女たちに言わしめた第二隠しキャラの名前こそカイン・ローゼンタールだった。
彼自身も、それを知る事はない。
赤児は喋れないから周りを不思議そうな顔で観察していても不審がられる事はなかった。
前世の自分は日本人で、大学二年生の時に事故で死んだ。
ここに生まれ落ちて、どう見ても日本ではない世界を観察しながら過ごし「ここはどうやら妹(当時中学生)がやっていた乙女ゲームの世界らしい」と気付く。
らしい、というのは自分は妹がやっていたのを何度か見かけ、
「ほらほら、これがメイン攻略対象の王子様なんだよ!カッコいいでしょ?!」
「レアスチルやっとゲットした!見てみて、超美麗ビジュアル~~絵師様神!」
とか無理矢理画面を見せられた事があるからだ。
そして、頼んでもいないのに詳細にストーリーの解説も受けた。
そんな僕はやがて七歳になった時親が催したお茶会で未来の悪役令嬢、セイラ・ローズと対面した。
父伯の黒い髪と瞳を受け継いだ少女は夜の猫みたいな瞳といい、きゅっとひき結んだ口元といい人に懐かない猫のような印象を受けた。
だが社交界の黒幕といわれる父伯はそんな娘が可愛くてならないらしい。
少女の我儘な言動にもにこにこと頷いている。
なるほど、確かにこのまま実力者である父伯に甘やかされて育ったなら我儘で傲慢な悪役令嬢に仕上がってしまうのかもしれない。
(まあ、関係ない)
乙女ゲームのような展開があろうとなかろうと、別にこの令嬢本人に記憶があるわけではないみたいだし。
見たところ、至って普通の貴族令嬢だ。
興味もましてや忠告する気なんてさらさらなかった。
「もし、本当に目の前で〝断罪劇〟なんてコントが見られるなら存外面白いかもしれない」
そんな風にすら、思っていた。
とりあえず公爵家に生まれた自分にはやらなければならない事がいっぱいあったし、不思議な事に彼女は成長するにつれ社交界には顔を出さなくなった。
後にレオン殿下と王妃と王太后が共謀して他の貴族子弟と顔を合わせないようにしていたのは後から知ったが、彼女が第二王子の婚約者筆頭候補になったとは聞いていた。
同じ年の第三王子ではなく、第二王子……だとしたら、レオンルートという事か?
そんな事を考えながら役員補佐を務め、生徒会長として新入生を迎えた。
入学式直後セイラ・ローズが倒れ入寮が見送りになったのには驚くと同時に「まさかそれで記憶が戻ったり?」などと思ったりもしたが、そんなことはあり得ないと思っていた。
だが、どうも登校してきたセイラ嬢は幼少期の高慢さは消え失せ、代わりに凛とした貴族子女らしい佇まいをみせていた。
だが、それだけだった。
それでなくても今生徒会は大変なのだ。
皆が王立の理念のもと平等を促す努力をしているというのに〝世界の中心は自分だ〟と信じている馬鹿王子もといラインハルトとキャロル・ステインとその取り巻きたちがおそるべき早さで特権派閥を形成していった。
キャロル・ステインがヒロインにあたるらしいという事は暫く観察していて気が付いた。
名前はゲーム開始時に好きな名前を付けられるのでわからなかったのだがそもそもゲーム内ではファーストネームでしか呼び合わないし、家名など どこかに出てきたかも知れないが覚えていない。
それに、そもそもラインハルトと悪役令嬢たるローズ伯令嬢が婚約していない。
だから、単に妃狙いなだけかとも思ったのだ。
が、セイラ嬢が遅れて学園入りした途端状況が一変した。
セイラが正面から彼等の行動に斬り込んで行ったのだ。
これには息を呑んだ。
自分もその現場を見てはいた。
遠目から、人目につかないように、巻き込まれないように__生徒会長という役職にありながらどこか展開を知ってる者の特権だと言わんばかりの傲慢さでただ見ていた。
ヒロインたる キャロル・ステインと悪役令嬢たるセイラ・ローズが互いを認識した時、どんな行動を取るのだろうかと、高見の見物を決め込んでいたのだ。
虐げられている生徒を助けもせずに。
自分にはその力があったのに、相応しい立場も与えられていたのに。
自分の〝見てみたい〟欲望を優先させた。
まだ生徒会役員でもない彼女はすぐ助けに入ったのに。
それを思い知って、自分で自分の胸ぐらを掴みたくなった。一体自分は、何をしているのか。
彼女をもっと知りたくなった。
だから生徒会に入れた。
生徒会として利点もあった。
実際彼女は〝ローズ伯の令嬢〟〝王妃の姪〟という立場を踏まえた上でもそれ以外でもとても有能な役員だった。
そしてある日我が家が代々風紀委員兼隠密の中核を担う家だったのと、自分に記憶があったから気付いた。
彼女が密かに追放された後の準備をしているらしい事に。
あゝやっぱり彼女には記憶があるのだ。
もっと近くで見ていたい、話したい。
見ているうちに興味が湧いて、どんどんその瞳と行動力と誇り高さに気付けば目が離せなくなった。
だから、ほんのちょっと思った。
もし、彼女がどの攻略対象とも結婚しない未来を選んだなら、又は何がしかの理由で誰とも婚約しなかったら__婚約を打診してみてもいいかもしれない。
幸いうちは公爵家だし、身分的には何の問題もない。
だから、婚約者から外れたなら話してみよう__なんて。
だけど、きっともうそれは言っちゃいけない事なんだ。
「悪役令嬢とヒロインの対決が目の前で観られるとか面白そう」
そんな風に高見の見物を決め込んでいた僕に、そんな資格はなかったね。
だから、あの時部屋にいた自分は何も言えなかった。
彼が口にしたのは既に皆が退室した室内でひと言だけ。
「一番ざまぁされたの、国王陛下だったみたいだね?」
〝悪役令嬢〟という枠に囚われず、自分の力で、自らの意思とその強い瞳で己の未来を切り開いた君こそがこの世界の主人公。
「さようなら、僕の悪役令嬢」
彼は膝を折り深く騎士の礼を取った。
そして結婚式当日 、仲睦まじい二人をどこかほろ苦い笑顔で見ていたカインは二人がドラゴンフラワーシャワーを浴びるのを見て笑みを深め呟いた。
「ハッピーエンド、おめでとう」
多くの参列者と心からの拍手と共に。
*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*
カイン・ローゼンタール。彼が継いだローゼンタール家は長きに渡り時に盾となり時には相談役にまわり助言を与え、時流によって立ち位置を変えながらも王家に寄り添う公家として発展し続ける事になる。
*・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・*
王城迷路~令嬢は薔薇の庭で愛でられる~ というタイトルの乙女ゲームには二人の〝隠しキャラ〟がいた。
一人目のリュート・ローズに比べ難易度が高くそもそもリュートも含めた全キャラのルートを小さなイベントまで余す事なく網羅しないと出現自体なく終了してしまう為、〝出現までが鬼レベル〟と世の乙女たちに言わしめた第二隠しキャラの名前こそカイン・ローゼンタールだった。
彼自身も、それを知る事はない。
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ありがとうございます!推敲が遅くて申し訳ありません。頑張りますね。
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ありがとうございます!頑張ります!