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side リュート

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俺の妹は幼い頃から聡かった。
ただ普通の子供より勉強が出来るとかお行儀がいいというレベルではなく、他人ひとの本質を見抜く事に長けていた。

例えばとても評判も愛想も良く仕事熱心であるという認識の使用人をみて、
「なんかあの人の周りが黒い」
と言ったりするのだ。
最初は子供特有の戯言かと思いきや、念の為調べてみると影で陰湿な虐めをしていたり経費を横領していたりと、必ず何らかの問題がみつかった。

そこで俺と父は幼いセイラを連れて領地のあちこちを巡ってみると出るわでるわ。地方裁判所の判事が判決は賄賂カネ次第だったりとか不作とされた作物こっそり貯めこんどいたりとか。
なかでも凄かったのはその地方では折り紙付きの〝善人〟と称される領主が実はその町の〝悪人〟の親玉で、しかもその時〝領主の娘〟として館で育てられてたのは実は若い愛人で本物の娘は地下に監禁されてたりなんかして__あれは後始末が大変ではあったがあのまま更に数年気付かれないままだったりしたらどうなっていた事か___考えただけで寒気がする。

今にして思えばあれは、本人に自覚はなくとも(記憶を封じられていたらしいから)〝竜眼〟が作用していたのだろうと思う。

そんなセイラが、当時第二王子ではあるものの唯一正妃の子であるが故、次期王太子に一番近いと目され、期待と監視と地位狙いのメス達からの視線に荒れに荒れ狂っていたレオンに懐いた。
帰ってどういうワケか訊くと、「レオン様の光が三人の王子さまのなかで一番強いのです。きらきら光って、とても綺麗なのです」と屈託なく笑うのをみて俺も親父も「立太子するのはやはり」と目と目で頷きあった。
尤もセイラ曰く光は濁ったり弱ったり、果ては全くなくなったという人もいるので決め付けるわけにはいかないが、一応後日他の二人の印象も聞くと、
「ロッドハルト様の光もレオン様ほど強くはないけど綺麗です。なんだか森の命みたいな色」
ラインハルトに関しては、
「うーーん、興味ないです。特に光ってなかったですし」
だった。
王が一番溺愛している見た目も王に一番近い王子だがこの時点で「ないのか……」とちょっと気の毒かつほっとした。



ただ懐いてるうちは別に良かった。
子供が兄の友達に懐いてるだけならば、相手が王子であろうが別に。
だが、レオンが目に見えて変わり出し、当然周りも気付き、その元にも気付き。
セイラを妃に、と王妃様と王太后が言い出した。俺と親父 は勿論反対だった。
セイラの善きも悪きも見抜いてしまう瞳は王宮では危険であったし、親父からしたら姉である王太后がいかに苦労してきたか知っている上また現王妃が苦労しているのも妹である母を通して良く知っているものだから、娘を王家にやる気なんてさらさらなかった。
自慢ではないが我が家は政略結婚の必要はない。
そもそもが父が実の甥にあたる国王に何の遠慮も容赦もなく忌憚なく意見を述べる為、国王は幼い頃より父を苦手としている。
それだけの発言力がありながら我が家が伯爵に留まっているのは〝国の天秤〟たる立場を重視し「これ以上自分の位が高くなると下からの声が聞こえなくなる」と危惧しているからだ。
敢えて苦労するとわかっている立場におく必要などないのだ。
だからこそあそこまでレオンに厳しい条件を課した。

尤もレオンも負けず劣らずセイラが年の近い貴族子弟と関わりを持つのをあらゆる手を使って(王妃、王太后ともタッグを組んで) 邪魔をした。
一度でもお茶会などで親しげに会話した男子とは以後一切会わないように王室における強権発動で予定を被せてくるのだ。
王子自分とのお茶会、王妃に姪っ子の顔が見たいから見せにいらっしゃいとのお誘い、更には「隠居して暇なので話相手になって頂戴」と王太后が言ってくる始末。
おかげでどこの門番にもセイラは顔パスになってしまった。
が、これのせいでセイラは年の近い貴族子弟とまともな交流をしない幼少期を過ごす事になり、「いくら何でもこれではセイラが魔法学園に入った際に周りとの付き合いに苦労するだろうが!やりすぎだ」と苦言を呈せば「その時は学園など辞めて俺と結婚すればいい。城で優秀な家庭教師を手配する」と言い切ったレオンを俺は無言でぶん殴っておいた。

それでも「セイラが少しでも年の近い子弟と顔を合わせる事があったら知らせろ」とせがむレオンにそれは干渉しすきだと言う通りにするつもりはなかったが、ウザいくらいへこたれないレオンはセイラがすこしでも他家の子弟と交流を持ったと知るや後から知らされた途端「何故知らせない!」と特攻してきてうるさいのと、そこまで本気で妹を想って努力するなら応援してやってもいいくらいにはこの悪友を信頼してもいた。
だが、レオンと叔母二人が結託して徹底的に他の貴族子弟との接触を遠ざけ、しょっちゅう城に呼びつけられていたセイラはお茶会等で他の貴族の子供との交流が全くと言っていいほどないまま魔法学園へ入学する事になってしまい、やはりそこは後悔し、心配でもあった。
実際、それを知ったセイラにいっ時「もうお兄様とは呼びません」宣言されて凹んだ。

さらにセイラがご機嫌斜めどころか体調を崩した。
食事どころか紅茶すら拒否し、白湯だけを口にしセイラに好きなフルーツを切って出してみても口にしてすぐに吐きだしてしまったという。
その報告をしてきたメイドは隠密でもある。
原因に心当たりはないか尋ねると、
「さあ?私のような者ではわかりかねます。学園では特権派達に常に狙われているのをご用心されてましたし、一般生徒達には頼りにされていらしたので疲れがたまってらしたのでは?本来なら夏休みでお家に帰ってらっしゃるはずがこのような事になって」
そんなこともわからないのか?といった表情で答えるリリベルより募ったのは気付かなかった自分への苛立ち。

(そうか、確かにあのバカ王子のせいでセイラは学園生活に苦労しデビューの場さえ酷い目にあってその上今回の騒ぎだ)先程のヒステリー状態も頷ける。
早く家に帰ってひと息つきたいと思って当然だ。
よりによってそんなタイミングで自分は何て事を言ってしまったのか__リュートは頭を抱え、レオンに詰め寄った。



「お前、まさかもう懐妊させるような真似してないだろうな?」
「してない!まだキスしかしてないぞっ!」
「キスだと?もちろん本人の許可とったんだろうな?」
「も、もちろんだ。」
 明らかに上擦った声と泳いだ目線……怪しい。
「ほう?なら、妹にきいてみるとしよう」
「い、いや兄から妹にその質問はマズいと思うぞ?後々気まずくなるんじゃないか?」
「それもそうか?では叔母上にきいていただくとしよう、女性同士なら問題あるまい」
「い、いやそれはーー!」
 確信した。

ぼぐっ!と小気味良い音と共に鳩尾に拳がヒットする。
「貴様、やっぱり許可もとらずに襲ったな?!」
「い、いいだろうキスくらい!婚約者同士なのだから!」
「いい訳あるか!セイラは純粋培養十四歳だぞこの変態!」
「だからキスだけで我慢してるんだろうがっ!」
「貴様のその欲望がまだ十四のあの子に集中してるのが問題なんだこの色ボケ王子っ!」
「だが彼女は好きだと言ってくれた!」
開きなおりやがった。
が、手は緩めない。
「言い訳にならん!第一そこで嫌いだって言われてもお前は絶対キレて襲ってたろーがっ!!」
「っ、それは、」
固まったレオンに、
「〝そうかも〟って顔に書いてあるぞこの野郎!!」
更に腹部に蹴りが入る。

火に油である。

顔は狙わず、服で覆われた部分だけボコボコにしてやった。
「大体、お前は奪いすぎなんだ!あの子が年の近い子と仲良くする機会も!話す機会さえ片っ端から潰してまわったろう⁉︎学園へ入る前にとっとと婚約を纏めたり今度のことだってそうだ!そんなに妹が信用出来ないか?それとも自分に自信がないのかっ?」
リュートの台詞にあからさまに図星を突きつけられ、呆けたまま固まったレオンにリュートも固まる。
「セイラは、美しくなったな。生徒会での活躍も目覚ましい。流石ローズ伯の娘というところか、学園内でも身分を問わず慕う生徒も多いときく。名家の子弟も多い……俺より彼らといる方が楽しいのかも知れない。」
「……ないのは自信とか、マジかよ」
小さく呟いたリュートは手を放した。



そんな後だっただけに、婚約発表でのレオンのデレっぷりはヤバかった。
有り体に言って怖かった。
十歳のセイラを見初めて(本人十五だったけど)以降下心がバレない様に優しいお兄さんとして接しつつ(そりゃもう知らない人がみたら誰だアレ レベルで)、セイラに関心を持つ輩を片っ端から遠ざけ(ちょっとやりすぎだろうというレベルで)年頃になるまで待った(最後暴走したが)だけの事はある。


 *・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・*
 まあ、その後も国王とか兄王子とか国王とかが何やかや やらかしてくれたおかげでセイラは翻弄されまくった。

これ以上やらかすようなら絞めてやろうと思ってたが___。

(必要ないな。自分でやっている)

王宮で国王と皇帝をビシバシ絞め上げているセイラを見て感心する。
まあ、国王は王妃にも扇子ではたかれているが。
あの扇術は要注意だ。
騎士の必殺の剣さえさくりと受け止め流したかと思えば、次の瞬間には張り倒されてるいのだ、扇で横っ面を。あれは痛い。
我が妹もああなるのか__いや、今ならドラゴンの尻尾でやるかもしれない。
臣下としては喜ばしいが、兄としてはそこまで行かないでほしい。

国王は暗愚ではないのだが、少々思い込みで突っ走るきらいがある。

が、そのさすがの妹も王太子妃のくだりでは固まった。

無理もないが。
 
まあ、普通に考えれば当たり前だ。
第三王子に続き第一王子も脱落となれば第二王子しかいないし、実力も国外への影響力も充分。
さらに正妃がセイラというのが一因でもある。
本人自覚はしてないだろうが、セイラが選んだのが第一王子であったならあちらが王太子に選ばれていたろう。

それくらい、お前の影響力は強いんだぞ?妹よ。

そこまで王家にロックオンされていたとは夢にも思ってなかった無欲な妹が固まる様子に苦笑する。
まあ、レオンが王太子だろうが廃嫡された王子であろうが、セイラは気にしないのだろう。
国王の首を(精神的に)ぎゅうぎゅう絞め付けてるものの、やはりまだ小柄な少女である妹の言葉にリュートは苦々しく思う。

(重いのは、ロッドハルトへの刑じゃなくお前の肩だろ)
ついでにセイラが一番怒ってるのは自分自身の事よりレオンの存在を軽んじてるような国王の言動なのだ。
つまり、それ程なんだかんだ言ってレオンに惚れてるのだ。

だが、それを感じ取ったレオンがどう行動するかと言えば__危ない。
妹が学園を卒業出来なくなる。
後で避妊薬を用意してセイラに届けさせるか……俺から渡されるのは気まずいだろうからあのセイラの親友のエヴァンズ伯令嬢、彼女に頼むか。

*・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・*

まことしやかに囁かれたドラゴン襲来から国を救ったのは黒髪の乙女。
それはセイラではないか?というのは噂に過ぎなかったがあれだけ派手に結婚式で祝福されればいやでも知れる。
だからこそレオンは自分は生涯妹セイラ以外の妃を娶らないと宣言したのだろう、各国が第二、第三王妃を送りつけようなどとして来ないように。

その気概は褒めてやってもいい。

 いいが、

 妹よ、

__そいつは、お前のサイズをちょくちょく採寸するよう命じ、その職人たちに一ミリでもサイズが変わったら報告するように厳命してお前のサイズを余さず常に把握してる変態だぞっ!!
という言葉を兄リュートが呑み込んだ事をセイラは知らない。
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