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アンサー編 彼女が死んだ後 1(原作 アベル/セントレイ伯爵家)

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「失せろっ!!」
という怒鳴り声と共に顔に叩きつけられたのは、持参した花束。

棺の中の妻へせめてもと用意した花だった__自分が喪主になることは、許されなかったから。
「彼女は私の妻です。せめて参列を_…」
「黙れっ!!既に籍は抜いた、娘はお前の妻などではないっ!」
セントレイ伯爵が凄まじい勢いでアベルの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。
「ですが、彼女のお腹には私との子も」
言い切る前に顔に容赦ない拳が入り、その先は続けられなかった。

「黙れと言ってるだろう!妻だと?貴様が一度でも娘を正妻に相応しい扱いをしたことがあるかっ!今日だって体裁を取り繕うために来たに過ぎぬだろう、死ぬまで顔も見せなかったのだからな!」
「っ、それは違います!彼女は私の顔をひと目見てから亡くなったのです!」
「__それで?最後、娘は何と言った?」
「_っ…結婚など、しなければよかった、と」
「違うでしょう。“貴方と結婚なんか、しなければよかった“__そう言って、お嬢様は亡くなったんです」
そう言ったのは喪の衣装に身を包んだハンナだ。
妻が亡くなった時も、傍に寄り添っていた。

マリーローズが嫁いで来た時に唯一連れて来たメイドで、マリーローズに付き添う傍ら、いつもアベルを軽蔑の眼差しで見ていた。
“妻“が亡くなり、ロード家から籍を実家であるセントレイ伯爵家に戻した際、ハンナも“妻“の亡骸と共に実家に戻った。
最後に誤解を解けなかったアベルはセントレイ伯爵家に「自分の手で送りたい」と申し入れたが聞き入れられず、ならばと国王を通して抗議したが、「流石にこうなっては無理だ」とにべもなく却下された。

“ならばせめて参列だけでも“と花を持参したが、セントレイ伯爵はアベルの顔を見るなり、
「失せろ!貴様にだけは参列して欲しくない!貴様は誰かの夫になどなるべきではなかった!そんな資格はなかった!出ていけ、そして二度と顔を見せるな!!」
と猛烈に拒否の姿勢を見せた。

当然だ。
わかってはいた。許されるわけではないことも。
それでも、最後に別れと謝罪をしたかった。

だが、
「あなたはお嬢様との約束を一度も守らなかった!結婚式をすっぽかしたあの時から一度だってお嬢様の望みを叶えることも、幸せにすることもなかった!なのに閨事だけは強要した最低の男!!あんたさえいなければ、あんたなんかと結婚しなければ!お嬢様は死ぬことも、家にいながら襲われることもなかったのに!!この疫病神!悪魔!!お嬢様じゃなくてあんたが死ねばよかったのよ!!!」
と泣き叫ぶハンナを咎める者はいなかった。

「ハンナ、そこまでにしておけ」
「ロシエル様……!」
ひと通り言わせてから窘めたのはマリーローズの兄だ。
髪の色は違うが、マリーローズと同じ瞳を持っている。
「申し訳ない、騎士殿。こちらのメイドは妹とずっと一緒にいた分、動揺が激しいゆえ言葉が過ぎてしまった」
言葉こそ丁寧だが、こちらからも淡々とした怒りを感じる。

「いえ、メイド…、いやハンナ嬢の怒りは当然のことです。私が至らなかったせいで、妻を死なせてしまった」
「私の妹は貴方の妻ではない、騎士どの。貴方と妹の結婚は白紙撤回、公式になかったものとされるゆえ安心されよ」
「!な_…」
「王家御自慢の騎士殿の経歴に傷をつけたくないのだろう、王家は快く了承してくれた。よって貴殿に参列の義務は生じない。今すぐ退出されて結構」
そう冷たく踵を返すロシエルを止めるものはいない。
どころか、先ほどのやり取りをみていた他の参列者も一様に冷たい目を向け、ヒソヒソと非難の声があがり始めた。

「貴殿に人の心があるのなら、せめて静かに眠らせてやってくれ__生きている間、あの子に平穏などなかったのだからな」
“貴様のせいで“という言葉こそ発しなかったが、その目が雄弁に語っていた。



“娘は、貴様が殺したのだ“
と。



*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*



漸く出て来た、原作マリーローズの「最後の言葉」。
わかってはいたけど、原作って暗いというかドロドロしてるなぁ……本編と落差が激しい( ̄▽ ̄;)
原作と現世が交錯したり時系列無視な所も出てくると思いますが、そこは読者様の明晰な脳内にて整理整頓お願いします!
折れないように見守ってやって下さいm(_ _)m
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