上 下
36 / 49

35 合流

しおりを挟む
外でこんなことがあったとは知らないマリーローズは、
「賊は始末致しました。急ぎましょ「おい待て、ルイス」う?」
「座りっぱなしで腰にきた。お前変われ」
「は?」
「馬に怪我はなかったのだろう?俺がここからは騎馬で行くから、お前がこっちに乗れ」
「はぁ、まあ良いですけど」
と、カミユの代わりにルイスが馬車に同乗することになった。



馬車の中でのルイスは饒舌だった。沈黙よりいいけど。

「マリーローズ様は、ペンタスがどんな国かご存知ですか?」
「恥ずかしながら、一般的な知識だけですわ。魔法と技術が喧嘩することなく発展し続ける国、互いに偏見がなく、協力し合い、無駄な争いは好まない。帝国王は皇帝を名乗る事を好まず今の呼び方になったのだとか、、」
「ああ、まあ賞賛されるようなことじゃないけどね。かえって面倒が増えてるというか……」
ルイスは相変わらず辛辣だ。

「王子様が四人、王女様が五人いらっしゃって、上の王女様四人はもう他国に嫁がれているとか」
「多いよね。多いから早く嫁ってもらわないと婚期逃すしね」
ん?最早ただの悪口というか、愚痴になってる?

話題を変えようと、
「あ!あと王族がたは皆金の髪に瑠璃色の瞳が特徴なんだとか!その瞳は幸福を運ぶと言われていて_…え?」
と言い募る私の前で、
「よくできました」
そう嘯く彼の髪の色は、目の前で徐々に変わっていった。



そして、馬車の外から声がかかる。
「殿下!護衛団、合流しました!」
と扉の外からした声はカミユのもの。
「殿下……?」
と目の前のルイスをみればその髪は完全に自分とよく似た金色に、瞳は鮮やかな瑠璃色に変わっていた。

「あゝうん、ほんとは国境越えてから教えるつもりがちょっと早まっちゃったけど、あんまり長くのも体に良くないから?」
そう言って笑う顔の造作はルイスと同じなのだが、
(キ、キラキラ度が増してる……!)
と無意識に一歩引きそうになるマリーローズを、
「そんなあからさまに避けないで、っても無理か。こっちは黙って君を観察してたことになるんだし」
と手元に引き戻しながら、
「ペンタス帝国の第三王子、ルイスティリス・ローズド・ペンタス。あらためてよろしく。婚約者どの」
と続けた目の前の男に対し、無意識にハリセンを手探りしてしまったマリーローズだが、いつもはすぐに察して手渡してくれるハンナが固まったままでそれは叶わなかった。

「て、帝国の王子殿下……!」
(あちゃー…ハンナが恐縮しちゃってる)
いや、自分も驚いてはいる。
驚いてはいるのだが、この王子は私が婚約者になることを予め知っていた。
知っていたうえで一番近くで成り行きを見守っていたのだ、姿まで変えて。

「殿下の身分を知らなかったハンナやカールやファナは何ら罪には問われませんよね?」
マリーローズの語感に怒気を感じとったのだろう、
「あー…すまん。その、ロシエルとは親友でな?妹が困った立場に立たされていると相談されてだな。ならまあ王族としてこの国に諸々許可取りするのも面倒だし、連中への奇襲にもなるってことで直接俺が来たんだ」
「なぜわざわざ護衛騎士に?」
「ロシエルから自国の者でない護衛が欲しいんで、確かな人物を寄越してくれと言われて」
「それで王子殿下がおひとりで?」
「今合流した護衛団と一緒にだ、君の家の領内に入ったところで別れた。その後も彼らは国境近くの宿で待機してもらっていた。何かあった際にすぐ動いてもらえるようにだ__役に立っただろう?」
「ええ。ですが信書一枚で充分効果があるのをわかっていながら、わざわざ雇われた護衛として見た目まで変えて一連の騒ぎを見物しているだなんて、少々お戯れが過ぎるかと」
「その畏まった物言いはやめてくれ、頼むから」
「そういうわけにはいきませんわ?」
「もっとその、ガンガン言ってくれて構わないぞ?その、君の元夫_、と言っていいのかわからないが、アベル・ロードに対してしっかりやり返してた時みたいに」
「_…カミユ卿?」
マリーローズは馬車のすぐ外で耳を澄ませているであろうカミユ・ロースタス・ペンタスに向かって訊ねる。

「はい、何でしょう?マリーローズ様」
(さっきまで“嬢“だったくせに……)
「殿下はマゾっ気がおありですの?」
「いえ、単に何でも面白がる性格タチなだけですのでご心配なく。ついでに(敵に対しては)どちらかといえばサディストです」
「模範的な回答をありがとう」
「……模範的か?今の」
「ええ。あなたという人間の説明という点においては、非常に理にかなっているかと。ルイスティリス・ローズド・ペンタス殿下」
「一回で覚えてくれたのか、流石だな」
「褒め言葉に聞こえないのは何故でしょうか」
「君のその物言いが私は好きだよ、マリーローズ。俺のことはルイでいい」
そう言ってルイはマリーローズの髪をひと房掬いとって口づけた。

マリーローズは動けない。
こういう展開に耐性のない前世社畜な令嬢は、こういう時どう反応していいかわからない。



お兄さま……!帰ったら、ハリセンの一発ぐらい、覚悟してくださいね……!


*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*



昨日も沢山の感想ありがとうございます‼️
ルイスが相手の王子だと読んでいた方、多かったですね!
「王族は皆金の髪色~」あたりで「あれ?違った?」と一瞬思わせられていたら嬉しい💞
主人公視点のエピローグは明日12時の予定です。

しおりを挟む
感想 784

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます! ❀.なろうにも掲載しておりそちらと終盤若干違います。 ※書籍化が決定いたしました! 皆様に温かく見守っていただいたおかげです。ありがとうございます(*・ω・)*_ _)ペコリ 詳細は追々ご報告いたします。 番外編は不定期更新です。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

処理中です...