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30 帰宅と嵐の襲来

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無事似非騎士との別れを果たした私はそのままセントレイ伯爵家に帰った。
あちらの邸にある荷物は、後日ハンナを筆頭に使用人とお義母様立ち合いのもと、必要最低限の物だけ持ってきてもらうことになった。
(まあ結婚にあたって新調したものが殆どだから、持って来るものもあまりないのよね……)
似非騎士が不在のタイミングを狙っていくつもりだが、万が一ということもある為私は行かないことになった。

モンドとマリアには挨拶しておくべきとも思ったが、それに関しては申し訳ないがこちらに来てもらおうという話になった。



実家に帰りついた際に迎えてくれたのは兄のロシエルだった。
「お兄さま!!」
「おかえり。大変だったな、マリーローズ」
私は兄に抱きついた。

マリーローズの四歳上の兄・ロシエルは瞳の色はマリーローズと同じフォレストグリーンだが、髪は銀色でいかにも貴公子然としている。
マリーローズの髪色は母から、ロシエルの髪色は父からの遺伝だ。
フォレストグリーンの瞳は祖母譲り。
両親の瞳の色もグリーンだが、兄妹より明るい色をしている。
(ほんと、顔面偏差値の高い世界よね……)

「まあまあ、あなた達ときたら子供みたいに……」
呆れたように言う母は、言葉とは裏腹に嬉しそうだ。
「まあ良いじゃないか。マリーローズは苦労したのだ、あのバ、若造のせいでな」
“あの馬鹿“と言いそうになった父を咎める者は誰もいない、満場一致の意見だからだ。

侯爵夫妻とは教会で別れた。
「私たちも目を光らせておくけれど、くれぐれも気をつけて」
という別れの言葉は本心なのだろうが、
(なんで王宮の奥深くに出入りを許されている騎士が不審者扱いになってるのかしら……?)
と一瞬考えてしまったマリーローズだった。

「とにかく疲れたろう、今日はもう休みなさい」
「はい」
そう言われてみると自分は本当に緊張していたんだな と肩の力が抜けていくのがわかる。
実家に帰ってきた安心感という感覚は、転生先でも変わらないものらしい。
「パーティー会場では食べられなかっただろう?お前の好物を用意させておいた。部屋に運ばせるから、今日はそれ食べてゆっくり寝ろ」
と頭にポンと手を置く兄の顔は優しい。

言われてみれば、パーティーの前から何も食べていない。
戦闘服ドレスを着てずっと戦闘モードON状態だったのだから当然だ。
「ありがとう、お兄さま!」
追加のハグをして部屋に戻った私は戦闘服を脱ぎ捨て、深夜のティータイム(というよりデザートビュッフェに近い)を堪能してぐっすり眠った。

翌朝、意外な客人がやって来てセントレイ伯爵家はちょっとした騒ぎになった。
先触れは一応あったが、当人の到着と然程時間差がなかったその人は、騎士団長夫妻だった。
「急にやって来てしまいごめんなさいね。マリーローズ嬢。今日はうちの宿六、、オッホン、いえ夫が貴女に懺悔、ではなくて謝罪したいことがあるそうなので連行…_連れて来た次第ですの」

言い直し多いな?

とにかくと応接間へと通した際、夫人は勧められるままソファに腰を下ろしたが、夫であるネイトは座らず、夫人の腰掛けたソファの背後に立った。
「あの、騎士団長さま……?」
当惑したマリーローズが声をかけると、
「いや、騎士たるものいつでも妻の背後を守るのが当然なのでな」
いや、ここ屋内だし、後ろは窓のない壁だけど??
「ちょっと調k、いえ稽古のしすぎで腰を痛めておりますの。気になさらないで下さいな」
めっちゃ気になるが、夫人の有無を言わさぬ笑顔の迫力に、
「そ、そうなんですか……」
と頷くしかないマリーローズも、流石に今の団長はお尻がヒリヒリしすぎてどこにも座れない痛みをなんとか顔に出さないようにしているとは気付かない。

「それで、娘に詫びたい事とは?」
当主であるセントレイ伯爵が話を切り出す。
マリーローズに詫びたいということは当然あの元夫絡みだろうから、両親だけでなく兄であるロシエルも同席している。

「実は、」
と夫人が切り出して話したのは例の初夜擬き(未遂)の飲酒や「令嬢はお前に惚れているから大抵のことは大目に見てくれる」等、吹き込んだのは団長であるネイトで、酒は自分が飲ませたわけではないが悪ノリした部下たちを止めなかったり、「花だけでもあれば」などいらぬ失言をしたことでよりアベルに曲解させてしまって申し訳ない_…ということらしい。

私の呆れは顔に出ていたらしく、何か口にする前に、
「やっぱり、そうなるわよね…_私もそうだったもの」
とため息を吐いた夫人は立ち上がり、深く頭を下げ、後ろに立つネイトも同じく頭を下げた。
「本当にごめんなさい、マリーローズ様。私、披露宴で“貴女を仲間として歓迎する、何か困ったことがあれば力になる“って言うつもりだったの。騎士の妻というのは、側からみれば華やかにみえる部分もあるけれど普通の貴族とは違う見えない苦労も多いから」
「お、お顔をあげてください……!夫人のお心遣いは嬉しく思いますわ!」
(こんな普通に心配してくれる人いたんだ)と思う反面、騎士団のトップ夫妻をこんな体勢にしておくわけにいかない。

「まだ年若い貴女の力になれたらと思っていたけれど__問題はそんな所ではなかったのね」
__ん?
夫人は頭を上げたが、カッと目を見開いていた。
その目と急に低くなった口調に驚いていると、
「まず、うちの宿六の再教育が先だったということに憚りながら昨夜気付いたところですの!こんな私が国王夫妻に対しても堂々と意見の言える貴女の力になるなんて驕りも良いところだったわ!」
「申し訳ない!マリーローズ嬢!私の部下の教育がなってなかった!」
ネイトは先ほどから頭を下げたままだ。
「騎士団長さま、頭を上げてください!」
顔色が悪い。
それは痛みを堪えて無理な姿勢を取り続けたからだが、そんな事情は知らないセントレイ伯爵家の面々は「医師を呼びましょうか?!」と慌てた。

「いえ、それは結構です」
スン、と落ち着きを取り戻したナディア夫人が言い、
「お、お二人の謝罪の意はよく伝わりましたから」
とマリーローズがかろうじて言うと、
「寛大なお言葉、ありがとうございます。本日はロード伯邸に伺うつもりでしたが昨夜のうちに婚姻無効になられたとのことで、急遽こちらに伺わせていただきましたの」
話したことがないので今まで気付かなかったが、夫人は相当な女傑らしい。
「もう話が広まっているのですか?」
昨夜の今日でもう婚姻無効のことが知られているとは思わなかった。
「ロード伯が大騒ぎしていましたから、騎士団には周知ですわね。他の貴族にはわかりませんが_…」
なるほど。
確かに昨夜の奴のテンションなら大騒ぎしてもおかしくない。
「今更ですが、私たちで何かお役に立てることがあったら仰ってください」

(そう言われても、奴との縁が切れれば騎士団とも縁が切れるわけだし)と何も言わないマリーローズをよそに、
「では、ひとつだけお願いが」
と口火を切ったのは兄だった。
「何でしょう」
「ロード伯が何か動きを見せたら、すぐに知らせていただきたい」



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*


今夜もギリです、推敲10分くらい?
お直しは随時……こんなんばっかですみません。

本日も感想祭りありがとうございました!
何か皆様のコメントで本が出来そう(^◇^;)
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