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22 本日の営業は終了です。

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「宣戦布告……言われてみれば」
「あの小娘のこれまでの所業を考えれば、」
「「……あり得ますわねぇ」」
頷き合う夫人たちに、“そんな馬鹿な“とは男性陣は言えなかった__というか、言わなかった。
下手に口を出せば次は自分が花瓶の台座にされかねない。

目の端には大人しく花瓶を頭に乗せたアベルが目に入る。
花瓶の底がちょうど頭のてっぺんと円周が同じらしいそれは少しでもバランスを崩せば倒れてしまいそうだが、アベルは素晴らしい体幹を発揮して少しもブレない。
が、騎士は大道芸人ではない。こんなところで発揮していて良いのか?
どうつっこんだものかと頭を悩ませる侯爵たちをよそに、吹き出したのはルイスだ。
「おい!」
「流石に失礼だろう!」
小声で窘めるカールとファナも笑いを堪えているのがわかる。
「い、いや失敬。ここの旦那様、よっぽどやらかしたんだなぁって」
とルイスの笑いは止まらない。

対するアベルは無表情だ。心境がわからない。
「何と言うか……ロード伯は謹厳実直な人物だと聞いてはいたが」
「我が息子ながら生真面目すぎるきらいがあると思ってはいたが、どうにもズレているな……」
と呟きあっているところに夫人の叫び声があがった。

「まあ……!」
「なんてこと……!」
「「どうした?」」
「「夜会の日が明日の夜だわ?!」」
うん、私も思った。
夜会ってそんな急に開けるものなの?
「ああ、それなら外国から訪問予定の要人の歓迎レセプションが急にキャンセルになったと言っておられたから、準備はある程度済んでいるのではないか?」
「つまり、ドタキャンの穴埋め要員ですか?」
「呆れた……!」
「なんて図々しい、うちの義娘をなんだと思っているの?!」
「いや、リストにある招待客は皆立派な家ばかりだし「そんなことはどうでもよろしい!お前は知ってて今まで黙っていたというの?!」、」
「もしそうならお前は一家の主人失格だ」
夫人も侯爵も苦言を呈し、気まずい空気が漂う中、沈黙を破ったのはマリーローズだった。

「う~んでも、このドレス完全に私のサイズに合わせて作られています。お会いしたことはありませんが王女殿下は今十三歳ですよね?自分のを手直ししてまわした感じでもないですし、この用意周到さからみて元々こういう機会を窺っていたのかもしれませんよ?」
「何だと?」
セントレイ伯爵が目を剥く先にいるのはアベルだ。
「お、王女殿下はそのような姑息な企みをするような方ではありません!」
「では貴方ですか?ロード伯」
「なっ……!?」
「でなければおかしいではないですか、王女殿下が私のような一伯爵令嬢のドレスサイズを把握してドレスを作らせておく?何のために?__貴方が原因でないのならば」
ピシリと突きつけたのは扇子ではなくハリセンだが、最早突っ込む者はいなかった(「カッコいいですわ、お嬢様!」と拍手しているメイドはいたが)。

「それは、君のドレスサイズは俺だってよく知らないが、以前何かの折りに貴女がどこでドレスをオーダーしているか訊かれて、答えたことはある」
「具体的にいつの話ですの?」
「式の準備であちこちのドレス店をまわったろう?あの頃だ」
「そうですわね。王命による婚約者同士である私とロード伯に交際期間なんてありませんし、ロード伯と連れ立っての外出なんてあの頃だけですもの。これから先もないでしょうし__つまり、式の準備期間から王女殿下は私宛てのドレスを?」
(てことは、今までの諸々ってやっぱり確信犯じゃないの?)
「違う!ご自分のデビュタントに向けて色々な令嬢からドレスの情報を聞いているのだとおっしゃられていた」
「「それは変よ」」
「変ですね」
私と夫人二人の声が重なった。

「何が変だと、、」
「ドレスの流行はシーズンごととは行かないまでも変化していくものですわ。現在十三歳の王女殿下が十六になられるのは三年後、その頃には確実に流行は変わっています。今そんな情報を集めるのは不自然です」
(てか、意味がない。そもそもそれなら令嬢本人に聞くのが普通でしょうが)
「っ、ご存じないのだろう、まだ幼く世間知らずのところがあってもおかしくは、」
「私の年齢はロード伯より王女殿下に近いことをわかって言っておられるんですか?」
中身社畜だけど。
「!!」
「それにもしそうだったとしても私宛てに仕立てて送ってくるのはおかしいでしょう、まさか全貴族令嬢に送っているわけでもあるまいし」
「君のことをお姉さまのように思っていると、以前仰っておられた」
「まあ光栄ですこと。以前から思っていたのですが騎士の仕事って井戸端会議余計なお世話も含むんですの?」
「き、君は騎士を馬鹿にする気か……?!」
「いいえ?」
「貴女が女性を、というかマリーローズを馬鹿にしているのよ、この馬鹿息子」
「王女殿下が私の妻となる女性のことをよく知りたいというご要望に応えることが何故マリーローズを侮辱していることになるのです?」
「私が旦那さまの友人の男性の服のサイズを聞き出して仕立てて贈ったらどう思うんです?」
「……そんな事は非常識…っ、」
「ロード伯が今言った言葉が答えです、非常識なんですよ」
「………」
「と いうわけでこのドレスは私は着ません。夜会が明日ならちょうどいいわ、この薔薇と一緒にお返ししましょう。ハンナ、包んでおいて頂戴。薔薇は枯らさないように気をつけてね。貴重なものだそうだから」
「かしこまりました」
「なっ……!王女殿下がくださったものを着ないのか?」
「はい、着ません」
そう答えるマリーローズの顔と声は凍りつきそうな冷気を放っているのに、
「何故だ」
と突っ込める(現在)義息子に伯爵はある意味感心した。

「私が着たくないからですよ?当たり前でしょう、淑女のドレスは戦闘服、着る時とタイミングを間違えたら(社交界では)転落死する代物。ただでさえ動きにくいのにそこに他人の趣味を押し付けられるなんて真っ平ですわ。幸いこちらに嫁いでくる際に仕立てて頂いたドレスはまだ袖を通していないものばかりですから問題ありません。合わせる小物や靴選びを手伝っていただけますか?おかあさま方」
「ええ」
「もちろんよ!」
「あゝわからなくて結構ですよ、貴方と話してると疲れるのでエスコートも結構、結婚式の二の舞は御免です」
「ならばエスコートは私がしましょう、一応招待状が来ている家の出なので」
と言うルイスに、
「馬鹿を言うな、マリーローズのエスコートは俺だ!」
「貴方には無理です」
「なぜだ?そもそもこの夜会は」
「そもそも夜会って、結婚式より優先順位低いですよね。あんなに躊躇いなく結婚式すっぽかす人と夜会に出たところでまた火急の呼び出しがあったらすぐ行ってしまうんでしょう?常にそんな可能性がつきまとう人となんて嫌です」
「っそれは、」
「本日の営業は終了です。参りましょう、おかあさま」
そう言って夫人たちが出ていき、護衛とメイドに続いてマリアもついて出ていったので、応接間には男性と花瓶と花瓶の台座(仮)だけが残った。


*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*

⭐︎補足⭐︎
マリーローズ……十七歳
アベル……二十三歳
エルローゼ王女……十三歳

昨日はほぼほぼ移動中でしたので更新できませんでした、すみません!200文字~投稿可能とはいえ上がっている文字数が少なすぎて(^◇^;)
前回も感想祭りありがとうございました❣️
次回は夜会、今月中の完結目指して頑張りますm(_ _)m

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