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16 手紙 その2

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結婚式の夜から邸には沢山の手紙が来ていた。
招待状、祝電、結婚式で起こったことへの慰め。
心からの祝いや労りもあったけど、同じくらい多いのが慰めに見せかけた嘲笑、「格の違う相手に嫁ぐと大変ね?」という意味の皮肉。
おまけに「王女殿下もさぞ心を痛めておられるでしょうね」「早く身を引かれた方がよろしいのでは?」といった悪意を乗せた手紙もたくさんきていた。

大半は相手にする必要はないが、誰が送ってきたかの証拠にはなるので取っておく___王女からの祝電は捨てたけど。
どうせ側近の誰かが手配した程度で本人も何を送ったか知らないだろう、祝福してるわけがないし。
今はいいゴシップネタとして庶民貴族問わず広まっているだろう__ん?
「そうだ、こうしよう」
誰も見てはいないが、私はかなり悪い顔で笑った。

お茶会と夜会への招待状は全て断りの返事を書いた。
小説の中でアベルがマリーローズへ夜会のエスコートを申し出たことはない。
マリーローズの申し出に応じて何度かエスコートしてはいたが、それも最初だけ。
入場と挨拶だけしてすぐに騎士仲間の元へ行ってしまっていた。
王女はまだデビュタント前だったし、他の女性と親しく踊ったりはしなかったけど、いつも入場はしたものの広間の真ん中に置き去りにされるマリーローズは入場しただけで注目されるが故壁の花になることもできず、広間の真ん中の道化だった。

気の毒そうに、若しくは何も気付かないふりで話しかけてくる令嬢や夫人は大体が冷やかし、味方だったのは騎士団長夫人はじめ騎士団員の夫人たち。
「騎士は仕事馬鹿ばかりだから気にしたら負けよ、笑い返してやればいいのよ」
とこの夫人たちだけの茶会だけはマリーローズも楽しかった_…らしい。
読んでた感じでは、だが。

「大体入場して挨拶したら別行動って、社交の意味分かってんの?」
夜会って社交パーティーだよね?
騎士は騎士同士、夫人同士なら倶楽部とかで良くない?
しかもマリーローズは「これも騎士伯の夫人と務め」と言って一方的にアベルに懸想したり、王女の熱狂的なファンからの嫌がらせめいた手紙もいちいち読んでは傷ついていた。
「ほんっっとに、何やってんのよ?」
十七歳なんてまだまだわがままを言って保護者に甘えていい年頃なのに、なんでこんなことに耐えていなきゃいけないんだか。
そして残念な中身を知らなければアベルは人気の高い騎士であり、王女には出来ないが表向き尊重されていないマリーローズにならと周囲の妬み嫉みは一心にマリーローズに向かった。

表向きも何も、尊重されてなかったわけだが。
「セントレイ伯爵夫妻もカイゼル侯爵夫妻も、何とも思わなかったのかしら?」
パーティーでの二人の様子は目にしていたろうに。





一方、三日後にマリーローズからの悲劇的な手紙を受け取ったセントレイ伯爵家では、
「な、なーんだとぉ?!」
手紙に目を通したマリーローズの父、ダニエル・セントレイが邸中に響く大声をあげていた。
何事かと駆けつけて来た家令に「今すぐカールとファナをロード伯爵邸に向かわせろっ!私の名代だという信書を認めるっ!紙とペンを用意しろっ!」と即座に命じた。
「ろ、ロード伯邸っ!?お嬢様に何かあったのですか?まさかロード伯邸に賊がっ?」
「賊どころではない、紳士面は婚約中の演技だったかあの若造め!結婚式での詫び状ひとつ寄越さぬと思ってはいたが」
先日は“妻と過ごしたいから呼び出すな“と言い置いて早く帰ったというから、新婚生活中に野暮は言うまいと黙認していたのに、まさか娘がこんな扱いを受けていたとは。

カールとファナはセントレイ伯爵家に仕える騎士である。
カールが二十五歳、ファナが二十七と若いが二人とも十代の頃からセントレイ家に仕え、マリーローズとの付き合いも長い。
それにファナは女性騎士だ、今のマリーローズには頼りになるだろう。
呼び出しに応じてやって来た二人はダニエルの話を聞くと、
「はっ!」
「直ちにお嬢様の警護、いえ救出に向かいます!」
素晴らしく気合いの入った返事をしてロード伯邸に向かった。

それを夫と共に見送った伯爵夫人・グレンダは手紙を握り締め、
「あなた……、あのアベル・ロード伯がまさかこんな……嘘でしょう?」
「筆跡を見たらわかるだろう、これはあの子の字だ。結婚して一週間も経たずにこんな手紙を寄越すとは、かなり酷い目にあったのだろう。かわいそうなことをした……」
「そんな!!ではこの結婚を進めた私たちは__、」
「王命ではあったが、あの子に何の選択肢も与えず押し進めたのは確かだな。もう少し慎重になるべきだった」
「ああ……!」
泣き崩れる夫人の手元から落ちた手紙を拾って、
「おまけにかなり怒ってますね」
と発したのはこの家の長男でマリーローズの兄、ロシエルだった。
「何だと……?」
「この署名ですよ。“マリーローズ“としか書いてない。ロード伯の家名を名乗りたくないんでしょう、かといってこの家の娘だとも名乗っていない。その証拠に父上の事も“セントレイ伯爵様“としか書いてないでしょう、よく見てください、“よそにやった“とか“見捨て“とか貴方に見捨てられたって皮肉が散りばめられてますよ?」
「何だと?」
ロード伯の性癖にばかり気をとられてよくよく読んでみれば“助けてほしい“という内容ではあってもひと言も“お父様、助けて“とは書いていない。
同じく読み返してグレンダも真っ青になった。
「これは、恨まれているな……」
「どうやらそのようです。いくら評判の高い騎士でも、妹の夫には向かなかったようですね__僕も甘かった」
城でのアベルの動向・評判を主に収集していたロシエルも不快そうにマリーローズと同じ色の瞳を細めた。

「カイゼル侯爵家に使いを出せっ!抗議に向かうっ!」

*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*


⭐︎補足⭐︎
原作ではセントレイ伯爵家はマリーローズが死ぬまで娘の窮状を知りませんでした。
もちろん懐妊してたことも知らず、孫と娘を同時に失ったことに後悔・激怒しますが時既に遅しでした。
今回は間に合いそう\(^o^)/

感想やいいね❣️ありがとうございます。
以前にもちょこっと書きましたが承認不要と頂いた感想も時間差で承認されます、基本削除はしない方針なので(^^;)

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