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4 汝、薄情な夫より自分を愛せ

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「__てなストーリーだったよね?」
熱心な読者でなかったマリーローズはこの辺り曖昧だが、この壁の中には私も含まれる。
「王女の護衛騎士は既婚者のみが資格を持つ」
てなことを王女が十二になった辺りで王様が言い出し、アベルは王女の護衛騎士を外されそうになる。
王女がなんとかゴネて十三才になるまで引き延ばしたものの、このままでは一緒にいられなくなる___そこで案じた一計がこの結婚というわけである。

これで条件を満たしたアベルは結婚した後も王女第一を貫き続ける。
妻が家にいる事なんか半ば忘れてたろう、ざけんな。

そんなに一緒にいたきゃ駆け落ちでもしろ、マリーローズを巻き込まずに。

小説では泣いて引き留めたり、病気だと言って家に呼び戻すマリーローズがまるで二人の邪魔をするウザい女のように描かれていたが、
「いやいや、普通でしょ?」
妻が夫に病気だから帰ってきてとかひとりにしないでとか泣くの、普通でしょ?
まだ十七だよ?
非常識なのは人の夫を片時も離さず侍らす十三の王女とそれに従う二十三の大人とそれを許す周囲でしょーがよっ!
しかもあの似非騎士、子供を作る行為だけはちゃっかりマリーローズとしてたんだよ最低!

王女を想いながら(ガチだったらロリコンだが)お飾り妻にそれだけは求めるとかクズすぎる。
せめて白い結婚なら、マリーローズが流産で死ぬこともなかったろうに。
流産も襲撃も、元凶はアベル。
でもアベルに憧れる令嬢だったマリーローズはアベルを拒まなかった。
懐妊がわかった時も、「これで旦那様も家に落ち着いてくれるかもしれない」と愛おしそうにお腹を撫でて、「自分で報告したいから」と使用人たちには口止めをした。
だが結局その報告ができることはなかった。
懐妊がわかってから二ヶ月もの間、アベルがマリーローズに時間を作ることはなく、件の襲撃により子供は流れ、マリーローズも命を落とした。



「あんた馬鹿だわ、マリーローズ」
あんなろくでなしを一途に愛して、一人で耐えて。
「もっと言ってやればよかったのよ」
マリーローズが死の床にいる間、流石に使用人たちも自分たちの主人の薄情さに引いてというか罪悪感に駆られて、マリーローズこと奥様の世話に必死になり、なんとかアベルをマリーローズの元に引っ張ってこようと奮闘していた。
だがアベルは襲撃の報告を受けても「死者がいないのならば良い、怪我人の補償等については戻ってから話をする」と言って戻ってこなかった。
同時期に王女宮も襲撃にあっていたからだ。

その報告を傷ついた腹を撫でながら聞いたマリーローズは絶望し、息を引き取った。



けれど、私はまだ生きている。
「死なないように行動するのは、悪いことじゃないよね?」
そう言いながらマリーローズは抱えていた枕に渾身の一発を叩き込んだ。

ここはロード騎士伯邸の一画、奥方であるマリーローズに用意されていた部屋だ。
てっきり主人と二人で式場から帰ってくると思っていた使用人一同は簡素なワンピースに着替えてハンナと二人で馬車から降り立ったマリーローズになんとも言えない顔をしていたが、お付きの御者が事の次第を説明すると一瞬息を呑み、次の瞬間「お帰りをお待ちしておりました、奥様」と揃って頭を下げた。

使用人たちからの挨拶と案内を受け、「疲れたから休む。一人にして欲しい」と部屋にミルクティーだけ運んでもらって今に至る。
披露宴も今頃終わっているだろう。
式の前はというか前の晩も緊張して何も食べられなかったし、披露宴ではご馳走が出たろうがどうせ食べられなかっただろう。
いっそ披露宴客の前でやけ食いでもしてやればよかったかも?
いや、自分__マリーローズが進んで恥をかく必要はない。
方針が決まればことはシンプルだ。
マリーローズは使用人を呼んで温かい食事を部屋に用意させ、ハンナに給仕してもらってお腹いっぱい食べた。

生きてたら、お腹空くもんね?
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