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2 騎士の顔面に花束を

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奥方、死んでんじゃん。
もう何言っても届かないじゃん?
生きてる間に何を言おうとしてもキサマ聞かなかったじゃん。
貴様が何を言い訳したところで、生き返るわけじゃないじゃん?
この切ない言い訳とやらをこいつがしてるのは、自分がそうしたいから。
楽になりたいからしてるだけ。

奥方の気持ちはどうなるの?
失意のまま、粗略に扱われてでも妊娠して、挙句逆恨みで襲撃・流産させられるというトリプルコンボ。
死ぬ瞬間まで見舞いにすら来なかったこいつはむしろ疫病神、いっそ奥方の怨霊に呪い殺されるホラーとかのほうが数倍マシだった。

こいつが幸せになるラブロマンス?誰が読みたいのっていうか、誰が許せるの?馬鹿馬鹿しい。



_____とか思っていた小説の中に入っちゃったみたいです、私。
しかも結婚式の最中に。
(あー今すぐこの花束こいつの顔面にぶつけてやりたい。でもって、こんな結婚やめますって叫びたい)
でも今の私は伯爵令嬢。この王命での結婚で、たくさんの列席者を前にそれをやるわけにはいかない。
マリーローズと両親の仲は別に悪くない。
父は王命での結婚話を持ってはきたが、マリーローズが密かにアベルに憧れていることを両親は知っていた。

だからマリーローズの悲惨な境遇も知らなかったと思う。
マリーローズは死ぬまで両親はじめ周囲に訴える事はしなかったし、だからって死んだ後周囲がどうしたかは知らないけど。
(てか、どうせコイツもうすぐ上から呼び出しを受けていっちゃうんだよね。結婚式ほっぽりだして。それまで引き延ばせないかな?)
そうすればこの結婚が成立しなくても、マリーローズの責任にはならない。
悪いのは非常識なアベル(と呼び出した王女)の方であって、伯爵家に累は及ばないだろう。
そう思ったが、「交換を」と再度神父、いや神官かな?が促したので、仕方なく魔力石を嵌め込んだ意匠違いの指輪を互いの指にはめた。

(ああ、地獄の始まり)
指輪の嵌められた指を見てしみじみ思う。
そのマリーローズの表情に何を思ったのか、アベルは何事か声をかけようとするが、そこへ緊急の呼び出しがかかる。
「ロード伯!王女殿下が!至急王宮にお戻りを!!」
「何!?」
そのひと声にためらわず、「すまない」とマリーローズとその場を後にした。

(いくら護衛騎士でも普通、結婚式の日くらいは呼び出しを遠慮するものじゃないの?)
その後ろ姿に私は冷めた目を送る。
結婚し、新しい生活を始めたとしても、自分が目にするのは毎日こんな光景なのだろう。
「ばかばかしい……」
小さくつぶやくと、
「すまない、マリーローズ」
「ごめんなさいね、マリーローズ」
とそばに寄ってきたとアベルの両親が口々に詫びる。
反対側にやってきた私の両親も、
「マリーローズ…」
と何とも言えない顔をしている__悪気はなくともこんな結婚をさせたことをきちんと後悔してほしい。

「王命の政略結婚なんて、所詮こんなものよね……」
このマリーローズのつぶやきを聞いていたのは、両家の両親と、部下の結婚式に最前列で参列していた騎士団の団長夫妻だった。

「本日はお集まりいただきありがとうございました。せっかく祝っていただくためにお集まりいただいたにもかかわらず、ただいまご覧になっていただいた通り、花婿が退出してしまいましたので、式はここまでとさせていただきます。またこの後の披露宴ですが、私は気分が悪くなりましたので、出席を見合わせていただきますがこの日のために料理人たちが腕をふるいましたので、どうぞ皆様はごゆっくり舌鼓を打っていかれてください。私がもうこのような場で皆さまにご挨拶させていただく機会はもうないと思いますが、これも王家の意向とご容赦くださいませ。では失礼いたします」
そう言って私が身を翻すと、先ほどから顔を強張らせていた騎士団長の隣の夫人の方がはっと息をのんだ。

それに気づくことなく、列席者に向かって頭を下げて歩き出すと、
「マリーローズ!」
と両親が追ってきた。
「何か?」
「披露宴に出ないとは何事だ?」
「そうよ!花婿がいないのに、花嫁まで欠席なんて__」
「花婿がいないのは私の責任ではありませんわ。結婚式で置き去りにされた花嫁なんて、さぞかし噂好きの方々の話の種になるでしょうね。一体誰の責任でしょうか?」
ぐ、と両家の両親が言葉に詰まった。
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