上 下
36 / 39

てめぇは俺のもんなんだよ

しおりを挟む
俺が白昼夢から目覚めたのはそれからすぐだった。
・・・つうか、瞬きしたら会場に立ってた。

さっきまでの暗い部屋なんかどこにも見当たらねぇ、ただの結婚式会場。
未だ俺を凝視している男もいる・・・と。

「・・・ん?ネロは?」
「・・・先ほど、知り合いを見つけたからと」
「はぁ?」

知り合い?あいつの?なんだそりゃ。
・・・街の人間なんて招待してねーぞ、ってことは・・・。

「・・・祖国の人間かよ」
「どうされます?」
「どうもこうも・・・行ってくるから、あの男止めとけ」
「わかりました」

自然な動作でネロが向かったという廊下に足を進める。
背後で動いた例の男は押さえつけられたらしい。

廊下に出て、ネロを探す。
ああ、いた。

「・・・ごめんロヴァンナ、俺は──────────」
「おい、ネロ?」

・・・ちょうどネロの声が俺の声かけと重なった。
廊下で二人の人影がこちらを振り向く。
・・・なんか泣いてねぇか?
ネロに近づいていきながらネロの真向かいに立つ女が泣いていることに気がついた。
本人は涙を拭ってこっちにカーテシーしたけど。

「何泣かせてんだよ」
「・・・」

思いっきりネロが「泣かせてない」と言い返すかと思ったが何も言わねぇ、まじか。
どうやらこの女はネロが泣かせたらしい。

「まじで泣かしたのか」

もう一回女をまじまじと見る。
・・・ふつーの女だ。
どこにでも居そうな、ドレスを着てなかったら周囲に埋没しそうな。

ふと女が顔を上げた。

「神子様!どうか、どうかお願いですっ・・・どうか、ネロを解放してください!」

・・・何言ってんだろこいつ。

「・・・はあ?」
「ちょ、ロヴァンナ・・・」 

ネロが困ったように女をなだめようとする。
・・・無性にイラついた。
なんなんだよお前。

「お前、なんなの?それどこ目線?」
「えっ・・・」

思わず言い返せば狼狽えたように動揺する女。
・・・言い返されると思ってなかったのかよ、脳内お花畑か。

「お前に指図される覚えねぇんだよ・・・ネロも」
「・・・」
「今更辞めようったって許さねぇ、最期の最後まで、てめぇは俺のもんなんだよ」
「っ、ネロは物じゃ───────────」
「うるせぇ、お前はさっさとどっか消えろ」

言いたいだけ吐き出して、くるりと後ろを向いた。
まだ俺よか背の低いネロの肩を引っ掴んで、引き摺る勢いで前に進んだ。

後ろのすすり泣きは聞かねぇふりをした。

「あーまじで気持ちわりぃー」

棒読みでそう呟く。
ネロは何も返さねぇ。
それに少し不満を抱きながら、会場に戻った。

白い髪の男と目が合った。
黄色い瞳の男だった。
それをどこかで見たことのあるもののように感じたけど、苛立つ心では考えることもままならない。
ネロの肩を掴んだその手に力を込めて、うざったい男の視線を振り切るように背を向けて。

結局どす黒い気持ちのまま、俺にとって身内に等しい二人の結婚式は終わって行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残念でした。悪役令嬢です【BL】

渡辺 佐倉
BL
転生ものBL この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。 主人公の蒼士もその一人だ。 日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。 だけど……。 同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。 エブリスタにも同じ内容で掲載中です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛
BL
爽やかスポーツマンα × 妄想巣作りのキュートΩ☆ お互いのフェロモンをくんかくんかして「甘い❤」ってとろんっとする、可愛い二人のもだきゅんラブコメ王道オメガバースです。 オメガ性を持つ大学生の青葉はアルバイト先のアイスクリームショップの向かいにあるコーヒーショップの店員、小野寺のことが気になっていた。 彼に週末のデートを誘われ浮かれていたが、発情期の予兆で休憩室で眠ってしまう。 目を覚ますと自分にかけられていた小野寺のパーカーから香る彼のフェロモンに我慢できなくなり、発情を促進させてしまった! 他の男に捕まりそうになった時小野寺が駆けつけ、彼の家の保護される。青葉はランドリーバスケットから誘われるように彼の衣服を拾い集めるが……。 ハッピーな気持ちになれる短編Ωバースです

【R-18】僕は堕ちていく

奏鈴
BL
R-18です。エロオンリーにつき苦手な方はご遠慮ください。 卑猥な描写が多々あります。 未成年に対する性的行為が多いですが、フィクションとしてお楽しみください。 初投稿につき読みづらい点もあるかと思いますがご了承ください。 時代設定が90年代後半なので人によっては分かりにくい箇所もあるかもしれません。 ------------------------------------------------------------------------------------------------- 僕、ユウはどこにでもいるような普通の小学生だった。 いつもと変わらないはずだった日常、ある日を堺に僕は堕ちていく。 ただ…後悔はしていないし、愉しかったんだ。 友人たちに躰をいいように弄ばれ、調教・開発されていく少年のお話です。 エロ全開で恋愛要素は無いです。

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

処理中です...