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聖女様の引き立て役

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柔らかな若草色のドレスには小さな真珠が散りばめられている。
ふわふわとした純白のフリルをあしらった裾は我ながら可愛い。
艶りとしたエナメルの靴はお気に入りで、落ち着いた焦げ茶色をしている。

髪は綺麗に編み込んで、レースで出来たリボンと生花を身に付けた。

・・・いつもと違う。

いつもはせいぜい暗い色合いの飾り気のないドレスに、真っ黒な靴。
アクセサリーはほとんど付けず髪だってそのまま下ろしてる。
なんせ王家の皆様は私に興味無いからね。
そのままでも許されるのだ。

ちなみにお母様はどこの国の舞踏会に行くのと聞きたくなるようなボリュームたっぷりのドレスに銀色のティアラ。
定期的にお父様や国王陛下、高位貴族の面々が最高級の逸品を送ってくるから、何から何まで豪華そのもの、お姫様みたいだ。

まあ、今日は私と同じく輝きが段違いだったけど。

「ねえステフ、なんで今日はいつもと違うの?」
「ああ・・・今この国に来ている隣国の国王陛下が参加されるそうですよ」

なんか今日は従者モードの入ったステフは私を飾り立てながらもそう言った。
うん、今日の言葉には棘がない。

「ていうか、聞いてないんだけど!」
「黙らっしゃい、ほら、さっさとお嬢様モードオンしてくださいませお嬢様!」
「ステフがお嬢様って言ったー!!!」

やばい、これはやばい。
ステフが壊れてしまった。
あの安心安定の軽口はすっかりなりを潜め、いつもの毒舌混じりの口調は消え去り、これだけみたらまさに従者様だ。

え、何、怖すぎるんですけど。



あっという間に城の前に到着した。
あれ?いつも出迎えに来る王家一行の姿が見えない。

そのことに首を傾げつついつも通り降りて、王家の使い(いつもは王家の面々)の先導でいつものガーデンに向かう。

うん、やっぱり今日はお母様の信奉者の姿が見えない。

目の前で揺れるドレスを邪魔に思いながらも目を凝らす。
お母様、やっぱりそのボリュームは失敗だって使用人たちに素直に言うべきだったよ。

花々が咲き誇るガーデン。

お母様をエスコートするお父様。
私の少し後ろのステフ。

ああ、そろそろだな・・・と思いながら、少し歩みを遅くして後方のステフに寄った。

不意に、風が吹いた。

花々が舞い散る幻想的な風景の中。
見覚えのない六つの瞳がお母様の姿を捕える。

────────お母様が初めて出会う人は、世界の意思でも働くのか、美しい出会いが演出される。

ちなみに私は、その原理を全く知らない。

というか、一生知りたくもない。

これは、全ての私の総意である。
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