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まるで物語のお姫様みたいな
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ステファーニエという名前は、私が付けた。
当時気に入っていた本の主人公の名前。
あの後名前の由来を聞かれてその本を読み聞かせてやったら、「・・・女の名前じゃないすか」と、苦々しげに言っていたのが印象的だった。
・・・ごめんね、男の名前じゃなくて。
きっとステフも、お母様に名付けられたかったんだろう。
気持ちは分かる。
お母様に名をもらったのだと語る使用人たちの目は輝き、貰った名を嬉しそうに自慢する顔は幼くて。
偉大な母に与えられた名を大切そうに抱きしめて、ああ、やっぱりお母様と私は違う。
私は、ステフにあんな顔をさせてあげられたことは無い。
きっとステフも、お母様に名前を貰いたかったんだ。
女みたいな名前より、男の名前の方が良かったのだ。
・・・でも、それでも。
・・・ステファーニエ。
私の憧れ。
私を救ってくれた物語の、勇ましい女騎士。
物語のステファーニエは、望まない結婚を強いられていつも泣いていた。
冷たい夫と、望まれない花嫁に対する冷酷な仕打ちに、いつも震えていた。
けれどもある日、美しい精霊に可憐に、強く咲き誇る野花を貰って、かつての願いを思い出す。
幼い頃から騎士を夢見ていたステファーニエは、こっそりと城を抜け出し、騎士となるべく奮闘する。
段々と変わっていくステファーニエを、人々は見直し、彼女の明るさ、強さに魅入られ、救われ、共にあることを許し、選び、やがては夫すら、彼女の心に触れ、頑なな心を溶かした。
そうして物語は大団円を迎える。
凛々しく美しいステファーニエ、私がずっと欲しかった、お母様とお父様を混ぜ込んだような、灰色の髪と紫の瞳を持っている。
お母様と、お父様の子供みたい。
ステファーニエ。
大好きなお姫様。
ステファーニエ。
私の愛する人。
たとえあなたがお母様しか見ていなくても、それでもいいの。
ずっとずっとそばにいて。
ずっとずっと隣にいて。
ねえ、ステファーニエ。
どうかあなただけは、私を捨てないでね。
「・・・あの時の私はどうかしていたわ」
体調も完璧に良くなって、今一度頭を冷やした私は、病気にしてももろくなっていた思考に喝を入れるべく頬を叩いた。
大きな張り手の音。
じんじんする頬。
うん、結構痛いわ。
ふと鏡の奥で変なものを見るようなステフと目が合った。
「・・・」
「・・・お嬢・・・疲れて、いるんですね?」
「やかましいっ!」
やっぱり、私はどうかしていた。
こんなのに弱みを握らせるなんて!
「んもー、本当にあんたは嫌味ね」
「いやぁ、お嬢には負けますぅ」
「・・・」
本っ当にこいつは・・・
「ステフ」
「はーい」
「ありがと」
「は・・・はい?」
たとえいつか離れていくとしても、今は私のものだもの。
当時気に入っていた本の主人公の名前。
あの後名前の由来を聞かれてその本を読み聞かせてやったら、「・・・女の名前じゃないすか」と、苦々しげに言っていたのが印象的だった。
・・・ごめんね、男の名前じゃなくて。
きっとステフも、お母様に名付けられたかったんだろう。
気持ちは分かる。
お母様に名をもらったのだと語る使用人たちの目は輝き、貰った名を嬉しそうに自慢する顔は幼くて。
偉大な母に与えられた名を大切そうに抱きしめて、ああ、やっぱりお母様と私は違う。
私は、ステフにあんな顔をさせてあげられたことは無い。
きっとステフも、お母様に名前を貰いたかったんだ。
女みたいな名前より、男の名前の方が良かったのだ。
・・・でも、それでも。
・・・ステファーニエ。
私の憧れ。
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物語のステファーニエは、望まない結婚を強いられていつも泣いていた。
冷たい夫と、望まれない花嫁に対する冷酷な仕打ちに、いつも震えていた。
けれどもある日、美しい精霊に可憐に、強く咲き誇る野花を貰って、かつての願いを思い出す。
幼い頃から騎士を夢見ていたステファーニエは、こっそりと城を抜け出し、騎士となるべく奮闘する。
段々と変わっていくステファーニエを、人々は見直し、彼女の明るさ、強さに魅入られ、救われ、共にあることを許し、選び、やがては夫すら、彼女の心に触れ、頑なな心を溶かした。
そうして物語は大団円を迎える。
凛々しく美しいステファーニエ、私がずっと欲しかった、お母様とお父様を混ぜ込んだような、灰色の髪と紫の瞳を持っている。
お母様と、お父様の子供みたい。
ステファーニエ。
大好きなお姫様。
ステファーニエ。
私の愛する人。
たとえあなたがお母様しか見ていなくても、それでもいいの。
ずっとずっとそばにいて。
ずっとずっと隣にいて。
ねえ、ステファーニエ。
どうかあなただけは、私を捨てないでね。
「・・・あの時の私はどうかしていたわ」
体調も完璧に良くなって、今一度頭を冷やした私は、病気にしてももろくなっていた思考に喝を入れるべく頬を叩いた。
大きな張り手の音。
じんじんする頬。
うん、結構痛いわ。
ふと鏡の奥で変なものを見るようなステフと目が合った。
「・・・」
「・・・お嬢・・・疲れて、いるんですね?」
「やかましいっ!」
やっぱり、私はどうかしていた。
こんなのに弱みを握らせるなんて!
「んもー、本当にあんたは嫌味ね」
「いやぁ、お嬢には負けますぅ」
「・・・」
本っ当にこいつは・・・
「ステフ」
「はーい」
「ありがと」
「は・・・はい?」
たとえいつか離れていくとしても、今は私のものだもの。
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