上 下
37 / 41
15.神秘のベール

15-2

しおりを挟む
「クリス!
宝石形態になって!
わたしに、力を貸して!!」

 宝石の正体がわかれば、対処法はある。
 クリスの、モードチェンジで出てくる、
 あの石のパワーを借りれば……!

「何か策があるんだね! 
了解!」

 ぱあっと光の球になり、
 クリスがわたしの首元にとんできた。
 ペンダントになって、わたしの首にかかる。

「モード:アメシスト!」

 クリスの代わりに、わたしは叫んだ。
 水晶から、紫色の光が放たれる。
 クリスのアメシストモード。
 2月の誕生石のアメシストは、
 紫水晶という和名の通り、美しい紫色をした水晶だ。
 能力は、【ブドウ酒生成】!
 何もないところからでも、
 ブドウ酒をつくることができる。
 でも、ただのブドウ酒つくるワケじゃないよ!
 理想は、めちゃくちゃ酸っぱい、ブドウ酒=ワイン。
 そう、ワインを発酵させた、
 ワインビネガーともいえるもの。
 ビネガー、つまり、お酢だ!
 わたしが右手を宙に向かって突き上げると、
 赤紫の液体が大きな球になってできた。
 それを、分散させるイメージで……。
 そう考えている間にも、
 じわじわと体力がけずられていくのがわかる。

「存分にあびなさい!」

 バッと腕を振り下ろして、発射!
 ワインビネガーが、オオカミたちに降り注ぐ。
 きゃんっと悲鳴を上げるオオカミたち。
 その体から、白い膜がどろりとはがれおちる。
 すると、オオカミたちは、元の女子生徒の姿に戻った。
 みんな気絶しているだけで、無事みたい。

「やった!」

 大成功! 思った通りだ!
 ハクの方を見ると、あぜんとしていた。
 今度は、こちらが攻める番!

「ハク、あなたの正体は……、
真珠ね!」

 真珠、英語でパール。
 6月の誕生石のひとつ。
 おもに、炭酸カルシウムという物質でできている宝石だ。
 この、炭酸カルシウムっていうのは、
 酸に弱い。
 だから、お酢みたいにすっぱい酸につかると、
 真珠は溶けてボロボロになっちゃうのだ。
 有名なのは、クレオパトラと真珠のお話。
 当時、天然の真珠は小さな国ひとつが買えるほど、
 高価なものだったんだって。
 それなのに、クレオパトラは……。
 真珠をワインビネガーに溶かして、
 それを飲み干しちゃったの!
 まさに、クレオパトラの
 富と権力をあらわすのにピッタリなエピソードだよね。
 って、いけない。
 戦いに、集中!

「っ、くそ!」

 ハクはその姿を、巨大なシロクマに変えた。
 するどい爪で、切りかかろうとする。
 でも、無駄だ。

「【変身】の能力の弱点は、【酸】。
くらえっ!」

 指でてっぽうの形をつくり、バンッと打つ。
 指先から、巨大なワインビネガーのカタマリが、
 シロクマに向かっていった。

「う、ぐ、
ああああああ!」

 何重もの白い膜が、シロクマからはがれ落ち……。
 元のハクの姿にもどった。

「うう、もう、やめろ。
やめてくれ……。
おれ本体まで、溶けちまう……」

 ハクは、相当弱ったようで、
 座りこみ、体をぎゅうっと縮こませて、
 ぶるぶる震えている。
 ……なんか、おれさまだったのに、
 ギャップがすごいな。

「クリス、浄化してあげて」

 ペンダントに呼びかけると、
 ふわっと光ったあと、
 わたしのとなりにクリスがあらわれた。
 ライガも、わたしのそばにやってくる。

「そっか、コイツ、真珠だったんだ」

「よくわかったね、ヒカリちゃん」

「クリスとライガが、
わたしを守ってくれた間に考え付いたんだ。
ふたりとも、本当にありがとう」

 笑いかけると、
 クリスは「どういたしまして」とほほ笑み、
 ライガは「ヒカリちゃん、すごい!」
 とほめてくれた。

「じゃあ、いくよ。
【浄化】」

 クリスの胸のあたりが光って、
 あの優しい光の球が出てくる。
 光の球は、ハクへと向かってき……。
 その体が光に包まれると、
 ハクは宝石形態になった。
 美しい、ひとつぶパールのペンダントだ。

「よし、と。
それにしても、
本当にヒカリは宝石の知識が豊富だね。
アメシストモードの応用で、
ワインビネガーをつくりあげるなんて」

「えへへ」

 アメシストにまつわるギリシャ神話。
 アメシストっていうのは、
 月の女神アルテミスに使える
 女官(身の回りのお世話をする人ね)だったんだ。
 ある日、酒の神ディオニュソスは酔っ払って、
 獣にアメシストを襲わせようとした。
 メーワクな酔っ払いだよね……。
 でも、アルテミスはアメシストを救うため、
 彼女を透明な水晶にしたんだ。
 それで、酔いからさめたディオニュソスは、
 自分のやったことを深く反省した
 (当たり前だよ!)。
 そこで、ブドウ酒をつくって、
 水晶になったアメシストに注いだんだ。
 すると、水晶はブドウのように紫色に染まって、
 アメシストが誕生した。
 その縁あって、
 クリスのアメシストモードの能力は、
 【ブドウ酒生成】なんだって。
 この逸話は、母さんが料理しながら教えてくれたんだ。
 ちょうど、ワインビネガーをつかいながらね。
 昔の人は、ワインからお酢をつくってたのよーって。
 だから、応用できると思ったんだ。

「さて、ハクは、どうしよっかね。
さんざん暴れてくれたから、
金庫にでもしまっておく?」

 クリスの申し出に、「賛成」と、ライガ。
 そうだよね、シロ兄のエネルギーを
 奪ったわけだし……。

「待って」

 そこに、凛とした声が響いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~

みなづきよつば
児童書・童話
異世界ファンタジーやモンスター、バトルが好きな人必見!  イケメンとのお仕事や、甘酸っぱい青春のやりとりが好きな方、集まれ〜! 十三歳の女の子が主人公です。 第1回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。 投票よろしくお願いします! 《あらすじ》 とある事情により、寝泊まりできて、働ける場所を探していた十三歳の少女、エート。 エートは、路地裏の掲示板で「ダンジョン・マンション 住み込み管理人募集中 面接アリ」というあやしげなチラシを発見する。 建物の管理人の募集だと思い、面接へと向かうエート。 しかし、管理とは実は「お試しダンジョン」の管理のことで……!? 冒険者がホンモノのダンジョンへ行く前に、練習でおとずれる「お試しダンジョン」。 そこでの管理人としてのお仕事は、モンスターとのつきあいや、ダンジョン内のお掃除、はては、ゴーレムづくりまで!? おれ様イケメン管理人、ヴァンと一緒に、エートがダンジョンを駆けまわる! アナタも、ダンジョン・マンションの管理人になってみませんか? *** ご意見・ご感想お待ちしてます! 2023/05/24 野いちごさんへも投稿し始めました。 2023/07/31 第2部を削除し、第1回きずな児童書大賞にエントリーしました。 詳しくは近況ボードをご覧ください。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

黒地蔵

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

クール王子はワケアリいとこ

緋村燐
児童書・童話
おじさんが再婚した事で新しく出来たいとこ。 同じ中学に入学してきた上に、引っ越し終わるまでうちに住む!? 学校ではクール王子なんて呼ばれている皓也。 でも彼には秘密があって……。 オオカミに変身!? オオカミ人間!? え? じゃなくて吸血鬼!? 気になるいとこは、ミステリアスでもふもふなヴァンパイアでした。 第15回絵本・児童書大賞にて奨励賞を頂きました。 野いちご様 ベリーズカフェ様 魔法のiらんど様 エブリスタ様 にも掲載しています。

【完結】エス★まほ ~エスパーと魔法使い、出会う~

みなづきよつば
児童書・童話
とあるエスパーいわく、「魔法使い? そんなのおとぎ話だろ」。 とある魔法使いいわく、「エスパー? そんな人間いないでしょ」。 そんなエスパーと魔法使いの少年ふたりが……、出会っちゃった!! ※※※ 完結しました! よかったら、 あとがきは近況ボードをご覧ください。 *** 第2回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。 投票よろしくお願いします! *** <あらすじ> 中一の少年リキヤは、超能力者(エスパー)だ。 リキヤはさびしさから、同じエスパー仲間を探していたが、 ひょんなことから、同じく中一の少年マナトとテレパシーがつながる。 しかし、妙なことに、マナトは自身のことを「魔法使い」と言っていて……? *** ご意見・ご感想お待ちしてます!

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 <第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>

処理中です...