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6.それは、優しさ?

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「かわいそうだよねえ、大地さん」

「お父さんもお母さんも、行方不明になったんでしょ?」

「なんか、ウチの学園の理事長が面倒見てあげてるんだって」

 ヒソヒソとかわされる会話。
 四月。
 五年生になったころには、私の置かれてる状況はもうクラス中、
 いや、学年中……学園中? に知れわたっていた。

「普段着るお洋服とか、あるのかな?」

「ゲームとか、スマホとかもなかったりするかも」

 ありますよー。大丈夫。
 理事長さんから一通りのものは用意してもらってます。
 って言いたいけど、 
 普段はあまり関わらない女子グループの子たちだから、
 なかなか話しかけづらい。

「あ、じゃあさ、みんなで寄付しない? 
お洋服とか、文房具とか!」

 ……え?
 「いい考え!」と、賛同の声が聞こえる。
 ちょ、ちょっと待って!

「河田(かわだ)さん!」

 寄付を提案した子に、私はあわてて声をかけた。

「あ、ちょうどよかった。
大地さん、何か、欲しいものある?」

「そうそう。
お父さんの会社が倒産しちゃって、たいへんなんでしょ?」

「私たち、大地さんに寄付しようと思って」

 河田さんグループの子たちは、
 口々にそんなことを言いながらニコニコと笑みを浮かべている。
 その笑みが、なんだか怖かった。
 胸に苦い思いが広がっていく。
 苦手なブラックコーヒーを、
 無理やり口をこじ開けて、流しこまれたみたい。

「えっ……っとね、寄付とかは、大丈夫だよ。
わたし、理事長さんから色々とお世話してもらってるから。
必要なものとかは、全部あるし」

 そう言っても、河田さんたちの温かい眼差しは変わらない。
 みんな、同じ表情をしている。
 笑顔の仮面をかぶっているみたいに。

「遠慮しなくていいんだよ、大地さん」

「そうだよ。困った時はお互いさまって言うじゃない」

 優しい声。優しい言葉。優しい顔。
 それなのに、なんで?
 モヤモヤと胸やけがして、みじめで、悲しくて、むなしい。

「ホントに大丈夫だから!」

 自分でもビックリするほど、突き放すような声色になってしまった。
 ハッキリとしたわたしの拒絶に、河田さんたちは驚いて目を見開く。
 それから、すうっと空気が冷えていくのがわかった。
 河田さんたちの瞳が怖い。
 一斉に向けられた瞳たちが言う。
 「どうしてわたしたちの好意を、善意を受け取ってくれないの?」と。
 「わたしたちは、こんなにもあなたのことを……、
 思ってやっているのに」。
 また、胸がむかむかする。
 ふと周りを見ると、いつの間にか、
 教室中の注目が集まっていたことに気づいた。

「あ……、その……。
河田さんたちの気持ちはうれしいけど……、ごめんなさい」

 なんとか声をしぼり出した、その時だった。

「ヒカリちゃん、なんで謝るの?」

 ふわ、と春風のように優しい声が響いた。
 声の主は……、ライガ。

「寄付が必要ないって、いいことじゃない。
ヒカリちゃんは、今の時点では自分でやっていけるってことでしょ」

 こてん、と首を傾げるライガに、ぴんと張りつめていた教室の空気がゆるむ。

「ね、河田さんたちも、寄付が必要ない方がうれしいよね」

 にこにこ、ほわほわしているライガに、河田さんたちは気まずそうにしている。
 ……すごいなぁ、ライガは。
 さっきまでむかむか、いらいらしていたわたしの心が、
 あっという間にポカポカした気持ちになっちゃったよ。
 ライガは、優しいね。
 このひだまりみたいな心が、わたしは大好きだ。

「だーいじょうぶ! ヒカリにはわたしたちがついてるし」

「そーそー、寄付が必要なら、とっくにウチらが相談受けてるよ」

「これで、この話は終わりね」

 いつメンのみんなもそう言ってくれて、寄付の話はなくなったのだった。



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