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4.まさかの仲間割れ?
4-3
しおりを挟む暗くなる前にたきぎを集め、火を起こせたのは幸いだった。
サカキとカエデは火を囲み、パンと干し肉を食べていた。
ルーナはサカキからもらったパンのカケラに、
自分で集めたという花の蜜をかけて、ごきげんで食べている。
「ルーナ、遺跡に詳しいのなら、
明日の朝、入り口まで案内してくださる?」
唐突にカエデは言った。
サカキは硬い干し肉をむぐむぐと急いで噛み切って、
ごくりと飲みこむ。
「遺跡に行くのか?」
「ええ。とりあえず、入り口だけでも見ておこうと思いまして」
あんなに反対していたのに、どうして気が変わったのだろう。
サカキがそう考えているのを読み取ったかのように、カエデは話し出した。
「わたくしはルーナを完全に信用していませんわ。
だって、まだ出会ったばかりですもの。
でも、ルーナがわたくしたちのことを助けてくれたことも事実。
だから、わたくしは、これから、
ルーナを信頼していきたいと思っていますの」
「……信用? 信頼?
えーと、つまり、ドウイウコト?」
理解不能でサカキの頭からぶすぶすと煙が出そうになっている。
「つまりは、わたしを信じるために、
一歩近づいてくれたってことでしょ?
ありがとう、カエデ!」
ルーナはカエデの頬にくっついた。
ちゅっという音が聞こえたので、多分頬に口づけたのだろう。
カエデはルーナをぐいーっと手で押しのけた。
顔が赤い。
「まぁ、その、そういうことになりますわね。
わたくしも、かたくなになりすぎましたわ。
でも、もし遺跡を通り抜けるのがダメそうなら、
すぐに山越えに切り替えますからね」
照れくさそうに、早口で言うカエデ。
いつもなら、ここでサカキは喜んで声を上げるところだ。
しかし、今は複雑そうな顔をしている。
「……でもさ、カエデ。
もし、また何かあって、おまえに剣を向けたら……。
おれ、おまえを守れるか、自信なくなってきた」
さきほどのカンノムシの件が、よほどこたえているのだろう。
サカキにとって、カエデは大切な家族だ。
だから、絶対守ってやらなくてはならないのに。
剣の腕をみがいてきたのも、村のみんなを、ひいてはカエデを守るためだ。
サカキにとって、カエデは姉であり、妹であり、幼馴染みであり、親友なのだ。
「わたくしは、守られるだけなんてまっぴらごめんですわ。
互いに背中を預け合う。
それこそが対等な関係ではなくて?」
それに、とカエデは続ける。
「まだ村を出て一日なのに、
アナタに自信をなくされては困りますわ。
わたしはアナタと一緒にこの任務につけて、
心からよかったと思ってますのよ?」
カエデは微笑み、うつむいているサカキの顔をのぞきこんだ。目と目が合う。
「お互い今回のことは反省しましょう。
でも、ここで立ち止まってはいけませんわ。
反省した上で、成長しなくては」
サカキはようやく顔を上げた。
そして、両手で自分の頬をばしっとたたいた。
じーんと痛みが広がっていくが、頭はスッキリした。
「おしっ、そうだな! ありがとう、カエデ!」
いつもの調子がもどってきたようだ。カエデはほっと息をついた。
「ちょっとー、わたしのこと忘れてない?」
ルーナはふわんと飛んで、サカキの肩にとまった。
「ふたりともいい雰囲気になっちゃってー。わたしも混ぜて!」
「いい雰囲気って、なんだよ。
よーし、混ざってこい! いくらでもほめてやるぞ!」
サカキはルーナの頭と思われる部分をわしわしとなでた。
「えへへ、やったー!
わたし、すごかったでしょ? 役に立った?」
「おう、そりゃあもう!」
じゃれあうふたりを見て、カエデはやれやれと肩をすくめた。
そして、ふとあることに気づく。
「ルーナ、アナタの影……」
カエデは炎に照らされてできた、ルーナの影を指差した。
その影は、小さな人型をして、背中に蝶の羽がくっついていた。
「え⁉ これって……」
サカキはカエデの指差した方を見て、目を見開いた。
この影の姿は、まさしく、昔話に聞いた妖精の姿そのものではないか。
「ふたりとも、何をそんなに驚いてるの?」
ルーナの声にあわせて、人型の影が首をかしげた。
「ルーナ、おまえ、その影どうしたんだ⁉
まるで妖精の影みたいじゃねーか!」
サカキがルーナにつめよると、ルーナは、あきれたように言った。
「はあ?
今さら、何よ。
当たり前でしょう。
だから、わたしは妖精だって、最初から言ってるじゃない」
「いやいや、おまえ、ただの黒いもやじゃん!」
「最初に会った時も言ってたけど、何それ?
なんでわたしの姿がそんな風に見えてるの?」
カエデは、ルーナの影を見てじっと考えていた。
影は真実の姿を映し出すもののはず。
影まで完璧に姿を変えられる魔物は、そうはいない。
では、ルーナは本当に妖精なのか? 魔物ではなくて?
分からない。
「おれたちさ、まぶたに、ぶっ!」
話している途中のサカキの口を、カエデの手がふさいだ。
(これは、話すと面倒なことになりそうですわ。
まぶたの薬のことは、内緒にしておいてくださいまし)
目で、そううったえると、
サカキは話すなということは理解したようだった。
「うーん。
アナタたちが、善き隣人であるわたしを本当に認識できないんだとしたら……。
悲しいことだわ」
ルーナの影は、しょんぼりとうつむいていた。
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