上 下
10 / 31
4.まさかの仲間割れ?

4-3

しおりを挟む



 暗くなる前にたきぎを集め、火を起こせたのは幸いだった。
 サカキとカエデは火を囲み、パンと干し肉を食べていた。
 ルーナはサカキからもらったパンのカケラに、
 自分で集めたという花の蜜をかけて、ごきげんで食べている。

「ルーナ、遺跡に詳しいのなら、
明日の朝、入り口まで案内してくださる?」

 唐突にカエデは言った。
 サカキは硬い干し肉をむぐむぐと急いで噛み切って、
 ごくりと飲みこむ。

「遺跡に行くのか?」

「ええ。とりあえず、入り口だけでも見ておこうと思いまして」

 あんなに反対していたのに、どうして気が変わったのだろう。
 サカキがそう考えているのを読み取ったかのように、カエデは話し出した。

「わたくしはルーナを完全に信用していませんわ。
だって、まだ出会ったばかりですもの。
でも、ルーナがわたくしたちのことを助けてくれたことも事実。
だから、わたくしは、これから、
ルーナを信頼していきたいと思っていますの」

「……信用? 信頼? 
えーと、つまり、ドウイウコト?」

 理解不能でサカキの頭からぶすぶすと煙が出そうになっている。

「つまりは、わたしを信じるために、
一歩近づいてくれたってことでしょ? 
ありがとう、カエデ!」

 ルーナはカエデの頬にくっついた。
 ちゅっという音が聞こえたので、多分頬に口づけたのだろう。
 カエデはルーナをぐいーっと手で押しのけた。
 顔が赤い。

「まぁ、その、そういうことになりますわね。
わたくしも、かたくなになりすぎましたわ。
でも、もし遺跡を通り抜けるのがダメそうなら、
すぐに山越えに切り替えますからね」

 照れくさそうに、早口で言うカエデ。
 いつもなら、ここでサカキは喜んで声を上げるところだ。
 しかし、今は複雑そうな顔をしている。

「……でもさ、カエデ。
もし、また何かあって、おまえに剣を向けたら……。
おれ、おまえを守れるか、自信なくなってきた」

 さきほどのカンノムシの件が、よほどこたえているのだろう。
 サカキにとって、カエデは大切な家族だ。
 だから、絶対守ってやらなくてはならないのに。
 剣の腕をみがいてきたのも、村のみんなを、ひいてはカエデを守るためだ。
 サカキにとって、カエデは姉であり、妹であり、幼馴染みであり、親友なのだ。

「わたくしは、守られるだけなんてまっぴらごめんですわ。
互いに背中を預け合う。
それこそが対等な関係ではなくて?」

 それに、とカエデは続ける。

「まだ村を出て一日なのに、
アナタに自信をなくされては困りますわ。
わたしはアナタと一緒にこの任務につけて、
心からよかったと思ってますのよ?」

 カエデは微笑み、うつむいているサカキの顔をのぞきこんだ。目と目が合う。

「お互い今回のことは反省しましょう。
でも、ここで立ち止まってはいけませんわ。
反省した上で、成長しなくては」

 サカキはようやく顔を上げた。
 そして、両手で自分の頬をばしっとたたいた。
 じーんと痛みが広がっていくが、頭はスッキリした。

「おしっ、そうだな! ありがとう、カエデ!」

 いつもの調子がもどってきたようだ。カエデはほっと息をついた。

「ちょっとー、わたしのこと忘れてない?」

 ルーナはふわんと飛んで、サカキの肩にとまった。

「ふたりともいい雰囲気になっちゃってー。わたしも混ぜて!」

「いい雰囲気って、なんだよ。
よーし、混ざってこい! いくらでもほめてやるぞ!」

 サカキはルーナの頭と思われる部分をわしわしとなでた。

「えへへ、やったー! 
わたし、すごかったでしょ? 役に立った?」

「おう、そりゃあもう!」

 じゃれあうふたりを見て、カエデはやれやれと肩をすくめた。
 そして、ふとあることに気づく。

「ルーナ、アナタの影……」
 カエデは炎に照らされてできた、ルーナの影を指差した。
 その影は、小さな人型をして、背中に蝶の羽がくっついていた。

「え⁉ これって……」

 サカキはカエデの指差した方を見て、目を見開いた。
 この影の姿は、まさしく、昔話に聞いた妖精の姿そのものではないか。

「ふたりとも、何をそんなに驚いてるの?」

 ルーナの声にあわせて、人型の影が首をかしげた。

「ルーナ、おまえ、その影どうしたんだ⁉ 
まるで妖精の影みたいじゃねーか!」

 サカキがルーナにつめよると、ルーナは、あきれたように言った。

「はあ? 
今さら、何よ。
当たり前でしょう。
だから、わたしは妖精だって、最初から言ってるじゃない」

「いやいや、おまえ、ただの黒いもやじゃん!」

「最初に会った時も言ってたけど、何それ? 
なんでわたしの姿がそんな風に見えてるの?」

 カエデは、ルーナの影を見てじっと考えていた。
 影は真実の姿を映し出すもののはず。
 影まで完璧に姿を変えられる魔物は、そうはいない。
 では、ルーナは本当に妖精なのか? 魔物ではなくて?
 分からない。

「おれたちさ、まぶたに、ぶっ!」

 話している途中のサカキの口を、カエデの手がふさいだ。

(これは、話すと面倒なことになりそうですわ。
まぶたの薬のことは、内緒にしておいてくださいまし)

 目で、そううったえると、
 サカキは話すなということは理解したようだった。

「うーん。
アナタたちが、善き隣人であるわたしを本当に認識できないんだとしたら……。
悲しいことだわ」

 ルーナの影は、しょんぼりとうつむいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】エス★まほ ~エスパーと魔法使い、出会う~

みなづきよつば
児童書・童話
とあるエスパーいわく、「魔法使い? そんなのおとぎ話だろ」。 とある魔法使いいわく、「エスパー? そんな人間いないでしょ」。 そんなエスパーと魔法使いの少年ふたりが……、出会っちゃった!! ※※※ 完結しました! よかったら、 あとがきは近況ボードをご覧ください。 *** 第2回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。 投票よろしくお願いします! *** <あらすじ> 中一の少年リキヤは、超能力者(エスパー)だ。 リキヤはさびしさから、同じエスパー仲間を探していたが、 ひょんなことから、同じく中一の少年マナトとテレパシーがつながる。 しかし、妙なことに、マナトは自身のことを「魔法使い」と言っていて……? *** ご意見・ご感想お待ちしてます!

原田くんの赤信号

華子
児童書・童話
瑠夏のクラスメイトで、お調子者の原田くん。彼は少し、変わっている。 一ヶ月も先のバレンタインデーは「俺と遊ぼう」と瑠夏を誘うのに、瑠夏のことはべつに好きではないと言う。 瑠夏が好きな人にチョコを渡すのはダメだけれど、同じクラスの男子ならばいいと言う。 テストで赤点を取ったかと思えば、百点満点を取ってみたり。 天気予報士にも予測できない天気を見事に的中させてみたり。 やっぱり原田くんは、変わっている。 そして今日もどこか変な原田くん。 瑠夏はそんな彼に、振りまわされてばかり。 でも原田くんは、最初から変わっていたわけではなかった。そう、ある日突然変わり出したんだ。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~

みなづきよつば
児童書・童話
異世界ファンタジーやモンスター、バトルが好きな人必見!  イケメンとのお仕事や、甘酸っぱい青春のやりとりが好きな方、集まれ〜! 十三歳の女の子が主人公です。 第1回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。 投票よろしくお願いします! 《あらすじ》 とある事情により、寝泊まりできて、働ける場所を探していた十三歳の少女、エート。 エートは、路地裏の掲示板で「ダンジョン・マンション 住み込み管理人募集中 面接アリ」というあやしげなチラシを発見する。 建物の管理人の募集だと思い、面接へと向かうエート。 しかし、管理とは実は「お試しダンジョン」の管理のことで……!? 冒険者がホンモノのダンジョンへ行く前に、練習でおとずれる「お試しダンジョン」。 そこでの管理人としてのお仕事は、モンスターとのつきあいや、ダンジョン内のお掃除、はては、ゴーレムづくりまで!? おれ様イケメン管理人、ヴァンと一緒に、エートがダンジョンを駆けまわる! アナタも、ダンジョン・マンションの管理人になってみませんか? *** ご意見・ご感想お待ちしてます! 2023/05/24 野いちごさんへも投稿し始めました。 2023/07/31 第2部を削除し、第1回きずな児童書大賞にエントリーしました。 詳しくは近況ボードをご覧ください。

【完結】宝石★王子(ジュエル・プリンス) ~イケメン水晶と事件解決!?~

みなづきよつば
児童書・童話
キラキラきらめく、美しい宝石たちが…… ニンゲンの姿になって登場!? しかも、宝石たちはいろんな能力をもってるみたいで……? 宝石好き&異能力好きの方、必見です!! ※※※ 本日(2024/08/24)完結しました! よかったら、あとがきは近況ボードをご覧ください。 *** 第2回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。 投票よろしくお願いします! *** <あらすじ> 小学五年生の少女、ヒカリはワケあってひとり暮らし中。 ある日、ヒカリのもっていたペンダントの水晶が、 ニンゲンの姿になっちゃった! 水晶の精霊、クリスと名乗る少年いわく、 宝石王子(ジュエル・プリンス)という宝石たちが目覚め、悪さをしだすらしい。 それをとめるために、ヒカリはクリスと協力することになって……? *** ご意見・ご感想お待ちしてます!

まほうの国の女の子

tamakiya
児童書・童話
かつてアルファポリスで連載されていた「@異世界」向けに描いたイラストを絵本としてまとめました。今は小説家になろうで『異世界転移して機械工学で無双して革命王になる勇者:@異世界冒険編』として再連載されてますので作者の許可を得て応援掲載します。

ヒョイラレ

如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。 階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている! しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。 その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。 どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?

空の話をしよう

源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」  そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。    人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。  生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。  

処理中です...