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「後は全部……俺の無知だった、その、言い訳でしかないんだけど、オメガとの付き合いはほぼなくて、いや、知り合いにはいるんだけど、でも発情期の話なんてしないし、俺自身、オメガとどうかなるなんて考えてもなかったから授業とか、適当で……ああいや、あんな話なんて授業でもしないか」
「……」
「数日間、ずっと辛いとか、そんなの、……ちょっと我慢するくらいだと思ってたんだ、だから、それで俺のこと、少しくらい求めてくれたらいいなって考えてたくらいで……わかってる、ヤな奴だよな、最低な奴って。それでもいいから俺のこと考えてほしいって。でも風邪とか、体調を崩すよりずっと辛いなんて、ひとりがいやだなんて、和音に言われるまで気付かなくて」

 ごめん、和音が言ってくれて良かった、ずっと辛い思いをさせてしまうところだった、と言う横顔に、もう嘘だとは言えなかった。
 表情が強ばっていた。
 悠真さんも緊張している。
 ……おれに話をする為に。
 おれにきらわれたらいやだって、思ってる?

「……妊娠、させてしまえば、俺のものになるしかないよなって思った、無理にでも結婚してしまえばって。でも和音にはそうなったら……地獄だって思わせてしまうくらい、俺は酷いこと、してたんだって」
「それは……っ」
「でもそれでも諦めらんなくて。それなら地獄だってもう思われないようにやり直そうって。和音が俺から離れられなくなるくらい、和音がしてほしいこととか、優しくとかしようって思って……馬鹿だよなあ、最初からそうすれば良かったのに、それじゃ駄目だって、先に依存させなきゃって思って」

 赤信号で止まる度に、悠真さんはおれの方を見て、少しだけ、笑う。
 泣きそうな笑顔だった。
 多分、笑顔じゃなきゃ、おれが不安になるとでも思ってるんだろう。

 悠真さんの家には行ったことがなかった。
 どの辺かというのを大雑把に聞いていただけで。
 だからあとどれくらいで着くのかもわからなかった。
 ちゃんと悠真さんの話を聞きたいし、おれの話だってしたい。
 地獄だって思ったのは、悠真さんがいやだからじゃない。
 こどもを産むっていうことが、ひとりの人間を産むっていうことが、それが不安だっただけだ。
 他に番がいる状態で産んでしまったら、愛されない子だったら、おれも捨てられてしまったら。
 そんな不安の中で産んだって、自分も十分に愛することなんて出来ないから。
 だからこわかっただけで、おれだって悠真さんのこどもを産んだら、なんて自分勝手な妄想はした、何回も。

 ちゃんとそう伝えたいのに、でも、おれ、発情期来ちゃってて、ヒート中で、悠真さんが来たのはまさにひとりで慰めていた真っ最中で。
 それなのにこんな、悠真さんのにおいが強いところで、悠真さんのにおいのするコートを着せられて、すぐ手を伸ばせば届くところに悠真さんがいて。
 そんなの、躰があつくなってしまうに決まってるじゃないか。

 すぐにでも触れてしまいたいけれど、車の中で、外は明るくて、コートの下は下半身に何も身につけてない。まるで変質者だ。
 幾らヒート中だとはいえ触ってしまうのは、と僅かに残った理性が止める。
 でもじわじわナカは濡れるし、先端がじわりと濡れるのもわかって……泣きそうになる。
 悠真さんのコート、汚しちゃってる。

「和音?泣いてる?えっちょっと待って、どっか、どっか止まって……」
「止まんなくていいっ……はや、はやく悠真さんち、い、いきたい……!」

 ぐずぐず鼻を鳴らすおれに慌てた悠真さんが止まれそうなところを探すのを止めさせた。
 あと何分くらいで着く?と訊くと、五分も掛からないと言う。
 たったそれだけではあるけど、我慢が利かない。
 前屈みに倒れ込んだおれに、はっとしたように、ああそうか、と漏らした悠真さんは、外から見えないし、触ってもいいよと言う。
 触ってるとこは見えないかもしれないけど、おれのだらしないかおは見えちゃうじゃんか。

「やだ、恥ずかしい、から……」
「かお逸らしてたら大丈夫だよ」
「いや、やだ、悠真さんの服、汚しちゃう……や、よ、汚した、もう」
「いいよ、服くらい、クリーニングでも、捨てても。和音の方がだいじ」
「んうっ……」

 コートの上から悠真さんが左手で触れる。
 ぬと、とした感触が気持ち悪くて、気持ち良くて、コートの上からそんな風に触っちゃったら、ほら、また汚れたじゃんか、と思ってしまうのに、その手を止められない。
 あっ、あ、と声が零れて、いやだ、この声、外に漏れてないかなとか、かお、逸らすってどっちに、と思いながら、悠真さんを見てしまう。だって外を向く訳にはいかない。それに、やっぱり悠真さんが見たい、今触ってるのは悠真さんだって、確認してたい。
 悠真さんが息を呑んだ。

「さ、わっちゃ、だめ、」
「駄目?」
「ゆーまさんが、さわっ、たらっ……す、すぐ、イっちゃ、」
「いいよ、イっても」
「外、だからあっ……だめっ……や、だ!」

 そう言いながらもおれは悠真さんの左手を掴んだまんま離せない。
 離したくなかった。
 触ってほしいし、手を握りたいし、早く着いて、車を止めて、抱き締めてほしかった。
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