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「一年のアルファ見た?」
「見た見た、男女の双子のでしょ」
「珍しいよね、アルファがうちの高校来るなんて。何か訳ありかな」
「見てるだけなら訳ありでもいいよね」
「お人形さんみたいなの、目の保養~って感じ、流石アルファさま」
「ふたり揃ってるのかわいいよね、でもあんまり他のひととは関わらないらしいよ」
「なんか世界が出来上がってるよね」


 高校はごく普通の公立を選んだ。どこに行ってもこの性は噂になる。
 自分でいうのもなんだが、アルファというのはプライドが高い。
 それは自分自身の能力もあってそうなってしまうのもあるのだけれど、実際まあ性格が終わってるやつも多い。
 ベータやオメガをナチュラルに下に見るものも多く、ある種の同族嫌悪もあるのだと思う、一部の知り合いを除き、俺はアルファというものがすきではなかった。

 だからといって、別にオメガなら良いという訳でもない。寧ろ苦手だった。
 自分の境遇も関係あるとは思うが、言い寄られるのは鬱陶しいと思う。
 本人の考えなのか、家でそうしろと言われているのかはわからない、ただあいつらが見てるのは俺ではなく、家柄、見た目、アルファ、それだけなのだ。
 そして俺もそういうものだという目で見ているのでそんな奴等に惹かれることなどなかった。お互いがお互い背後しか見てない。当然、そんな自分もすきではなかった。
 相手と揉めてしまったこともある。手を出した訳でもないのに。
 オメガ同士の喧嘩もされたことがある。俺はどちらも選ばないのに。
 それを見てくすくすと笑い馬鹿にするアルファも、嫌悪感を剥き出しにするベータも、それでも自分を選んでと寄ってくるオメガも、全てに拒否反応を起こしてしまった。

 私立や偏差値の高い高校にはアルファが多く、普通より下の公立はまあオメガはいるが、プライドの高いアルファはそういない。どちらかを選ぶならオメガのいる公立を選んだ。
 中学三年で自分の立ち位置を学んだ。オメガなら自分さえ気をつければ制御出来ると踏んだのだ。

 実家から離れた公立高校を選んだ理由はふたつ。
 ひとつは単純に既に人間関係の荒れた地元から離れたかっただけ。
 もうひとつは家庭の事情だった。

 みっつ下の弟とむっつ下の妹、そのどちらもアルファと恐らくアルファだろうと検査結果は出ていた。妹はまだ当時小学生だったので、あくまでも恐らく、だったが。
 その弟の方が繊細だった。
 アルファの筈なのに揺らいでしまったのだ。
 家族の中ではいちばんアルファ性の強かった俺が近くにいると、体調不良を引き起こす。
 本人はそんなつもりじゃない、兄を拒絶したくないのにそうなってしまう自分にまた具合を悪くしてしまうので、高校進学のタイミングで家を出ることにした。

 幸い、思春期の繊細だった時期にそうなってしまっただけのようで、今はもう落ち着いている。
 肩を組む程近くにいても揺らぐことはない。思春期にはよくあることだった。

 高校での俺はそれなりに上手くやっていたと思う。
 僅かばかりいる他のアルファとも、その他大勢のベータともそれなりの付き合いをし、学年に数人のオメガとはお互い適切な距離を保てていたと思う。
 元々アルファを狙うような玉ならそれなりの高校へ行っている、こんな偏差値の低目の高校へ来るオメガは奥手だったり臆病な奴が殆どだった。
 中学の頃のいざこざも、成長する為に必要なものだったのだろう。


 そんな俺の、アルファとしての性を刺激したのは高校二年の春だった。
 お人形さんのような綺麗な男女の双子のアルファがこんなしょぼい高校に来た。それはふたりがひっそり暮らしたいと思っても無理だろう、というようなざわつきようだった。

 自分の感想はというと、ただ珍しいな、と思った、それだけだった。
 初めに見たのは双子の姉の方。
 移動教室だったのだろう、ひとりで、背を伸ばして歩く彼女と擦れ違った。
 これまたこんな高校に、随分強いアルファ性の子が、と思ったのを覚えている。
 周りを威嚇するような、それでいて同時に惹き付けるような、そんな女の子。
 見た目は確かにお人形さんと揶揄されるだけあって、緩やかな長い髪、ぱっちりした瞳に小さな薄くピンクの唇、白い肌、成程かわいらしい子。
 目元は少しきりっとした表情のせいかきつくも見えるが、つい先日まで中学生だったあどけなさも少し残っていて、そのバランスがまさにお人形さん。
 ただ纏うオーラがちぐはぐで、不思議な魅力のある子だと思った。
 少し視線が合い、睨まれたような気がした。
 ……多分それは本当に気のせいだとは思う、単純に向こうも、こんなとこにアルファがいるのかと驚いたくらいだと、それくらいの、なんでもない話。

 その時はまあ関わることはないだろうから、と思った。
 しかし、僅かその数日後、オメガなのか、変に甘いにおいに気付き、ついそちらの方に足が向いてしまう。
 別にオメガを襲いにいくつもりはなく、ただ本当に、その時はなぜか足が自然と動いてしまったのだ。
 校舎裏の、少しじめじめとするような、そんな場所で双子はお昼を広げていた。
 丸写しという訳ではないが、ひと目で双子だとわかるような綺麗な顔立ちをした男の子が隣でサンドイッチを頬張っていた。

 ……アルファじゃない。
 すぐにわかった。
 姉の方は疑いようもない強いアルファだ、しかし、その空気に守られるように薄く香るのは間違いなくオメガのものだった。
 薄く、薄く、本当に極薄く混じる甘いかおり。
 後程和音自身に聞いてわかったことだが、当時の乱用していた抑制剤と、強い花音のアルファ性、それに和音は守られていたのだ。
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