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荒い息のまま、スマホに視線をやる。ちかちかと通知のランプが点いていた。
……何か連絡来てるかも。
少し届かなくて指先が空振った。
ずり、と腕を付いたまま、爪先でシーツを蹴って移動する。
そんな、ほんの少しの刺激ですら快感を得てしまう躰が憎らしい。
「ゆーまさん……」
その通知が悠真さんのものだという確証はない。
花音かもしれない。両親かもしれない。
でも期待してしまう。
ごめん、仕事に行くね、また夜に行くよ、何か欲しいものある?
そうあって欲しかった。
指先で引っ掛けるようにして、どうにかスマホを手前に寄せる。それを掴んで、目の前に置いた。
ポップアップされた通知が幾つかある。
大体は広告、ひとつは花音。発情期終わったら連絡してね、とある。いつも通りだ。
その下にあるのは悠真さんだった。先に帰るね、とあるそれをタップして全文を表示する。
それは期待していたものとは全然違っていて、思わずなんで、やだ、と声を漏らしてしまった。
番が予定より少し早く発情期が来てしまったので先に帰るとあったから。
冷蔵庫のもの食べてね、何かあったら連絡して。また次の発情期にね、と。
わかってる。
おれがそれでいいと言った。先の番が優先でいいと。おれはにばんめ、さんばんめでいい、それがいいと。
でも一日?たった一日しか一緒にいてくれないの?ううん、半日くらいしかうちに居なかった。その内肌が触れていたのは何時間あった?
仕事は?休暇取ったの?番の為に?当然だよ、義務だもんね。
おれ、別にいいよ、仕事行ったって、夜また来てくれるなら半日くらい我慢するよ。
でも違う。おれだってまだ発情期来たばっかりだよ、後三日も四日もあるんだよ、苦しいの、まだ続くんだよ。その間は、もう来てくれないんでしょう。
だってだいじな番の発情期で……それはきっと四六時中面倒をみてあげるということで、おれには、何かあったら連絡してなんて言いながら、また次の発情期にと予定を決められてしまっている。
来ない。
ひとりで我慢してたって。
おれの今回の発情期は、もう悠真さんは触れてくれないのだ。
「……っ、う」
頭があつい。目元も、鼻の奥も、喉も、お腹の奥だって。
ぐっと何かがせり上って、ずっと鼻を啜った。
……発情期は辛いものだと知っている。
そしてそれは数年間自分ひとりでどうにかすることが当たり前で、一生そうだと思っていた。
だから悠真さんと契約して、何かがあったとしても、ひとりで我慢することだって出来るって、そう思っていた。
でもあの声を、においを知ってしまったら。手を、指を、あついものを知ってしまったら。
ひとりで慰めるのは酷く辛いものになってしまう。
先程やだ、とつい漏らしてしまった。
そう、嫌だ。いや。
頭がおかしくなりそう。
前までの発情期はそうはならなかった。
でもおれ、番がいるのに。悠真さんが番なのに。こんなに苦しいのに。さみしいのに。
全然楽になんてならない。足らなかった。もっとほしい、もっともっと奥にほしかった。足りない、足りない、苦しい、悠真さん、ずるい、一週間ずっと一緒にいるの、ご飯作ってあげるの、触れて気持ちよくしてあげるの。
おれはひとりなのに。
悠真さんが番になってしまったのだから、おれはもう、今後誰も頼れないのに。
おれには悠真さんしかいないのに。
「ゆうまさん……」
悠真さん、悠真さん、悠真さん。
どれだけ呼んだって意味はない。
きっと今、柔らかく細める悠真さんの瞳に映ってるのは、だいじな指輪の持ち主なのだ。
苦しい。
番がこんなに苦しいだなんて知ってたら、噛まれた方がましだなんて言わなかった。
噛んでなんて言わなかった。
悠真さんにお願いなんてしなかった。
苦しい。
それなのに手が止まんないの。腰も、声も、止まんなくて、ただ動物みたいに、何も考えずに快楽を追うことしか出来ないの。
なんて浅ましい躰なんだろう。
◇◇◇
結局、悠真さんに返信は出来なかった。既読がついていれば十分だろう。
悠真さんからもそれ以上は来なかった。甲斐甲斐しく番の面倒を見ているのだろう。
じわじわ迫ってくる想いは仕舞っておくことにした。
冷静になると、諦めるしかない、という結論になってしまうのだ。
我慢するしかない。少しでさえ相手をしてもらうだけで助かってる部分は大きい。
おれは結婚相手が欲しい訳ではない。
コントロールをしてくれる番が欲しかったのだ。番が出来ればフェロモンは他のひとには通じなくなる。それだけでも十分なメリットだった筈。
おれは「普通」が欲しい。そういう契約だった筈だ。
おれが重視していたのは発情期じゃない、それ以外の生活がだいじなのだ。
発情期はメンタルが弱くなる。それもわかっていた。
ぐじぐじ泣いてしまうのは仕方ない。
でも悠真さんとその番に気持ちをぶつけるのはだめだ。
自業自得なんだ、おれの。甘い気持ちで番になることを選んでしまったおれの。
おれが選んでしまった道だ、今更変更なんて出来ない。
番になって初めての発情期は反省点しかなかった。
おれはもっと強くならなきゃいけない。
ひとりでも大丈夫なんだって。
……何か連絡来てるかも。
少し届かなくて指先が空振った。
ずり、と腕を付いたまま、爪先でシーツを蹴って移動する。
そんな、ほんの少しの刺激ですら快感を得てしまう躰が憎らしい。
「ゆーまさん……」
その通知が悠真さんのものだという確証はない。
花音かもしれない。両親かもしれない。
でも期待してしまう。
ごめん、仕事に行くね、また夜に行くよ、何か欲しいものある?
そうあって欲しかった。
指先で引っ掛けるようにして、どうにかスマホを手前に寄せる。それを掴んで、目の前に置いた。
ポップアップされた通知が幾つかある。
大体は広告、ひとつは花音。発情期終わったら連絡してね、とある。いつも通りだ。
その下にあるのは悠真さんだった。先に帰るね、とあるそれをタップして全文を表示する。
それは期待していたものとは全然違っていて、思わずなんで、やだ、と声を漏らしてしまった。
番が予定より少し早く発情期が来てしまったので先に帰るとあったから。
冷蔵庫のもの食べてね、何かあったら連絡して。また次の発情期にね、と。
わかってる。
おれがそれでいいと言った。先の番が優先でいいと。おれはにばんめ、さんばんめでいい、それがいいと。
でも一日?たった一日しか一緒にいてくれないの?ううん、半日くらいしかうちに居なかった。その内肌が触れていたのは何時間あった?
仕事は?休暇取ったの?番の為に?当然だよ、義務だもんね。
おれ、別にいいよ、仕事行ったって、夜また来てくれるなら半日くらい我慢するよ。
でも違う。おれだってまだ発情期来たばっかりだよ、後三日も四日もあるんだよ、苦しいの、まだ続くんだよ。その間は、もう来てくれないんでしょう。
だってだいじな番の発情期で……それはきっと四六時中面倒をみてあげるということで、おれには、何かあったら連絡してなんて言いながら、また次の発情期にと予定を決められてしまっている。
来ない。
ひとりで我慢してたって。
おれの今回の発情期は、もう悠真さんは触れてくれないのだ。
「……っ、う」
頭があつい。目元も、鼻の奥も、喉も、お腹の奥だって。
ぐっと何かがせり上って、ずっと鼻を啜った。
……発情期は辛いものだと知っている。
そしてそれは数年間自分ひとりでどうにかすることが当たり前で、一生そうだと思っていた。
だから悠真さんと契約して、何かがあったとしても、ひとりで我慢することだって出来るって、そう思っていた。
でもあの声を、においを知ってしまったら。手を、指を、あついものを知ってしまったら。
ひとりで慰めるのは酷く辛いものになってしまう。
先程やだ、とつい漏らしてしまった。
そう、嫌だ。いや。
頭がおかしくなりそう。
前までの発情期はそうはならなかった。
でもおれ、番がいるのに。悠真さんが番なのに。こんなに苦しいのに。さみしいのに。
全然楽になんてならない。足らなかった。もっとほしい、もっともっと奥にほしかった。足りない、足りない、苦しい、悠真さん、ずるい、一週間ずっと一緒にいるの、ご飯作ってあげるの、触れて気持ちよくしてあげるの。
おれはひとりなのに。
悠真さんが番になってしまったのだから、おれはもう、今後誰も頼れないのに。
おれには悠真さんしかいないのに。
「ゆうまさん……」
悠真さん、悠真さん、悠真さん。
どれだけ呼んだって意味はない。
きっと今、柔らかく細める悠真さんの瞳に映ってるのは、だいじな指輪の持ち主なのだ。
苦しい。
番がこんなに苦しいだなんて知ってたら、噛まれた方がましだなんて言わなかった。
噛んでなんて言わなかった。
悠真さんにお願いなんてしなかった。
苦しい。
それなのに手が止まんないの。腰も、声も、止まんなくて、ただ動物みたいに、何も考えずに快楽を追うことしか出来ないの。
なんて浅ましい躰なんだろう。
◇◇◇
結局、悠真さんに返信は出来なかった。既読がついていれば十分だろう。
悠真さんからもそれ以上は来なかった。甲斐甲斐しく番の面倒を見ているのだろう。
じわじわ迫ってくる想いは仕舞っておくことにした。
冷静になると、諦めるしかない、という結論になってしまうのだ。
我慢するしかない。少しでさえ相手をしてもらうだけで助かってる部分は大きい。
おれは結婚相手が欲しい訳ではない。
コントロールをしてくれる番が欲しかったのだ。番が出来ればフェロモンは他のひとには通じなくなる。それだけでも十分なメリットだった筈。
おれは「普通」が欲しい。そういう契約だった筈だ。
おれが重視していたのは発情期じゃない、それ以外の生活がだいじなのだ。
発情期はメンタルが弱くなる。それもわかっていた。
ぐじぐじ泣いてしまうのは仕方ない。
でも悠真さんとその番に気持ちをぶつけるのはだめだ。
自業自得なんだ、おれの。甘い気持ちで番になることを選んでしまったおれの。
おれが選んでしまった道だ、今更変更なんて出来ない。
番になって初めての発情期は反省点しかなかった。
おれはもっと強くならなきゃいけない。
ひとりでも大丈夫なんだって。
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