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 しなくていいの、ちゅう、と揶揄う声に、もう何と返しても恥ずかしくて、そのまま肩口に額を擦り付けるように首を横に振った。
 ただ、それも拗ねたようだな、と思って……こういう時の正解がわからない。
 素直に頷くのが正しいのかもしれないけど、自分の立場でそれをしていいのかわからなかった。
 そういう趣味があるのでない限り、おれと悠真さんの行為は悠真さんの番に褒められたものではない。
 でもだからといってもう今更、おれはこの手を離すことは出来ない。
 それなら割り切って悠真さんに身を預ければいいのに、潔くもなれやしない。
 どこかでずっと罪悪感を引き摺っている。
 番になってしまった以上、もうおれは引くことなんて出来ないのに。

「……ねえ、早く挿入れてよ」

 誤魔化すように言えたのは、もう挿入るよと品のない誘い文句だけ。
 お腹の奥がうずうずしている、だから間違いではないのだけど。
 ……どうせやるなら、悪いことするなら、悠真さんの番相手が憎むことが出来るやつになってやろう。
 悠真さんが悪いんじゃない、誘ったおれが悪い。
 共通の敵がいれば、人間って仲良くなれたりするでしょ。

「っ、は、もお、からだ、あついっ……」
「本格的にヒート来たかな、触るよ」
「んあっ、あ、ッゔ!」

 濡れた後孔からぐち、と水音がした。発情期のオメガはいつだって準備が出来ている。
 久し振りの悠真さんの指。自分のものより長くて、少し質量も感じる。
 その指が挿入っただけで腰が逃げてしまう程気持ちいい。

「は、っう、ん、ン……っ」
「痛くないと思うけど……大丈夫?」
「んっ、ん、はう、あ、ッあ、あ、ら、ぃじょ、」

 気持ちいい。
 ヒート中だからというのもあるけど、自分で処理する時よりずっと。同じ指だというのに気持ちいい。
 自分だと強い快感につい逃げてしまうような気持ちいいところも、いっそ無遠慮な程に触れられて、腰を揺らし、声を漏らすことしか出来ない。
 耳元で、本当にすぐに挿入れられそうだね、と囁かれて、そうだよ、早く挿入れて、そう返してしまいたくなって、唇を噛んだ。

 頭がぼおっとして、気を抜いてしまいそうになる。
 前回と違ってこの体勢じゃみっともない表情を見せてしまうことになる。少しでも気の抜けたかおを見られないようにすることに必死だった。
 やっぱお前じゃ無理だわ、なんてことになったら困るから。
 それにそうなってしまったら、何を口走るかもわからなくて、少しこわい。

「ん、んう、んッ、んー……っ」

 しがみついた肩に歯を立てられる程理性は飛んでない。でも自分の甘ったるい声は許せない。そんなこと言ったってもう遅いのもわかるけど。
 まだちらついてしまう、見たことも聞いたこともない悠真さんの番の姿が。
 今更どうしたって赦される訳でもないのに。
 気を遣う場所はそういうとこじゃないだろうに。

「は、ん、っう、う……ッ」
「和音」
「んん、ンっう、んうう」
「かずね」
「ッん、ん、んぁ、う」
「和音!」

 べり、とくっついていた躰を剥がされた。
 背中に回していた腕が空を舞って、先に剥がされた躰がベッドに沈む。
 何をされたかよくわからなくて、少し混乱したまま悠真さんを見上げると、我慢しないの、と言われてしまった。

「別に噛んだって爪痕残したっていいよ、それくらい。和音の方が苦しいのも痛いのもわかるから、それが楽になるならなんだっていい。でもそうやって我慢されるとむかつく、そんなこと考える余裕あんの」
「……へ、」
「唇噛まないで。血ィ出てる」
「あ、ごめ……」

 慌てて悠真さんの肩を確認する。確かに掠れたようにうっすらと跡が残っていた。
 腕を伸ばして指で拭おうとすると、その手首を掴まれた。
 血をつけたことに怒ってんじゃない、血を出したことに怒ってるんだと言われ、そんなん仕方ないじゃん、おれだって出そうと思った訳じゃない、と心の中で反論した。
 なんだよ、そんなに怒んなくてもいいじゃん、発情期なんてメンタル弱ってんだぞ、泣きそうになるじゃんか。

「もう俺のものなんだよ」
「へ……」
「頭のてっぺんから足の先まで。傷ひとつつけないで」
「で、でも、首」

 口にしてから、大分ずれたことを言ってしまったな、と気付いた。遅い。
 悠真さんはきょと、としたかおを一瞬して、それからふ、と笑うと、おれの項をまた撫で、これは和音が俺のものになったという証でしょ、と言った。
 そのまま首筋を撫で、これも俺の所有印、と呟く。
 首筋?と回らない頭で考え、それが所謂キスマークを指すことに気付いて、かあ、と頭があつくなった。
 そんなもの付けたの、いつ?暫く外に出れないからいいけど……いや良くない、あんまり花音に見られたくない。いやいや見られた方が番と仲良くしてますよとアピール出来るんだけど。でもおれがそんなもの付ける日が来るなんて。
 そう考える一方で、悪くないとも思ってしまう。おれもその痕、見たいな、首なんて自分じゃ見ること出来ない。

「……和音」
「ん、う」

 唇に指が触れる。
 血を拭われ、その指を舐める姿に、えっ、そんなもの舐めるの、汚い、危ない、そんなことするな、そう思うのに、おれの血なのに舐められんの、なんて胸がきゅうとなったりもする。
 そう、そうかあ、悠真さん、おれにそんなこと、出来るんだあ……
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