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 そんなおれの思考がわかるのか、俺は後悔してないよ、と悠真さんはおれの手を取り笑う。
 それは、おれと番になったことだろうか、おれが相手だということだろうか。

「まあ一方的にだけど知ってる相手だし、和音、良い子そうだし」
「良い子……ってのは違うと思うけど」

 でも面倒臭い奴にはならないようにするつもり。
 だって本来はいらない番だった訳だし。

「ヒートの時、相手して貰えればそれ以外はその……そっちの番優先してもらっていいし」
「……助かる」

 付き合いたてのカップルでもあるまいし、毎日の連絡だとか、デートだとか、誰とどうなったとか、そういうの、いらないし。
 ただおれが、普通の生活を送れれば。
 ……悠真さんにメリットなんてないけど、それはまあ……うん、アルファとしての責任ってことで。
 いいでしょ、数ヶ月に一度くらいなら。

「てな訳で合鍵ちょーだい」
「ええ……」
「なに、ヤなの」
「だってまだ会ったばっかだし……」
「番になったんですけど……」
「でもさあ……一応防犯意識というか」
「酷くね?いやでもほら、ヒート中に玄関まで来れる?無理でしょ?」

 苦笑いする悠真さんに、それはそうだと思うけど。
 ボンボンのアルファが金銭目的でも躰目的でもないだろうけど。

「合鍵はもうかのんに渡してるし……」
「仲良いね、流石双子。でも合鍵なんて作れるでしょ、どうせここ、賃貸じゃないだろうし」
「父さんのだけど……」
「じゃあ作ってもいいでしょ、次の発情期までに用意しといてね」
「……う、ん?」

 つい頷いてしまった。
 だってその笑ったかおが、落ち着いた声が、頭を撫でる大きな手が、なんだかしっくりきてしまって。


 ◇◇◇

「調べましょう、その男」
「そこまでしなくても……」
「そこまでする案件よ!」

 目の前に座った花音が足を組みながらその太ももを叩いた。ぺち、と良い音が鳴る。
 花音はまあ俗にいうブラコンというやつで、双子で、更に片割れがこんな奴なのでそうなるのも仕方がないとは思っている。
 頼りないもんな、おれ。いや、おれだって花音のことはだいじだ、シスコンで構わない。

 昔から、特にオメガとアルファだとわかってからおれは花音に頼りっぱなしだ。
 そして、花音はそんなおれをずっと支えてきた。
 なんなら表に立つのはいつも花音だった。
 見た目も好みも捻じ曲げて、自分もなるべくアルファに見えないようにと清楚な格好をして、きつめの口調も柔らかく話すようにして、……多分、成績さえも手を抜いていた。
 花音がアルファなのは多分きっと周囲はわかっていた。
 その上で、おれがアルファっぽくないというのを誤魔化す為に自分を下げて生きてきた。
 そしておれは自分のことしか考えられなくて、そんな花音に甘えて生きてきた。

 成人して、漸く自分の卑怯さに気付いて……それでもまだおれはまだ誤魔化し続けているんだけど。
 でも自分より、花音にはしあわせになってもらいたいと思っている。
 強めのアルファという点を除いても花音はモテる。流石おれの片割れだ、という冗談は置いておいて。
 ぱっちりとした瞳は化粧のせいもあるが気は強そうに見えて、そのくせ小さな鼻と小作りな口は少し幼くも見える。
 緩く見せる為にふわふわした髪型にしていた長い髪は今や肩に届くかどうかという長さに切られ、それがまた更に気が強そうに見えた。
 本当はショートにしたいがおれとそっくりになっちゃうから、と冗談めかして言われたことがあるが、そんなのは本当にただの冗談だとわかるくらい、確かに双子だけあって似てはいるが、なんというか……男女の差以外にも、発するものが違うんだよなあ、と思う。
 大学生になって、卒業して社会人になって。おれと離れた花音は、気弱に見せてた高校時代と違って、どうみたって立派なアルファになっていった。

 だいすきな双子の姉。片割れ。自分よりもっと大切な相手。
 それでもそんな姿を見るのは少し辛く思うこともあった。
 ベータどころかオメガの自分が情けなくなるから。
 でもそんなおれを支え続けた花音に、そんな弱いところを見せたくなんてなかった。
 そのことすら、花音にはもう気付かれているんだろうけど。

 仕事に失敗する度に考えはもっと暗いものになっていって、惨めになって、引き篭るおれにめげずに会いに来て慰めて、笑って、大丈夫だよと言い続ける花音に、安堵して、むかついて、かなしくて、辛くて、また情けなくなって、でも花音に抱き締められると落ち着くのは不思議だった。

 花音がすきだ。両親も、親族も。
 皆優しくて、皆だいじで、でも特別にしあわせになってもらいたいのは花音で、そう思うのは花音だから当然で。
 大学で良い相手に出会った花音が未だに番の契約を交わさないのはきっと花音はおれのことを考えてのことだ、そうは認めないけれど。
 だから今日、やっと言えた。番が出来たから、ふたりもおれのことなんか気にせずしあわせになってと。
 花音は感動して泣くかもしれない、なんて思いつつ、話を盛りながら説明したところでの花音の第一声がこれ、悠真さんの調査をするという発言だ。
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