13 / 124
2
13
しおりを挟む
そんなおれの思考がわかるのか、俺は後悔してないよ、と悠真さんはおれの手を取り笑う。
それは、おれと番になったことだろうか、おれが相手だということだろうか。
「まあ一方的にだけど知ってる相手だし、和音、良い子そうだし」
「良い子……ってのは違うと思うけど」
でも面倒臭い奴にはならないようにするつもり。
だって本来はいらない番だった訳だし。
「ヒートの時、相手して貰えればそれ以外はその……そっちの番優先してもらっていいし」
「……助かる」
付き合いたてのカップルでもあるまいし、毎日の連絡だとか、デートだとか、誰とどうなったとか、そういうの、いらないし。
ただおれが、普通の生活を送れれば。
……悠真さんにメリットなんてないけど、それはまあ……うん、アルファとしての責任ってことで。
いいでしょ、数ヶ月に一度くらいなら。
「てな訳で合鍵ちょーだい」
「ええ……」
「なに、ヤなの」
「だってまだ会ったばっかだし……」
「番になったんですけど……」
「でもさあ……一応防犯意識というか」
「酷くね?いやでもほら、ヒート中に玄関まで来れる?無理でしょ?」
苦笑いする悠真さんに、それはそうだと思うけど。
ボンボンのアルファが金銭目的でも躰目的でもないだろうけど。
「合鍵はもうかのんに渡してるし……」
「仲良いね、流石双子。でも合鍵なんて作れるでしょ、どうせここ、賃貸じゃないだろうし」
「父さんのだけど……」
「じゃあ作ってもいいでしょ、次の発情期までに用意しといてね」
「……う、ん?」
つい頷いてしまった。
だってその笑ったかおが、落ち着いた声が、頭を撫でる大きな手が、なんだかしっくりきてしまって。
◇◇◇
「調べましょう、その男」
「そこまでしなくても……」
「そこまでする案件よ!」
目の前に座った花音が足を組みながらその太ももを叩いた。ぺち、と良い音が鳴る。
花音はまあ俗にいうブラコンというやつで、双子で、更に片割れがこんな奴なのでそうなるのも仕方がないとは思っている。
頼りないもんな、おれ。いや、おれだって花音のことはだいじだ、シスコンで構わない。
昔から、特にオメガとアルファだとわかってからおれは花音に頼りっぱなしだ。
そして、花音はそんなおれをずっと支えてきた。
なんなら表に立つのはいつも花音だった。
見た目も好みも捻じ曲げて、自分もなるべくアルファに見えないようにと清楚な格好をして、きつめの口調も柔らかく話すようにして、……多分、成績さえも手を抜いていた。
花音がアルファなのは多分きっと周囲はわかっていた。
その上で、おれがアルファっぽくないというのを誤魔化す為に自分を下げて生きてきた。
そしておれは自分のことしか考えられなくて、そんな花音に甘えて生きてきた。
成人して、漸く自分の卑怯さに気付いて……それでもまだおれはまだ誤魔化し続けているんだけど。
でも自分より、花音にはしあわせになってもらいたいと思っている。
強めのアルファという点を除いても花音はモテる。流石おれの片割れだ、という冗談は置いておいて。
ぱっちりとした瞳は化粧のせいもあるが気は強そうに見えて、そのくせ小さな鼻と小作りな口は少し幼くも見える。
緩く見せる為にふわふわした髪型にしていた長い髪は今や肩に届くかどうかという長さに切られ、それがまた更に気が強そうに見えた。
本当はショートにしたいがおれとそっくりになっちゃうから、と冗談めかして言われたことがあるが、そんなのは本当にただの冗談だとわかるくらい、確かに双子だけあって似てはいるが、なんというか……男女の差以外にも、発するものが違うんだよなあ、と思う。
大学生になって、卒業して社会人になって。おれと離れた花音は、気弱に見せてた高校時代と違って、どうみたって立派なアルファになっていった。
だいすきな双子の姉。片割れ。自分よりもっと大切な相手。
それでもそんな姿を見るのは少し辛く思うこともあった。
ベータどころかオメガの自分が情けなくなるから。
でもそんなおれを支え続けた花音に、そんな弱いところを見せたくなんてなかった。
そのことすら、花音にはもう気付かれているんだろうけど。
仕事に失敗する度に考えはもっと暗いものになっていって、惨めになって、引き篭るおれにめげずに会いに来て慰めて、笑って、大丈夫だよと言い続ける花音に、安堵して、むかついて、かなしくて、辛くて、また情けなくなって、でも花音に抱き締められると落ち着くのは不思議だった。
花音がすきだ。両親も、親族も。
皆優しくて、皆だいじで、でも特別にしあわせになってもらいたいのは花音で、そう思うのは花音だから当然で。
大学で良い相手に出会った花音が未だに番の契約を交わさないのはきっと花音はおれのことを考えてのことだ、そうは認めないけれど。
だから今日、やっと言えた。番が出来たから、ふたりもおれのことなんか気にせずしあわせになってと。
花音は感動して泣くかもしれない、なんて思いつつ、話を盛りながら説明したところでの花音の第一声がこれ、悠真さんの調査をするという発言だ。
それは、おれと番になったことだろうか、おれが相手だということだろうか。
「まあ一方的にだけど知ってる相手だし、和音、良い子そうだし」
「良い子……ってのは違うと思うけど」
でも面倒臭い奴にはならないようにするつもり。
だって本来はいらない番だった訳だし。
「ヒートの時、相手して貰えればそれ以外はその……そっちの番優先してもらっていいし」
「……助かる」
付き合いたてのカップルでもあるまいし、毎日の連絡だとか、デートだとか、誰とどうなったとか、そういうの、いらないし。
ただおれが、普通の生活を送れれば。
……悠真さんにメリットなんてないけど、それはまあ……うん、アルファとしての責任ってことで。
いいでしょ、数ヶ月に一度くらいなら。
「てな訳で合鍵ちょーだい」
「ええ……」
「なに、ヤなの」
「だってまだ会ったばっかだし……」
「番になったんですけど……」
「でもさあ……一応防犯意識というか」
「酷くね?いやでもほら、ヒート中に玄関まで来れる?無理でしょ?」
苦笑いする悠真さんに、それはそうだと思うけど。
ボンボンのアルファが金銭目的でも躰目的でもないだろうけど。
「合鍵はもうかのんに渡してるし……」
「仲良いね、流石双子。でも合鍵なんて作れるでしょ、どうせここ、賃貸じゃないだろうし」
「父さんのだけど……」
「じゃあ作ってもいいでしょ、次の発情期までに用意しといてね」
「……う、ん?」
つい頷いてしまった。
だってその笑ったかおが、落ち着いた声が、頭を撫でる大きな手が、なんだかしっくりきてしまって。
◇◇◇
「調べましょう、その男」
「そこまでしなくても……」
「そこまでする案件よ!」
目の前に座った花音が足を組みながらその太ももを叩いた。ぺち、と良い音が鳴る。
花音はまあ俗にいうブラコンというやつで、双子で、更に片割れがこんな奴なのでそうなるのも仕方がないとは思っている。
頼りないもんな、おれ。いや、おれだって花音のことはだいじだ、シスコンで構わない。
昔から、特にオメガとアルファだとわかってからおれは花音に頼りっぱなしだ。
そして、花音はそんなおれをずっと支えてきた。
なんなら表に立つのはいつも花音だった。
見た目も好みも捻じ曲げて、自分もなるべくアルファに見えないようにと清楚な格好をして、きつめの口調も柔らかく話すようにして、……多分、成績さえも手を抜いていた。
花音がアルファなのは多分きっと周囲はわかっていた。
その上で、おれがアルファっぽくないというのを誤魔化す為に自分を下げて生きてきた。
そしておれは自分のことしか考えられなくて、そんな花音に甘えて生きてきた。
成人して、漸く自分の卑怯さに気付いて……それでもまだおれはまだ誤魔化し続けているんだけど。
でも自分より、花音にはしあわせになってもらいたいと思っている。
強めのアルファという点を除いても花音はモテる。流石おれの片割れだ、という冗談は置いておいて。
ぱっちりとした瞳は化粧のせいもあるが気は強そうに見えて、そのくせ小さな鼻と小作りな口は少し幼くも見える。
緩く見せる為にふわふわした髪型にしていた長い髪は今や肩に届くかどうかという長さに切られ、それがまた更に気が強そうに見えた。
本当はショートにしたいがおれとそっくりになっちゃうから、と冗談めかして言われたことがあるが、そんなのは本当にただの冗談だとわかるくらい、確かに双子だけあって似てはいるが、なんというか……男女の差以外にも、発するものが違うんだよなあ、と思う。
大学生になって、卒業して社会人になって。おれと離れた花音は、気弱に見せてた高校時代と違って、どうみたって立派なアルファになっていった。
だいすきな双子の姉。片割れ。自分よりもっと大切な相手。
それでもそんな姿を見るのは少し辛く思うこともあった。
ベータどころかオメガの自分が情けなくなるから。
でもそんなおれを支え続けた花音に、そんな弱いところを見せたくなんてなかった。
そのことすら、花音にはもう気付かれているんだろうけど。
仕事に失敗する度に考えはもっと暗いものになっていって、惨めになって、引き篭るおれにめげずに会いに来て慰めて、笑って、大丈夫だよと言い続ける花音に、安堵して、むかついて、かなしくて、辛くて、また情けなくなって、でも花音に抱き締められると落ち着くのは不思議だった。
花音がすきだ。両親も、親族も。
皆優しくて、皆だいじで、でも特別にしあわせになってもらいたいのは花音で、そう思うのは花音だから当然で。
大学で良い相手に出会った花音が未だに番の契約を交わさないのはきっと花音はおれのことを考えてのことだ、そうは認めないけれど。
だから今日、やっと言えた。番が出来たから、ふたりもおれのことなんか気にせずしあわせになってと。
花音は感動して泣くかもしれない、なんて思いつつ、話を盛りながら説明したところでの花音の第一声がこれ、悠真さんの調査をするという発言だ。
101
お気に入りに追加
3,032
あなたにおすすめの小説
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~
仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」
アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。
政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。
その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。
しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。
何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。
一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。
昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)
【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる