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 シャワーの水音と、荒い息だけが響く。
 嘘でしょ?今僕、イっ……
 え?嘘、こんなとこで?

「……っ、」
「碧」
「……やだって、言った……」

 嫌だって、言った。
 なんでこんなところで?
 なんで一緒に?
 1人で処理すればよかったのでは?

 ぼおっとする頭で考えるけどわからない。
 なんでなんでなんで。なんで皇輝はこんなことした?

 佐倉の顔が浮かぶ。

 なんで。

「かえるう……」

 僕が願ってたのはこんな未来じゃない。


 ◇◇◇

「あらっ皇輝くんじゃない、なんか久し振りねえ、会う度に格好良くなってるわね」
「ごめんおばちゃん、碧体調崩しちゃって」
「あらあらあら碧あんた顔真っ赤じゃないの、まーたあんたは何も考えずにプール入ってたんでしょ!自分の体調もわからないの!」
「んんんうるさい……」
「ごめんねえ、皇輝くんいなかったらこのこ溺れて死んでるわよ、いつもちゃんと見てくれてありがとねえ」
「いえ……」
「そうだ、ちょっと待ってね、みどりー!翠!碧部屋に連れてって!皇輝くん、これ、うちで食べきれないお菓子なんだけど、持ってって」
「ありがとう」

 兄ちゃんに引っ張られるように階段を上がる背中で母さんと皇輝の会話がきこえる。
 ……ついさっきあんなことしといてよく人の母さんと話が出来るな、信じらんない。

「着替えて寝てな、ほんとお前皇輝いないと何十回と死んでたぞ、気を付けろ」
「兄ちゃんもうるさい」

 僕は皇輝がいても死ぬんだよ。

 ……帰り道、2人とも無言だった。
 皇輝は言い訳のひとつもしなかった。しろよ。

 それがまた、ただの性欲処理だったんだなってわかってしまって、酷く苦痛な時間だった。
 明日からどういう顔して会えばいいかわからない。


 ◇◇◇

「37度6分、休んで寝てなさい」
「えー……微熱……」
「なわけないでしょ、寝てなさい、あんた学校行ったらプール入るの目に見えてるんだから。部屋で寝てるのよ、お風呂も禁止」

 学校に行こうとしたところ、顔がまだ熱っぽいから計りなさいと体温計を渡された結果がこれだ。
 また自室に追い返された。
 そのままベッドへおかえり。

「はあ……」

 昨日はあのまま寝てしまったから良かったものの、こうやって暇な時間が出来ると思い出してしまう。
 思い出したくないのに。
 傷付いた筈なのに。

 なのに、皇輝を諦めていた僕が喜んでる。
 絶対に無理だと思ってた皇輝に触れた、触れられた。
 手、おっきかったな、息、上がってたな、あの時、どんな表情だったんだろう、どんな瞳をしていたんだろう……見たかったな……

 もう二度とないよね、あんなこと……
 だって皇輝は佐倉と付き合うことになって、佐倉と、女子と、そういうことをするんだろう。
 そしたらきっと、僕なんかで処理する筈はない。
 優しくてかわいくて、スタイルもよくて柔らかい女のひと。
 僕といえば妊娠しないことだけが取り柄か。

 1回きり、あの1回きりだ。
 きっとまた会った時普通の顔で挨拶するんだ。
 それでいつも通り。終わり。
 だから昨日のことは、僕の思い出にしてしまえばいい。

「……っ、」

 皇輝の大きな手。
 自分でやる時よりすっぽりと、覆いかぶさって、あったかい、熱い手が、指が動いて、それから、

「……はっ、ァ、う」

 先っぽをぐりぐりされて、それで、皇輝のがくっついて、熱くて、一緒に擦られて、動かされる手が早くなって、びくびくして、

「ぁ、だめ、はやっ……ん、」

 皇輝の、聞いたことない声、吐息だった。
 あんな近くで、耳元で、肌を触れ合いながら、一緒に達した。

「ぅ、ん、あっ……」

 皇輝の熱を、忘れたくない。
 来世になら、期待していいかなあ。
 それともやっぱり、僕の想いは叶わない運命なのだろうか。

 涙で滲んで、前が見えない。
 忘れたくない、忘れてしまいたい。
 嬉しくて、嬉しくない。

「……っ」

 酷く惨めだった。
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