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「う、んう……」

 はあはあと肩で息をしていると、また唇を塞がれる。なんでこのタイミングで、と思いつつも、必死でその舌に応えた。
 ただでさえ息苦しかったところに、更に唇を塞がれてしまっては息をするところが鼻しかなくて、でもそれじゃあ上手く呼吸が出来なくて、口が離れる一瞬で息を吸って、また重なっては息が出来なくなる。

「ふ、う、ん……っ、も、いきっ……」
「苦しい?」
「んぅ、息、できなっ……い」
「ごめんね、蕩けてるユキがかわいくて」
「……ん、」

 それにしたってタイミングがあるだろ、と思うけど、……でもまあジルがそうしたいと思ったなら仕方ない、おれだって相手の状況を気にせず勝手にしてみたいことはある。

「で、でも」
「うん?」
「ゆっくり、して、今……イったばっか、だから」
「ゆっくりでいいの?」
「へ……」
「ユキの顔は早く、って顔してる」
「どんな顔……」

 早く欲しいって顔、と言いながらおれの口許を拭う。
 その手に、また口許を汚してしまったのに気付いた。
 慌てて手の甲で拭う。なんでおれこんなに下手くそなんだろう、いつもべたべたになっちゃう。ジルはこんなに綺麗な顔をしているのに。

「久し振りだから、こっちはキツいかも」
「……ん、っ」
「どうしよっか、最初の時の香油使う?」
「つ、使ったら、怒る……」
「怒っちゃうかあ」

 それは困るな、と笑いながら小瓶を片手に戻ってくるジルに、それなに、と視線を向けると、違うやつだよ、と蓋を取る。
 あの忘れられない、甘ったるいにおいとは違う、ほのかなかおり、それだけでほっとしてしまう。
 基本的に、アロマみたいなもので、どういう効果、といってもめちゃくちゃ効く訳ではない。
 言われたらそのような気がする、みたいな感覚なんだけど、あの香油だけは効き過ぎる、ただでさえ制御出来ない躰が余計に熱くなって、躰が揺れて、自分じゃなくなってしまうような。
 それが嫌だった。

「足開いて」
「……う、」
「いや?」
「……いや、じゃ、ない、恥ずかしいだけ、で……」
「もう何度もしてるのに相変わらず初々しいねえ」
「……いや?こまる?」
「かわいいよ、どんなユキも」
「……」

 ジルの甘い声はぞわぞわする。
 耳の後ろが、肩が、背中が、腰が、ぞわ、として、溶けてしまいそう。
 かわいいと言われるのが、恥ずかしくて、そんな訳ないと思うのに嬉しくて、もっと聞きたくて、その為に言うことを聞きたくなってしまう。
 まるでその言葉に魔法が掛かってしまってるようだ。

「……ッ」
「ん、良い子」
「んァ……」

 おずおずと足を開くと、優しい声が耳を擽る。
 まだ触れられてないのに、それだけで甘ったるい声が漏れてしまった。

「……ん、ふ……っう」

 ぬるついた指が後ろに触れて、ゆっくりナカを拡げていく。
 手持ち無沙汰な指先は、シーツを握り締めていたけど、指を増やされ、慣らされる内にそれじゃ足りなくなって、枕を抱き締めて爪を立てる。
 噛み付いても引っ掻いても枕は文句を言わない、傷付かない、口許に押し付ければ声も殺せる、万能アイテムだ。
 そんなことを考えているのがばれるのか、ジルはあまりいい顔をしない。
 でも抱き締められる距離にいないジルが悪いと思う。
 本当は、ぎゅっとして離れたくない。
 そんなの、何も先に進まないのはわかるけど。

「それ、抱き締めてもいいけど……声は我慢しないで」
「んぅ……」
「かわいい声と顔を隠さないで、俺に見せて」
「……っあ」

 枕に埋めていた顔を上げさせられ、軽くキスをする。
 毎回声を聞かせてって言うんだけどな、と苦笑する声に、仕方ないじゃん、と思う。
 自分の耳に入る甘ったるい声が自分じゃないみたいで恥ずかしいし、つい目の前にあるものに噛み付いてしまう。
 ……だから、つい唇を拭うように触れた指に軽く歯を立ててしまうのは、癖みたいなもので……仕方ないと思う。

「ん、ふぅ……ん、は……ぁ」
「……俺の指すき?」
「ん、んう、しゅき……」
「俺は?」
「らいすき……んッ」
「ふふ、そっか」

 ジルの指を、ぺろぺろ舐めながら、あれ、おれは?おれのことはすきって言ってくれないの、とぼんやり考える。
 言ってくれたら嬉しい、安心するのに。

「じぅ……」
「うん?」
「お、おれは……?」
「かわいいよ」
「ちが、それじゃなくて……っう、」

 わかってて逸らしてるんだろうな、って、おれだってわかる。
 自分の唾液で濡れた指先を握り締めて、じっとジルを見つめる。
 その間もナカを慣らす指先は止まらないから、時折躰が跳ねてしまう。

「……おれのこと、は?す、すきじゃ」
「愛してるよ」
「ぅえ」
「愛してる」
「……!」

 その言葉だって何度か聞いた。聞いたけど、でも慣れることなんてない。
 胸がきゅうきゅうする、恥ずかしくて、嬉しくて、満たされる。
 
「ふふ、嬉しい?ユキの躰はわかりやすいなあ」
「んッ、あ、あう」
「もう大丈夫そう?……ナカ、すごく欲しそうだけど」
「ん、ん、い、いぃ、からっ……」

 早く挿入れて、なんて、いつから言えてしまえるようになったんだろう。
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