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おれがはあはあと荒い息を整えてる間に、ジルはおれの力の抜けた躰を綺麗にしていく。
……王子様の癖に手際いいじゃん。まあおれのせいか、毎回毎回世話させちゃってまあ。
「……放っといてくれたら、起きてから自分で綺麗にする、のに」
「俺がしたいの」
「ええ……」
「このぐったりしたユキを綺麗にして、ゆっくり寝させてあげるのが嬉しいし楽しいんだよ」
「……悪趣味」
「愛しいからね、仕方ない」
「……っう」
ぽす、とすぐ横に倒れたジルが、おれの瞳を真っ直ぐ見ながらそう言うものだから堪らない。
恥ずかしくなって、でもすぐに胸がぎゅうっとなって、おれも、と思ってしまう。
少しだけ、指先を伸ばすと、それより先に抱き締めてくれた。
安心する。
ジルの体温が、においが、優しい声が、空気が。
どきどきもするんだけど、さみしくもかなしくもなるんだけど、それでも触れていたい。
「ユキのことは全部俺がやりたい」
「……そんなの、おれ、もうだめなやつになっちゃうじゃん」
「うん、ふふ、そうだね、俺だけのものにしてしまいたい」
「……もうなってるよ」
ジルじゃないとだめだよ、こんなこと、誰ともしない、出来ない。
同じくらいだいじでも、遥陽にでも許さない、あんな深いとこまで入れるのはジルだけ。
ジルしか、もう、絶対に許さない。
だから、おかしいくらいの、矛盾しかしない、この気持ちは、赦してほしい。
「……今日は、起きるまで一緒にいてほしい」
「約束する」
「へへ」
「?」
「仲直りできて良かった……」
ぎゅうとジルの首元に鼻先から擦り寄って、呟く。
息を呑んだジルはきつく抱き締めて、消えるような小さな小さな声で何かを言ったけど、丁度頭を抱えられてるものだから、その小さな声ははっきりとは聞こえなかった。
でも何となく、愛してると言ったように聞こえて……願望かもしれないけど、おれはそれに満足して、瞳を閉じた。
◇◇◇
何度経験しても、瞳を開けて最初に見えるのがたいせつなひとだということは慣れなくて、苦しい程胸が痛くなる。
緊張と、羞恥と、幸福感。
起きてても寝てても綺麗な顔だ。
起きたおれを見つめる淡い宝石のような碧い瞳も、まだ穏やかに寝てる時の呼吸で揺れる睫毛も、全てが現実味のない綺麗な絵画や彫刻の美術品のようで、つい手を伸ばしてしまうことが多い。
息をする口元や、あたたかい頬が実在するにんげんであるとわかって、安心するんだ。本物だ、って。
「……ユキは寝起きに確認してくるね」
「だって……ちゃんと、ジルだって、夢とか偽物じゃないって」
「そうだよ、本物」
「……うん」
「寝てるユキも愛おしいけど、やっぱり起きてるユキの方が愛らしいかな」
「……寝起きにそれは溶けちゃいそうだからやめて……」
「溶けたら俺の中に仕舞っておこうかな」
「もう……」
おれの頬と唇に触れて、おはよう、と微笑む。柔らかい振動を感じた。
何時だろう、もう起きないとモーリスさんが起こしに来るかな、そう考えていると、まだ早いからゆっくりしよう、とまるで心を読まれたかのようにジルは額にキスをする。
時計を確認するのも惜しくて、うん、とまたジルの胸元に収まる。
とくとくと聴こえる穏やかな心音に、また瞼が落ちてしまいそう。
勿体から二度寝なんてしたくない。少しでも眠気を覚ますように、ジルの指先を取ってにぎにぎと動かす。
擽ったそうな笑い声に、おれもつい笑ってしまった。
「やっぱり笑ってるユキがいちばんかわいい」
「……もー」
「……さみしくさせてごめん」
「……おれも、意地張ってごめん」
「いや、俺が……格好付けてしまって」
「……モーリスさんが、愛情だって……おれ、おれだってそれ、わか、わかってんだけど」
「……」
ジルの指をぎゅうっと握り締めると、それに握り返してくれる。
大きな手に、どきどきして、安心する。
「ユキを家族の元に帰してあげたいのは、本当なんだ」
「……うん、」
「でも……俺もユキと居たい」
「うん……ん、おれも……会いたい、けど、戻りたかったけど、でも、ジルと会えなくなるの、いやだ、やだ、おれのこと、忘れちゃやだ……」
「……忘れないよ、こんなに愛しい子のことを」
「……帰りたくないよお……」
とうとう言ってしまった。
口にしてもだめなのに。
帰りたくない。元の世界と天秤にかけても、まだこの世界に来てそんなに経ってないのに、それでも、もうこれ以上のひとなんていない。
この手を離したくないし、離されたくない。
……そんな我儘をおれが言ったところでどうしようもないんだけど。
「……どうしても帰んなきゃだめかな」
ぽつりと呟く。
魔力を使ってお城付近に魔女が入れないようにするとか。
無理だな、だってあの地域にもロザリー様が護りに行ってて、それでも魔女は無事に住んでて……そもそもこの魔力は魔女の力が元なのだから、その魔女に効く気がしない。
話をしたらお願いをきいてくれたりしないだろうか。
……あのひとが話を素直にきいてくれる気もしない。
……王子様の癖に手際いいじゃん。まあおれのせいか、毎回毎回世話させちゃってまあ。
「……放っといてくれたら、起きてから自分で綺麗にする、のに」
「俺がしたいの」
「ええ……」
「このぐったりしたユキを綺麗にして、ゆっくり寝させてあげるのが嬉しいし楽しいんだよ」
「……悪趣味」
「愛しいからね、仕方ない」
「……っう」
ぽす、とすぐ横に倒れたジルが、おれの瞳を真っ直ぐ見ながらそう言うものだから堪らない。
恥ずかしくなって、でもすぐに胸がぎゅうっとなって、おれも、と思ってしまう。
少しだけ、指先を伸ばすと、それより先に抱き締めてくれた。
安心する。
ジルの体温が、においが、優しい声が、空気が。
どきどきもするんだけど、さみしくもかなしくもなるんだけど、それでも触れていたい。
「ユキのことは全部俺がやりたい」
「……そんなの、おれ、もうだめなやつになっちゃうじゃん」
「うん、ふふ、そうだね、俺だけのものにしてしまいたい」
「……もうなってるよ」
ジルじゃないとだめだよ、こんなこと、誰ともしない、出来ない。
同じくらいだいじでも、遥陽にでも許さない、あんな深いとこまで入れるのはジルだけ。
ジルしか、もう、絶対に許さない。
だから、おかしいくらいの、矛盾しかしない、この気持ちは、赦してほしい。
「……今日は、起きるまで一緒にいてほしい」
「約束する」
「へへ」
「?」
「仲直りできて良かった……」
ぎゅうとジルの首元に鼻先から擦り寄って、呟く。
息を呑んだジルはきつく抱き締めて、消えるような小さな小さな声で何かを言ったけど、丁度頭を抱えられてるものだから、その小さな声ははっきりとは聞こえなかった。
でも何となく、愛してると言ったように聞こえて……願望かもしれないけど、おれはそれに満足して、瞳を閉じた。
◇◇◇
何度経験しても、瞳を開けて最初に見えるのがたいせつなひとだということは慣れなくて、苦しい程胸が痛くなる。
緊張と、羞恥と、幸福感。
起きてても寝てても綺麗な顔だ。
起きたおれを見つめる淡い宝石のような碧い瞳も、まだ穏やかに寝てる時の呼吸で揺れる睫毛も、全てが現実味のない綺麗な絵画や彫刻の美術品のようで、つい手を伸ばしてしまうことが多い。
息をする口元や、あたたかい頬が実在するにんげんであるとわかって、安心するんだ。本物だ、って。
「……ユキは寝起きに確認してくるね」
「だって……ちゃんと、ジルだって、夢とか偽物じゃないって」
「そうだよ、本物」
「……うん」
「寝てるユキも愛おしいけど、やっぱり起きてるユキの方が愛らしいかな」
「……寝起きにそれは溶けちゃいそうだからやめて……」
「溶けたら俺の中に仕舞っておこうかな」
「もう……」
おれの頬と唇に触れて、おはよう、と微笑む。柔らかい振動を感じた。
何時だろう、もう起きないとモーリスさんが起こしに来るかな、そう考えていると、まだ早いからゆっくりしよう、とまるで心を読まれたかのようにジルは額にキスをする。
時計を確認するのも惜しくて、うん、とまたジルの胸元に収まる。
とくとくと聴こえる穏やかな心音に、また瞼が落ちてしまいそう。
勿体から二度寝なんてしたくない。少しでも眠気を覚ますように、ジルの指先を取ってにぎにぎと動かす。
擽ったそうな笑い声に、おれもつい笑ってしまった。
「やっぱり笑ってるユキがいちばんかわいい」
「……もー」
「……さみしくさせてごめん」
「……おれも、意地張ってごめん」
「いや、俺が……格好付けてしまって」
「……モーリスさんが、愛情だって……おれ、おれだってそれ、わか、わかってんだけど」
「……」
ジルの指をぎゅうっと握り締めると、それに握り返してくれる。
大きな手に、どきどきして、安心する。
「ユキを家族の元に帰してあげたいのは、本当なんだ」
「……うん、」
「でも……俺もユキと居たい」
「うん……ん、おれも……会いたい、けど、戻りたかったけど、でも、ジルと会えなくなるの、いやだ、やだ、おれのこと、忘れちゃやだ……」
「……忘れないよ、こんなに愛しい子のことを」
「……帰りたくないよお……」
とうとう言ってしまった。
口にしてもだめなのに。
帰りたくない。元の世界と天秤にかけても、まだこの世界に来てそんなに経ってないのに、それでも、もうこれ以上のひとなんていない。
この手を離したくないし、離されたくない。
……そんな我儘をおれが言ったところでどうしようもないんだけど。
「……どうしても帰んなきゃだめかな」
ぽつりと呟く。
魔力を使ってお城付近に魔女が入れないようにするとか。
無理だな、だってあの地域にもロザリー様が護りに行ってて、それでも魔女は無事に住んでて……そもそもこの魔力は魔女の力が元なのだから、その魔女に効く気がしない。
話をしたらお願いをきいてくれたりしないだろうか。
……あのひとが話を素直にきいてくれる気もしない。
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