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暫くして、すうすうとキャロルの穏やかな寝息が聞こえて来た頃、やっと遥陽はその小さな手から自身の手を離す。
寝ちゃったかー、うーんかわいい。
子供の寝顔って皆をしあわせにするな、平和でとてもいい。
彼女自身は辛いものを背負っているのだけれど。
「終わった?」
「うん。一応は」
「こういうのって、急になっちゃうもんなの」
「……呪いに体調とか都合なんて関係ないからね」
「そっか」
キャロルの手をシーツに収めて、顔に掛かる長い髪を横に流してやる。
ピンクの頬が柔らかい。さらさらもちもちでまさにおもちみたい。
少し突くと、むう、と声が漏れて慌てて指を引っ込める。
安らかな眠りを邪魔してごめん。
少し様子を見よう、と言われて、暫くはキャロルの部屋で待機することになった。
ソファに掛けながら、そういえば、と口を開く。
昨夜シャノン様から貰った薬を飲んで~と話すと、遥陽は瞳を丸くして、飲んだの!?と驚いた声を出した。
……シャノン様の薬は有名なようです、恐らく悪い意味で。
「あれ飲んだんだ……」
「でもキャロルも飲んでるんでしょ?」
「僕がいたら帰って貰うんだけど……すごいね、あれ、色も凄いし味も……」
「不味かった」
「お腹壊さなかった?」
「それはまあ……鼻血は出た」
「鼻血!?」
勢い良くおれの方を向いたかと思うと、両手でがっちり頬を挟んで、おれの鼻をまじまじと見てくる。
今は鼻血は出てない訳で……いやこれめちゃくちゃ恥ずかしい。鼻を凝視されるなんて。
遥陽の大きな瞳が心配そうに覗き込んでくる。天使の顔が近い。昔からおれはこのかわいい顔に弱いんだ。
「い、今は出てないし」
「魔力に躰が耐えられなかったのかな、優希、変なの飲んだらだめだよ」
「変なのって……まあ変なのだけどさあ……」
「ねえ、僕心配してんだけど。わかってるよね?僕たちに馴染みがなくても、ここには魔法とか危ないものがたくさんあるんだよ、やろうと思ったら、優希に何かしようと思ったら簡単に出来るんだからね」
「……ごめんなさい」
いつもおれの方がしっかりしてると思ってたから、遥陽に怒られるなんて思わなかった。
素直に謝ると、もう、とまた唇を尖らせた。あざとい。でもそれがまたかわいい。
一応止めようとしたのか、近付きかけてたモーリスさんがまた立ち位置に戻る。
一緒に座ればいいのに。仕事中だし遥陽もいるし、そうはいかないのかもな。
「ほら、あの騎士だっていつでも優希を切りかかれるんだよ」
「モーリスさんはそんなことしないよ!」
「……わかってるよ、例えだよ、だからもっと周りにも警戒してよ」
「だって皆優しいし……」
「優希がそうさせてるんだよ」
「……?じゃあ良くない?」
「……」
はあ、とでっかい溜息を吐いて、そういうとこだよ、そういうとこもすきだけど!と言ったかと思うと、今度は抱き着いてきた。
思わずびく、と肩が震えた。
それに気付いた遥陽は、変なことしないから少しこのままにして、と懇願するように呟く。
「ごめん、少しだから」
「う、うん……」
「……優希がジルのこと、すき……なのは、わかったから。だからもう、諦め……諦められるかなんて、わかんない、けど。でも僕だって優希に面倒な奴とか思われたくないし」
「思わないよ……」
「うん、だから、うん……優希がしあわせでいれたらいいなって、思うよ……だから、危ないことはしてほしくない」
「……うん、わかった」
「約束だからね」
言葉通り、すぐに離れた遥陽はどことなくすっきりした顔をしていて、少しだけ……少しだけ寂しさを覚えた。
勝手な奴だ。
自分はジルの手を引きながら、遥陽の手も繋いでおきたかったなんて。
最初に離そうとしたのは自分だというのに。
「そうだ」
「?」
「これ渡そうと思ってたんだ」
「……薬?」
「今度外行くんでしょ」
「外?」
「あれ、違った?」
渡されたのは小瓶に入った液体。シャノン様のもののようなすごい色もしてない。
一瞬、香油かと思って身構えたが、そういう訳でもなさそうだ。
「あれかな、もしかして、おれがお願いしたやつ」
「お願い?」
「うん、どうやって力を使っていいかわかんなくて、ロザリー様……知ってるかな、ジルの亡くなったお母さんで、その、おれと同じような力を持ってたみたいで……同じように国中を一回くらいは見に行けたらいいなって……」
「……戻ってくるよね?」
「勿論!ジルだって長いことお城を空けられないだろうし、数日ずつだよ、すぐだよすぐ!」
良かった、と遥陽が安堵したように息を吐く。
びっくりさせてごめん、でも流石に遥陽を置いてどっかに行ったりなんかはしない、絶対。
「今度外に行くって聞いたから……僕はついていけないし」
「キャロルもいるもんね」
「うん、一日とかならよく出掛けるけど、数日はちょっと……だから、これ、作ったんだ」
「作った?」
「シャノン様に教わるのはちょっとこわかったけど」
手の中でちゃぷ、と小瓶の中身が揺れる。
遥陽はちょっといたずらっぽく笑って、回復薬だよ、と言った。
寝ちゃったかー、うーんかわいい。
子供の寝顔って皆をしあわせにするな、平和でとてもいい。
彼女自身は辛いものを背負っているのだけれど。
「終わった?」
「うん。一応は」
「こういうのって、急になっちゃうもんなの」
「……呪いに体調とか都合なんて関係ないからね」
「そっか」
キャロルの手をシーツに収めて、顔に掛かる長い髪を横に流してやる。
ピンクの頬が柔らかい。さらさらもちもちでまさにおもちみたい。
少し突くと、むう、と声が漏れて慌てて指を引っ込める。
安らかな眠りを邪魔してごめん。
少し様子を見よう、と言われて、暫くはキャロルの部屋で待機することになった。
ソファに掛けながら、そういえば、と口を開く。
昨夜シャノン様から貰った薬を飲んで~と話すと、遥陽は瞳を丸くして、飲んだの!?と驚いた声を出した。
……シャノン様の薬は有名なようです、恐らく悪い意味で。
「あれ飲んだんだ……」
「でもキャロルも飲んでるんでしょ?」
「僕がいたら帰って貰うんだけど……すごいね、あれ、色も凄いし味も……」
「不味かった」
「お腹壊さなかった?」
「それはまあ……鼻血は出た」
「鼻血!?」
勢い良くおれの方を向いたかと思うと、両手でがっちり頬を挟んで、おれの鼻をまじまじと見てくる。
今は鼻血は出てない訳で……いやこれめちゃくちゃ恥ずかしい。鼻を凝視されるなんて。
遥陽の大きな瞳が心配そうに覗き込んでくる。天使の顔が近い。昔からおれはこのかわいい顔に弱いんだ。
「い、今は出てないし」
「魔力に躰が耐えられなかったのかな、優希、変なの飲んだらだめだよ」
「変なのって……まあ変なのだけどさあ……」
「ねえ、僕心配してんだけど。わかってるよね?僕たちに馴染みがなくても、ここには魔法とか危ないものがたくさんあるんだよ、やろうと思ったら、優希に何かしようと思ったら簡単に出来るんだからね」
「……ごめんなさい」
いつもおれの方がしっかりしてると思ってたから、遥陽に怒られるなんて思わなかった。
素直に謝ると、もう、とまた唇を尖らせた。あざとい。でもそれがまたかわいい。
一応止めようとしたのか、近付きかけてたモーリスさんがまた立ち位置に戻る。
一緒に座ればいいのに。仕事中だし遥陽もいるし、そうはいかないのかもな。
「ほら、あの騎士だっていつでも優希を切りかかれるんだよ」
「モーリスさんはそんなことしないよ!」
「……わかってるよ、例えだよ、だからもっと周りにも警戒してよ」
「だって皆優しいし……」
「優希がそうさせてるんだよ」
「……?じゃあ良くない?」
「……」
はあ、とでっかい溜息を吐いて、そういうとこだよ、そういうとこもすきだけど!と言ったかと思うと、今度は抱き着いてきた。
思わずびく、と肩が震えた。
それに気付いた遥陽は、変なことしないから少しこのままにして、と懇願するように呟く。
「ごめん、少しだから」
「う、うん……」
「……優希がジルのこと、すき……なのは、わかったから。だからもう、諦め……諦められるかなんて、わかんない、けど。でも僕だって優希に面倒な奴とか思われたくないし」
「思わないよ……」
「うん、だから、うん……優希がしあわせでいれたらいいなって、思うよ……だから、危ないことはしてほしくない」
「……うん、わかった」
「約束だからね」
言葉通り、すぐに離れた遥陽はどことなくすっきりした顔をしていて、少しだけ……少しだけ寂しさを覚えた。
勝手な奴だ。
自分はジルの手を引きながら、遥陽の手も繋いでおきたかったなんて。
最初に離そうとしたのは自分だというのに。
「そうだ」
「?」
「これ渡そうと思ってたんだ」
「……薬?」
「今度外行くんでしょ」
「外?」
「あれ、違った?」
渡されたのは小瓶に入った液体。シャノン様のもののようなすごい色もしてない。
一瞬、香油かと思って身構えたが、そういう訳でもなさそうだ。
「あれかな、もしかして、おれがお願いしたやつ」
「お願い?」
「うん、どうやって力を使っていいかわかんなくて、ロザリー様……知ってるかな、ジルの亡くなったお母さんで、その、おれと同じような力を持ってたみたいで……同じように国中を一回くらいは見に行けたらいいなって……」
「……戻ってくるよね?」
「勿論!ジルだって長いことお城を空けられないだろうし、数日ずつだよ、すぐだよすぐ!」
良かった、と遥陽が安堵したように息を吐く。
びっくりさせてごめん、でも流石に遥陽を置いてどっかに行ったりなんかはしない、絶対。
「今度外に行くって聞いたから……僕はついていけないし」
「キャロルもいるもんね」
「うん、一日とかならよく出掛けるけど、数日はちょっと……だから、これ、作ったんだ」
「作った?」
「シャノン様に教わるのはちょっとこわかったけど」
手の中でちゃぷ、と小瓶の中身が揺れる。
遥陽はちょっといたずらっぽく笑って、回復薬だよ、と言った。
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