99 / 161
99
しおりを挟む
おれって恵まれてるなあ……
そう思ってしまった。
最初はこわかったのに、全てにびびっていたのに、関わるひとが皆優しい。
シャノン様も、何だかんだ泣き腫らした顔のおれを気にしてくれてたんだろう。
何かあったらまたここに来なさい、とおれに大量の瓶を持たせて帰される。
帰路で、ジルに変な香油を持たせるなと文句を言うのを忘れていたことを思い出してしまった。
少し離れたところでまたしても待たされていたモーリスさんがおれの腕の中の瓶を見て苦笑する。
全くシャノン様は、と言いながら半分持ってくれた。
「相変わらずですね、シャノン様は」
「なんかおれ慣れてきたかも、結構はっきり言うから困ることもあるけど助かるっていうか……こういうのを作るのがシャノン様の魔法?」
「のようですね、あの方は幼少期からこういうことばかりで」
「魔法なのに科学みたい、すごいね、今度作ってるとこも見てみたいや」
ただこれ見た目と味どうにかならないのかな。
飲むのを躊躇うようなすごい色してるし、味だって自分でまずいって言ってたし。香油は透明でいいかおりだったのに。
効能しか興味無いんだろうか。
「……モーリスさんは知ってるんだよね?ジルの魔法」
「まあそれは……一応」
「ねえ、ジルって大丈夫なの?」
「……?何がですか?」
「いや、花を綺麗に咲かせます~!って魔法で大丈夫なの?おれてっきり、火を出したりとか攻撃性のある魔法だと思ってたよ、平和過ぎない?」
「そんな」
モーリスさんはくつくつと笑って、それは確かに平和ですねと言う。
それから、心配しなくても大丈夫ですよ、とも。
「花を咲かせるだけが魔法じゃないですからね……ふっ……っくく」
「そんな笑わなくても」
「いや、まるで庭師みたいだと思って……」
「……ジルに言わないでよね」
「まあでも同じようなものですかね」
どうやら、おれが美味しいと言った果物なんかを積極的に作らせようとしたりもしてるらしい。
ジルのことだし、おれの為にとか言って庭にでも植えそうだとも思ったけど、それぞれの地方の特産物にもなる訳で、そんなあほみたいな魔法の使い方はしないようだ。まあ仮にも王太子が私欲でそんなことはしないか。
その土地々々で作られるからこそ美味しい訳で。売りにもなる訳で。
だからこそあの庭は特別だ。
花の種類とか関係なく、綺麗な花々がずうっと咲いてる庭。
ジルがロザリー様の為に作った庭。
本人のいない今となってはもう、ロザリー様の想いは全てわかることは出来ない。
でも、そんな庭の近くで最期を迎えられたのは母親としてしあわせだったんじゃないかなとは思う。
あの庭はロザリー様のものだ。
そこに対して文句や嫉妬はない。
ジルがおれの為に用意した庭じゃなくても、それでいい。
幼いジルが母親の為に作った庭に立ち入らせて貰えるだけでいい。
それでいい。
おれは元気だし、特別花がすきだって訳でもないし、そんな、子供がお母さんに用意したものに対してやきもきする程嫉妬深い男ではないのだ。
それにジルからなら花を貰うより抱き締めて貰った方が……
「ユキ様顔真っ赤ですよ」
「これは……想像の中のジルにつられただけで……」
「想像の中でもジル様はユキ様を甘やかしてまあ」
「……」
「気持ちはわかりますけどね」
「……い、いいのかな」
「なにがです?」
「おれ、ジルに甘やかされてるままで」
「寧ろそうして貰わないとこっちが困ります」
真顔で返されて笑った。
そうだな、いちばん被害を被ってるのはモーリスさんだもんな。
「まあユキ様は見ることはないでしょうね」
「?」
「ジル様の魔法を」
「なんで」
「戦場には連れて行かないでしょう」
「……ジルだって」
行かせない、と言いかけて口を噤んだ。
王子をそんな危ないとこに、と思ったのだけど、王子だからこそ国を守る為に先頭に立つこともあるのか。
そんなこと考えたくない、けど。
「うん、そうなったらおれが護るから、ジルが魔法を使う暇なんてないかもね」
モーリスさんは、眩しいものを見るように目を細めて、頼もしいです、と言ってくれた。
◇◇◇
「そんな訳でこの薬飲みたいです」
「……毎回毎回すごい色してるなあ」
夜、部屋にやって来たジルに早速お願いする。
遥陽でもいいけどさ、まだお願いするのはちょっと気が引ける。
ジルが忙しければモーリスさんにお願いしようと思ったけど、先にジルに話を通しておかないとまたモーリスさんにちくちく言いそうだから、ちゃんと話しておく。
モーリスさんへの嫉妬や八つ当たりに申し訳ないという気持ちと、そんなバカップルみたいなものに巻き込まれるモーリスさんが可哀想って気持ちが半々。
いつもすみません。
「え、今飲むの?」
「だめかな?」
「うーん、寝る前に飲むものではないと思うけど」
色々な意味で、と薬を少し苦々しげに見ながら言う。
この世界のひとたちにもこの薬がやばそうに見えててちょっと安心した。
そうだよな、どうみてもこの色はやばいよな、そりゃキャロルも嫌だよな、てか寧ろこんなのを飲んだシャノン様がやばいと思う。
そう思ってしまった。
最初はこわかったのに、全てにびびっていたのに、関わるひとが皆優しい。
シャノン様も、何だかんだ泣き腫らした顔のおれを気にしてくれてたんだろう。
何かあったらまたここに来なさい、とおれに大量の瓶を持たせて帰される。
帰路で、ジルに変な香油を持たせるなと文句を言うのを忘れていたことを思い出してしまった。
少し離れたところでまたしても待たされていたモーリスさんがおれの腕の中の瓶を見て苦笑する。
全くシャノン様は、と言いながら半分持ってくれた。
「相変わらずですね、シャノン様は」
「なんかおれ慣れてきたかも、結構はっきり言うから困ることもあるけど助かるっていうか……こういうのを作るのがシャノン様の魔法?」
「のようですね、あの方は幼少期からこういうことばかりで」
「魔法なのに科学みたい、すごいね、今度作ってるとこも見てみたいや」
ただこれ見た目と味どうにかならないのかな。
飲むのを躊躇うようなすごい色してるし、味だって自分でまずいって言ってたし。香油は透明でいいかおりだったのに。
効能しか興味無いんだろうか。
「……モーリスさんは知ってるんだよね?ジルの魔法」
「まあそれは……一応」
「ねえ、ジルって大丈夫なの?」
「……?何がですか?」
「いや、花を綺麗に咲かせます~!って魔法で大丈夫なの?おれてっきり、火を出したりとか攻撃性のある魔法だと思ってたよ、平和過ぎない?」
「そんな」
モーリスさんはくつくつと笑って、それは確かに平和ですねと言う。
それから、心配しなくても大丈夫ですよ、とも。
「花を咲かせるだけが魔法じゃないですからね……ふっ……っくく」
「そんな笑わなくても」
「いや、まるで庭師みたいだと思って……」
「……ジルに言わないでよね」
「まあでも同じようなものですかね」
どうやら、おれが美味しいと言った果物なんかを積極的に作らせようとしたりもしてるらしい。
ジルのことだし、おれの為にとか言って庭にでも植えそうだとも思ったけど、それぞれの地方の特産物にもなる訳で、そんなあほみたいな魔法の使い方はしないようだ。まあ仮にも王太子が私欲でそんなことはしないか。
その土地々々で作られるからこそ美味しい訳で。売りにもなる訳で。
だからこそあの庭は特別だ。
花の種類とか関係なく、綺麗な花々がずうっと咲いてる庭。
ジルがロザリー様の為に作った庭。
本人のいない今となってはもう、ロザリー様の想いは全てわかることは出来ない。
でも、そんな庭の近くで最期を迎えられたのは母親としてしあわせだったんじゃないかなとは思う。
あの庭はロザリー様のものだ。
そこに対して文句や嫉妬はない。
ジルがおれの為に用意した庭じゃなくても、それでいい。
幼いジルが母親の為に作った庭に立ち入らせて貰えるだけでいい。
それでいい。
おれは元気だし、特別花がすきだって訳でもないし、そんな、子供がお母さんに用意したものに対してやきもきする程嫉妬深い男ではないのだ。
それにジルからなら花を貰うより抱き締めて貰った方が……
「ユキ様顔真っ赤ですよ」
「これは……想像の中のジルにつられただけで……」
「想像の中でもジル様はユキ様を甘やかしてまあ」
「……」
「気持ちはわかりますけどね」
「……い、いいのかな」
「なにがです?」
「おれ、ジルに甘やかされてるままで」
「寧ろそうして貰わないとこっちが困ります」
真顔で返されて笑った。
そうだな、いちばん被害を被ってるのはモーリスさんだもんな。
「まあユキ様は見ることはないでしょうね」
「?」
「ジル様の魔法を」
「なんで」
「戦場には連れて行かないでしょう」
「……ジルだって」
行かせない、と言いかけて口を噤んだ。
王子をそんな危ないとこに、と思ったのだけど、王子だからこそ国を守る為に先頭に立つこともあるのか。
そんなこと考えたくない、けど。
「うん、そうなったらおれが護るから、ジルが魔法を使う暇なんてないかもね」
モーリスさんは、眩しいものを見るように目を細めて、頼もしいです、と言ってくれた。
◇◇◇
「そんな訳でこの薬飲みたいです」
「……毎回毎回すごい色してるなあ」
夜、部屋にやって来たジルに早速お願いする。
遥陽でもいいけどさ、まだお願いするのはちょっと気が引ける。
ジルが忙しければモーリスさんにお願いしようと思ったけど、先にジルに話を通しておかないとまたモーリスさんにちくちく言いそうだから、ちゃんと話しておく。
モーリスさんへの嫉妬や八つ当たりに申し訳ないという気持ちと、そんなバカップルみたいなものに巻き込まれるモーリスさんが可哀想って気持ちが半々。
いつもすみません。
「え、今飲むの?」
「だめかな?」
「うーん、寝る前に飲むものではないと思うけど」
色々な意味で、と薬を少し苦々しげに見ながら言う。
この世界のひとたちにもこの薬がやばそうに見えててちょっと安心した。
そうだよな、どうみてもこの色はやばいよな、そりゃキャロルも嫌だよな、てか寧ろこんなのを飲んだシャノン様がやばいと思う。
78
お気に入りに追加
3,552
あなたにおすすめの小説
竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。
重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。
少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である!
番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。
そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。
離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。
翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる