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ひとりでベッドの上で反省会をしていると、扉がノックされた。
アンヌさんかモーリスさんか。何だろう、起きるのが遅いからもしかしたら食事でも持ってきてくれたのかもしれない。
どうぞ、と思ったより小さな声になってしまった。
聞こえなかったようなので、もう一度、どうぞ、と声を張る。
がちゃりと開かれた扉から入ってきたのは、予想もしてないひとだった。
「……シャノン様……?」
「起きてたのね」
「え、えっと、ついさっき……や、そうじゃなくて、あの、すみません」
「何が?」
凛とした声が響く。
しゃんと伸びた背筋を見て、思わずおれもベッドの上で正座をしてしまった。降りろよって話なんだけど。
そんなおれを見て、シャノン様はいいから寝てなさい、と言う。
昨夜のジルの口調から、シャノン様はジルより歳下で、おれの少し上、だろうか。
王太子の婚約者に選ばれるくらいだ、結構なお家柄だろう。
何かあったらジルが助けてくれるとは思うけど……でもおれの昨日の態度は結構やばいかもしれない。
知らなかったし、仕方ないじゃんとは思うけど、じゃあ赦すわ、とはならないだろう。
「モーリスは外にでも出ていなさい」
案内をして来たらしいモーリスさんは、おれに頭を下げて、そのまま外へ出た。
多分廊下で待ってるってことなんだろうけど。
えー……なにこの状況。
「ジル様から聞いたわ、魔力の使い過ぎですってね」
「た、多分」
「食事よ」
「……えっ」
「アンヌが作ったものよ、あたしはなにも手を加えてないわ」
当たり前です。
具沢山のスープの入った器を受け取って……食べなさいという視線に負けて匙を口に運ぶ。いつもの美味しいスープだ。
多分昨日の怪しい薬とかは入ってない、と思う。
病人って訳じゃないんだから、ベッドを降りて普通の食事も取れるんだけど。
「そんなに急がなくていいわ、今日は時間があるの」
「……!」
「キャロルなら今日はハルヒと一緒よ」
あたしティノ様偉そうですきじゃないの、と面白くなさそうに言う。ティノより偉そうだが、とは言えなかった。
気の強そうな整った顔、気品のある佇まい、かと思えば昨日は足丸出しだったし、気品だとか気にしてるような感じもなかった。おれと馬鹿みたいな掛け合いをしていたし。
素かどうかでいえば、あっちが素なのかもしれない。
「あ、あの、」
「行儀が悪いわ、食事が済んでからにして」
ベッドの上で食べてる時点でもう十分行儀悪いんですけどね!高熱出てる訳でもないしね!
急がなくていいとは言われたけど、おれの部屋の筈なのに居心地が悪くて、さっさと器を空にした。
その器をテーブルに避けると、シャノン様はベッドの端に腰掛けて、おれをまじまじと見てくる。
……近い。
綺麗なお姉さんの顔が近い。
この世界のひとたちの距離近くない?皆して近くない?デフォなのこれ。
「あ、あの」
「……」
「昨日……おれ、シャノン様と知らずとんだご無礼を」
「別にいいわ」
「大変申し訳ありま……え?」
「キャロルを助けようとしたなら正解よ、次からもキャロルを優先なさい」
「……ほんとに昨日のシャノン様ですか?」
「貴方結構失礼ね」
「あ、すみません」
「昨日はキャロルは毎回言うこと聞かないし時間ないしで苛ついてたの」
「はあ……」
確かに怪しい奴にキャロルは渡さないとか言ってたし、呪いの解呪の為に訳のわからない薬なんかに手を出してると思えば優し……いや優しいか?
とんでもねえひとだってことには変わりはないけど、まあキャロルのことを考えてる根は優しいひと……ってことでいいんだろうか。
「不思議な瞳をしてるわね」
「あ、すみません」
「何故謝るの」
「不吉でしょう」
「未だにそんなこと言ってるそこらのジジィと一緒にしないで」
憤慨するように言う。
有難いことに、おれに関わったひとは皆不吉じゃない、綺麗だと言ってくれる。
まあ別におれ自身は気にしてないけど。真っ赤になってたりしたら慌てるけどさ。
「本当に真っ黒なのね……取り出して飾っておきたいくらい綺麗」
「こわいぃ……」
「あら」
思わずキャロルみたいな声が出た。
こわい、このひと感想がこわい。
「褒めてるのに」
「殺されそうです……」
「生気のない瞳になりそうだから嫌よ」
「取り出したら生気のない瞳になりますう……」
「あらそうね」
くすりと笑って、両手でおれの頬を固定する。
何する気だ、と躰を強ばらせてると、そのまま髪や手を観察するようにひとつひとつ手にしていく。
華奢な細い指が、思っていたよりずっと丁寧に。男性との触り方の違いに擽ったさを感じる。
「ハルヒと一緒に来た割には結構違うのね」
「遥陽は色素が薄いから……」
「まあそうよね、同じ国でも髪や瞳や肌の色は個人差だものね」
それでもおれの黒髪と黒い瞳が気になるのか、さっきから何度も確認している。
「ねえこの髪ちょうだい」
「えっ、やですよ」
「瞳よりいいでしょ、切っていい?」
「いやです」
「何故」
「悪用される気しかしない」
「悪用なんかしないわよ、研究用よ」
怪しさしかない、絶対いやです!
そう抵抗したにも関わらず、少し髪を切られてしまった。小さなケースにおれの髪を大切そうにしまう。
研究って何の研究だ。
アンヌさんかモーリスさんか。何だろう、起きるのが遅いからもしかしたら食事でも持ってきてくれたのかもしれない。
どうぞ、と思ったより小さな声になってしまった。
聞こえなかったようなので、もう一度、どうぞ、と声を張る。
がちゃりと開かれた扉から入ってきたのは、予想もしてないひとだった。
「……シャノン様……?」
「起きてたのね」
「え、えっと、ついさっき……や、そうじゃなくて、あの、すみません」
「何が?」
凛とした声が響く。
しゃんと伸びた背筋を見て、思わずおれもベッドの上で正座をしてしまった。降りろよって話なんだけど。
そんなおれを見て、シャノン様はいいから寝てなさい、と言う。
昨夜のジルの口調から、シャノン様はジルより歳下で、おれの少し上、だろうか。
王太子の婚約者に選ばれるくらいだ、結構なお家柄だろう。
何かあったらジルが助けてくれるとは思うけど……でもおれの昨日の態度は結構やばいかもしれない。
知らなかったし、仕方ないじゃんとは思うけど、じゃあ赦すわ、とはならないだろう。
「モーリスは外にでも出ていなさい」
案内をして来たらしいモーリスさんは、おれに頭を下げて、そのまま外へ出た。
多分廊下で待ってるってことなんだろうけど。
えー……なにこの状況。
「ジル様から聞いたわ、魔力の使い過ぎですってね」
「た、多分」
「食事よ」
「……えっ」
「アンヌが作ったものよ、あたしはなにも手を加えてないわ」
当たり前です。
具沢山のスープの入った器を受け取って……食べなさいという視線に負けて匙を口に運ぶ。いつもの美味しいスープだ。
多分昨日の怪しい薬とかは入ってない、と思う。
病人って訳じゃないんだから、ベッドを降りて普通の食事も取れるんだけど。
「そんなに急がなくていいわ、今日は時間があるの」
「……!」
「キャロルなら今日はハルヒと一緒よ」
あたしティノ様偉そうですきじゃないの、と面白くなさそうに言う。ティノより偉そうだが、とは言えなかった。
気の強そうな整った顔、気品のある佇まい、かと思えば昨日は足丸出しだったし、気品だとか気にしてるような感じもなかった。おれと馬鹿みたいな掛け合いをしていたし。
素かどうかでいえば、あっちが素なのかもしれない。
「あ、あの、」
「行儀が悪いわ、食事が済んでからにして」
ベッドの上で食べてる時点でもう十分行儀悪いんですけどね!高熱出てる訳でもないしね!
急がなくていいとは言われたけど、おれの部屋の筈なのに居心地が悪くて、さっさと器を空にした。
その器をテーブルに避けると、シャノン様はベッドの端に腰掛けて、おれをまじまじと見てくる。
……近い。
綺麗なお姉さんの顔が近い。
この世界のひとたちの距離近くない?皆して近くない?デフォなのこれ。
「あ、あの」
「……」
「昨日……おれ、シャノン様と知らずとんだご無礼を」
「別にいいわ」
「大変申し訳ありま……え?」
「キャロルを助けようとしたなら正解よ、次からもキャロルを優先なさい」
「……ほんとに昨日のシャノン様ですか?」
「貴方結構失礼ね」
「あ、すみません」
「昨日はキャロルは毎回言うこと聞かないし時間ないしで苛ついてたの」
「はあ……」
確かに怪しい奴にキャロルは渡さないとか言ってたし、呪いの解呪の為に訳のわからない薬なんかに手を出してると思えば優し……いや優しいか?
とんでもねえひとだってことには変わりはないけど、まあキャロルのことを考えてる根は優しいひと……ってことでいいんだろうか。
「不思議な瞳をしてるわね」
「あ、すみません」
「何故謝るの」
「不吉でしょう」
「未だにそんなこと言ってるそこらのジジィと一緒にしないで」
憤慨するように言う。
有難いことに、おれに関わったひとは皆不吉じゃない、綺麗だと言ってくれる。
まあ別におれ自身は気にしてないけど。真っ赤になってたりしたら慌てるけどさ。
「本当に真っ黒なのね……取り出して飾っておきたいくらい綺麗」
「こわいぃ……」
「あら」
思わずキャロルみたいな声が出た。
こわい、このひと感想がこわい。
「褒めてるのに」
「殺されそうです……」
「生気のない瞳になりそうだから嫌よ」
「取り出したら生気のない瞳になりますう……」
「あらそうね」
くすりと笑って、両手でおれの頬を固定する。
何する気だ、と躰を強ばらせてると、そのまま髪や手を観察するようにひとつひとつ手にしていく。
華奢な細い指が、思っていたよりずっと丁寧に。男性との触り方の違いに擽ったさを感じる。
「ハルヒと一緒に来た割には結構違うのね」
「遥陽は色素が薄いから……」
「まあそうよね、同じ国でも髪や瞳や肌の色は個人差だものね」
それでもおれの黒髪と黒い瞳が気になるのか、さっきから何度も確認している。
「ねえこの髪ちょうだい」
「えっ、やですよ」
「瞳よりいいでしょ、切っていい?」
「いやです」
「何故」
「悪用される気しかしない」
「悪用なんかしないわよ、研究用よ」
怪しさしかない、絶対いやです!
そう抵抗したにも関わらず、少し髪を切られてしまった。小さなケースにおれの髪を大切そうにしまう。
研究って何の研究だ。
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