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伊吹は
21*
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「あ、あ、そこ、奥っ……」
「うん?奥どうしたの、教えて」
「ん、ぅあ、き、きもちい、あ、ん、うう、あ、や、動くっ……」
「そりゃ動くだろ」
「まっ、まっれ、すぐ、あ、イっちゃう、からあっ」
一度イくと、次の我慢はそんなに利かなくなる。癖がついたように、すぐに限界が来てしまう。
玲於さんはまだ挿入れたばっかりで、多分まだ余裕がある。
だから我慢しようと思ったんだけど。
確かに何回もイっちゃうのは疲れちゃうっていう理由もあるんだけど、それよりも、今日重視するのはそこじゃなかった。
「ゆうとさん、とは、いっしょ……っ、だったからっ……」
「うん?」
「……だからあ……」
「ああ」
もごもご口篭るおれに、だから何だと言いたげな玲於さんの視線が刺さり、わかった、というようににまにま嬉しそうに瞳を細める有都さんのかわいいねえ、と蕩けたような声が振る。
かおと首元にちゅっちゅとキスの雨を降らす有都さんに、玲於さんがどういうことだと少し強めに訊くけれど、それに返事はなかった。
「おい」
「わかんないんですか、答え言ってるようなものじゃないですか」
「は」
「伊吹が我慢する、かわいい理由」
「ンっ、あ、ゔ!」
「ああもう、急に動いたらびっくりしちゃうじゃないですか、イかなくてよかったねえ、ね、伊吹」
「ゔあ……っ」
察しの悪い玲於さんを揶揄うように笑っておれに頬を寄せる。
その挑発に乗ったのかどうか、奥を突いた玲於さんに驚いて高い声を出してしまった。
また涎を出したようにどろどろになったおれの下半身を撫でて有都さんは満足そうな声を出す。
アルベールよりかわいげがあるという有都さんは、アルベールよりいじわるな気もする。
「伊吹が教えてあげて」
「んえ……」
「伊吹だってもう早くイきたいでしょ、伊吹がお願いしたらすぐ玲於さんもイっちゃうよ」
「……そう?」
「そう。かわいくお願いして、ほら、玲於さんの瞳を見て」
引き締まった躰と広い肩。大きな口と高く整った鼻筋、それから濡れたような真っ黒の、じっとおれを見下ろす瞳。
レオンとは違う、でも宝石のようにきらきらしたものに映るのはイヴと姿形の変わらない自分。
レオンも玲於さんも、いつも自信満々で、余裕があって、プライドが高くて、しっかりしていて頼り甲斐がある。
そんなひとが少し不安そうにしてるのが堪らなかった。
なんにもないのに。あげれるものなんて自分しかなくて、得になるものもなくて、こんな世界ではおれの存在なんて絶対マイナスにしかならないだろうに。
まだ二十歳にもなってないこどもの、社会的にも何も持ち得ないおれなんかに、なんでそんなに必死になれるんだと思うと、やっぱりイヴであったことしか思い浮かばない。
……でも玲於さんの瞳に映っているのは伊吹だと思いたい。
「玲於さん……」
「……」
「あの、う、なまえ……」
「名前?」
「え?」
「あ……ッ」
玲於さんだけでなく、有都さんまで驚いたような声を出した。
びっくりする度に動かないでほしい、また変な声が出た。ずっと出てるけど。
「名前?なに、名前がどうした」
「えっ、えと、えー……」
「今更恥ずかしがるんじゃないよ」
「……なんかこどもみたいで」
「お前がこどもみたいなのはずっとだろ」
年上のふたりからしたらそうかもしれない。今日だけでも何度かそう言われたし。
でもそんなの、おれにはずっとなかった。
怒られたり舐められるような隙は見せたくなかったし、愛莉の前では誰より頼れる兄でいたかった。
早くおとなになりたかったし、しっかりしたひとになりたかった。
愛莉が生まれて、お兄ちゃんになって、ずっとそう思ってたし、それが当たり前だったし、そうでいないといけなかった。
でも、ふたりが甘やかすからだ。
こどものように我儘を言うのも甘えるのも、文句を言うのも泣いてしまうのも、何をしたってかわいいと受け入れるし、そういう伊吹をすきだと言うから。
だからこんな、本当に生まれたての赤ちゃんみたいな小っ恥ずかしいことを言ったって、いいよって笑って受け入れるんだろうなって、もうわかってるから口に出せること。
「もっと」
「もっと?」
「もっと、いっぱい……ずっと、呼んでて……名前」
「……」
もしかしたら呆れてるかもしんないけど。
さっきからずっと、名前を間違えずに伊吹と呼んでくれてるけど。
でも最終的にはいつもおれを優先して甘やかすと知ってる。
「伊吹」
「……ん、」
「伊吹、伊吹……かーわいいね、お前」
「うるさい……もっとゆって、」
「伊吹、ほら、お願いついでにもうひとつ言うことあるでしょ」
ていうかそっちを言ってもらうつもりだったのに。またかわいいお願いしちゃって、と有都さんの笑い声が擽ったい。
唇が肌に触れてるから。少し震えちゃってる。
あつい吐息を感じながら、玲於さんに腕を伸ばした。
「奥、きもちい……」
「そう」
「とんとんするの、すき……」
「そっか、伊吹のすきなとこ、全部教えて、これから」
「……ん、あのね、」
おれの躰を気遣って、今日はもう終わりなら、玲於さんも一緒がいい。
「いっしょ、に、イきたい……」
「うん?奥どうしたの、教えて」
「ん、ぅあ、き、きもちい、あ、ん、うう、あ、や、動くっ……」
「そりゃ動くだろ」
「まっ、まっれ、すぐ、あ、イっちゃう、からあっ」
一度イくと、次の我慢はそんなに利かなくなる。癖がついたように、すぐに限界が来てしまう。
玲於さんはまだ挿入れたばっかりで、多分まだ余裕がある。
だから我慢しようと思ったんだけど。
確かに何回もイっちゃうのは疲れちゃうっていう理由もあるんだけど、それよりも、今日重視するのはそこじゃなかった。
「ゆうとさん、とは、いっしょ……っ、だったからっ……」
「うん?」
「……だからあ……」
「ああ」
もごもご口篭るおれに、だから何だと言いたげな玲於さんの視線が刺さり、わかった、というようににまにま嬉しそうに瞳を細める有都さんのかわいいねえ、と蕩けたような声が振る。
かおと首元にちゅっちゅとキスの雨を降らす有都さんに、玲於さんがどういうことだと少し強めに訊くけれど、それに返事はなかった。
「おい」
「わかんないんですか、答え言ってるようなものじゃないですか」
「は」
「伊吹が我慢する、かわいい理由」
「ンっ、あ、ゔ!」
「ああもう、急に動いたらびっくりしちゃうじゃないですか、イかなくてよかったねえ、ね、伊吹」
「ゔあ……っ」
察しの悪い玲於さんを揶揄うように笑っておれに頬を寄せる。
その挑発に乗ったのかどうか、奥を突いた玲於さんに驚いて高い声を出してしまった。
また涎を出したようにどろどろになったおれの下半身を撫でて有都さんは満足そうな声を出す。
アルベールよりかわいげがあるという有都さんは、アルベールよりいじわるな気もする。
「伊吹が教えてあげて」
「んえ……」
「伊吹だってもう早くイきたいでしょ、伊吹がお願いしたらすぐ玲於さんもイっちゃうよ」
「……そう?」
「そう。かわいくお願いして、ほら、玲於さんの瞳を見て」
引き締まった躰と広い肩。大きな口と高く整った鼻筋、それから濡れたような真っ黒の、じっとおれを見下ろす瞳。
レオンとは違う、でも宝石のようにきらきらしたものに映るのはイヴと姿形の変わらない自分。
レオンも玲於さんも、いつも自信満々で、余裕があって、プライドが高くて、しっかりしていて頼り甲斐がある。
そんなひとが少し不安そうにしてるのが堪らなかった。
なんにもないのに。あげれるものなんて自分しかなくて、得になるものもなくて、こんな世界ではおれの存在なんて絶対マイナスにしかならないだろうに。
まだ二十歳にもなってないこどもの、社会的にも何も持ち得ないおれなんかに、なんでそんなに必死になれるんだと思うと、やっぱりイヴであったことしか思い浮かばない。
……でも玲於さんの瞳に映っているのは伊吹だと思いたい。
「玲於さん……」
「……」
「あの、う、なまえ……」
「名前?」
「え?」
「あ……ッ」
玲於さんだけでなく、有都さんまで驚いたような声を出した。
びっくりする度に動かないでほしい、また変な声が出た。ずっと出てるけど。
「名前?なに、名前がどうした」
「えっ、えと、えー……」
「今更恥ずかしがるんじゃないよ」
「……なんかこどもみたいで」
「お前がこどもみたいなのはずっとだろ」
年上のふたりからしたらそうかもしれない。今日だけでも何度かそう言われたし。
でもそんなの、おれにはずっとなかった。
怒られたり舐められるような隙は見せたくなかったし、愛莉の前では誰より頼れる兄でいたかった。
早くおとなになりたかったし、しっかりしたひとになりたかった。
愛莉が生まれて、お兄ちゃんになって、ずっとそう思ってたし、それが当たり前だったし、そうでいないといけなかった。
でも、ふたりが甘やかすからだ。
こどものように我儘を言うのも甘えるのも、文句を言うのも泣いてしまうのも、何をしたってかわいいと受け入れるし、そういう伊吹をすきだと言うから。
だからこんな、本当に生まれたての赤ちゃんみたいな小っ恥ずかしいことを言ったって、いいよって笑って受け入れるんだろうなって、もうわかってるから口に出せること。
「もっと」
「もっと?」
「もっと、いっぱい……ずっと、呼んでて……名前」
「……」
もしかしたら呆れてるかもしんないけど。
さっきからずっと、名前を間違えずに伊吹と呼んでくれてるけど。
でも最終的にはいつもおれを優先して甘やかすと知ってる。
「伊吹」
「……ん、」
「伊吹、伊吹……かーわいいね、お前」
「うるさい……もっとゆって、」
「伊吹、ほら、お願いついでにもうひとつ言うことあるでしょ」
ていうかそっちを言ってもらうつもりだったのに。またかわいいお願いしちゃって、と有都さんの笑い声が擽ったい。
唇が肌に触れてるから。少し震えちゃってる。
あつい吐息を感じながら、玲於さんに腕を伸ばした。
「奥、きもちい……」
「そう」
「とんとんするの、すき……」
「そっか、伊吹のすきなとこ、全部教えて、これから」
「……ん、あのね、」
おれの躰を気遣って、今日はもう終わりなら、玲於さんも一緒がいい。
「いっしょ、に、イきたい……」
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