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伊吹は
14*
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おれにはあの後からのイヴの記憶はないけれど、ふたりには前世の記憶がある。
そのふたりの話しぶりからして、きっと最後まで一緒に居たんだろう。
たったひとりの相手とすら永遠を誓うことが出来ないひともいる中で、それは凄いことだと思う。
こんな我儘なおれでも、ふたりは今世でもまたずっと一緒にいてくれるだろうか。
「伊吹」
「ん……」
だから我慢出来るよね、と言われて、一瞬何が何だかわからなかった。だから、がまん?
おそらくまた表情に出てたんだと思う。自身を再度きゅっと握られて、腰が跳ねた。
イくなということなんだろう。お前の相手はふたりいるのだから、そんなに何回も達する体力はないだろうと。
その通りである。
実際たった一度の吐精で息を切らしてしまっている。
「……がまん、」
「良い子だから出来るもんね?」
良い子だから我慢出来る内容じゃないだろう。自分たちだって同じ男なんだからわかるだろうに。
……それでも頷いてしまいそうになるのは、もう有都さんに蕩けさせられているから。
柔らかい声はじんわりと頭に響くようで気持ちいい。
我慢させられるとわかっているのに、気持ちよくなりたいなんて思ってしまう。だめだと言われてるっていうのに。
「もう少し慣らした方がいいか」
「も、もういい……!」
「でも痛いのは伊吹だよ」
「う……でも、」
もう少しね、と有都さんの指先がまた胸元を滑って、玲於さんの指がナカを拡げていく。
気持ちよくて辛いってのはこういうことか、と思い知ることになる時間だった。
もうやだイきたい、もうがまんいやだ、と泣き言を漏らしたのはその僅か十数分後。
おれにとっては数時間のように感じた時間も、ふたりにはあっという間だったみたいで、呆れ声と苦笑が混じっていた。
こんな我慢の仕方なんてしたことなかった。
だって性処理なんてさっさと済ませてばかりだったし。
「もーいい、いたくてもいい、もおいいでしょ……もーナカ、いっぱいしたでしょ」
「伊吹、鼻水」
「もうやだ、爆発する……」
「しないよ」
ほら、とぐずぐず鼻を鳴らすおれのかおを有都さんが笑いながら拭う。涙を、というより、鼻水を。
自分でも情けないと思うけど、でもこうなったらなりふり構ってなんかいられない。
気持ちいいのを我慢するだけがこんなにきついなんて知らなかった。
「はやくいれてよお」
「……こんなに色気のない誘い方あるか」
「僕は嬉しいですよ、伊吹がこんなになるのなんて僕たちの前だけなんですから」
溜息を吐く玲於さんとは反対に、有都さんは嬉しそうに声を弾ませておれの頬を撫で、かわいいと漏らす。
かわいいはもうたくさん聞いた。反抗する気もない。今はそんなことより、そう思ってるなら早くおれの言う通りにしてほしい、ということだけ。
「先は有都だな」
「また……やっぱりそれ、暗に僕のが玲於さんに負けてるって言いたいんですよね」
「伊吹の躰のことを考えてやれる優しいこいびとだろう」
「……まあその通りなんで何も言えないですけど。二回もこの子の初めてを貰えること、恨まないで下さいよ」
「お前ならいいんだよ、お前しか許さないし。まあ俺は初めてのキスを貰ったからそれでまあおあいこだ」
頭の上でそんな相談にもならない一方的な話がついて、すぐに有都さんの優しい手が降ってきた。
伊吹もそれでいい?と訊かれたけれど、それはもうどうでもいい。どうでもよくはないんだけど、それがおれの負担にならなくて、それをふたりが考えて決めてくれたのならそれでいい。
順番が決まっただけで、ふたりを受け入れるということがなくなった訳じゃない。
「あ……っ」
漸く玲於さんの手がおれのものから離れた。
堰き止めていたものが勢いよく出てしまう、ということはなく、少しだけ。ほんの少しだけだ、ちょっと。ちょっとだけ溢れたことに隠れたくなる程恥ずかしくなった。
「伊吹、おいで」
「……やだ」
「またやだやだしか言わなくなったな、いやいや期か」
「赤ちゃんじゃない……」
「じゃあほら、おいで」
「玲於さん、すぐ揶揄うんだもん……」
そういうとこやだ、と言いながらも、広げられた腕の中に収まってしまう。
腹が立つのに、落ち着く。お酒と汗とボディソープのにおい、有都さんより高めの体温、広い胸と少し雑な抱き締め方。
お風呂に入った後なのに花のにおいがするような、と視線を泳がせると、花瓶に薔薇が生けてあって、こういうことしちゃうひとなんだよな、とまた恥ずかしくなった。
「伊吹のこどもの頃は知らないからなあ」
「……当たり前でしょ」
「だから嬉しいんだよ、俺も有都も、お前がこどもっぽいところを見せるのが」
「……おれ、こどもの頃こんなんじゃなかった、です」
「そういうことじゃないんだけどな」
こんな風に、泣いたり我儘を言ったり、誰かに抱き締めてもらうことなんてなかった。
それを指してる訳じゃないこともわかる。
それを理解した上で、ふたりがおれを甘やかすことも。
幼少期をやり直すことなんて出来ない。
イヴのように恵まれた家庭環境も記憶もない。
でも今のおれはしあわせだと思う。
「……かわいいなあ、お前は本当に」
そう玲於さんが思ってくれるなら、おれが自分をわからなくなってしまっても、きっとしあわせなままでいられる。
そのふたりの話しぶりからして、きっと最後まで一緒に居たんだろう。
たったひとりの相手とすら永遠を誓うことが出来ないひともいる中で、それは凄いことだと思う。
こんな我儘なおれでも、ふたりは今世でもまたずっと一緒にいてくれるだろうか。
「伊吹」
「ん……」
だから我慢出来るよね、と言われて、一瞬何が何だかわからなかった。だから、がまん?
おそらくまた表情に出てたんだと思う。自身を再度きゅっと握られて、腰が跳ねた。
イくなということなんだろう。お前の相手はふたりいるのだから、そんなに何回も達する体力はないだろうと。
その通りである。
実際たった一度の吐精で息を切らしてしまっている。
「……がまん、」
「良い子だから出来るもんね?」
良い子だから我慢出来る内容じゃないだろう。自分たちだって同じ男なんだからわかるだろうに。
……それでも頷いてしまいそうになるのは、もう有都さんに蕩けさせられているから。
柔らかい声はじんわりと頭に響くようで気持ちいい。
我慢させられるとわかっているのに、気持ちよくなりたいなんて思ってしまう。だめだと言われてるっていうのに。
「もう少し慣らした方がいいか」
「も、もういい……!」
「でも痛いのは伊吹だよ」
「う……でも、」
もう少しね、と有都さんの指先がまた胸元を滑って、玲於さんの指がナカを拡げていく。
気持ちよくて辛いってのはこういうことか、と思い知ることになる時間だった。
もうやだイきたい、もうがまんいやだ、と泣き言を漏らしたのはその僅か十数分後。
おれにとっては数時間のように感じた時間も、ふたりにはあっという間だったみたいで、呆れ声と苦笑が混じっていた。
こんな我慢の仕方なんてしたことなかった。
だって性処理なんてさっさと済ませてばかりだったし。
「もーいい、いたくてもいい、もおいいでしょ……もーナカ、いっぱいしたでしょ」
「伊吹、鼻水」
「もうやだ、爆発する……」
「しないよ」
ほら、とぐずぐず鼻を鳴らすおれのかおを有都さんが笑いながら拭う。涙を、というより、鼻水を。
自分でも情けないと思うけど、でもこうなったらなりふり構ってなんかいられない。
気持ちいいのを我慢するだけがこんなにきついなんて知らなかった。
「はやくいれてよお」
「……こんなに色気のない誘い方あるか」
「僕は嬉しいですよ、伊吹がこんなになるのなんて僕たちの前だけなんですから」
溜息を吐く玲於さんとは反対に、有都さんは嬉しそうに声を弾ませておれの頬を撫で、かわいいと漏らす。
かわいいはもうたくさん聞いた。反抗する気もない。今はそんなことより、そう思ってるなら早くおれの言う通りにしてほしい、ということだけ。
「先は有都だな」
「また……やっぱりそれ、暗に僕のが玲於さんに負けてるって言いたいんですよね」
「伊吹の躰のことを考えてやれる優しいこいびとだろう」
「……まあその通りなんで何も言えないですけど。二回もこの子の初めてを貰えること、恨まないで下さいよ」
「お前ならいいんだよ、お前しか許さないし。まあ俺は初めてのキスを貰ったからそれでまあおあいこだ」
頭の上でそんな相談にもならない一方的な話がついて、すぐに有都さんの優しい手が降ってきた。
伊吹もそれでいい?と訊かれたけれど、それはもうどうでもいい。どうでもよくはないんだけど、それがおれの負担にならなくて、それをふたりが考えて決めてくれたのならそれでいい。
順番が決まっただけで、ふたりを受け入れるということがなくなった訳じゃない。
「あ……っ」
漸く玲於さんの手がおれのものから離れた。
堰き止めていたものが勢いよく出てしまう、ということはなく、少しだけ。ほんの少しだけだ、ちょっと。ちょっとだけ溢れたことに隠れたくなる程恥ずかしくなった。
「伊吹、おいで」
「……やだ」
「またやだやだしか言わなくなったな、いやいや期か」
「赤ちゃんじゃない……」
「じゃあほら、おいで」
「玲於さん、すぐ揶揄うんだもん……」
そういうとこやだ、と言いながらも、広げられた腕の中に収まってしまう。
腹が立つのに、落ち着く。お酒と汗とボディソープのにおい、有都さんより高めの体温、広い胸と少し雑な抱き締め方。
お風呂に入った後なのに花のにおいがするような、と視線を泳がせると、花瓶に薔薇が生けてあって、こういうことしちゃうひとなんだよな、とまた恥ずかしくなった。
「伊吹のこどもの頃は知らないからなあ」
「……当たり前でしょ」
「だから嬉しいんだよ、俺も有都も、お前がこどもっぽいところを見せるのが」
「……おれ、こどもの頃こんなんじゃなかった、です」
「そういうことじゃないんだけどな」
こんな風に、泣いたり我儘を言ったり、誰かに抱き締めてもらうことなんてなかった。
それを指してる訳じゃないこともわかる。
それを理解した上で、ふたりがおれを甘やかすことも。
幼少期をやり直すことなんて出来ない。
イヴのように恵まれた家庭環境も記憶もない。
でも今のおれはしあわせだと思う。
「……かわいいなあ、お前は本当に」
そう玲於さんが思ってくれるなら、おれが自分をわからなくなってしまっても、きっとしあわせなままでいられる。
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