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おれがおかしい。
そんなのはこの間からわかってた筈だ。
レオンとアルベールをアンリに近付かせなければいいんじゃない、おれだってアンリの能力に掛からない訳はないんだって、そう気付いた筈なのに!
その後もずっとアンリと一緒だった。アンリがこっちに来てる間は、ずっと。
だからおかしくなっちゃったんだ。
だめだってわかってるのに、セーブ出来ない。頭がぼおっとして、目先の欲に駆られてしまう。
欲しかったものを、強請ってしまいそうになる。
頭の中ではちゃんと色々考えられるんだ、だめな理由だってちゃんとある。
それなのに。
アンリからもう離れてるのに。
おれ、ずっとレオンとアルベールのこと、考えちゃう。
アンリの能力は、本人すら持て余しているものだ。
この状態をアンリが戻せるのかわからない。
これ以上会いたくない。そしたらゆっくりでもこの気持ちは治まるかもしれない。
でも放っておいたらアンリは来る。来たら他のひとのところに行かないよう、おれが相手をするしかないのだ。
……言わなきゃ。
もう来ないで、と言うのはおれだって相手を否定しているようで言いたくはないけれど、でも言わなきゃアンリの能力を浴び続けてしまう。
アンリにだって悪気はない、筈。だから、伝えたらごめんって引いてくれる、と思うけど。
「……のぼせたか?また紅くなってる」
指先からレオンの手が離れて、頬を撫で、額に手を置き熱を確認される。
ぶわ、と躰があつくなったのがわかった。
今ならアンリのせいに出来る。今、今なら。
撫でられて嬉しいのも、気持ちいいと思うのも、レオンを見て胸がきゅうとなるのも、アルベールに会いたいな、ぎゅってしてほしいなと思うのも、声が聞きたいのも、すきだよって、何回だって聞きたいのも、全部アンリの能力のせい。
こんな風に胸が締め付けられるような、堪らない気持ちになるのは初めて。
頭ではちゃんと、だめだってわかってる。
アルベールは兄で、レオンはその婚約者で、ふたりとも仲が良くて、そのふたりを壊すような真似をしたくない。
でもふたりはイヴのことがすきだと言っていて、諦めないと言っていて。
おれが一度、この力に甘えてしまえば、おれも、ふたりも、一度、そのたった一度、一回。想い出が出来るんじゃないか。
それで終わり。皆それを最後にまた元に戻ってもいいんじゃないか。
ごくん、と喉が鳴った。
レオンの大きな手が欲しい。
撫でられると気持ちがいい。
少し乱暴で、でも頬とか、柔らかいところにはおれのことを考えてか、優しく触ろうとしてるのがわかる手。
おれのことを考えて触る手。
アルベールの手は常に優しくて、それも気持ちよかった。
……気持ちよかった。
もぞ、と膝を擦り合わせた。
……何考えてるんだ、外だぞ、三つ子もいるんだぞ、アンリだって今はいない、のに。
は、と熱い息が漏れる。
アルベールに触れられてから、自分で処理をしてなかった。
男は定期的にしなきゃいけないって、わかってたのに。
だって思い出してしまうから。自分のとは違う、アルベールの手を。
レオンの手はもっと大きくて、無骨で、……どういう風に触るんだろうと思ってしまって。
優しく触ってくれる?だいじにしてくれる?痛いこと、しない?
そんなこと、考えたい訳じゃないのに。
「……ッ」
「イヴ?」
「っれお、んさまあ……っ」
こんな声、出したことないのに。
媚びるような、甘えた声。気持ち悪い。
苦しい。胸の奥がぐるぐるしてるみたい。どうしよう、苦しい。
「……お前、」
レオンが息を呑む。
ぼそりとあてられたな、と呟いたのがわかったけれど、もう頭がぼんやりしてきた。
何これ、おれ、今どうなってるの。
心臓がどきどきして、もやもやぐるぐるして、痛くて、苦しくて、呼吸が上手くできない。
今おれ、どうなっちゃってるの。
こわい。
「くるしい……」
アンリのせいだ、アンリの、……これはアンリのせいなのかな?
こんなに苦しいのも?
レオンとアルベールのせいじゃなくて?
おれのせいじゃなくて?
わかんない、自分に起きてることが。
そんなのずっとわからない。
伊吹がイヴになった日から、ずっと。
「……戻ろうか」
「うごけ、なっ、い」
「大丈夫だ、俺が抱えていく」
「な、どうし、なに、起きてる、か、わかんない……」
「ん、大丈夫だ、どうにかしてやるから、な」
おれの上から三つ子が退かされた。
軽くなったけれど、それでも躰が重い。動けない。
なんでこんな急に?わからない。わからないから、こわい。抱え上げたレオンにぎゅうと掴まると、大丈夫だ、大丈夫、と柔らかい声で何度も落ち着かすように背を撫でる。
これなに、なんなの、ぐるぐるする、と繰り返すおれに、瞳を閉じていろとレオンが言う。深く息を吸って、吐けと。
その言葉通りに瞳を閉じて、息を吐く。
下の方からイヴ、イヴと三つ子の鳴き声が聞こえる。
レオンひとりじゃ、おれと三つ子と連れて帰れないんじゃ、と思ったけれど、その頃にはもう声がつっかえて、上手く話せなかった。
「大丈夫だ、苦しいかもしれないけれど、治る」
多分これは魔力詰まりだ、と聞こえた。
……この間、レベッカがなったもの。なんでそれを今、おれが?
そんなのはこの間からわかってた筈だ。
レオンとアルベールをアンリに近付かせなければいいんじゃない、おれだってアンリの能力に掛からない訳はないんだって、そう気付いた筈なのに!
その後もずっとアンリと一緒だった。アンリがこっちに来てる間は、ずっと。
だからおかしくなっちゃったんだ。
だめだってわかってるのに、セーブ出来ない。頭がぼおっとして、目先の欲に駆られてしまう。
欲しかったものを、強請ってしまいそうになる。
頭の中ではちゃんと色々考えられるんだ、だめな理由だってちゃんとある。
それなのに。
アンリからもう離れてるのに。
おれ、ずっとレオンとアルベールのこと、考えちゃう。
アンリの能力は、本人すら持て余しているものだ。
この状態をアンリが戻せるのかわからない。
これ以上会いたくない。そしたらゆっくりでもこの気持ちは治まるかもしれない。
でも放っておいたらアンリは来る。来たら他のひとのところに行かないよう、おれが相手をするしかないのだ。
……言わなきゃ。
もう来ないで、と言うのはおれだって相手を否定しているようで言いたくはないけれど、でも言わなきゃアンリの能力を浴び続けてしまう。
アンリにだって悪気はない、筈。だから、伝えたらごめんって引いてくれる、と思うけど。
「……のぼせたか?また紅くなってる」
指先からレオンの手が離れて、頬を撫で、額に手を置き熱を確認される。
ぶわ、と躰があつくなったのがわかった。
今ならアンリのせいに出来る。今、今なら。
撫でられて嬉しいのも、気持ちいいと思うのも、レオンを見て胸がきゅうとなるのも、アルベールに会いたいな、ぎゅってしてほしいなと思うのも、声が聞きたいのも、すきだよって、何回だって聞きたいのも、全部アンリの能力のせい。
こんな風に胸が締め付けられるような、堪らない気持ちになるのは初めて。
頭ではちゃんと、だめだってわかってる。
アルベールは兄で、レオンはその婚約者で、ふたりとも仲が良くて、そのふたりを壊すような真似をしたくない。
でもふたりはイヴのことがすきだと言っていて、諦めないと言っていて。
おれが一度、この力に甘えてしまえば、おれも、ふたりも、一度、そのたった一度、一回。想い出が出来るんじゃないか。
それで終わり。皆それを最後にまた元に戻ってもいいんじゃないか。
ごくん、と喉が鳴った。
レオンの大きな手が欲しい。
撫でられると気持ちがいい。
少し乱暴で、でも頬とか、柔らかいところにはおれのことを考えてか、優しく触ろうとしてるのがわかる手。
おれのことを考えて触る手。
アルベールの手は常に優しくて、それも気持ちよかった。
……気持ちよかった。
もぞ、と膝を擦り合わせた。
……何考えてるんだ、外だぞ、三つ子もいるんだぞ、アンリだって今はいない、のに。
は、と熱い息が漏れる。
アルベールに触れられてから、自分で処理をしてなかった。
男は定期的にしなきゃいけないって、わかってたのに。
だって思い出してしまうから。自分のとは違う、アルベールの手を。
レオンの手はもっと大きくて、無骨で、……どういう風に触るんだろうと思ってしまって。
優しく触ってくれる?だいじにしてくれる?痛いこと、しない?
そんなこと、考えたい訳じゃないのに。
「……ッ」
「イヴ?」
「っれお、んさまあ……っ」
こんな声、出したことないのに。
媚びるような、甘えた声。気持ち悪い。
苦しい。胸の奥がぐるぐるしてるみたい。どうしよう、苦しい。
「……お前、」
レオンが息を呑む。
ぼそりとあてられたな、と呟いたのがわかったけれど、もう頭がぼんやりしてきた。
何これ、おれ、今どうなってるの。
心臓がどきどきして、もやもやぐるぐるして、痛くて、苦しくて、呼吸が上手くできない。
今おれ、どうなっちゃってるの。
こわい。
「くるしい……」
アンリのせいだ、アンリの、……これはアンリのせいなのかな?
こんなに苦しいのも?
レオンとアルベールのせいじゃなくて?
おれのせいじゃなくて?
わかんない、自分に起きてることが。
そんなのずっとわからない。
伊吹がイヴになった日から、ずっと。
「……戻ろうか」
「うごけ、なっ、い」
「大丈夫だ、俺が抱えていく」
「な、どうし、なに、起きてる、か、わかんない……」
「ん、大丈夫だ、どうにかしてやるから、な」
おれの上から三つ子が退かされた。
軽くなったけれど、それでも躰が重い。動けない。
なんでこんな急に?わからない。わからないから、こわい。抱え上げたレオンにぎゅうと掴まると、大丈夫だ、大丈夫、と柔らかい声で何度も落ち着かすように背を撫でる。
これなに、なんなの、ぐるぐるする、と繰り返すおれに、瞳を閉じていろとレオンが言う。深く息を吸って、吐けと。
その言葉通りに瞳を閉じて、息を吐く。
下の方からイヴ、イヴと三つ子の鳴き声が聞こえる。
レオンひとりじゃ、おれと三つ子と連れて帰れないんじゃ、と思ったけれど、その頃にはもう声がつっかえて、上手く話せなかった。
「大丈夫だ、苦しいかもしれないけれど、治る」
多分これは魔力詰まりだ、と聞こえた。
……この間、レベッカがなったもの。なんでそれを今、おれが?
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