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「……ねえ、もう大丈夫だし、やっぱり先にアル兄さま演習場戻ってもいいよ。ほら、副団長に少し抜けるって言ったでしょ、帰り遅いなってなっちゃう、し……」
「別に今日は特段何もないよ、……イヴの方がだいじだ」
戻らせようとするおれに、ほら、何がこわいの、と手を取る。
そこで指先が震えていたことに気がついた。
……こわいのは、家族が奪われてしまうこと。
愛莉のように会えなくなったらどうしよう。
優しい両親もかわいいエディーもいるけれど、アルベールがいなくなるのもいや。
だって折角しあわせな家族を手に入れられたと思ったのに。
でも言えない、アンリのことをすきにならないで、なんて。
この世界の主人公はアンリなのに。
何度か演習場に戻りなよ、戻らないよ、を繰り返し、合間にレベッカを撫で、また軽く言い合いになり、何ならおれも一緒に演習場に帰ってしまおうかとも考え出した。
魔力詰まりともうユーゴに伝えているし、ジャンにも伝わるでしょ、と。
でもレベッカが不安そうにきゅうきゅう鳴くものだから、イヴも一緒にいてくれるかと言うものだから。置いていけない。
「……もしかして、ジャンさまとアンリが来る以外にも何か見えてる?」
「見えないよ、今はなにも。ユーゴは行ってしまったからな」
「おれで見たら?」
「……イヴのは殆ど見えないよ、言わなかった?」
首を傾げる。
そういえば、レオンと俺ものは見にくいと何度か言っていたような。聞き流していたみたいだ。
「何で?」
「……多分、だいじだからじゃないかなあ」
「え」
「だいじなひと程見えなくなるんだ」
「だいじなひと……」
そう、とアルベールが頬を撫でる。
それはゲーム中では明かされなかったな。でも確かに、誰のものでも予知が出来れば、だいじなひとばかり優先してしまうだろう、他のひとを救ってる場合じゃない。
能力としてバランスが取れてるのかな、ずうっと見えてしまうのもきっとしんどいと思う。
「父さまも母さまも、エディーのものも見えづらいんだけど。だからあの日、エディーが泣いてる予知を久し振りに見て、イヴのところへ飛んで行ってしまった」
それは卒業時に寮まで迎えに来た時のことだろう。文字通り飛んできた日。
あの日からまだそんなに日が経ってないのに、毎日色々なところに行っていた訳でもないのに、もう結構経ったような感覚。
驚かされることばかりだからかな。
「特にイヴとレオンさまのものは見えづらいんだけど……あの日くらいからかな、イヴのものが全く見えない」
「えっ……」
「何かに邪魔されてるみたいな……もやもや混じってるかのような……レオンさまのものはまだどうにか少し、見えることもあるんだけど」
それもあって出来るだけイヴと一緒にいたい、鬱陶しいよね、ごめんね、でもどうしても心配で、とアルベールは眉を下げた。
……それは、おれが一等特別になったかということなのか、それとも、混じってるかのような、というのは、イヴと伊吹が一緒になってるからか。タイミング的には後者だろうが、どっちが理由でもやばい気がする。
……気がするんだけどアルベールの「だいじなひと」だとはっきりわかったかのようで擽ったくて、なんだか胸がもぞもぞする。
いちばんはレオンであってほしいとか、おれとエディーは同じであってほしいとか、まだそういった捻くれた気持ちもある。
けれど今は、単純にその愛情が嬉しいというか。
人間は嘘を吐く。ひとを騙す。笑顔でいても、欺ける。
でも正直に能力にまで出てしまうと、その隠せない気持ちが、なんだかじわじわとしてしまって。
言葉や視線や触り方でもわかってた筈で、それから逃げたかった筈なのに、隠せない想いに、本当なんだ、と意識してしまう。
「アル兄さまを鬱陶しいなんて思ったことはないよ、……過保護だとは思ってるけど」
「それはもう昔からだからなあ……イヴが怪我ひとつするのだって嫌だもの」
本当は、イヴのことをもっと見れていたら、ジャンの婚約も学園に行くことも、誰に何を言われたって阻止したけれど。
そう話す声が酷く優しい。
それも何度も聞いたのだけれど、それ程アルベールの中では引っかかってることなのだろう。
アルベールのせいなんかではないのに、自分が守れる筈だったのにとも思っている。
まあそうなっていたらシナリオは進まなかったのだからなるべくしてなった結果だ。
アンリがしあわせになって終わり。
シナリオは終わっても、彼等の世界は続くけれど、決められたお話はそこからはもうない。ここからはおれたちが動かせるし、どうなるかなんてわからない。
「……やっぱりアンリに会ってほしくないな」
「アンリに?」
「……うん」
ジャンではなく?とアルベールは首を傾げた。
アンリの能力を知らなければそういう反応になってしまうのは仕方ない。
元々がひと懐こい子だ、魅了とはいっても、皆彼がひとたらしくらいのものだと思っている。良い子だからひとにすかれるだけ。悪用出来る程の能力ではないと。
多分、ゲームをしてたプレイヤーくらいしか突っ込むひとはいない。あれは十分害悪な能力だと。
……アンリ本人にその気がないのが救いだ。
「別に今日は特段何もないよ、……イヴの方がだいじだ」
戻らせようとするおれに、ほら、何がこわいの、と手を取る。
そこで指先が震えていたことに気がついた。
……こわいのは、家族が奪われてしまうこと。
愛莉のように会えなくなったらどうしよう。
優しい両親もかわいいエディーもいるけれど、アルベールがいなくなるのもいや。
だって折角しあわせな家族を手に入れられたと思ったのに。
でも言えない、アンリのことをすきにならないで、なんて。
この世界の主人公はアンリなのに。
何度か演習場に戻りなよ、戻らないよ、を繰り返し、合間にレベッカを撫で、また軽く言い合いになり、何ならおれも一緒に演習場に帰ってしまおうかとも考え出した。
魔力詰まりともうユーゴに伝えているし、ジャンにも伝わるでしょ、と。
でもレベッカが不安そうにきゅうきゅう鳴くものだから、イヴも一緒にいてくれるかと言うものだから。置いていけない。
「……もしかして、ジャンさまとアンリが来る以外にも何か見えてる?」
「見えないよ、今はなにも。ユーゴは行ってしまったからな」
「おれで見たら?」
「……イヴのは殆ど見えないよ、言わなかった?」
首を傾げる。
そういえば、レオンと俺ものは見にくいと何度か言っていたような。聞き流していたみたいだ。
「何で?」
「……多分、だいじだからじゃないかなあ」
「え」
「だいじなひと程見えなくなるんだ」
「だいじなひと……」
そう、とアルベールが頬を撫でる。
それはゲーム中では明かされなかったな。でも確かに、誰のものでも予知が出来れば、だいじなひとばかり優先してしまうだろう、他のひとを救ってる場合じゃない。
能力としてバランスが取れてるのかな、ずうっと見えてしまうのもきっとしんどいと思う。
「父さまも母さまも、エディーのものも見えづらいんだけど。だからあの日、エディーが泣いてる予知を久し振りに見て、イヴのところへ飛んで行ってしまった」
それは卒業時に寮まで迎えに来た時のことだろう。文字通り飛んできた日。
あの日からまだそんなに日が経ってないのに、毎日色々なところに行っていた訳でもないのに、もう結構経ったような感覚。
驚かされることばかりだからかな。
「特にイヴとレオンさまのものは見えづらいんだけど……あの日くらいからかな、イヴのものが全く見えない」
「えっ……」
「何かに邪魔されてるみたいな……もやもや混じってるかのような……レオンさまのものはまだどうにか少し、見えることもあるんだけど」
それもあって出来るだけイヴと一緒にいたい、鬱陶しいよね、ごめんね、でもどうしても心配で、とアルベールは眉を下げた。
……それは、おれが一等特別になったかということなのか、それとも、混じってるかのような、というのは、イヴと伊吹が一緒になってるからか。タイミング的には後者だろうが、どっちが理由でもやばい気がする。
……気がするんだけどアルベールの「だいじなひと」だとはっきりわかったかのようで擽ったくて、なんだか胸がもぞもぞする。
いちばんはレオンであってほしいとか、おれとエディーは同じであってほしいとか、まだそういった捻くれた気持ちもある。
けれど今は、単純にその愛情が嬉しいというか。
人間は嘘を吐く。ひとを騙す。笑顔でいても、欺ける。
でも正直に能力にまで出てしまうと、その隠せない気持ちが、なんだかじわじわとしてしまって。
言葉や視線や触り方でもわかってた筈で、それから逃げたかった筈なのに、隠せない想いに、本当なんだ、と意識してしまう。
「アル兄さまを鬱陶しいなんて思ったことはないよ、……過保護だとは思ってるけど」
「それはもう昔からだからなあ……イヴが怪我ひとつするのだって嫌だもの」
本当は、イヴのことをもっと見れていたら、ジャンの婚約も学園に行くことも、誰に何を言われたって阻止したけれど。
そう話す声が酷く優しい。
それも何度も聞いたのだけれど、それ程アルベールの中では引っかかってることなのだろう。
アルベールのせいなんかではないのに、自分が守れる筈だったのにとも思っている。
まあそうなっていたらシナリオは進まなかったのだからなるべくしてなった結果だ。
アンリがしあわせになって終わり。
シナリオは終わっても、彼等の世界は続くけれど、決められたお話はそこからはもうない。ここからはおれたちが動かせるし、どうなるかなんてわからない。
「……やっぱりアンリに会ってほしくないな」
「アンリに?」
「……うん」
ジャンではなく?とアルベールは首を傾げた。
アンリの能力を知らなければそういう反応になってしまうのは仕方ない。
元々がひと懐こい子だ、魅了とはいっても、皆彼がひとたらしくらいのものだと思っている。良い子だからひとにすかれるだけ。悪用出来る程の能力ではないと。
多分、ゲームをしてたプレイヤーくらいしか突っ込むひとはいない。あれは十分害悪な能力だと。
……アンリ本人にその気がないのが救いだ。
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