3 / 192
1
2
しおりを挟む
高校にも行かせてもらえたし、食事も服も風呂も少しの小遣いも自分の部屋もあった。
ただ家族の会話や愛がないだけ。
勉強だけは頑張ったつもりだ。親の呼び出しなんか受けたくなかったし、勉強さえすれば将来もどうにかなると思った。
母親に似て、頭の出来も良い訳ではなかった、だからこそ、母親のようになりたくなくて必死だった。
息抜きは愛莉から貰ったゲームだけだった。
古いゲームを何周もした。何周も何周も。
飽きたな、でも他にやるものもないし、と思っていた頃、たまたま、本当にたまたまだった、その日は弟の友人が来ると聞いていたから、あんまり早い時間に家に戻りたくなくて、遠回りして帰ったのだった。
玩具屋の閉店セールにその古いゲーム機のカセットが安売りされてたものだから、これくらいなら買える、と長く遊べそうな、RPGとパズルゲームを買った筈、だった。
部屋に戻って開封すると中身が全然違ったのだ。
タイトルとイラストからして、これは恋愛ゲームというやつだろうか。
安かったし仕方ない、と思ったのだけれど、RPGだと思ったら恋愛ゲームだった、つまり逆もある訳だ、と思い直し、翌日間違えてますよ、とその玩具屋に再び出向いたのだけれど……既に閉まっていた。
昨日が最後の閉店セールだったらしい。
連絡先の電話番号も書いてない。
隣のお店のひとに訊いてみると、店主は隣県の息子さんのところに行っただとか。
……それなら仕方ないか、ともう一度諦めた。
文句が言いたかった訳ではない。どうしてもあのゲームがしたかった訳でもない。恋愛ゲームがやりたくて買ったひとが困ってたら、と思っただけだ。売れたかどうかもわからないが。
まあもし売れてたとしても安かったしと同じように諦めてもらうしかない。
同時に購入していたパズルゲームは面白くなかった。そりゃあもう全く。
操作性も悪く爽快感もない。失敗したなあ、と思いながら、恋愛ゲームの方を手にしてみた。
……恋愛ゲームはやったことないけれど、複数のキャラクターを攻略するとなればそれなりに時間は掛かるだろう。もしかすると良い暇潰しになるかもしれない。
少しやってみて、合わなければ止めればいいんだ、安物だったし、ただのゲームなのだから。
そう思って、スタートボタンを押す。
それは王子様や騎士なんかが出てくるファンタジー世界だった。
竜や魔法、特殊能力。
男性ばかりが出てくる辺り、これは女性向け恋愛ゲームらしい。
男の自分がやっても面白いものかなと思ったけれど、設定としては学園美少女ゲームより男心にくるものがあったので取り敢えずは進めてみた。
内容は魔力の高い転校生が学園や色々な男性と関わりを持ち、ミッションをクリアしながら妨害を乗り越え結ばれる、まあ普通の恋愛ゲームなのだろう。
古いものだからか、それともそう有名なものではないからか、設定はめちゃくちゃだったし、つっこみどころも多かった。恐らくこれは……言っては悪いが人気は出なかったんじゃないかな。
ただイラストは綺麗で、同性のおれから見ても、ふうん、イケメンだな、と思うくらいではあった。
普通の恋愛ゲームではないと気付いたのは序盤の内だった。
主人公の一人称がぼく、だったのだ。
ぼくっ娘というジャンルがあるのは知っていた、手持ちのゲームにもそんな女性キャラクターがいたから。
でもそんな濃いキャラを主人公にするかとネットで検索を掛けると、すぐに答えは出てきた、これはBLゲームというやつである。
……びーえるとは。
それも検索して、男性同士の恋愛であると出てきたけれど、その頃には大して驚かなかった。多少古いゲームではあるが、成程この時から多様性の時代ではあったのかもしれない。
ちょいちょい出てくるこの男は誰だと思っていたのだが主人公だったようだ、道理で他のキャラクターより中性的な絵柄だった筈だ。
ネットでも、ゲーム内容はめちゃくちゃでつまらん、褒めるのは絵とミニゲームだけだと叩かれていた。やはり恋愛パートは不評らしい。
でもそうなのだ、ミニゲームが面白かったのだ。
アイテムやお金を手に入れる為のミニゲームはパズルで、一緒に買ったパズルゲームよりも、ずっと楽しかった。
爽快感もあり、操作もしやすく、シンプルで単純にはまる。途中からは完全にミニゲーム目的でやっていた。いつでも出来るものではなく、タイミングが合わないと出来なかったんだ、そのミニゲームは。
ミニゲームでアイテムやお金が貯まるとお目当てのキャラと交流やデートが出来る、進めるとまたミニゲームが出来て、クリアすると新しいミニゲームが解放される。
正直キャラクターには……制作したひとには悪いがネットの評判通り好感は持てなかった。
あまり、その、……性格が好ましくないのだ。
主人公がかわいく描かれ魅力的なのはそういうものなのだろう。
けれど堕とすべき攻略キャラクターが……揃いも揃って酷い。
当て馬というか悪役というか……そういうキャラクターがいるのだが、彼を全ての攻略キャラクターが裏切ってしまう。
婚約破棄、友人としての縁切り、従者の寝返り。
何より悪役として描かれる彼が、おれにはあまり悪いことをしてないように見えた。彼は全てを主人公に取られてしまったのだ、婚約者も友人も未来の従者も。
そんな彼が見せた不安に、この世界は彼は悪役だと突きつける。
理不尽というものはゲームの中にも存在した。
ただ家族の会話や愛がないだけ。
勉強だけは頑張ったつもりだ。親の呼び出しなんか受けたくなかったし、勉強さえすれば将来もどうにかなると思った。
母親に似て、頭の出来も良い訳ではなかった、だからこそ、母親のようになりたくなくて必死だった。
息抜きは愛莉から貰ったゲームだけだった。
古いゲームを何周もした。何周も何周も。
飽きたな、でも他にやるものもないし、と思っていた頃、たまたま、本当にたまたまだった、その日は弟の友人が来ると聞いていたから、あんまり早い時間に家に戻りたくなくて、遠回りして帰ったのだった。
玩具屋の閉店セールにその古いゲーム機のカセットが安売りされてたものだから、これくらいなら買える、と長く遊べそうな、RPGとパズルゲームを買った筈、だった。
部屋に戻って開封すると中身が全然違ったのだ。
タイトルとイラストからして、これは恋愛ゲームというやつだろうか。
安かったし仕方ない、と思ったのだけれど、RPGだと思ったら恋愛ゲームだった、つまり逆もある訳だ、と思い直し、翌日間違えてますよ、とその玩具屋に再び出向いたのだけれど……既に閉まっていた。
昨日が最後の閉店セールだったらしい。
連絡先の電話番号も書いてない。
隣のお店のひとに訊いてみると、店主は隣県の息子さんのところに行っただとか。
……それなら仕方ないか、ともう一度諦めた。
文句が言いたかった訳ではない。どうしてもあのゲームがしたかった訳でもない。恋愛ゲームがやりたくて買ったひとが困ってたら、と思っただけだ。売れたかどうかもわからないが。
まあもし売れてたとしても安かったしと同じように諦めてもらうしかない。
同時に購入していたパズルゲームは面白くなかった。そりゃあもう全く。
操作性も悪く爽快感もない。失敗したなあ、と思いながら、恋愛ゲームの方を手にしてみた。
……恋愛ゲームはやったことないけれど、複数のキャラクターを攻略するとなればそれなりに時間は掛かるだろう。もしかすると良い暇潰しになるかもしれない。
少しやってみて、合わなければ止めればいいんだ、安物だったし、ただのゲームなのだから。
そう思って、スタートボタンを押す。
それは王子様や騎士なんかが出てくるファンタジー世界だった。
竜や魔法、特殊能力。
男性ばかりが出てくる辺り、これは女性向け恋愛ゲームらしい。
男の自分がやっても面白いものかなと思ったけれど、設定としては学園美少女ゲームより男心にくるものがあったので取り敢えずは進めてみた。
内容は魔力の高い転校生が学園や色々な男性と関わりを持ち、ミッションをクリアしながら妨害を乗り越え結ばれる、まあ普通の恋愛ゲームなのだろう。
古いものだからか、それともそう有名なものではないからか、設定はめちゃくちゃだったし、つっこみどころも多かった。恐らくこれは……言っては悪いが人気は出なかったんじゃないかな。
ただイラストは綺麗で、同性のおれから見ても、ふうん、イケメンだな、と思うくらいではあった。
普通の恋愛ゲームではないと気付いたのは序盤の内だった。
主人公の一人称がぼく、だったのだ。
ぼくっ娘というジャンルがあるのは知っていた、手持ちのゲームにもそんな女性キャラクターがいたから。
でもそんな濃いキャラを主人公にするかとネットで検索を掛けると、すぐに答えは出てきた、これはBLゲームというやつである。
……びーえるとは。
それも検索して、男性同士の恋愛であると出てきたけれど、その頃には大して驚かなかった。多少古いゲームではあるが、成程この時から多様性の時代ではあったのかもしれない。
ちょいちょい出てくるこの男は誰だと思っていたのだが主人公だったようだ、道理で他のキャラクターより中性的な絵柄だった筈だ。
ネットでも、ゲーム内容はめちゃくちゃでつまらん、褒めるのは絵とミニゲームだけだと叩かれていた。やはり恋愛パートは不評らしい。
でもそうなのだ、ミニゲームが面白かったのだ。
アイテムやお金を手に入れる為のミニゲームはパズルで、一緒に買ったパズルゲームよりも、ずっと楽しかった。
爽快感もあり、操作もしやすく、シンプルで単純にはまる。途中からは完全にミニゲーム目的でやっていた。いつでも出来るものではなく、タイミングが合わないと出来なかったんだ、そのミニゲームは。
ミニゲームでアイテムやお金が貯まるとお目当てのキャラと交流やデートが出来る、進めるとまたミニゲームが出来て、クリアすると新しいミニゲームが解放される。
正直キャラクターには……制作したひとには悪いがネットの評判通り好感は持てなかった。
あまり、その、……性格が好ましくないのだ。
主人公がかわいく描かれ魅力的なのはそういうものなのだろう。
けれど堕とすべき攻略キャラクターが……揃いも揃って酷い。
当て馬というか悪役というか……そういうキャラクターがいるのだが、彼を全ての攻略キャラクターが裏切ってしまう。
婚約破棄、友人としての縁切り、従者の寝返り。
何より悪役として描かれる彼が、おれにはあまり悪いことをしてないように見えた。彼は全てを主人公に取られてしまったのだ、婚約者も友人も未来の従者も。
そんな彼が見せた不安に、この世界は彼は悪役だと突きつける。
理不尽というものはゲームの中にも存在した。
346
お気に入りに追加
3,730
あなたにおすすめの小説
悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方
ばつ森⚡️4/30新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】
公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。
「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」
世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!!
【謎多き従者×憎めない悪役】
4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。
原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です2
はねビト
BL
地味顔の万年脇役俳優、羽月眞也は2年前に共演して以来、今や人気のイケメン俳優となった東城湊斗になぜか懐かれ、好かれていた。
誤解がありつつも、晴れて両想いになったふたりだが、なかなか順風満帆とはいかなくて……。
イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる