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extra13 ある日のクズノハ

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 市場を歩く子がいた。
 その女の子は褐色の肌をしていて、耳や目にエルフに似た特徴のある亜人だった。
 俺にはその光景がはじめ信じられなかった。理由は簡単だ。その市場はヒューマンが開く、彼らの為の場所だからだ。
 下手に俺達亜人が入り込もうものなら何をされるかわかったものじゃない。例え誰々に仕える身でこういう要件で来ました、許可も取ってありますとまで説明して証を立てても、その扱いはとてもヒューマンと同列じゃない。
 彼女はまるでヒューマン同士が挨拶をするように声を掛けられ、そして手を挙げて声に応じたりしている。俺はただただその異様な光景を口を半開きにして見ていた。確かに俺に比べればヒューマンに近い亜人だとは思う。でもあの待遇は絶対におかしい。

「商会腕章?」

 その女の子の衣服、肩部分に青色の腕章が付いていた。思わず声に出して確認してしまう。
 亜人が、市場に普通に出入りして、しかも商会に勤めているだって? ありえない。聞いた事も無い!
 普通だったら妬みを覚えただろう。でも今の俺にとってはそんな事はどうでも良かった。どうやって市場に入り込もうか考えていたところなんだから。あの子の存在はきっと使える。
 彼女を観察し続ける。本当に、普通に買い物をしていた。世間話を交わしたり、そこに差別なんて言葉は感じない。何がどうなったら、あんなことが可能なのかと思った。
 買い物が終わったんだろう、彼女が市場を出る。迷わず尾行を決める。気配を消すのは得意中の得意だ。それに俺達の種族は身体能力も高い。大抵の尾行なら最後まで相手に気づかれることもなく完遂出来る。
 建物の影や人だかり、それに物陰。全部を利用して褐色の子をつける。人の気配の無い場所に出てくれれば声を掛けられるし、家に戻るのならそこから色々情報が得られる。それまで辛抱強くやる。
 大通りに出た。これは運が良い。ここは昼間なら人の通りがかなり多い。少し意識して気配を絶つだけでも十分な隠行になる。
 少し南に歩いた彼女が不意に一件の建物に入っていった。店舗、みたいだな。あそこが彼女の勤め先?
 確かあの辺りの店は少し前に潰れて、今は売り出し中になっていた気がするんだが。買い手がついて商売を始めたんだろうか。だとすればまだ開店して間もない事になるな。
 まあ、そこは後で調べよう。今はあの店の名前を覚えて、もし入れそうなら入ってどんな店か見ておこう。
 ……大通りに面した店で、亜人の立ち入りが出来る店なんて殆ど無いから期待薄なのは間違いないけどな。
 俺はそっと店の前まで移動する。
 入口の上には店舗名が書かれているであろう木製の看板がついていた。ついていたんだ。でも読めなかった。やたらと複雑な、紋様みたいな二つの文字が書かれていた。学が無い俺でも一般的な文字じゃないことだけはわかる。

「店の看板だろ、読めなくていいのかよ……」

「あれはクズノハと読む」

「ふーん、クズノハ。何の店だかわからない名前だな」

「薬種問屋、じゃなかった。なんでも屋、か、雑貨屋? まあ薬と食べ物が幾つかと武具の修繕なんかをやってる感じ」

「……ますます何がやりたいのかわからない店じゃねえか」

「貴方もね」

「え?」

 振り返ると、そこには尾行していた筈の娘がいた。さらに横に一人、ほっそりとした長身の女性が。同じく褐色の肌。同じ種族の亜人仲間か? こんなにあっさりと背後につかれるなんて、初めてだ。くそ、まずい。焦りが全身に広がっていく。

「初対面ですら無いのに尾行だなんて情熱的を通り越して猟奇的」

「エリス、お前がフラフラと市場になど出るから。露出は少しずつ増やすように若様たちに言われているのに」

「そんな事したら夏には布切れ一枚になるよ、アクア」

「……真面目に聞け」

「若は警戒し過ぎ。ヒューマンなんて小手先で転がせるチョロインさんばかりですよ。ちょいと美味しいエサをあげればすぐに飛びつくビッチども――」

「あのな、エリス。若はともかく、識様がこの店舗での従業員をある程度自由に入れ替え出来るの、知っているか?」

「っ!?」

「一昨日、若様と識様がお話されているのをつい立ち聞きしてな。意味は分かるだろう? 私たちは一つの不祥事であそこに戻る事になるかもしれないんだ」

「お、おおお……」

「わかったようだな。では、こいつの事を若様に報告するぞ。それで謝っておこう。もう一度キャンプに――」

「キャンプ! キャンプコワイ! コワコワコワ……」

 何やら禁断症状を見せ始めた小さい方。
 大きい方がため息と共にゲンコツをその頭に落とす。
 クスリの中毒症状を思わせる虚ろな目は拳による痛みとショックで消え失せた。良かった。クスリはやってないようだ。

「ハッ! ありがと、アクア。危うくトラウマに殺される所だった」

「とにかく。すぐに行動だ。私たちはこの天国を死守しなくてはいけない」

「ラジャ! おい、お前。抵抗は無駄だから大人しくしていろ。素直にしていれば悪いようには多分しない」

 おい、多分って。
 不安を感じながら、俺は二人の亜人にクズノハという商会に連れられていった。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「等身大にゃんこだと!!」

「は?」

「い、いえ。 失礼。猫の亜人の方には初めてお会いするもので。はじめまして、当商会の主でライドウと言います」

「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。俺、いや私はこの学園都市のスラムに住む亜人でボウルと申します。お会いできて光栄です」

「それで、なぜエリスを尾行など?」

「……その前に、一つだけ。どうしてもお聞きしておきたい事があるのですが!」

 クズノハ商会の主である商人ライドウは、店舗で働いてもらう事になった森鬼の二人に連れられた亜人を見て思わず驚きを口にした。
 彼はこの街に来るまでに様々な亜人に出会ってきていた。つまり人間以外のヒトに出会う事にも慣れてきていた地球出身の彼だったが、目の前に現れたボウルと名乗る亜人の姿には免疫が無かった。
 ボウルは、一言で言えば直立した猫だった。
 顔立ちはやや人に近く、全体の体毛も薄いものの、耳は顔の側部では無く上部に猫のソレがついていたし、目も鼻もヒューマンより猫に近い。ライドウと会っている今も鼻腔は時折匂いを追うように動き、ヒゲもよく動いている。ライドウの視線はうっすらとツヤの良い白い毛が覆う手に注がれていた。
 ライドウは、猫好きだった。それも、かなり。

「はあ……僕に答えられる事なら」

 ボウルの必死な表情と言葉にも関わらず、肉球はどうなっているんだろうと気になって仕方ないほどに。

「このロッツガルドで、どうやって亜人である貴方が商人になることができたんですか! 貴方は、貴方は亜人の奇跡だ!」

「ぶっ!!」

「……」

 ボウルとライドウは机を挟んで向かい合っている。そしてボウルの後方には彼を連れてきた森鬼のアクアとエリスが控えていたのだが、ボウルの感激を隠そうともしない台詞に二人は思いっきり噴き出した。ライドウも顔をひくつかせて言葉の応答に困っている。

「お願いします! 教えてください!」

「ええっと、ボウルさん」

「はい!」

「僕はですね」

「はい!!」

「……これでもヒューマンなんですよ」

「はい!?」

「ヒューマン、なんですよ……」

「は、え?」

「何か期待させたみたいで、その。お褒め? いただいてあれですが」

「ひゅー、まん? 貴方が? ……あ、その、ご愁傷様です?」

「ごしゅ……痛み入ります」

 微妙なやり取りが終わった。
 静かな空気が流れる。
 
「ボウル、この空気を何とかしろ」

 誰にも破り難い空気を切り裂いたのはエリスだった。

「え!? あ、はい」

「すみません、従業員が失礼を。では彼女を尾行した理由を聞かせてもらえますか」

「わかりました。俺、あ、私が」

「お好きなように話して下さい。僕は根がこんな話し方ですから気にしなくて良いですよ」

「気を遣わせてすみません。俺はさっき言ったんですがスラムに住んでます。それで、ナカで少し問題が出て市場にこの時期に出回っているある品を手に入れないとまずい事に」

 話し始めるも要領を得ない内容だった。
 詳しい内容を聞き出そうとライドウが口を開こうとした。しかし言葉になることは無かった。

「あのな、ボウル。全部まるっと話せ。識様が出先から戻ってくる前に済ませないときっと割とまずい」

 エリスの表情は言葉の軽さと裏腹に焦った様子だった。
 人事権を持ち、尚且つ彼女の主であるライドウよりも厳しい判定をするであろう人物を明らかに彼女は恐れていた。
 殺気さえ孕む目がボウルを射抜き、彼の全身が総毛立った。

「は、話します!」

「ボウルさん、それとスラムなんですが。確かここにはスラムは無いと聞いているのですが」

 ライドウが彼の決意に先立って質問した。
 商人ギルドに挨拶し商会に使う物件を探す時、彼はロッツガルドの各地区の概要を聞いている。学園都市の説明にスラム地区などは無かった為、ライドウはボウルの言葉にあるスラムの場所がわからなかった。

「スラムは……あります。この街には亜人自体が少ないし大体が奴隷やそれに近い扱いです。そうじゃないごく少数の亜人は、ロクな仕事も無く、寄り添って生きてます。まともな家を借りられもしませんから打ち捨てられたような所に住み着くしかない訳で。不当な占拠、でも元々の利用価値も少ない場所だけに黙認されてもいる。それがこの街のスラムです」

「ありがち。大体、ヒューマンにへつらう亜人がいるから余計に勘違いしたサルがつけ上がる。少しは魔族を見習え」

「……エリス、黙れ。ボウルさん、話を続けて下さい」

「それで、まあ何とか生きているんですが。今回は参りました。呪病、って知ってますか」

 ボウルの言葉に出た単語にライドウの眉が動く。
 呪病。ライドウを商人にした切っ掛けの一つだ。

「ええ。これでも薬も扱う商会ですから」

「なら話が早い。普通の病気なら治療の魔術や薬で対処できます。でもあれだけは、ちゃんと個別に処方された魔法薬を使わないと治せない。仲間の一人がどこかから呪病にひっかかったようで」

「レベルはわかっているんですか?」

「病の名もわかってます。レベル三、拡大感染特化型呪病ネイルドランク。主に亜人に感染し、獣系亜人に対して特に感染力が強く重い症状が出ます。酩酊感と身体能力の低下、放置されれば場合によっては死に至ります。系統の異なる亜人には、あまり感染もしないようなんですが俺達の仲間は獣系に属する者が多くて」

「ネイルドランク。名前があると言う事は知られた呪病か。亜人に感染するなら僕が……」

「若! ここは尾行された私たちが失態を取り返そうと思う!」

「たち!?」

 突然発言したエリスの言葉にアクアが反応する。凄い速度で首を横に向けた。

「いや、亜人に感染するって言っているし」

「任せると良い! いえ、任せて! ううん、何とかするから最近の外出をまとめて無かった事にして欲しいと思っている!」

「本音、ダダ漏れだなあ。ホントにお前は残念で残念な子だよ……」

 ライドウが呆れたようにエリスを見る。大事な事を二度言いながら。
 ボウルはただただ話の推移を真剣な顔で見つめている。当たり前の様に自分たちを助けようとしている奇妙なヒューマンと褐色の亜人に驚きを感じつつ。

「このボウルが市場にいたという事は、薬の現物が売られているかレシピがわかっているという事。そしてクズノハ商会にその呪病の治療薬は無い。つまり商会に貢献する為の大事なお仕事という事。この出会いは天啓!」

「あの、私からもお願いします。どうか、汚名返上の機会を」

「……はぁ。わかったよ。それじゃあ、ちゃんと使ったお金は後で報告する事を忘れずに。それから商会の準備に影響させないように。あと、アルケーには話をしておくから手伝ってもらって早く解決してね」

「!? 助けてもらえるんですか! どうして」

「呪病って、僕嫌いなんですよね。あとは、恩に着せて今後頼らせてもらおうって下衆な考えですよ。僕、商人なんで」

 ライドウが軽口を聞いてみせる。恩は金より重い。彼の考えの一つだった。ただし、この世界ではごく限られた思想であり理解される事は少ないが。
 ボウルがその言葉の真意を知るのはまだ先のようで、たかだか恩を売るだけの見返りで亜人を助けようとするヒューマンに訝しげな目を向ける。

「ボウル、許しが出た。すぐに解決してやる。行くぞ」

「私も手伝おう。最悪我々のどちらかが感染すれば、それはそれで治験者になれるのだから悪いことばかりでも無い。市場に薬があれば何も問題は無いのだしな。それでは若様、失礼します」

「しっかりな。識には僕から仕事を頼んだと言っておくから。ちなみにしくじるようなら巴に連絡するからね」

「っ!? いってきます!」

 アクアとエリスが巴の名に飛び上がらんばかりに過剰な反応をする。森鬼にとって、巴の名は心に染み付くナニカを想起させるようだった。
 仲良く声を揃えてボウルを引き摺るように退室する森鬼コンビ。
 腰掛けて見送ったライドウ。

「キャンプ、相当絞られているみたいだなあ。良く効く。……それにしても、肉球、気になる」





◇◆◇◆◇◆◇◆





「これは……きつい」

「まさか二人共感染とは……ボウルが無事なのにどうして。薬は手に入ったのだからアルケー殿にそのまま渡して量産してもらえば良かったんじゃないだろうか」

「あの薬が実際に効く確証は無かった。この目で確かめる必要はやっぱりあった。在庫不足のあの店が悪い、全部悪い。病人は責めちゃいけないものだから私たちは悪くない」

「ううう、吐きそう。早く薬を作ってもらって治そうエリス」

 フラフラと平衡感覚を失った歩き方をする二人の人影。
 彼らの住まいでもある特殊な空間亜空。そこに関係者とは言えボウルを連れて行く事は流石に無警戒が過ぎると、アクアとエリスは二人でアルケーの住居に向かっていた。
 二人は市場で薬を買い求めた。レシピではなく現物がまさに店頭に並んでいたのだが、残念なことに僅かな在庫しかなかった。仕方なくサンプルとして持ち帰るひと瓶を懐に入れ、残りをボウルに持たせて一行はスラムに向かった。効果はきちんとあらわれて、寝たきりで呻く症状の重い亜人は静かな寝息を立てていた。まとわりつく呪病の術式の気配が消えた事で森鬼二人は安心して、薬のサンプルを亜空に持ち込んで量産してもらおうとしたのだが、部屋を出た途端、二人はふらついて壁にもたれかかった。
 そう。二人は見事に感染したのだ。獣系亜人でもなく、感染する可能性が高くない身でありながら。不運か天罰か。それは誰にもわからない。
 
「よく来たな、実験台」

「……もう反論する元気も無いです。治療、お願いします。これが薬のサンプルです」

 住居の木壁に斜めにもたれかかったエリスは放っておく事にしたアクアが、扉を開けて出てきたアルケーに薬の瓶を差し出す。

「これか。十分効果はあるんだったな」

「確認しました。以前に患った者が運良くいまして、効き方も同じだと。呪病の式が消滅したのも確認済みです」

「上出来だ。……しかし、ヒューマンの作る薬は大雑把だな。薬術と言う芸術を理解しておらん者が多すぎる。そもそも魔法薬とは……」

 瓶を手にとって振りながらぶつぶつと語りを始めるアルケー。薬の知識を豊富に蓄えた彼による様々な考察や薀蓄が続く。それは非常に高度な内容も混在していて、世の錬金術に携わる魔術師なら製薬を専門にしない者でも聞き入る内容だった。しかし残念なことにその言葉を受け取る二名には拷問でしかない。

「も、申し訳ありません。どうか、製薬を急いでもらえませんか。まだ病人は十数名おりますので」

「っと……。ふん、お前たちの事だ。恐らく己の身可愛さで請けた仕事だろうに。良いか、大体若様のお側にいられるという有難い事は澪様でさえ……」

 頑張って割り込んだアクアだったが、話題を変えての説教が始まってしまう。これで実力が彼女の方が上ならやりようもある。しかしアルケーはアクアとエリス二人が本調子で何とか食い下がれるかどうかと言ったレベルの強さ。勝てる見込みは大分低い。

「……もう、バナナ分けてあげるから許して……」

「あの黄色の実か。いらん。だがこの薬、色々手を加えると面白そうな素材だ。しばらく待て。その辺で寝ていて構わんからな」

 エリスが断腸の思いでした提案もあっさりと蹴られる。
 快諾とはニュアンスの違う不吉な言葉を残したアルケーは室内に戻って製薬の設備を整え始めた。
 結局。
 彼は凝りに凝って製薬の原価割合や効能を緻密に計算した。何度も何度も製薬を完成させながらほぼ一昼夜、試行錯誤を繰り返した。
 満足のいく一品に仕上がる頃には外で待っていた森鬼は気分の悪さに悶え疲れて死んだような目をして転がっていた程だ。

「見ろ、携行しやすく液体から錠剤に変え、尚且つ同価格の原材料から計算上四倍は作る事が可能だ。さらに二日程かかる完治までの時間を一日に短縮、以後の感染を未然に防ぐ予防効果の付与。うん、中々の出来だな。さて、では製薬手法の簡略化に取り掛かるか。もう少し待て――」

 アクアが渡した瓶よりも一回り大きな缶コーヒー程度の大きさの瓶を二人に見せるアルケー。そこに詰まった錠剤を見つめて満足げな顔をしている。

「待ってください!!」

 悲痛な二人の声。

「……なんだ。折角調子が出てきたと言うのに」

「その瓶、先に下さい……大分限界かも」

「ああ忘れていた。病人がいるんだったな」

 目の前で腰砕けになっているアクアとエリスを明らかにそうと看做していない様子でアルケーが思案に暮れる。
 
「若様からも出来るだけ急ぐように言われていた。仕方あるまい、製法は追ってお知らせするとして、取りあえずの完成品を届けてもらうことにするか」

「!!」

「ほら、苦しんでいる亜人がいるのだろう? 持っていけ」

「ありがとうございます!」

 差し出された手からひったくるように薬を受け取ると、森鬼二人は本来の俊敏な動きを感じさせない弱々しい動きでロッツガルドに戻っていく。もう薬は飲んでいる。しかし治るのに一日かかる訳だからすぐに全ての不調が治る訳ではない。かといって、服用して寝て待つ訳にもいかない。役割が残っているからだ。
 本人たちが思っているよりもかなり辛い仕事となったのは確実だった。ひどい二日酔いなのに一日中動いているようなものなのだから。
 それでも投げ出さないのは、亜空での訓練の日々よりもロッツガルドでの店舗勤務の方が遥かに快適だからである。
 スラムに戻り、錠剤に姿を変えた薬をボウルに説明して手渡す。その場で彼に服用させた上でスラムに住まう全員に薬を配っていく。翌日にはその効果は顕著にあらわれ、ボウルはスラムで力を持つ数名を伴って、未だ開店準備中のクズノハ商会に礼を言う為に訪れた。
 こうして森鬼がロッツガルドで初めて遭遇した事件らしい事件は無事に幕を下ろす。アクアとエリスはその後もロッツガルドに留まり、何とか上手くやっている。

 この時に出来たスラムとの繋がりが、やがてロッツガルドの夜に暗躍する仕置人としてのクズノハ商会の側面を生み出していく事になる。実動の中核となるライム、アクア、エリス、時折ふらっと現れる森鬼コンビの師匠であるモンド。事実上の元締めとなる識、目や耳、時に手足となって活躍するスラム地区の住人たち。スラムはやがてきちんと整備されロッツガルドの正式な区画の一つとして認められていき、学園都市における亜人の立場改善の象徴として親しまれるようになるが、それはまた別の話。
 ライドウこと深澄真が深く関わらぬ場所や領域でも、クズノハ商会はその名を知られていくのだった。
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