生者の証明

桃色うさぎ

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 その病気は、はある日突然、祖父の脳内で起こった。

 それは、時間がたつにつれて脳味噌がしぼみ、最後には命を絶たれるという恐ろしい病魔で、それにかかった者は、自分の記憶、人間性をじわじわと失いながら苦しみぬいて死んでいく。

 物忘れが日に日に酷くなってきて、それが自分で腹立たしいのか、それとも既に毒が入り込んでいたのか、祖父は時折暴れ出す。
 
 モノを割ったり壊したり、父や、母にまで手をあげるようになってきた。

 安息の崩壊。祖父の言動で、皆ビクビクと怯えるようになってきた。張り詰めた空気、緊張。

 でも、一番苦しいのは祖父だった。暴れて、老人とは思えないような力で家中をメチャメチャにした後、肩を震わせて泣く。
 傷つけてしまった母の前で土下座までして謝る。

 その七転八倒の苦しみ方に、俺や家族は正視できなかった。皆、同じように苦しんでいた。

 もうこのままでは誰もが壊れてしまう。
 そう判断した父は、祖父を病院に入れることを決断した。

 入ったら恐らくもう出て来られないだろうその場所に行くことを祖父は承諾した。「世話になったな。」そう父に言った。
 誰よりもその決断を苦しんだのは父自身であることを祖父はちゃんと分っていた。

 本当に、真っ直ぐで、人の気持ちが分る優しい人であった。
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