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第16章 勇者と憤怒決着編

第197話 バーニング・ラブ

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(クックックックッ、とんだ茶番だったな。まあ最初から約束など守る気はなかったさ。さあ最後の別れは済んだか? それじゃあこれで終わりにするとしよう。散々手こずらせてくれたが、これで終わりと思うと名残惜しいな。ハッハッハッハッ! では、サラバだ!)

「憤怒!」

「ヒロ!」


 アリアの遺体に宿る憤怒の紋章が突如として光を放つと、紋章は瞬時に消え去り、代わりにヒロの右腕に禍々しい漆黒のオーラをまとった紋章が浮かび上がっていた。

 するとヒロの目から輝き消え失せ、濁ったような瞳で虚空を見つめて動かなくなってしまった。


「憤怒の紋章が、ヒロに……ここまでは計画通りです」 

 リーシアは少し離れた位置から、ボ~と立ち尽くすヒロの様子を確認すると、その足元に横たわるオークヒーローの妻、アリアの遺体に視線を向ける。


「アリアさんの右腕にあった憤怒の紋章はなくなってますね……この状況は……パターンCです!」


 リーシアはそう呟くと、ピクリとも動かないまま立ち尽くすヒロを警戒しながら、ジリジリとアリアの遺体に近づいていく。
 ヒロと事前に打ち合わせしていた内容に沿って、リーシアは迷うことなく次の行動に移っていた。
 
 あらかじめ、二人のどちらかに憤怒の紋章が継承されても対処できるよう、対策は練っていた。憤怒の体を乗っ取られた時……最終的にはヒロに紋章を継承させる手筈となっていた。

 唯一の誤算はアリアをハートブレイクショットで倒せなかった点だった。それさえ成せばヒロのエクソダス計画は……プロジェクト・エクソダスは問題なく完遂していた。
 
 オークヒーロー・カイザーとその息子シーザーはハートブレイクショットでとどめを刺せたが、アリアはヒロの手で倒されている。想定外のアクシデントがあったとはいえ、あと一歩のところで計画は瓦解してしまったのだ。
 

「だからと言って、諦めている暇はありません。今できる最善を尽くさないとです」


 右腕に憤怒の紋章が浮かび上がったヒロの横を通り過ぎ、横たわるアリアのかたわらにひざまずくと、胸に手を置き鼓動を確かめる。

「やはり鼓動は止まっていますね。あとお腹の傷……急がないと」

 
 憤怒の紋章をアリアに継承させるために付けられた傷を見て、リーシアが横たわるアリアを肩に担ぐと、ボ~と立つヒロから数メートルの距離を取り、アリアの遺体を仰向けに寝かつける。
 そして聖女は目を閉じ……ゆっくりと歌うかのように回復魔法の詠唱を口にする。


「神よ、迷える哀れな者に苦痛なき安らぎを
  願わくは慈悲の光にて死せる肉体を癒したまえ
   死に行く者にせめて傷なき旅立ちを許したまえ」

 草原の風に乗って聖女の清らかな声が流れる。


「ヒール!」


 力ある言葉と共にリーシアの手から温かな光が溢れ、アリアの遺体に降り注がれる。するとアリアの腹部の傷を始め、体中についたその他の傷もたちまちに癒やされ、光が消えたあとには傷ひとつないアリアの遺体が残っていた。


「上手くいきました。死体を回復なんて最初は不可能かと思ってましたが、ヒロの言葉通り成せばなるですね。あとは……」


 リーシアはそう呟き、横たわるアリアへ馬乗りにまたがる。そして手を重ね遺体の胸に両手を置いたその時ーー


(そ、そんな、たかが人如きに我が……ギャァアアアアアアアアア!)


ーーリーシアの頭の中に憤怒の絶叫が、思念波となって聞こえてきた。それは断末魔とも取れる叫び声であった。


「え? 今の声は憤怒⁈ 一体……」

 予想外の出来事にリーシアの思考が一瞬停止してしまう。そして何が起こったのか理解できずにいると、再び頭の中に憤怒の思念が流れ込んでくる。


(ば、馬鹿な、体が……存在のデータが消去デリートされていく……そ、そんな……)

「言ったはずだ憤怒! お前はここでゲームオーバーだとな!」

「ヒロ!」


 リーシアは立ち尽くしていたヒロの声に、パッと顔を明るくするとアリアに跨ったままヒロの瞳を見る。片目だけ目に輝きを取り戻したヒロを見たリーシアはホッと胸をなで下ろした。


「ヒロ無事ですね? よかった」

「はい。リーシア心配を掛けました。それでアリアさんは?」

「傷は癒しました。心臓は止まっていますが……」

「まだ間に合います。急いでグッ!」

「ヒロ!」

 体に突然痛みが走り、ヒロは片膝を着いてその場にしゃがみ込んでしまう。その姿を見たリーシアが立ち上がりヒロに近づこうとするがーー


「来るな!」

 
ーーヒロはそう声を上げて静止する。


「まだ、憤怒が僕の中にいます。完全に消滅するまで近づかないでください」

「ですが……」


 全身傷だらけでボロボロのヒロを見て、リーシアが言葉に詰まる。


「僕のことはいい。それよりもアリアさんを、時間が経てば立つほど蘇生が難しくなります」

「……分かりました」


 ヒロの言葉にリーシアはグッと拳を握り自らを制すると、再びアリアの胸に開いた両手を置き集中する。
 ヘソの下にある丹田に気を集め増幅すると、体の中を駆け上り腕を伝ってアリアの遺体に流れ込んでいく。


(な、なにをしている。死んだ豚などに……なにを……)

「死んだ? 僕はアリアさんを殺した覚えはないぞ」

(どういうことだ!)


 やがて遺体の隅々に気が浸透したことをリーシアが確認するとーー


じん六王ろくおうりゅう! 爆心ばくしん治癒ちゆこう!」


ーー裂帛の気迫と共に、巨大な気がアリアの心臓へと打ち込まれた!

 絶妙な力加減で打ち込まれた気が、止まっていた血流を呼び覚まし、動かぬ心臓に再び鼓動を呼び起こす。そしてーー


「ゴホッ! ゴホッ、ゴホッ……わ、たしは……リーシアさ……ん……」


 ーーアリアは生き返った!


「アリアさん、良かった上手く蘇生できました」


 リーシアは蘇生が成功したことに喜び、意識が混濁したアリアの手をやさしく握る。


(馬鹿な、あの豚は確かに死んだはず! 我の継承条件は宿主の死が絶対条件、それなのに何故⁈)

「アリアさんは確かに死んでいた。ただそれが一時的な死……仮死状態になっただけだ」

(仮死状態だと? そんなこと偶然ならあり得るかも知れんが狙ってやるなど……貴様らは我と戦いながらそれを成したというのか⁈)

「カイザーからお前の話を聞いて、紋章の継承条件はある程度は予想できていた。なら対策も練れる」

(なぜキサマにそんなことが⁈)

「数多のゲームをクリアしてきたゲーマーだからさ!」

(ゲ、ゲーマーだと?)

「数え切れない数のゲームをクリアし、様々なイベントを見てきたゲーマーなら、この程度のイベントの大筋は予想ができる。特にお前の紋章の継承条件は『ファンタジー水滸伝』にソックリだったからな、対策はしやすかった」

(ファンタジー? 一体何だそれは⁈ それになぜだ? なぜお前の魂が乗っ取れない? 本来ならば憤怒の紋章がお前に継承された時点でお前の魂は我に飲み込まれ、意識など保ってなどいられぬはず?)

 
 さらなる疑問を憤怒がヒロに問う。


「それは僕の持つスキル【不死鳥の魂ソウルフェニックス】のおかげだ。このスキルを持つものは、『いかなる存在も、その魂を変質させることはできない』と説明されていた。僕はこれに賭けたのさ」

「そのスキルで我の魂の侵食を防いだと?」

「結果はご覧の通りだ。まさかS領域でお前と存在を懸けて戦うとは思わなかったがな」

「クッ! おのれ! おのれ! おのれ! 我が人如きに負けるなんて! おのれぇぇぇぇ!」


 ヒロの中で怒りを露わにする憤怒……だが存在のデータが光に変わりゆくいま、もう何も出来ることはなかった。


(クッ! いいだろう……認めてやる。誇るがいい。人の身で我に勝利したことを、そして絶望するがいい!)

「どう言う意味だ?」

(フッハッハッハッハッハッ! 馬鹿め! 確かに我の存在は光に変わり失われてしまうだろうが、しかしメインシステムにバックアップがある限り、我は何度でも蘇る! 何年掛かるか分からんが復活した暁には、必ずこのガイヤの大地から人を一人残らず根絶やしにしてくれるわ!)


 エルビスの話からバックアップの可能性は考慮していたが、憤怒もまた何度でも復活できる事実を告げられ、ヒロは顔を曇らせる。


「憤怒おまえは……なぜそこまで人を憎む?」


(なぜ? 言ったはずだ。お前たちの存在が母を苦しめるとな。お前たち人の行いが世界のバランスを崩しているのだ。今ならまだ間に合う。故に我は人を根絶やしにせねばならん……だから人を滅ぼす!)

 
 もはや相容れぬ存在……憎しみに囚われた憤怒の思念波が、ヒロとリーシアの心に叩きつけられる。それは怒りよりも悲しみの感情が色濃く込められたものだった。


「憤怒……あなたは………」


 『母のため』と強い意志を見せる憤怒に、リーシアが自分の境遇を重ねたとき、少女の心に同情の思いが生まれていた。


(なんだその目は? 我を憐れむ⁈ ふざけるな! 人が我を憐れむなど……絶対に許さん! 決めたぞ。我が復活した暁には真っ先にお前を殺してやる! いや、お前に縁のある奴を一人残らず目の前で殺して、いま我を憐れな目で見たことを後悔させながら殺してやる!)

「憤怒!」


 ヒロが声を上げ怒りをあらわにする。だがリーシアは……。


「あなたは優しいのですね」

(なんだと? 女、キサマ何を言っている? ふざけるなよ!)


 その言葉にリーシアは首を左右に振り、澄んだ瞳で真っすぐにヒロの輝きを失くした瞳を見つめていた。


「こんなになってまで、お母さんのために怒れるなんて……復讐が生きる目的になってしまった私なんかより……ずっと優しいです」

(我が優しいだと? 笑わせるな! 我は憤怒、怒りを司る者! 人如きが我を憐れむな!)

 輝きを失くした瞳が怒りに染まり、憤怒がリーシアに憎しみの視線を投げ掛ける。すると少女それを憐れみでも悲しみの目でもない……深い慈愛に満ちた瞳で受け止める。


「悲しい目……誰にも分かってもらえず、助けを求めても誰も助けてくれない。自分以外には誰も信じられない寂しい目……ヒロと出会う前の私と同じ目です」

(同じだと? 我がキサマと⁈ 人如きが我と同じだと? 虫唾が走るわ! キサマに我の思いなど分かるものか!)

「分かりますよ。私は大好きだった母様を殺されて、復讐することだけを糧に生きてきましたからね。痛いくらい分かります。アナタの怒りの感情に隠された悲しみが……」

 
 リーシアの慈愛に満ち溢れた目が、憤怒の瞳に隠された真実の思いを感じ取る。


(止めろ! 人の分際で、そんな目で我を見るな!)

「ヒロと出会って私は気が付きました。怒りとは悲しいとか寂しいと、心が感じたときに湧き起こる感情なのだと……「わかってくれない」「助けてくれない」「応えてくれない」そんなツライ気持ちから、自分を守るために心にするフタなんだって」

「リーシア……」

「私も人が憎かった。母様を殺した奴らが……毎日そいつらを殺すことだけを夢見て、体を鍛え技を磨きながら復讐の機会を待ち続けていました。いつか必ずと……その憎しみを胸に生きてきたんです」

(……)


「だから何となく、あなたの気持ちは分かります。目的を遂げられない苛立ち……止めどなく湧き上がる怒り……表にだせない悲しみによる心の痛み……痛いほど分かります」


(同情だと? ふざけるな! キサマに我の怒りが分かってたまるか!)


「私もかつてはそうでした。母様を殺した奴が憎い、それを見て助けてくれなかったら人が憎い、町にいた人が憎い、世界が憎い。際限なく湧き上がる怒りが、行き場を求め憎しみの対象をドンドン広げて……もう自分ではどうすることもできなくなって……それでも憎しみは止まらない」


「リーシアさん……あなたは……」


 アリアがリーシアの手を優しく握る。


「溜まり続ける憎しみと怒り……苦しくてつらくて……そしてそれを隠して生きていく内に、私の目に映る世界は無味乾燥な灰色の世界になり、日々の生活は地獄と化しました。でもそんなある日、私はヒロに出会い気付きました。憎いと思うのは、つらく寂しいから……だれかに分かってほしいと言う心の叫びなんだと」

(叫びだと?)

「そう。誰にだって心はあります。誰しも心の叫びをさらけ出して生きているわけではありません。誰もが本当の心を閉ざして生きています。怒りや憎しみという感情でフタをして、誰かに分かってほしいのに自ら心を閉ざしたまま……」

(それが我になんの関係がある! 我は憤怒! 怒りを司る者! 怒りこそが我が存在理由! 母と同じ苦しみ貴様ら人に味合わせて何が悪い!)

「怒りが存在理由? 違いますよね。アナタはただ怒っているわけではありません。アナタは……お母さんが苦しむ姿を見て悲しんでいる。だから私はあなたが優しいと言ったのです」

「優しいだと? 仮にそうだとして我が人を滅ぼすことに何の変わりもないわ! 人が世界にいる限り我が母の痛みは止まらん! ならば我のすることは一つ! 何度倒れようがキサマら人を滅ぼすだけだ!」

「憤怒……あなたは私と一緒です。誰にも頼れず、誰も助けてくれない。理不尽な世界にただ声を出して否定する。自分が不幸なのが許せない。だから全てを同じ目に合わせてやる。憎い仇を全て殺し尽くして……でもその先には何があるのでしょうね」

(何だと?)

「私は今まで一人で生きてきました。誰にも頼らず、助けも受けず、差し伸べてくれた手を払いのけて本当は助けてほしいのに頑なに拒んで否定して…… 復讐することだけを夢見て生きてきました。私の目に映る世界はそのうち全てが胡散臭く感じてしまい、世界が灰色に見えるようになってしまいました。だけど……そんな私を、ヒロは色のある世界へ連れ出してくれたのです」


 アリアの手をリーシアが少しだけ力を込めて握る。


「ヒロと出会って共に過ごすうちに、灰色だった私の世界にドンドン色が付いていくんです。そこの変態ヒーローが何かやらかす度に、メチャクチャな色合いで盛大に色が着いて……今では目がチカチカして見辛いくらいです。でも……不思議と心が軽くなりました」


 リーシアが決意の目で憤怒に言い放つ。


「アナタの行く道の先に何があるかは分かりません……でも一つだけ分かることがあります。それは憎しみの果てに幸せはないってことです」

(幸せ? 戯けたことを! 我の幸せは人を滅ぼすこと! 我が怒りは、人を滅ぼすことで晴らされん!)


「憤怒、アナタも私と同じです。だから、その怒りに隠された思いを教えてください。その悲しい気持ちを一人で抱え込まないで……もしかしたら力になれるかもしれません。私がそうであったようにアナタも……だから……」


 リーシアの温かな瞳が、憤怒の瞳の奥に隠された悲しみを覗き見るーー


(止めろ……止めろ! やめろぉぉぉ! 我を、我をそんな目で見るなぁぁぁぁぁっ!)


ーー憤怒が声を荒げてリーシアを拒絶すると、辺り一面に思念波を撒き散らす。


(我が母と同じ目を我に向けるな! 人が我を憐れむなど……許さん! 絶対に許さん! たとえ何度死のうと必ず人を滅ぼしてやる! 人よ滅べ! 滅べ! 滅び去るがいい!)

「お願いです。お母さんのことを話して」

(黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れぇぇぇ!)


 その猛りの思念波と共にヒロの右腕に宿った憤怒の紋章が禍々しいオーラを発しヒロの体を包み込む。


「グッ! まだ力を……」

「ああそうだ。もしものために温存していた正真正銘最後の力だ。その女に取り憑くために残しておいた力だったが、もう必要ない。コイツを道連れにするために使ってやる。女! お前の愚かな行為がこの男を殺すのだ。せいぜいコイツがいない世界で嘆き悔やみながら生きるがいい! ハッハッハッハッハッハッ!」


 突然のことに反応が遅れたヒロの全身を、凶々しい黒いオーラが締め上げていく。それを見たリーシアがアリアの手を振り解き、立ち上がると同時にヒロへと駆け寄る。


「ヒロ!」

「リーシア、来るな!」


 それを見たヒロが声を荒らげてリーシアを止めようとするが、少女はその声を無視して男の首を締め上げる黒いオーラに手をかけていた。


「ダ、ダメです。ビクともしません……なら!」


 黒いオーラに対抗するため、闘気を練り手にまとうとリーシア……すると身に付けていたフェニックスアーマーが、少女の闘気に反応してボンヤリと表面が赤く光りを放つ。


(無駄だ、無駄だ! 消耗したお前らでは、我がオーラを込めたコレを外すことなど絶対にできん。残念だったな!)


 体中が痛みの悲鳴を上げ、首を絞められ呼吸もままならないヒロは、苦悶の表情を浮かべながら必死に耐えていた。


「リーシア……離れて……いま僕が死ねば……憤怒が君に紋章を継承するかも知れない……だから……離れ……」


 脳が酸素を欲しがり、朦朧とする意識の中でヒロは助けを求めず、ただリーシアに離れろと最後の力で伝える。それを聞いたリーシアは……。


「そんなのお断りです! ヒロ、私との約束を忘れないで! 私の幸せを一緒に探す約束を! 私の幸せは、ヒロと一緒じゃないと叶わないんです。あなたがいない世界に私の幸せはありません! だから私は絶対に諦めない!」


 限界まで高まるリーシアの闘気と思いに反応して、フェニックスアーマーから、炎のように紅いオーラが噴き上がりリーシアの体を包み込む。すると黒いオーラと紅いオーラが拮抗し、首の締め上げが止まる。だがあくまでも動きが止まっただけで、依然ヒロは呼吸できないままであった。


「まさか人の身でオーラを⁈ 我が弱っているとはいえ……だが、互いの力が拮抗しただけだ! 果たしていつまで持つかな? お前が力尽きれば、この男は数秒で窒息死、我が存在のデータが光に変わるまであと数分……もうこの男はあと数十秒もあれば窒息死するだろう。どちらにせよ、我の望む形で終わりを迎える。はっはっはっはっはっ!」

「諦めない、絶対に諦めません。ヒロを……そして憤怒……あなたを助けて見せます!」

「はっ! この期に及んでまだ我を助けるだと? 笑わせるな! たかが人如きが我を救うなど出来るものか!」

「出来る出来ないじゃない。やるんです! だってあなたのそれは……その涙はきっと助けを求めているのだから」


 ヒロの輝きをなくした片目から、いつの間にか涙が流れ頬が濡れていた。その涙は濁りのない純粋な涙だった。


(我が涙など……違う、これは……違う、違う!違う⁈ 人は滅ぶべき存在! 誰が人になどに助けを求めるものか! 人よ! 滅べ、滅べ! 滅びされ)


「リー……シア……僕は……いいから離れて……君だけでも……いき……て」

「ふざけないで! 私をこんな体にしておいて、責任も取らずに勝手に死ぬなんて許しません。絶対に責任を取ってもらいます。しかも一生ですよ! もう私の目の前で大好きな人が死ぬ姿なんか……私は見たくありません。だから……諦めないで!」

「リ……シア!」

 リーシアの体にまとう紅のオーラが、ひときわ赤く燃え上がり、朦朧とする意識の中でリーシアの声を聞いたヒロの手が、必死に首から憤怒のオーラを引き剥がそうとするリーシアの手に重なった瞬間ーー

『ピイィィィィィッ!』

ーーヒロとリーシアの心の中で、気高き鳥の鳴き声が聞こると……リーシアのフェニックスアーマーから紅の火柱が立ち上がり、空中で巨大な火の玉になる。するとヒロの胸から温かな光が抜け出し、火球の中へ吸い込まれていった。


(な、何だ? 何が起こっている⁈ 貴様ら何をした!)


 憤怒が狼狽えて声を上げた瞬間ーー


「ピイィィィィィ!」


ーーその鳴き声と共に火球が弾けると、中から炎に包まれた一匹の鳥がその姿を表すのだった。


【再生と復活の幻獣……フェニックスが現れた】



〈聖女と勇者の思いが重なるとき、世界は希望の光に満たされる!〉
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