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第13章 勇者と憤怒の紋章編

第158話 決めろ! 覇神六王流、最終奥義!

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「うむ。リーシアよ。これよりお前に覇神六王流が最終奥義を伝授する。一度しか見せん。一挙一動を見逃すなよ」


 荒野に立つ二人の人影……そこはアルムの町から少し離れた平地だった。
 鍛え抜かれ研ぎ澄まされた肉体を持つ初老の男と、金糸の髪をアップにまとめた美しい少女が平野のど真ん中で話していた。


「師父? いい加減、唐突もなく話すのは止めてくれませんか? ただでさえボケが始まったのかと心配しているのに……」

「はっはっはっはっ、師に対してのその態度もいい加減に改めよ」

「フッフッフッフッ、私を数年も教会に預け、フラッと帰って来ては修行と称して無茶をさせる人に言われたくはないですね。師父と呼んでもらえるだけありがたいと思ってください」

「リーシアよ。生きることも修行だ。ワシと一緒では、お前は一般常識を学べん。幸い、お前には才能がある。修行を怠れぬ理由もな……故にお前を教会に預け、たまに修行をつけてやっておるのだ。感謝せよ」

「感謝せよ? どの口が言います? 今の状況を見て言ってますか? だとしたら完全にボケてますよね!」


 リーシアが目の前にいるものを指差して、拳聖ゼスに唾を吐く。


「うむ。当然だ」

「もう完全にボケたおじいちゃんですよ!」

「お、おじいちゃんだと⁈」


 なぜかゼスがその言葉に反応し、嬉しいような寂しいような……複雑な表情を浮かべていた。

 リーシアが指差すもの……それは体長が六メートルを超える大型の爬虫類だった。獰猛そうな顔つきのソレは、前脚の翼をバタつかせて二人を威嚇する。

 
「なんで私が飛龍と、しかも二匹も倒さないとならないんですか! アホですか!」


 リーシアと指差す先には……Aランクモンスター飛龍二匹が二人を威嚇していた。


「リーシアよ……飛龍程度でオタついておっては、復讐を遂げるなど夢の夢だぞ」


「飛龍程度? おじいちゃ~ん! どこの世界に素手で飛龍二匹に勝てる女性がいるんですか⁈ 修行とか言って連れられて来てみれば……無茶にも限度があります」

「飛龍などドラゴンの中では最弱だ。最強を目指す以上、ドラゴンは避けては通れんぞ?」

「その最弱クラスの飛龍が、ランクAクラスなんですよ! たった一匹で、一軍に匹敵するレベルです。普通に避けますから、あともう無駄だと思いますが、一応言っておきます。別に私は最強を目指してはいませんから」

「これが反抗期か? いやはや、この年頃の娘の考えは分からん……」

「ダメです。もう完全にボケちゃってます。一人でなら逃げ切れるかもしれません……ここは老い先短い師父を囮にして逃げるべきですね。うん♪」

「うん♪ ではない! リーシア……お前は師を何だと思っておる。まったく……」

「キシャァァァァァァッ!」


 完全に存在を無視された飛龍たちが業を煮やし、威嚇の声を上げていた。


「まあ良い、よく見ておけ。今から見せる技は、極めれば神すらもほふる……覇神六王流の最終奥義だ」

「神すらも……?」

「そうだ。覇神六王流創始者、初代拳聖が生み出し、次代の拳聖たちが研磨した最強の技……だが、この技を使うには二つの奥義習得が前提条件となる」

「ええ? その最終奥義を使うのに、二つの奥義を覚えなければならないわけですか? メンドイです」

「案ずるな。お前には、もう二つの奥義を伝授しておる」 

「ええ? もう教わりました?」

「うむ。まずひとつ目は……」


 するとゼスが飛龍に向かって一歩前に出ると、莫大な気の奔流が体から吹き出し、彼の体から目に見えるほどの気の昂りが見えた。


「六道開門?」

「最終奥義は莫大な気を必要とし、使う気の量が多ければ多いほど、技の破壊力は上がる」

「待ってください。そんな莫大な気を一気に放出したら、打ち終わったあとはどうなるんですか? 気は生命活動のみなもと、なくなれば体が動かなくなりますよ?」

「そうだ! この技は相手を確実に葬り去るために、極限まで体内に宿る気を攻撃に転用する。故に体力が削られ瀕死になり、体は動かせなくなる……つまり技を外せば、その先に待つのは死だ!」

「つまり殺すか殺されるかの二択だと? ……そんな博打みたいな技を命がけで打てと?」

「うむ! 初代拳聖も技の完成は見たが、その欠点の前に敗れ去ったと聞かされている」

「覇神六王流創始者は負けたんですか?」

「うむ。古代龍エンシャントドラゴンの前にあえなく破れ去ったそうだ」

「こ、古代龍って神話に出てくる魔物ですよね? なんか覇神六王流を学べば学ぶほど胡散臭くなります……」

「リーシアよ、心配するな。初代拳聖は確かに敗れた。だからこそ、この技を受け継いだ次世代の拳聖たちは、長い時を掛けて技を錬磨したのだ」

「師父の心配と、私の心配は同じ言葉でも意味が違いますからね!」


 前に一歩出た飛龍がついに痺れを切らし、翼をバタつかせて飛び上がると、二人に向かって猛然と襲いかかって来た。


「あっ! 師父、来ましたよ!」


 ゼスと話しながらも警戒を怠らないリーシアは、飛龍の動きを察知して攻撃の軌道から横に避ける。

 だが、回避に成功したリーシアがゼスのいた方に顔を向けると……ゼスが飛龍の突進を避けながらも、その翼に拳を突き放っていた!

 拳を伝わって莫大な気が流れ込み、翼を破壊する。

 バランスを崩して地面に激突する飛龍……だが頑丈な体は激突のダメージをものともせず立ち上がり、破壊され動かなくなった翼を見ると、怒りの声を上げてゼスに突進する。


「そして長い時の中で、拳聖たちはその弱点を克服した! その答えが、この『真・絶技六式』だ!」


 飛龍の突進に右腕をくの字に曲げ、その場に腰を落としたゼス……体長六メートルを超える飛龍の突進を、微動だにせず肘打ちだけで止めてしまう。
 
 ゼスの放ったカウンター攻撃に、飛竜の動きが一瞬止まると怒涛の連続技が叩き込まれる!
 
 一撃ごとに莫大な気が飛龍の体に打ち込まれ、最後の六撃目が打ち込まれた時、飛龍はその動きを完全に封じられ身動きが取れなくなっていた。


「六道開門で増幅した莫大な気を、絶技六式で相手に叩き込む。増大した攻撃力で外部を破壊し、内部に浸透した気で体の動きを止める」

「えっと? つまり真・絶技七式は最終奥義を確実に決めるために相手を拘束する技ってことですか?」

「その通りだ。そしてこの状態にすることで、最終奥義は最大の力を発揮する」

 地面にひれ伏す飛龍を見て、リーシアの顔はあわれんでいた。
 体を破壊しつくされ、身動きもできない飛龍……もはやその目は、哀れな子羊のように怯え、弱々しく命乞いの声を上げていた。


「あの……すでに飛龍は虫の息ですけど? それ最終奥義を打つ意味あります?」

「……黙れ! ここまでして打たなかったら、格好がつかんだろう!」

「覇神六王流の継承者はアホばっかです!」

「いいから見ておれ!」

「はい、はい、男って生き物はまったく……」

「良いか? 体内にとどまった気は、相手の動きを封じる枷になると同時に最終奥義を完成させる前提条件となる」

「ふむ、ふむ」

「最後の七撃目をもって、あらかじめ叩き込んでおいた気を一斉に暴走させ相手の経絡、魔力路、血路、神経路、ありとあらゆる道を破壊し尽くし、膨れ上がった気が内部から体を爆散させる!」

「エ、エゲツない技ですね……ん? 爆散?」


 嫌な予感を覚えたリーシアが後ずさり、ゼスと飛龍からジリジリと距離を空けていた。


「内外全てを破壊する覇神六王流が最終奥技……とくと見よ! これがお前が目指す頂きだ!」


 ゼスの体に残る気が拳に集約されると、横たわる哀れな飛龍に打ち込まれる。体の中を気が暴れ回る。飛竜は動かせない体を必死に動かそうと悶えるがピクリとも動かない。最後に血の涙を流した飛龍は、打ち込まれた六ヶ所を爆散させて絶命する。

 飛び散る血肉がゼスの全身を濡らし、体を赤く染め上げた。


「ふ~、この技は絶大な攻撃力を誇るが、気の調整にしくじると命を落とす。技が成功したとしても、気を極限まで使うため、まともに動けなくなる。使い所を誤れば、待っているのは死だ。心して使え……時にリーシア、お前なんでそんなに離れておる?」


 後ろにいるリーシアに振り返ったゼスが呆れた顔をしていた。


「え? なんかイヤな予感がしましたので……離れて正解でした」

 血に濡れないよう、リーシアはそっと一人、距離を空けていた。


「拳士が血肉に濡れるなど、日常茶飯事だろうに……それに今からお前は、もう一匹の飛龍を倒すのだから、血肉に塗れるのは避けられんぞ」

 ゼスが背中越しにいるであろう、もう一匹の飛龍を親指で指差していた。


「えと……その飛龍なら、飛んで逃げましたけど?」

「なんだと⁉︎」


 慌てて振り向いたゼスの視線の先には、一目散に空を飛び逃げ出す飛龍の姿が映っていた!


「むう、仮にも最強種の末席にいる癖に逃げるとは、何たる根性なし。 それでもドラゴンか? 帰ってこんか! そして見事リーシアを倒してみせよ。ワシがアドバイスしてやるから!」

「このボケ老人、一体どっちの味方なんですか! なんで私を倒すためにアドバイスまでするんですか? バカですか!」

「クッ、せっかく王国軍の討伐隊を出し抜いて、ここまでやって来たと言うのに……お前が最終奥義を覚えなければ意味がないではないか!」

「いや、だからあんな技、私には必要ありませんよ。打つたびに生きるか死ねかなんて……オマケに血肉に塗れて全身を汚してまで、使う気にはなりせん。アレを人に使ったら、もっと最悪なことになりますよ。却下です」

「なぜだ、最強なんだぞ。当たればバーンと破裂して絶対に殺せるんだぞ。男なら誰もが夢見るだろうが!」

「だから私は女なんです。もうボケ老人の相手は疲れました。はあ~……一応、技については分かりましたから、多分私でも打てそうです」

「なっ、見ただけで使えるというのか⁈」

「ん~、多分です。前提条件の六道開門と絶技六式はもともと覚えてますし……あとは気の量の調整ですが、師父の見せた技を参考にすれば大体分かります」

「そんなバカな、最終奥義を一目で理解しただと?」

「ええ、できちゃうものは仕方がないです。さあ、飛龍もいなくなりましたし、サッサと帰りますよ。あっ! 飛龍の魔石や牙、肉は持って帰りますよ。孤児院の運営資金に充てますから」

「別に金なぞいらん。好きにしろ」

「はい。では師父、持てるだけ回収してください。食べられる肉と、高額で売れそうな部位を中心にお願いしますね」

「わ、ワシも持つのか?」

「は? ボケた師匠のために、こんなとこまで付き合ってあげたのですから、このぐらい当然ですよ。さあ早く拾ってください」

「拳聖と呼ばれたワシが死体漁りとは……情けない」

「師父、手が止まってます! さっさと高額そうな部位を回収してください」

「クッ、こいつ娘のカトレアにソックリだ。アイツも人使いが荒かったな……血は争えん」

「なんですか? いま母様の名前が聞こえましたけど?」

「何でもない。魔石があったぞ。この大きさなら高値で売れそうだ」

「やりました♪ これでしばらくシチューにお肉が入ります。みんな喜びますよ♪」


 リーシアはゼスのつぶやいたカトレアのことを忘れ、死体漁りに没頭してしまう。ゼスは笑顔で喜ぶリーシア顔を見て、実の娘カトレアのことを思い出しながら死体を漁る。

 ゼスを実の祖父と知らずに、拳の教えを受けるリーシア……奇妙な家族関係の二人は、今はただ揃って死体を漁るのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「無駄だ! 絶技六式は、もともと覇神六王流、最終奥義を決めるための拘束奥義なんだからな。神すらも封じる技……簡単には抜け出せるねえ。さあ、ヒロ! お前の命をかけたゲームがくだらないものでない事を、オレに見せてみろ」

(ああ、一発で決めてやるよ!)


 聖女の発破が、勇者ゲーマーの心に火をつけた。


「おのれ、キサマら人などに我が封じられるなど」


 新・絶技六式により、体の自由を奪われた憤怒がヨロヨロと立ち上がろうとするが、その動きは亀のように鈍く遅い。


「チッ、気の量が少なかったか。まだ動けるなんて……ヒロ時間は?」


 ヒロの目がモニターをチラ見すると、コントローラースキルの残り時間が、三十秒を切っていた。


(残り三十秒弱、リーシアやるぞ。準備はいいか⁈)

「ああ、いつでもイイぜ。あとはちかますのみ、これが最後の一撃だ」


 ヒロが全神経をコントローラーに集中し、目を閉じる。そのまぶたの裏には最終戦技・超裂砕風滅拳 竜獄殺のコマンドが浮かんでいた。

→↘︎↓↙︎←↖︎←↗︎→←→↓↘︎↖︎↗︎↙︎↓→ + P + K + G


(必要なのは正確さだ。一回、一回、十時キーをニュートラルの何も押していない状態に戻す。キー判定が無効にならない1フレーム約0.0167秒で次のコマンドの入力……これを繰り返すしかない)


 体の自由を奪われ満足に動けない憤怒が、聖女が何か仕掛けて来る気配に気づき、最後の力を振り絞って、聖女に噛み付こうと、その口を開け襲い掛かる。


「いくぞ、覇神六王流が最終奥義!」


 そしてリーシアの命をかけたコマンド入力は始まった。

 【→↘︎↓↙︎←】最初の難関の斜め方向への入力……十時キーコントローラーは斜め入力の難しさが弱点だが、幸いギガコントローラーは斜め入力に強い。ゆっくりと正確に押せば大丈夫だ! 

 【↖︎←↗︎ →←】次は鬼門の斜め上入力だ。下斜め入力に比べて普段あまり使わない斜め上入力は押しづらい。普段の修練がものをいう入力だが、異世界ガイヤに来る前までは、毎日千回に及ぶ全方向ボタンの入力練習をしていた俺なら問題ない!

 【→↓】 これは引っ掛け、斜め入力がないため、簡単に見えて実は難しい。リズムに乗った入力に慣れたプレイヤーほど引っ掛かる。騙されるな。確実にニュートラルからキーを押せ!

 【↘︎↖︎↗︎↙︎】ここだ! ここが1番の難所だ! 落ち着け、方向と向きを1回ごとに確認しろ。幸いスイッチのおかげで脳内時間に余裕がある。焦るな……確実に入力しろ!

 【↓→】難関が終わったあとの引っ掛け……だが俺には通用しないぞ! 

 【P + K + G】 知っているさ。三つボタン同士押しの難しさはな! ボタンを同時に押していたとしても、ボタン一つずつの硬さと入力判定は微妙に違う。大雑把なゲームなら問題ないが、入力がシビアな格闘ゲームでは同時押し失敗もあり得る。だが……このギガコントローラーのボタンの硬さと入力タイミングの確認は完璧だ。Pボタンが多少硬いため、他のボタンより0.01秒早く押さなければ誤差0.005秒以内に収まらない。焦るな! 自分の体内時計を信じろ! 


 そして全てのコマンドが入力を終えた時、画面に表示されていた謎のゲージが光輝き、モニターにパーフェクトの文字が表示された。


(ゲームと呼ばれた俺に打ち込めないコマンドなんがありやしない。リーシア!)


 すでに残る全ての気を込めた拳を構え、震脚した聖女が、砲弾のように憤怒に向かって飛び出していた。


「やったなヒロ、あとは任せろ!」

(憤怒、これで終わりだ)


 最後の一撃……全ての条件が揃い勝利を確信したヒロは、モニター越しに大きく開け放たれた憤怒の口を見てしまった。


(しまった、逃げろリーシア!)


 憤怒の大きく開いた口から、触手の舌が聖女に向かって打ち出される。当たれば確実に殺される、凶々しい黒い闘気をまとった一撃が聖女を襲う。だが、リーシアは憤怒の目の輝きを見抜き、最後の足掻きを予見していた!


「往生際が悪いんだよ!」


 最後の力を使って足掻く憤怒の攻撃を、少女は二段ジャンプを発動し避けようとするが……聖女の脇腹を触手が貫き、穴を穿うがつと鮮血が飛んだ。


「グッ!」


 聖女が痛みで顔をしかめる。

 それを見た憤怒の顔に醜悪な笑みが浮かぶ……そして勝利を確信した時、最大の隙が生まれた!


「やれぇぇぇ! ヒロォォォォ!」

(Bダッシュ!)


 刺し貫かれた脇腹を無視して二段ジャンプを発動したリーシアと、それに合わせたヒロがBダッシュをコントローラーに打ち込んでいた。


「根性だあぁぁぁぁぁ!」


 脇腹を引きちぎられながらも、リーシアが拳を振りかぶり、憤怒の顔に目掛けて一直線に突き進む。

 聖女がそのまま憤怒の口へと飛び込むと……最後の一撃を口の中へ叩き込む。


しんめっきゃく!」


 莫大な破壊力を秘めた一撃が、憤怒の口の中で爆発した。勢いは止まらず、聖女は憤怒の口の中を突き破り外へと突き抜ける。


「バカな、我が? な、何だこれは、体が?」

「(俺たちの勝ちだ!)」


 憤怒の体の中で止まっていた気が、最後の一撃により、連鎖的に暴走し経絡、魔力路、血路、神経路と、体の中にある、ありとあらゆる道を破壊し尽くす。

 聖女に打ち込まれた箇所が内部から爆散し、ドラゴンの体を形成していた触手が、次々と体から剥がれ落ち死滅していく。

 四本の脚と翼の付け根、首と頭……七ヶ所が派手に吹き飛び、内部の触手を撒き散らす。

 ついに巨体を支えられなくなった体が地響きを立てて横たわると、触手が全て崩れ去り消滅すると、その巨体が横たわっていた場所に、小さなオークがうずくまるように倒れていた……そしてそこから少し離れた場所に、同じく地面に倒れ伏す二人の男女の姿があるのだった。

聖女ヤンキーの拳が激闘に終止符を打った時、希望と絶望の物語に終わりが告げられようとしていた〉
























◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「やはり運命は変わらんか……本上もとがみ英雄ヒーローよ」


 ひとつ目の仮面をつけた男、サイプロプスが嫌気が刺した声で言い放つ。


「この後、リーシアを殺された怒りで憤怒に体を乗っ取られ、破滅の魔王に落ちるか……はたまた、憤怒に勝利して三代目勇者として覚醒するか……このままお前が、憤怒に勝っても負けても最終的な結末は変わらん……クソッ!」


 サイプロプスが誰もいない空間に殺気を放ち、湧き上がる心の怒りを霧散させる。


「俺に必要なのは、そんな陳腐な結末ではない。世界のことわりを……システムを破壊する何かだというのに……何が、何が足りないのだ? このふざけた世界を破壊するために必要な要素ファクターとは、一体何なんだ⁈」


 絶望に項垂うなだれるサイプロプス……だが、モニター画面から目を離し考え込む彼には見えていなかった。
 
 サイプロプスの知る結末にはない要素ファクターが……希望の紡いだ絆が現れたことを、全裸の彼はまだ気づけないのであった。
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