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第8章 勇者と囚われの虜囚編

第75話 ヒロ……男の夢!

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「こっちを向いたら腹パンチですよ!」

「リーシア、それどころじゃ……」


 口を開くヒロは、リーシアが発した殺気を感じて押し黙る。

 リーシアに平手打ちされ吹き飛ばされたヒロ……リーシアが服を着るまでの間、痛みを堪えて地べたに座っていた

 剥き出しの岩壁の方を向くヒロの背後から、リーシアの服を着る音が聞こえてくる……普段なら、すぐ後ろで女の子が着替えているシュチュエーションにヒロはドキドキのはずだった。しかし際限なく湧き上がる身体の痛みで、それどころではなくなっていた。


「い、一体どうなっているんだ? ス、ステータスオープン」


 今の状態を確かめるため、ヒロは痛みを堪えステータスを確認すると……。



 名前 本上もとがみ 英雄ヒーロー
 性別 男
 年齢 6才(27才)
 職業 プログラマー

 レベル :11

 HP:    20/200(+100)
 MP:130/150(+100)

 筋力:140(+100)
 体力:160(+100)
 敏捷:140(+100)
 知力:160(+100)
 器用:150(+100)
 幸運:135(+100)

 固有スキル デバック LV1
       言語習得 LV2 (レベルUP)
       Bダッシュ LV3
       2段ジャンプ LV2
       溜め攻撃 LV2(レベルUP)
       オートマッピング LV1
       ブレイブ LV1 (ロック)
  
 所持スキル 女神の絆 LV2
       女神の祝福 【呪い】LV10
       身体操作 LV4(レベルUP)
       剣術 LV3(レベルUP)
       投擲術 LV2(レベルUP)
       気配察知 LV2(レベルUP)
       空間把握 LV2(レベルUP)
       見切り LV1(New)
       回避 LV1(New)
       危険感知 LV1(New)



「HPが20しか残ってない……やばい『リスト』!」
 

 すぐにアイテム袋のメニュー画面を開くヒロ。メニューに表示されたポーションは残り三本……とりあえず全てを取り出し地面に並べる。

 一本目のポーションを手に取ると、フタを開けるなり一気に飲み干す……口の中に草から抽出し凝縮された青臭さが、口の中一杯に広がった。

 ヒロの世界で言うならば、健康飲料である「不味い……もう一杯!」で有名な○汁をさらに凝縮してトロミを付けた感じである。

 ようするに……激マズだ!

 だが痛みにさいなまれるヒロに、味わっている暇など無い。

 一本目のポーションを飲み干すと、ヒロは胸に包帯代わりに巻かれた旅人の服をほどき始めるのだが、服と傷口が血で固まりくっついてしまい、なかなかほどけない

 仕方なく、無理やり傷口と服を引き剥がすヒロ。
 少しずつゆっくりと剥がすが、痛みの信号は容赦なくヒロの脳に届けられる。

 傷口が発する痛みに耐えながら、ようやく包帯代わりの服を剥がし終えたヒロは傷口を見ると……右胸から左腹に掛けて大きな切り傷ができており、血が少し滲んでいた。

 リーシアが止血のために、ヒロの服を裂いて巻いてくれたおかげで、痛みはあるが出血は抑えられ血が固まっていた。

 どうやらオークヒーローの一撃は、ギリギリ内臓には届かず大きな欠陥の損傷もなかったようだ。

 傷口を見るや否や、2本目のポーションをヒロは手に持つと、すぐにフタを開け、大きな傷口全体にポーションを掛けていく。


「いっ!……たくない! 痛くない!」


 ポーションが傷口に流し込まむだけで発するみる痛みを、ヒロは精神力で無理やり押さえ付ける。

 あの謎空間で味わったスッポンポンからの死ぬ程のダメージ……文字通り、廃人寸前まで受け続けた痛みの経験がなければ、こんな冷静に傷の処理なんか到底できなかった。

 変態チックだったが、教そわった事は無駄ではなかったと……ヒロは心の中で改めてスッポンポンに感謝する。

 傷口全体にポーションを掛け終え、多少だが痛みが和らぎ一息入れると、ステータス画面を再び開きHPを確認する。


HP:    55/200(+100)


 HPの残りが55まで回復していた。
 
 少しだが回復した事にヒロは安堵しながら、残り1本も飲もうとポーションをヒロは手にする。

 たが、今飲んでも回復量的に劇的な回復は見込むめない……ならば、もしもの時のためにと、最後のポーションをヒロはアイテム袋に再び仕舞い込んだ。

 俗に言う勿体ない症候群である。ゲームの中には高価で、なかなか手に入らない希少レアなアイテムがある。折角手に入れた希少レアアイテムをここで使うのは勿体ないと、使わずに温存する行為である。

 重症になるとラスボスに使うのも勿体ないと、最後の戦いでも使わない猛者がいるぐらいである。
 ヒロはそこまで重症ではないが、先が見えない不安に備えておく必要があった。

 最後のポーションをアイテム袋に仕舞ったヒロは、再び包帯代わりに自分の服で傷口を巻き始めた。


「ふ~、とりあえず、こんなとこかな……」

「ヒロ、こっちを向いていいですよ」


 傷口を塞ぎ終えると同時に、リーシアも着替え終わり、背中越しにヒロへ声を掛けてくれた。

 リーシアの声を聞いて、ヒロは力を込めて立ち上がろうとするが、体に付けられた傷が発する痛みでバランスを崩し、そのまま後ろへ仰向けに倒れてしまった。


「ヒロ! 大丈夫ですか⁈」


 痛みで倒れたヒロを見てリーシアが近づくと、膝立ちになってヒロの顔を覗き込んだ。


「す、すみません。ポーションを飲んで傷にも掛けましたが、まだ痛みが……こ、このまま話をさせてください」


 痛みを堪えるヒロの目に、オークヒーローとの戦いで所々が破れた服と、傷付いた革鎧を身に着けたリーシアの姿が映っていた。

 その様相から、リーシアも決して少なくないダメージを負っている事は明白だった。

 心配そうにヒロの顔を覗き込むリーシアを見て、無意識の右手による変態行ために、ヒロは恥ずかしくなる。


「ヒロ……ご、ごめんなさい。痛みが無さそうだったから、てっきり回復したのかと勘違いして、力加減を間違えてしまいました。本当にごめんなさい」


 リーシアが痛みに堪えるヒロを見て、やり過ぎたと思い謝ってきた。

 変態行為に及んだヒロも悪いが……あと先考えずに引っぱたいた事を、リーシアは後悔して素直に謝っていた。


「気にしないでください。僕も悪かったです。リーシアごめん」


 ヒロも無意識とは言え、右手が起こした痴態行為について素直に謝まる。

 互いに悪かった事を認め、許し合う二人……心の中につっかえていたものがなくなり、気持ちが軽くなっていた。


「それではお互いさまと言う事で、この件は終わりにしましょう」


 リーシアからのお許しも出て、場も和んだところでヒロは本題に入る。


「分かりました。それじゃあリーシア、僕が意識を失っている間に何があったか教えてください」

「ええ、分かりました。その前に……ちょっと失礼しますね」


 そう言うと、リーシアがヒロの頭を持ち上げてその下に膝を入れると、ヒロの頭を太ももに乗せて座り直す。


「え?……あ、あのリーシア……」

「コホン、こ、この方がヒロも話しやすいと思ったんです。リゲルが熱を出して苦しい時、こうしてあげると楽そうだったので……いやなら止めますよ?」

「いえ! 大変結構です。ぜひ、このまま話をさせてください!」


 ヒロのテンションが上がりまくる! それもそのはず……女の子に膝枕! それを嬉しくないと思う男がいるわけがない。

 彼女にしてほしいランキングで、常に上位に輝く膝枕!

 それを断る理由など、ヒロにはなかった。

 頭の後ろに感じるリーシアの温かな体温……柔らかな太ももの感触……息が感じられるぐらいの顔の近さ……見上げれば、その胸の双丘を合法的に見られるシュチュエーション……それこそが男の夢! 膝枕なのだ!

 ヒロはあまりの嬉しさに、先程まで体をさいなんでいた傷の痛みが引いている事に気づいていなかった。
 嬉しさで舞い上がるヒロは、高まるテンションを抑えながら話を続ける。


「まずは確認です。僕が意識を失っている間に、何があったのかを教えてください」

「分かりました。私が目覚めた時からの事をお話しします」


 ヒロはまず状況を確認するため、リーシアの話を静かに聞く事にする。


「私が目覚めた時、私の横にヒロが倒れていましたが……」


 リーシアの言葉が止まり、その先を言いよどんでしまう。


「……いましたが?」


 何かあったのかと、ヒロがその先を促すと……リーシアが意決して声を上げた。


「ヒロはすでに死んでいました!」


〈勇者は死に、世界は終わりを迎えていた!〉
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