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第3章 勇者と異世界、初めて編

第23話 アルムの○○○ル、リーシア!

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 マルセーヌ王国、君主制の国家で王を頂きとする貴族社会であり、貴族とは王から王国の土地を貸し与えられ、貴族特権で守られた人々の総称である。
 
 特権…… 領地、財産などを世襲で所有し、納税の義務がない。その代わり王国の防衛や有事の際、貴族には戦力提供の義務が課せられている。

 自領の民の生命に危機がせまれば、生命を投げ捨ててでも守らねばならない。
 貴族とは、戦いになれば先頭に立ち、死も恐れずに勇猛に戦うことを義務付けられていた。

 王国が建国された当時は、崇高なこころざしのもとに数多あまたの優秀な貴族が土地を治めていたが、王国暦が500年も過ぎると、貴族社会はもはや腐敗の一途を辿ってしまう。

 貴族は世襲制である。親から子へ受け継がれたはずの志は忘れ去られ、特権と腐敗だけが受け継がれるようになっていった。

『貴族以外は人にあらず、高貴なる我らに下民が尽くすのは当たり前』、そんな事を平気で言う貴族が現れ始めたのだ。

 人の命をなんとも思わない貴族による粗暴な振る舞いに……民は苦しんだ。
 特権に守られた貴族には、国のトップである王ですら口を出せず、国は少しずつ内側から腐敗して行くのだった。
 


 マルセーヌ王国の首都より遠く、東の離れた場所にラングリッドと呼ばれる城塞都市が存在する。

 早馬でも首都から一ヵ月はかかる距離にある城塞都市ラングリッドは、王都の西を守る要として重要な都市であった。

 元々は他の町より少し大きいだけのラングリッド……城塞都市と呼ばれる迄に大きくなったのには訳があった。

 それはここよりさらに東にある獣人族が治める国が原因となる……長年、人族と獣人族の間にはいざこざが絶えず、人族が獣人族を獣と定義し人より劣る者として虐げてきた事に起因する。

 当然、獣人族は不当の扱いを受ける同族を守ため、初代獣王が獣人による獣人のための国を建国した。
 以来、人族と獣人族の終わらない争いが続き、今や二つの種族の間には、安易には埋められない深い溝が出来ていたのである。

 結果として、ラングリッドの町は獣人族の侵攻を妨ぐ名目で町の周りを壁で囲み、屈強な獣人からの襲撃にも耐えられる堅牢な城塞都市へと発展していった。

 城塞都市ラングリッドの人口は約1万人、王都に住む民が20万人を超える事を思うと町の規模としては些か少なく感じる。
 これは人口の増加に耐えられない、城塞都市の欠点である拡張性のなさが原因であった。

 城塞都市は一度壁を作れば、それ以上に拡張するのとは難しい。さらに大きな壁を作るくらいならば、離れた場所に衛星都市を作り、人を移住させた方が安上がりで経済的にも潤う。
 人・物・金の流れが活発になることで、さらなる富と発展へとつながっていく訳である。


 城塞都市ラングリッドの周りには幾つかの衛星都市が存在した。ラングリッドから南に位置するアルムの町も、衛星都市の一つ数えられている。

 肥沃な大地と森林により、穀倉地帯として有名なアルムの町……人口は5000人、住民の7割は農業に従事しておりラングリッドは勿論、王国首都にも食料を供給する衛星都市であった。

 さらにアルムの南に広がる森林地帯は、濃密な魔力溜まりにより、常に食用のモンスターや動物が沸き続けている。そのおかげでアルムの町だけでなく、周りに住む人々の腹を満たす重要な町となっていた。
 

「さあ、ヒロ着きましたよ。ここが城塞都市ラングリッドの食料庫と言われる町、『アルム』です!」

「良かった……野宿をせずにすみました」


 ヒロとリーシアは赤い夕日が大地に沈む前に、何とかアルムの町に辿り着いていた。

 アルムの町は南の森が近いこともあり、魔物の暴走が起こった有事に備えて、町の外に深い堀りが作られており、割石とモルタルを組み合わせた頑強で強固な壁が、町の周りをグルッと囲っていた。

 町の南北には町への出入り口が2カ所あり、5メートル程の跳ね橋と大きな門が見えていた。

 道中リーシアから話を聞いていたが、町の防衛と防犯のため、夜間の町への出入りは禁止されてそうだ。
 跳ね橋を上げられ、門が閉ざされてしまえば朝まで誰も町に入れなくなり、野宿の道しかなくなってしまう。

 一応アイテム袋には最低限のアイテムが入っているので野宿はできる。だが、安全な町で休めるならそちらを選択するのが普通であった。
 日が傾きつつある道を急ぎ、門が閉まる前までになんとかヒロは町へと辿り着けた。


「何人か人が並んでいますね?」

「はい。アルムの町はラングリッドに、小麦や魔物の素材、その肉を加工して提供していますから、商人さんの出入りが多いのです」

「町の入り口で、門番が持ち物検査とかしているわけですか?」

「それもありますが、通行税を払うためですね」

「通行税?」


 ヒロも並んで順番を待つ間、リーシアが説明してくれた。

 毎年、町に住む人は人頭税を町に納めねばならず、これが払えないと町に住めないそうだ。人頭税は15歳を迎えた翌年から支払いが発生し、1人辺り銀貨150枚が必要になるらしい。

 1銀貨の価値が分からないので、それが高いのか安いのかはヒロには判断できなかった。
 そして住人以外が町に入るには、毎回通行税を門番に支払わなければならず、銀貨5枚が必要になるそうだ。


「ヒロ、お金は持っていますか?」

「持ってます」


 あらかじめアイテム袋から、肩掛けのカバンに着替えの服とお金を入れておいたヒロは、銀貨をリーシアに見せた。


「良かった。もしかしたらランナーバードをギルドにまで持って行って、お金に変えなくちゃならないかと心配していました」

 
 門が閉まる時間が差し迫っており、ヒロがお金を持っていなければギルドで獲物を急ぎ売り、お金を工面しようと考えてくれていたようだ。
 ギルドに売るにしても、時間が掛かると門が閉められしまい、ヒロは一人で町の外に野宿する羽目に……。
 

「女神セレス様、ありがとうございます」

「次! 今日はお前たちで最後だな」


 ヒロは改めてお金をアイテム袋に入れておいてくれた女神セレスに感謝を口にしていると、門番に声を掛けられ前へと進む。

 リーシアは背中に背負ったバッグから、金属のカードみたいな物を門番に見せて確認してもらっていた。
 多分、この町の住民である事を証明する物なのだろう……だが、三人の門番がリーシアのカードを確認すると、表情が曇り始めた。


「あんたが……」

「ヒソヒソ(あまり関わるなよ、さっさと通しちまおう。)」

「ヒソヒソ(面倒事はゴメンだ)」

「あんたは通っていいぜ」

「ええ、それでは通らせてもらいます」


 余所者のヒロではなく、リーシアを見てしかめっ面になる三人の門番は、ヒソヒソと何かを小声で耳打ちするとリーシアだけを先に通してくれた。

 背中に背負ったカバンの中身も確認されず、そのまま門を通り抜けるリーシア……まるで腫れ物に触れてはいけないみたいな、門番の素っ気ない態度と、リーシアの無機質な表情にヒロは疑問を覚えた。

 出会って間もないが、明るく元気が良いリーシアからは想像ができないほどの、冷たい声と表情に違和感を覚えた。
 

「お前で最後だな。見ない顔だが行商か?」

「いいえ、遠い田舎から出て来まして各地を旅しています」

「旅人か……おまえ、あの女とどういう関係だ?」

「え? 森の中で助けられて、この町まで案内してもらった関係ですけど?」

「悪いことは言わん。あの女に関わるのは止めておけ。コレは忠告だ」


 門番の一人は、ヒロとリーシアが一緒にいる事を心配してくれているみたいだった。


「オイ! サッサとしろよ。門が閉められないだろう」


 別の門番が、もうそいつらに関わるなと言うみたいに、話し込むヒロと門番を急かし始めた。


「カバンの中身を見せてもらうぞ。通行税は銀貨5枚だ」
 

 忠告してくれた門番にカバンの中身を確認してもらう。
 カバンの中にはお金と着替え、食料と水が入っているだけで特に問題があるような物は、何も入っていなかった。

 腰に下げたアイテム袋も見てもらったが、やはり自分以外には空の麻袋にしか見えていないようだった。
 持ち物検査が無事に終わり、手を差し出した門番に銀貨5枚を渡すとアルムの町への通行の許可が出た。


「このプレートはなくさないように。もしなくした場合、町への不法侵入とみなされ捕まるからな」


 そう言って金属のプレートをヒロに渡すとそのまま門番は門を閉める作業するため、歩いて行ってしまった。
 ヒロはプレートをなくさないよう、アイテム袋の口に放り込み収納した。

 ついに異世界の町へと足を踏み入れるヒロは、興奮冷めやらぬ様子で、先に待つリーシアと合流しキョロキョロしながら町中を歩く。
 

「大丈夫でしたか?」

「はい。無事に通れました。ありがとうございます」

「どう致しまして♪」
 

 ヒロは心配してくれていたリーシアに感謝を述べる。
 リーシアの表情と声は今まで通りの元気な感じで、さっきの門番との会話で見せた無機質で冷たい口調ではなかった。
 リーシアのことを気に掛けながらも、ヒロは初めてとなる異世界の町並みに驚嘆していた。
 
 南の門から北に向かって真っすぐに伸びる道は、石畳で綺麗に舗装されていた。
 横幅だけで5メートルはある道に沿って商店や屋台が立ち並び、商人達の熱気と声が通りを賑やかしていた。

 ヒロはふと、日が落ち辺りが暗くなる中、道の端に等間隔で置かれたランプみたいな物が光を放ち、道の周りを明るく照ら出していることに気がついた。


「あれは光ゴケと魔石を利用した魔導ランプです」

「魔導ランプ?」


 物珍しそうにしているヒロを見て、リーシアが説明してくれた。

 魔導ランプは、光苔と魔石を利用することで周囲を明るくしてくれるアイテムなのだそうだ。
 光苔とは魔力を吸収して光を発する苔の一種で、魔力を栄養と光に分解する事で成長と繁殖を繰り返し、合成で発生した光を放出して、周囲を明るく照らす性質があるらしい。

 魔導ランプとは、この性質を利用して魔物から取れる魔力の塊である魔石を光苔と一緒にする事で、周囲を明るくするアイテムだった。

 明るさは元の世界で例えるなら、ほぼ蛍光灯と同じ位の明るさである。
 魔石を燃料にする分、こちらの方がクリーンでエコなアイテムだった。
 安価で使い勝手が良い魔導ランプは開発されるや否や、爆発的スピードで普及し、結果……日が沈めば家で寝るしかなかった人々は、夜の時間にも働けるようになり生活がより豊かになっていった。
 
 北へと伸びる通りには大小様々な店が軒を連ね、人々と商人のやりとりでうるさい位の活気がある。


「取り敢えず今日はもう遅いですし、狩った獲物の解体と売却は明日にしましょう……聞いてますかヒロ?」


 キョロキョロと周りを物珍しそうに見るヒロを、リーシアが声を掛ける。
 

「ああ、すみません。見たことがないものばかりなのでつい……」

「そんなに珍しい物はないと思いますが……ヒロは一体どこの国から来たんですか?」

「もう遥か遠い国です……」

「遥か遠い?」


 ヒロはリーシアの問いに正直に答えられず、はぐらかして答えるしかなかった。


「取り敢えず、今夜はどうしますか? 予定より遅くなってしまいましたから、獲物を解体もしくは何処かのギルドに持ち込むにしても今日はもう無理です。私は孤児院に帰りますので問題ないですが、ヒロはどうします?」

「宿屋とかはあるのかな?」

「アルムの町に何軒かありますが、この時間だと部屋が空いているかですね……もしよければ孤児院に泊まりますか?」


 リーシアに問いにヒロは考える。

 いくら死闘を切り抜けた間柄と言っても、突然押し掛けて泊まるのも悪い気がする……変な所で日本人の遠慮がちな気質が出てしまった。
 

「いえ、リーシアに悪いですし、宿屋を探してみます」

「そうですか……分かりました」


 心なしかリーシアの声のトーンが低くなった気がした。


「そうだ。肉は先に持ち帰りますか?」

「はい! あの大きさなら持って帰れますから受け取りますね。今夜はウサミン焼きです♪」

「じゃあ渡しますね、アイテ『ダメです!』ムグ」


 ヒロは早速アイテム袋を使うため、声を出そうとするがリーシアが素早く近付き、ヒロの口を押さえて声を止めてしまった。

 口元に、空いた手の人差し指を縦に伸ばし『シー』という仕草をするリーシア……可愛いしぐさにドキドキするヒロは、声を出せなくなってしまった。
 突然の事に驚き、アタフタするヒロをリーシアが手を引いて人気がない路地裏へと引っ張り込んだ。


「ヒロ、無闇にアイテム袋を道端で使ってはダメです」

「え? なぜですか?」


 真剣なまなざしで、リーシアがヒロの疑問に答えてくれた。
 
 アイテム袋は便利で誰もが欲しがる物だが、実際に持っている者はほとんど居ないらしい。
 居たとしても国が保有するか、せいぜい大商人かS級冒険者が持てるかどうかのアイテムなのだそうだ。
 お金では買えないアイテム袋が、もし売りに出されれば、とんでもない値段で取り引きされる。
 収納出来る容量によって値段は変わるが、ランナーバードが入るぐらいのアイテム袋でも金貨が飛び交うほどなんだとリーシアが教えてくれた。

 それ故に、アイテム袋を持つ者を殺してでも手に入れようとする者も少なくない。
 リーシアが町中で、アイテム袋を使おうとした事を止めてくれた理由がようやく分かった。


「でも僕のアイテム袋は、多分他の人が手に入れても、僕以外には使えないですよ?」


 ヒロがアイテム袋を覗くと、広大で果てがない黒い空間が見える。たがヒロ以外の者が覗けば、底のあるタダの麻袋としか見えない。
 おそらくこのアイテム袋は、他の人には使えない、ヒロの専用アイテムであると考えられた。

 だがリーシアは、真剣なまなざしでヒロの目を見つめながら話てくれた。


「ヒロ以外に使えなくても、アイテム袋を使わせる方法はいくらでもありますよ」


 リーシアのエメラルドグリーンの瞳に、なぜか怒りの炎が灯って見えた。


「弱みを握る。大切な者を人質を取る。強制的に奴隷にして無理やり従わせる事だってできるんです!」

「ど、奴隷⁈」

「このマルセイル王国では、重犯罪者を除いて勝手に人を奴隷にする事はできません。違法な方法で奴隷にすれば、王族といえども罰せられます。ですが……」

「抜け道がいくらでもあるって事ですか?」


 リーシアが悲壮な顔で頷く……。
 

「だから、アイテム袋は極力隠した方が良いのです」

「分かりました。気を付けますね。ありがとうリーシア」

「はい。気を付けてください」


 笑顔に戻ったリーシアを見て思わず見惚れてしまうヒロは、顔を赤らめながら周りに人が居ないか確認してから、アイテム袋のメニューを開きウサミンの肉塊を取り出した。


「じゃあコレを」

「はい。確かに受けとりました。ありがとうございます」


 リーシアがお礼を述べる。


「それじゃあリーシア、今日の所はここで解散しましょう。明日はまた、先ほどの門で待ち合わせで良いですか?」

「分かりました。では、明日のお昼頃に待ち合わせしましょう」

 
 リーシアと路地裏を出たヒロは、リーシアと互いに手を振りながら分かれた。
 リーシアの後ろ姿が見えなくなるまで、その場にいたヒロは、今夜の宿屋を探そうと再び歩き出す。


「早く宿に泊まってゆっくり寝たいな~、部屋に空きがあれば良いけど……なんとかなるかな」

 
 初めての異世界体験に、緊張と不安の連続に疲れ果てたヒロ……早く宿屋を見つけて疲れを取るべく、今夜の宿を意気揚々と探し始めるのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな安易に部屋が見つかると、のんきに考えていた数時間前の自分を殴りたかった!

 町行く人に宿屋の場所を聞いて訪れること八軒目……今まで訪ねた宿屋は全て満室で泊まれなかった。
 最後の望みこの宿屋……ここがダメならもう道端で寝るしか道はなかった!
 
 宿屋の扉を開くとカウンターに座る中年の男性がヒロに気付き、手を止めて横目でチラリと流し見てきた。

 ヒロは品定めされている視線に、居心地の悪さを感じながらカウンターに座る男の元へと足を踏み出す。


「あの~すみません。部屋に空きはありませんか?」

「…………」


 ヒロが声を掛けるが、無言の男……宿屋なのに全く愛想がない対応にどうしたものかとヒロが考えていると、おもむろに男が手元にある台帳に視線を落とし文字を記入し始めた。


「え~と、お金ならあるのですが……宿に一晩泊めていただけないでしょうか? お金は先払いでも構いませんので……」

「……」


 無言で記入を続ける男と完全に無視されるヒロ……沈黙が二人の間で流れていく。そして……。


「あんた、孤児院の娘と一緒にいたって、噂の男だな? 悪いけど部屋に空きはない。他を当たってくれ……」

「噂? 何の話ですか?」

「いいから仕事の邪魔だ。出て行ってくれ!」


 ヒロは訳も分からないまま、最後の宿屋も追い出されてしまった。それにしても今の男の言葉。


「孤児院の娘ってリーシアかな? なんでかは知らないけど、リーシアと一緒にいたのが噂になって宿屋に泊まれないってことか?」
 

 ヒロは疑問に思ったことを、一つずつ整理して考えてみる。


 ヒロは集中する。
 なぜ門番はヒソヒソ話でリーシアの持ち物もロクに調べずに門を通したのか?
 
 ヒロは集中する。
 なぜ門番はリーシアに関わるなと忠告したのか?

 ヒロの灰色の脳細胞がこの事件の謎を解き明かそうとフル回転する。



 名作アドベンチャーゲーム、ボードビアガーデン殺人事件をクリアーしたヒロに解けない謎はない!
 ボードビアガーデン殺人事件とはウラコンで発売された初の推理アドベンチャーゲームである。

 小説仕立ての推理アドベンチャーという、当時では存在しなかったジャンルとして人気を博し、特に大ドンデン返し的なストーリーは、多くのプレイヤーを引きつけた。

 ゲームをやったことがない人でも、『犯人はスヤ』このフレーズを知っている人は多い。
 

「はっ! まさか……いや、そう考えれば確かに辻褄が合う!」


 ヒロは思考の果てに答えに辿り着いた!


「なぜリーシアと一緒にいたのが噂になっているのか? それは……リーシアがこのアルムの町の『アイドル』だったからか!」


 あの美貌と可愛さ、そして明るい性格……あれだけの要素を持つリーシアが、町のアイドルでなくて何だと言うのだ!

 門番はきっとリーシアのファンだから、浮かれて持ち物チェックを忘れたに違いない。

 そしてプライベート中にアイドルとしてバレてしまい、リーシアは不機嫌になっていたのだろう。


「門番の忠告は、リーシアにはファンがいるから、あまり馴れなれしくするなという警告だったか」


 そうすると宿に泊まれず噂になった訳も納得できる。
 宿屋の亭主たちは、みんなリーシアのファンだったのだろう……見かけない奴が、アルムのアイドルであるリーシアと馴れなれしくされて、良い感情を持てる訳がない!
 

「クッ、門番の忠告が当たってしまったと言うのか……しょうがない」


 もはや宿屋に泊まるのが絶望的な状況に陥ったヒロは、仕方なく野宿が出来そうな場所を求めて歩き出した。

 幸い、今は気温も暖かく、雨風さえ凌げれば野宿でも問題ないだろう。初めてだらけの異世界に疲労を隠せないヒロは疲れた体にムチを打ちアルムの町をドボドボと歩き続けた。

 そして商人が多数軒先を連ねる通りに足を踏み出した時、偶然、通りに置かれた品物がヒロの目に飛び込み、一瞬で彼はソレに惹きつけられてしまった。

 ヒロの前にそれは見事な装飾を施された壺が、置かれていたのである。
 商人が販売するために道端へ置いた壺……芸術の域にまで高められた造形の美しさにヒロの目は奪われてしまった。

 抗えぬ衝動に意識が奪われ、本能に訴え掛ける声が頭に響き渡る……この壺を叩き割れと!


 ヒロの意識はそこで途絶え、次に気付いた時には壺を高らかに上げ、地面に壺を叩きつけて割ろうとする瞬間だった。
 


【謎の声に導かれ、ヒロは渾身の力で壺を叩き割った!】
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