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第一部

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 ファミレスに入って席に着いたヒカリは、目を輝かせてメニューに見入っている。

 ヒカリは半妖なので、人間の食べ物を口にしても大丈夫なのか確認すると、食べても害はないということだった。

 普段は他の妖怪のように自然界からエネルギーを吸収しているらしい。

「おごるから、好きなものを頼んでいいよ」
 報酬をもらったばかりの俺は、気が大きくなっていた。

 妖怪退治で稼いだ金は、ほとんど母さんに没収されて生活費に消えてしまうのだが、今回は少し散財させてもらうことにする。

 ヒカリは小首をかしげながら和風ハンバーグステーキの写真を指差して
「これにしようかな」
 と甘えた声を出す。
 美少女を前にして、俺の目尻は下がりっぱなしだ。

 店員に注文し終えると、ヒカリは早速本題を切り出した。
「封印の術をかけた時に使った御札おふだは、ハルト君が書いたの?」
 彼女に尋ねられた俺が、レンという奴が書いたと教えると、ヒカリは彼に会いたいと言い出した。

 俺は、正直なところあまり二人を会わせたくなかった。
 レンはイケメンだったから、ヒカリを取られてしまうような気がしたのだ。
 取られるも何も、ヒカリは俺の彼女でも何でもないんだけどね。

 渋る俺に、ヒカリが
「どうしても頼みたいことがあるの。会わせてほしいな」
 と可愛くお願いしてくる。

 御札を書いてもらうことになった時に、レンとは連絡先を交換していた。
 ヒカリに懇願された俺は、今から来られるかレンに聞いてみることにした。

 時間は午後八時過ぎ。
 よっぽど仲の良い友人でもない限り、この時間から出かけるのは面倒なはずだ。
 俺はレンが断ってくることを期待しつつメールを送信した。

 すると、すぐにレンが電話をかけてきた。

 彼は開口一番
「何かあった?」
 と心配そうな声を出す。

 もっとドライな奴だと思っていたから、意外と情に厚いんだなと驚いた。
 俺は今日の出来事と、半妖のヒカリが会いたがっていることを伝える。

 レンは
「すぐに行く」
 と答えてファミレスの場所を確認すると、電話を切った。

 先程注文した料理が届き、ヒカリが嬉しそうにハンバーグを口に運ぶ。

 俺達が食事を平らげた頃に、息を切らしながらレンが到着した。

 彼はヒカリを一目見るなり体を硬直させ、立ったままじっと彼女を見つめている。

 無理もない。
 まれに見る美少女だもんな。

「まあ、座りなよ」
 俺が声をかけると、ようやくレンは彼女から目をらし、俺の隣に腰掛けた。

「凄いの連れてきたな」
 レンが小さな声で俺に耳打ちする。

「そうだろ! 物凄い美少女だよな。俺、気に入られちゃったみたいでさ。わざわざ会いにきてくれたんだ」
 俺が自慢げに言うと、レンは何とも言えない表情を浮かべた。

 ヒソヒソ声で話している俺達に向かって、ヒカリが笑顔で話しかけてくる。
「あなたがレン君? 私、妖術使いのヒカリです。レン君の書いた御札の威力があまりにも素晴らしかったから、会わせて欲しいってハルト君に頼んだの」

 レンの額から汗の粒が吹き出す。
 相手が美少女だからって緊張し過ぎだろ! って突っ込もうかと思ったけれど、そんなに親しいわけじゃないからやめておいた。

 レンに足をつつかれ、何だよと若干イラつきながら目をやると、彼がテーブルの下で携帯の画面をこちらに向けている。

 そこには
「今すぐ店を出て」
 という文字が打ち込まれていた。

 は?
 ヒカリと二人きりになりたいから俺に帰れってこと?

 腹が立った俺は、レンの言葉を無視して居座ることに決めた。

 ヒカリはうるんだ瞳で俺達を見つめながら言った。
「二人にお願いがあるの。封印のけた妖怪がいたら知らせるから、私と一緒に、彼らを居るべき場所へ帰す手伝いをしてくれない?」

 彼女の提案はこうだ。
 封印の解けた妖怪を察知したら、そいつのところまで、ヒカリが俺を連れて行く。
 それから困っている人達の前に俺が妖怪バスターとして登場し、依頼を受ける。
 その後、俺は妖怪退治をするふりをして報酬をもらい、ヒカリは妖怪を仲間のところへ送り届けてやる。
 お互いにメリットしかないというわけだ。

「俺とヒカリちゃんの役割は分かったけれど、レンは何をするの?」
 俺が疑問を口にすると、ヒカリは満面の笑みで答えた。
「レン君は、今はまだ何もしないで欲しいの。私が頼むまでは、絶対に御札を書かないって約束してくれるかな。レン君の御札は強力だから、むやみに使われると困るのよ」

 レンは唇を固く結んで黙っている。

 返事くらいしろよ、失礼な奴だな。
 俺は目で合図したが、レンはうつむいてしまって気付かないようだ。

「それでいい?」
 ヒカリに聞かれて
「もちろん」
 と俺は即答そくとうした。

 隣でレンが深い溜息ためいきをついたが、俺はヒカリとこれからも会えると思うと嬉しくて、レンの様子など気にもめなかった。

 ファミレスを出る頃には、午後十時を過ぎていた。
 携帯を見ると、母さんから「先に寝るから戸締りよろしく」というメールが入っていた。

 レンとは店の前で別れたが、ヒカリはもうちょっとだけ俺と話したいと言って付いてきた。

 少し歩いたところで、レンからのメールが届く。
「彼女を絶対に家の中へ入れるな」

 その文面を見た俺は
「はいはい嫉妬乙」
 と心の中でつぶやきながら、優越感に浸っていた。

 そして玄関の前まで来た時、ヒカリが俺を見つめながら
「ハルト君の部屋を一目でいいから見てみたいなぁ」
 と言い出した。

 俺の部屋は一階にあって、母さんと姉ちゃんは二階の部屋を使っている。
 二人が寝ている今なら、こっそり入ればバレないだろう。

 こんな美少女が俺の部屋に来てくれることなんて、もう二度とないかもしれない。

 そう思った俺は
「ちょっとだけだよ」
 と言いながら、ヒカリを家の中へと招き入れた。
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