2 / 31
第一部
忠告
しおりを挟む
ファミレスに入って席に着いたヒカリは、目を輝かせてメニューに見入っている。
ヒカリは半妖なので、人間の食べ物を口にしても大丈夫なのか確認すると、食べても害はないということだった。
普段は他の妖怪のように自然界からエネルギーを吸収しているらしい。
「おごるから、好きなものを頼んでいいよ」
報酬をもらったばかりの俺は、気が大きくなっていた。
妖怪退治で稼いだ金は、ほとんど母さんに没収されて生活費に消えてしまうのだが、今回は少し散財させてもらうことにする。
ヒカリは小首をかしげながら和風ハンバーグステーキの写真を指差して
「これにしようかな」
と甘えた声を出す。
美少女を前にして、俺の目尻は下がりっぱなしだ。
店員に注文し終えると、ヒカリは早速本題を切り出した。
「封印の術をかけた時に使った御札は、ハルト君が書いたの?」
彼女に尋ねられた俺が、レンという奴が書いたと教えると、ヒカリは彼に会いたいと言い出した。
俺は、正直なところあまり二人を会わせたくなかった。
レンはイケメンだったから、ヒカリを取られてしまうような気がしたのだ。
取られるも何も、ヒカリは俺の彼女でも何でもないんだけどね。
渋る俺に、ヒカリが
「どうしても頼みたいことがあるの。会わせてほしいな」
と可愛くお願いしてくる。
御札を書いてもらうことになった時に、レンとは連絡先を交換していた。
ヒカリに懇願された俺は、今から来られるかレンに聞いてみることにした。
時間は午後八時過ぎ。
よっぽど仲の良い友人でもない限り、この時間から出かけるのは面倒なはずだ。
俺はレンが断ってくることを期待しつつメールを送信した。
すると、すぐにレンが電話をかけてきた。
彼は開口一番
「何かあった?」
と心配そうな声を出す。
もっとドライな奴だと思っていたから、意外と情に厚いんだなと驚いた。
俺は今日の出来事と、半妖のヒカリが会いたがっていることを伝える。
レンは
「すぐに行く」
と答えてファミレスの場所を確認すると、電話を切った。
先程注文した料理が届き、ヒカリが嬉しそうにハンバーグを口に運ぶ。
俺達が食事を平らげた頃に、息を切らしながらレンが到着した。
彼はヒカリを一目見るなり体を硬直させ、立ったままじっと彼女を見つめている。
無理もない。
稀に見る美少女だもんな。
「まあ、座りなよ」
俺が声をかけると、ようやくレンは彼女から目を逸らし、俺の隣に腰掛けた。
「凄いの連れてきたな」
レンが小さな声で俺に耳打ちする。
「そうだろ! 物凄い美少女だよな。俺、気に入られちゃったみたいでさ。わざわざ会いにきてくれたんだ」
俺が自慢げに言うと、レンは何とも言えない表情を浮かべた。
ヒソヒソ声で話している俺達に向かって、ヒカリが笑顔で話しかけてくる。
「あなたがレン君? 私、妖術使いのヒカリです。レン君の書いた御札の威力があまりにも素晴らしかったから、会わせて欲しいってハルト君に頼んだの」
レンの額から汗の粒が吹き出す。
相手が美少女だからって緊張し過ぎだろ! って突っ込もうかと思ったけれど、そんなに親しいわけじゃないからやめておいた。
レンに足をつつかれ、何だよと若干イラつきながら目をやると、彼がテーブルの下で携帯の画面をこちらに向けている。
そこには
「今すぐ店を出て」
という文字が打ち込まれていた。
は?
ヒカリと二人きりになりたいから俺に帰れってこと?
腹が立った俺は、レンの言葉を無視して居座ることに決めた。
ヒカリは潤んだ瞳で俺達を見つめながら言った。
「二人にお願いがあるの。封印の解けた妖怪がいたら知らせるから、私と一緒に、彼らを居るべき場所へ帰す手伝いをしてくれない?」
彼女の提案はこうだ。
封印の解けた妖怪を察知したら、そいつのところまで、ヒカリが俺を連れて行く。
それから困っている人達の前に俺が妖怪バスターとして登場し、依頼を受ける。
その後、俺は妖怪退治をするふりをして報酬をもらい、ヒカリは妖怪を仲間のところへ送り届けてやる。
お互いにメリットしかないというわけだ。
「俺とヒカリちゃんの役割は分かったけれど、レンは何をするの?」
俺が疑問を口にすると、ヒカリは満面の笑みで答えた。
「レン君は、今はまだ何もしないで欲しいの。私が頼むまでは、絶対に御札を書かないって約束してくれるかな。レン君の御札は強力だから、むやみに使われると困るのよ」
レンは唇を固く結んで黙っている。
返事くらいしろよ、失礼な奴だな。
俺は目で合図したが、レンはうつむいてしまって気付かないようだ。
「それでいい?」
ヒカリに聞かれて
「もちろん」
と俺は即答した。
隣でレンが深い溜息をついたが、俺はヒカリとこれからも会えると思うと嬉しくて、レンの様子など気にも留めなかった。
ファミレスを出る頃には、午後十時を過ぎていた。
携帯を見ると、母さんから「先に寝るから戸締りよろしく」というメールが入っていた。
レンとは店の前で別れたが、ヒカリはもうちょっとだけ俺と話したいと言って付いてきた。
少し歩いたところで、レンからのメールが届く。
「彼女を絶対に家の中へ入れるな」
その文面を見た俺は
「はいはい嫉妬乙」
と心の中で呟きながら、優越感に浸っていた。
そして玄関の前まで来た時、ヒカリが俺を見つめながら
「ハルト君の部屋を一目でいいから見てみたいなぁ」
と言い出した。
俺の部屋は一階にあって、母さんと姉ちゃんは二階の部屋を使っている。
二人が寝ている今なら、こっそり入ればバレないだろう。
こんな美少女が俺の部屋に来てくれることなんて、もう二度とないかもしれない。
そう思った俺は
「ちょっとだけだよ」
と言いながら、ヒカリを家の中へと招き入れた。
ヒカリは半妖なので、人間の食べ物を口にしても大丈夫なのか確認すると、食べても害はないということだった。
普段は他の妖怪のように自然界からエネルギーを吸収しているらしい。
「おごるから、好きなものを頼んでいいよ」
報酬をもらったばかりの俺は、気が大きくなっていた。
妖怪退治で稼いだ金は、ほとんど母さんに没収されて生活費に消えてしまうのだが、今回は少し散財させてもらうことにする。
ヒカリは小首をかしげながら和風ハンバーグステーキの写真を指差して
「これにしようかな」
と甘えた声を出す。
美少女を前にして、俺の目尻は下がりっぱなしだ。
店員に注文し終えると、ヒカリは早速本題を切り出した。
「封印の術をかけた時に使った御札は、ハルト君が書いたの?」
彼女に尋ねられた俺が、レンという奴が書いたと教えると、ヒカリは彼に会いたいと言い出した。
俺は、正直なところあまり二人を会わせたくなかった。
レンはイケメンだったから、ヒカリを取られてしまうような気がしたのだ。
取られるも何も、ヒカリは俺の彼女でも何でもないんだけどね。
渋る俺に、ヒカリが
「どうしても頼みたいことがあるの。会わせてほしいな」
と可愛くお願いしてくる。
御札を書いてもらうことになった時に、レンとは連絡先を交換していた。
ヒカリに懇願された俺は、今から来られるかレンに聞いてみることにした。
時間は午後八時過ぎ。
よっぽど仲の良い友人でもない限り、この時間から出かけるのは面倒なはずだ。
俺はレンが断ってくることを期待しつつメールを送信した。
すると、すぐにレンが電話をかけてきた。
彼は開口一番
「何かあった?」
と心配そうな声を出す。
もっとドライな奴だと思っていたから、意外と情に厚いんだなと驚いた。
俺は今日の出来事と、半妖のヒカリが会いたがっていることを伝える。
レンは
「すぐに行く」
と答えてファミレスの場所を確認すると、電話を切った。
先程注文した料理が届き、ヒカリが嬉しそうにハンバーグを口に運ぶ。
俺達が食事を平らげた頃に、息を切らしながらレンが到着した。
彼はヒカリを一目見るなり体を硬直させ、立ったままじっと彼女を見つめている。
無理もない。
稀に見る美少女だもんな。
「まあ、座りなよ」
俺が声をかけると、ようやくレンは彼女から目を逸らし、俺の隣に腰掛けた。
「凄いの連れてきたな」
レンが小さな声で俺に耳打ちする。
「そうだろ! 物凄い美少女だよな。俺、気に入られちゃったみたいでさ。わざわざ会いにきてくれたんだ」
俺が自慢げに言うと、レンは何とも言えない表情を浮かべた。
ヒソヒソ声で話している俺達に向かって、ヒカリが笑顔で話しかけてくる。
「あなたがレン君? 私、妖術使いのヒカリです。レン君の書いた御札の威力があまりにも素晴らしかったから、会わせて欲しいってハルト君に頼んだの」
レンの額から汗の粒が吹き出す。
相手が美少女だからって緊張し過ぎだろ! って突っ込もうかと思ったけれど、そんなに親しいわけじゃないからやめておいた。
レンに足をつつかれ、何だよと若干イラつきながら目をやると、彼がテーブルの下で携帯の画面をこちらに向けている。
そこには
「今すぐ店を出て」
という文字が打ち込まれていた。
は?
ヒカリと二人きりになりたいから俺に帰れってこと?
腹が立った俺は、レンの言葉を無視して居座ることに決めた。
ヒカリは潤んだ瞳で俺達を見つめながら言った。
「二人にお願いがあるの。封印の解けた妖怪がいたら知らせるから、私と一緒に、彼らを居るべき場所へ帰す手伝いをしてくれない?」
彼女の提案はこうだ。
封印の解けた妖怪を察知したら、そいつのところまで、ヒカリが俺を連れて行く。
それから困っている人達の前に俺が妖怪バスターとして登場し、依頼を受ける。
その後、俺は妖怪退治をするふりをして報酬をもらい、ヒカリは妖怪を仲間のところへ送り届けてやる。
お互いにメリットしかないというわけだ。
「俺とヒカリちゃんの役割は分かったけれど、レンは何をするの?」
俺が疑問を口にすると、ヒカリは満面の笑みで答えた。
「レン君は、今はまだ何もしないで欲しいの。私が頼むまでは、絶対に御札を書かないって約束してくれるかな。レン君の御札は強力だから、むやみに使われると困るのよ」
レンは唇を固く結んで黙っている。
返事くらいしろよ、失礼な奴だな。
俺は目で合図したが、レンはうつむいてしまって気付かないようだ。
「それでいい?」
ヒカリに聞かれて
「もちろん」
と俺は即答した。
隣でレンが深い溜息をついたが、俺はヒカリとこれからも会えると思うと嬉しくて、レンの様子など気にも留めなかった。
ファミレスを出る頃には、午後十時を過ぎていた。
携帯を見ると、母さんから「先に寝るから戸締りよろしく」というメールが入っていた。
レンとは店の前で別れたが、ヒカリはもうちょっとだけ俺と話したいと言って付いてきた。
少し歩いたところで、レンからのメールが届く。
「彼女を絶対に家の中へ入れるな」
その文面を見た俺は
「はいはい嫉妬乙」
と心の中で呟きながら、優越感に浸っていた。
そして玄関の前まで来た時、ヒカリが俺を見つめながら
「ハルト君の部屋を一目でいいから見てみたいなぁ」
と言い出した。
俺の部屋は一階にあって、母さんと姉ちゃんは二階の部屋を使っている。
二人が寝ている今なら、こっそり入ればバレないだろう。
こんな美少女が俺の部屋に来てくれることなんて、もう二度とないかもしれない。
そう思った俺は
「ちょっとだけだよ」
と言いながら、ヒカリを家の中へと招き入れた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ことみとライ
雨宮大智
児童書・童話
十才の少女「ことみ」はある日、夢の中で「ライ」というペガサスに会う。ライはことみを「天空の城」へと、連れて行く。天空の城には「創造の泉」があり、ことみのような物語の書き手を待っていたのだった。夢と現実を行き来する「ことみ」の前に、天空の城の女王「エビナス」が現れた⎯⎯。ペガサスのライに導かれて、ことみの冒険が、いま始まる。
【旧筆名:多梨枝伸時代の作品】
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる