バーチャルアルファとオレ

コオリ

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番外編

その唇が食べたい

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 ――なんだろ。悠吾の唇が、なんか気になる。

 別に悠吾の唇に何かが付いているとか、そういうわけじゃない。
 なんなら普段と全然変わらないのに、今日のオレは気がつくと悠吾の唇を目で追ってしまっていた。
 間違いなく、おかしいのはオレのほうだ。

 ――これ、もしかしてまた……オメガの本能ってやつ?

 嫌な予感がして、スマホの検索画面に『オメガ 本能行動 唇』と入力してみると、すぐにオレと同じ感覚に悩む人の相談に辿り着く。
 その下に書き込まれた回答を見て、オレは思わず「うわ……」と声を上げてしまった。
 その声に気づいた悠吾が、オレの顔を見て首を傾げている。

「奏、どうかした?」
「あー……いや、なんでもない」

 適当にはぐらかしながら、怪しまれないように自然な動作で画面を閉じる。
 それでも、一度見た文章は頭から離れなかった。

 ――オメガがアルファフェロモンを欲している時に起こる衝動……ってなんだよ。

 それってやっぱり、そういうこと?
 発情期が来るのはまだ先のはずなのに、オレの身体は悠吾のフェロモンを欲して、こんな風になってしまっているらしい。

 ――つか、マジでなんなんだよ。オメガの本能って。

 本能から起こる衝動はどれも恥ずかしいことばかりだ。
 それに、いつもおかしくなるのはオレだけ。
 悠吾は「オレの」って言った腕を引っ張った時だって、挨拶に来た悠吾を自分の部屋のベッドに悠吾を連れていった時だって――悠吾はいつも余裕だったし。

「……ずるいよな、アルファって」

 悠吾に聞こえないように極々小さな声で吐き出しながら、オレは膝を抱えて座り直した。


   ◇


 オメガの本能から来る衝動は、どうやっても抑えられるものじゃないらしい。
 理由がわかって一時間ぐらいはその衝動を誤魔化せていたけど、限界は早かった。
 それから、それが悠吾にバレるのだって――

「奏。やりたいことがあるなら、してもいいんだよ?」
「……やだ」

 悠吾は、オレの様子がおかしいことにすぐに気がついたみたいだった。その理由がオメガの本能から来るものだってことにも。
 でもそう言われたって、本能が望む行動を簡単に取れるはずがない。
 これがアルファフェロモンを欲しているせいで起こる衝動なんだと先に知ってしまったせいで、前の時よりも理性がオレの邪魔をしていた。

「無理に抑え込んだら、余計にしんどいんじゃないの?」

 そんな風に優しく諭されても無理だ。
 隣に座った悠吾がオレを抱き寄せるように肩に腕を回して、優しく身体に触れてくるけど、抱え込んだ膝に埋めた顔を上げることだってできない。
 唇のあたりのむずむずが治まらないオレは、誤魔化すように自分の手で口元を擦りながら、ぶんぶんと首を横に振った。

「だって……恥ずかしいし」
「恥ずかしいことがしたいの?」
「――ッ、だから! そういうこと、平気で聞くなよ」

 悠吾はこういう時、全然空気を読んでくれない――いや、実はわざとなのか?
 悠吾から隠すように伏せていた顔を少しだけ横に向けて、悠吾がどんな表情をしているのか、こっそり盗み見る。
 悠吾の表情にからかっている様子は別になかった――むしろ心配なのか、情けない表情を浮かべている。

「奏、大丈夫?」
「……全然、大丈夫じゃないし」

 うっかり悠吾の唇を見てしまったせいで、またオメガの本能が強く反応し始めた。
 息が勝手に荒くなってくる。

「先生に相談したほうがいいんだったら」
「いらないし……なあ、悠吾。口開けて」
「口?」
「そう。あーん、して」

 オレの理性は一気に崩壊していた。
 身体を起こして、縋りつくように悠吾の首の後ろに両腕を回す。顔を近づけると、口を開けたままオレを待ってくれていた悠吾の口の中を舐めとるように舌を伸ばした。
 舌先に悠吾の唾液がついただけで、身体が歓喜に震える。目を閉じて、その味を堪能する。
 伸びてきた悠吾の舌が、オレの舌に触れた。戯れるように舌を追いかけられ、そのまま深く口づけられる。

「ん、ぁ……」

 アルファフェロモンを含んだ悠吾の唾液は、やっぱりおいしく感じる。
 いつの間にか悠吾の脚の上に抱き上げられていたオレは、貪るように悠吾の舌を味わっていた。
 オレよりも大きくて厚い舌。
 その舌にちゅっちゅっと吸いつきながら、そっと目を開ける。こちらを見つめる悠吾と至近距離で目が合った。

「こうしたかったの?」

 唇を離した悠吾に優しく問われる。
 オレはその問いに答えるより、もっと悠吾を味わいたかった。
 悠吾の口の端についた唾液を夢中で舐めとる。横から伸びてきた悠吾の指先がオレの唇を押し返すように触れてきたので、今度はその指先を口に含んだ。

「俺は美味しい?」
「ん……でも、やっぱり口がいい」
「うん。おいで」

 肌からもフェロモンは感じるけど、今はもっと濃い悠吾を楽しみたい。
 もう一度、悠吾の唇に吸いついた。
 うなじをするりと撫でられると、気持ちよくてたまらない。身体の奥に熱がともっていくのがわかる。
 悠吾のフェロモンもどんどん濃くなっていた。唾液から感じるフェロモンもさっきより格段に濃い。
 そのおかげで、今度は一気に理性が戻ってきた。

「……ちょ、もういいって。ゆうご」
「うーん、それは無理かな」
「ん、ぁ……、待てって……ンッ」

 せっかくオレが正気に戻ったのに、悠吾に止まるつもりはないらしい。
 そのまま、ソファーに押し倒されて色々なところにキスを落とされる。
 悠吾のフェロモンを存分に取り込んだオレの身体はいつもより敏感になっているのか、悠吾の唇が触れるたび、声が抑えられない。

「や、め……っ、んぁ」
「俺は奏と気持ちよくなりたいな。だめ?」

 そういう風に言うのは、ずるいと思う。
 甘えるようにオレの首元に顔を埋めてくる悠吾の髪を、雑な手つきでくしゃりと撫でる。渋々に聞こえるように「一回だけな」と小声で返した。

 ――絶対に一回で済まないのは、わかってるけど。

 実際に一回で済まされたら、多分オレだって足りない。
 顔を上げた悠吾が了承と言わんばかりに、ちゅっと触れるだけのキスを唇に落とす。オレからも、かぷりと唇に噛みつくと悠吾が嬉しそうに身体を揺らした。




『その唇が食べたい』END.




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すでにたくさんの購入報告をいただいていて、嬉しい限りです!
ありがとうございます!!(*´꒳`*)

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書籍として新しく生まれ変わった「バーチャルアルファとオレ」をどうぞよろしくお願いします!
(加筆+書き下ろし盛りだくさんです!)

こちらでもまだまだこれから番外編や続編(!)など書けたらいいなと思っているので、よろしければお付き合いください。
よろしくお願いします!!


コオリ
2022.3.20
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