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舞踏会
舞踏会開幕
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「レヴィアナさん?まだですかー?」
「も、もうちょっと待ってくださいまし!」
ナタリーのようにプレゼントを持って行ったほうがいいのだろうか?
もっとおしゃれをしたほうがいいのだろうか?
もしシルフィード広場で買い物している最中にイグニスとばったり会ってしまったら、気合入りすぎた痛い女だとか思われないだろうか。
それに、もし、もしイグニスの気が変わって私じゃなくてアリシアと踊りたいなんて言いだしたら?
あの場所でちゃんと返事をしておけばよかった。今からでもイグニスの部屋に行ってちゃんと向き合って、でも、でも……。
考えれば考えるほど結局動けなくなってしまい、気が付いたら舞踏会開始までもうあと1時間を切ってしまっていた。
それからもドレスを手にとっては置き、を繰り返していたらナタリーとの集合時間になってしまった。
髪を縛るリボンすらうまく結べずだんだんと手もふるえてくる。
「あー……うー……、全くどんな顔して会えばいいのよ……」
鏡の前で何度か自分の姿を確認してみる。間違いなくいつもの私だ。ただ、私の顔だけが火照ったように赤く染まっているのが情けない。
(ううん、落ち着こう……落ち着くのよレヴィアナ)
『レヴィアナ』はいつも冷静沈着で、こんな舞踏会のだって涼しい顔でこなしていた。そのうえダンスをしながらアリシアのドレスの裾をわざと踏んでいやがらせしてくるような余裕すらあった。
(うー……っていうか、私……踏まないわよね?)
わざとではなく、ただ踊り慣れてなくてふらついて、結果としてアリシアのドレスを踏んでしまったりしたら最悪だ。
(ま、何とかするしかないか)
大きく深呼吸して心を落ち着かせると少し気持ちが楽になった……気がした。きっとこの顔は時間がたてば何とかなってくれるはずだ。
ぱんっ!と両手で頬をたたく。よし、行こう。
「お待たせしましたわ」
準備が終わって手持ち無沙汰で椅子に座っていたナタリーのところに戻る。
ナタリーもきれいなドレスを着ていた。
髪型もそれに合わせてきれいに編み込み、緑色のきれいなリボンも、イヤリングもきれいに輝いていた。
それよりも、なんだかいつもより表情が輝いて見える。
ナタリーも今日はマリウスとの一大イベントが待っているというのに、私とは対照的に実に落ち着いていた。
「わぁ!レヴィアナさん!すっごい素敵ですね!」
「ありがとうございますわ。ナタリーもきれいですわよ」
私は照れ隠しも含めて素直にそうほめると、ナタリーはうれしそうに笑ってくれた。
「本当に夢のようです。私、一緒にこうしてレヴィアナさんと一緒に入れるのが本当に幸せです」
ボール・ルームに向かう間も、ナタリーはずっと上機嫌でおしゃべりしてくれた。
「そうね。わたくしもナタリーと一緒に過ごせて幸せですわ」
「えへへ、ありがとうございます!」
もっといろいろずっと話していたと思うんだけど全然頭に入ってこず、いつの間にボール・ルームの前に着いてしまった。
扉の前に立ち一度深呼吸する。
(ふぅ、さぁ……行きましょう)
舞踏会の会場に入るとそこはまるで別世界のようだった。
きらびやかなシャンデリアに、私たちと同じように着飾った生徒たちが、思い思いに談笑している。
「うわぁ……すごいですねぇ……」
ナタリーが感嘆の声を漏らしながら目を輝かせていた。私も思わずナタリーと一緒になって会場を眺めてしまう。
正直圧倒されていた。
「あ、レヴィアナさん!ナタリーさん!」
ぱたぱたとアリシアがこちらに駆け寄ってきた。
「もう、遅いですよー!」
「ごめんなさいね」
「私1人で不安だったんですよ?」
そう言ってアリシアが私とナタリーの手を握る。
「ほらほら!こっちです!おいしい飲み物もあるんですよ?」
そのままアリシアに導かれ、私たちは飲み物が置かれたテーブルへと移動する。所狭しばかりに置かれたグラスには色鮮やかなジュースが注がれている。
「でも一人って、ほかの生徒会メンバーの方々はどうしたんですの?」
「まぁ、そうなんですけど」
飲み物を口に含みながら会場を見渡すとだんだんとアリシアの言う意図が読み込めてきた。
会場ではにぎやかに談笑はしていたものの、見事に会場の半分で男女が分かれており、会話しながらもそれぞれを横目で盗み見ながら牽制しあっているのが分かる。
生徒会メンバーも一か所に固まって何やら会話をしているようだった。
タキシードを着てびしっと決まった4人はもちろん、あのノーランですらなんだか今日は雰囲気も味方しているのかかっこよく見えてなんだか笑ってしまう。
マリウスとセシルは胸元に薔薇を挿しており、それが実に様になっていた。
イグニスも一緒にいるのは視界には入っていたけど、正直直視できなかった。
「それで?皆さんはだれと踊るんですか?」
アリシアが興味津々といった様子で尋ねてきた。
「えっと……」
ちらりとナタリーを見ると、ナタリーは飲み物をのどに詰まらせたのかむせていた。
「あらあら……大丈夫?」
背中をさすってやると涙目になりながらもごほごほと咳き込んでいたが、しばらくさすってやると落ち着いたようだった。
「すいません。ちょっと変なところに入ってしまって」
「慌てて飲むからですわ」
そんな私たちの様子をアリシアはにこにこしながら見つめていた。
「わたくしは……まだ決まっていませんのよ」
「そうなんですかー。でもレヴィアナさんならきっとすぐに決まりますよ」
そういうアリシア自身は、飲み物を手に、だれと踊ろうか品定めをしているようだった。
なんだか慣れているようにも見える。
「あ、そろそろ始まりそうですね」
ナタリーが壇上に上がってきた舞踏会実行委員の生徒を見て声を上げた。
周りの雰囲気もだんだんと静まっていく。
「……ごめんなさい。少々飲み物を飲みすぎたみたいですわ。お手洗いに行ってきます」
「え?もう始まってしまいますよ?」
「すみませんですわ」
ナタリーとアリシアにそう告げ、そそくさと会場を後にした。
外に出ると、冷たくなった夜風が頬を撫でた。
「ふぅ……」
大きく深呼吸をする。心臓が高鳴るのがわかる。
「どうしよう……」
このままボール・ルームに戻って、イグニスと踊って本当にいいのか。
騙したままで、レヴィアナじゃないのに、私だけそんな素敵な思いをして本当にいいのか。
そして何より、ゲームのシナリオにない展開をしてしまっても本当に大丈夫なのか。
そんな不安がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「アリシアは誰と踊るんだろ……」
間違いなく生徒会メンバーのほうを見ていた。
失礼ではあるもののノーランということはないだろうから、攻略対象の4人だろう。
このシナリオのアリシアはガレンとイベントを起こしたようには見えない。でもそれ以外の3人は全員可能性がある気もする。
もし、イグニスだったら?
イグニスはアリシアの誘いを断るのだろうか?
もし、マリウスだったら?
マリウスはアリシアの誘いを断ってナタリーと踊るのだろうか。
もし、セシルだったら?
テンペトゥス・ノクテム戦でも息がぴったりだったし、アリシアがいじめられているところを颯爽と助けていた。
そこから発展することは十分に考えられる。
今日一日中考え続けて結局答えが出なかったことを、今またぐるぐると考え始めてしまう。
「はぁ……」
思わず大きなため息が出る。
ボール・ルームから楽しそうな音楽が響き始めた。
このところずっと舞踏会実行委員たちが練習してきた成果を発揮しているんだろう。
だんだんとにぎやかな声も風に乗って届いてくる。
「もう、どうすればいいのよ……」
もうそろそろ戻らないといけないってわかってるけど、まだ心の整理はできていなかった。
「も、もうちょっと待ってくださいまし!」
ナタリーのようにプレゼントを持って行ったほうがいいのだろうか?
もっとおしゃれをしたほうがいいのだろうか?
もしシルフィード広場で買い物している最中にイグニスとばったり会ってしまったら、気合入りすぎた痛い女だとか思われないだろうか。
それに、もし、もしイグニスの気が変わって私じゃなくてアリシアと踊りたいなんて言いだしたら?
あの場所でちゃんと返事をしておけばよかった。今からでもイグニスの部屋に行ってちゃんと向き合って、でも、でも……。
考えれば考えるほど結局動けなくなってしまい、気が付いたら舞踏会開始までもうあと1時間を切ってしまっていた。
それからもドレスを手にとっては置き、を繰り返していたらナタリーとの集合時間になってしまった。
髪を縛るリボンすらうまく結べずだんだんと手もふるえてくる。
「あー……うー……、全くどんな顔して会えばいいのよ……」
鏡の前で何度か自分の姿を確認してみる。間違いなくいつもの私だ。ただ、私の顔だけが火照ったように赤く染まっているのが情けない。
(ううん、落ち着こう……落ち着くのよレヴィアナ)
『レヴィアナ』はいつも冷静沈着で、こんな舞踏会のだって涼しい顔でこなしていた。そのうえダンスをしながらアリシアのドレスの裾をわざと踏んでいやがらせしてくるような余裕すらあった。
(うー……っていうか、私……踏まないわよね?)
わざとではなく、ただ踊り慣れてなくてふらついて、結果としてアリシアのドレスを踏んでしまったりしたら最悪だ。
(ま、何とかするしかないか)
大きく深呼吸して心を落ち着かせると少し気持ちが楽になった……気がした。きっとこの顔は時間がたてば何とかなってくれるはずだ。
ぱんっ!と両手で頬をたたく。よし、行こう。
「お待たせしましたわ」
準備が終わって手持ち無沙汰で椅子に座っていたナタリーのところに戻る。
ナタリーもきれいなドレスを着ていた。
髪型もそれに合わせてきれいに編み込み、緑色のきれいなリボンも、イヤリングもきれいに輝いていた。
それよりも、なんだかいつもより表情が輝いて見える。
ナタリーも今日はマリウスとの一大イベントが待っているというのに、私とは対照的に実に落ち着いていた。
「わぁ!レヴィアナさん!すっごい素敵ですね!」
「ありがとうございますわ。ナタリーもきれいですわよ」
私は照れ隠しも含めて素直にそうほめると、ナタリーはうれしそうに笑ってくれた。
「本当に夢のようです。私、一緒にこうしてレヴィアナさんと一緒に入れるのが本当に幸せです」
ボール・ルームに向かう間も、ナタリーはずっと上機嫌でおしゃべりしてくれた。
「そうね。わたくしもナタリーと一緒に過ごせて幸せですわ」
「えへへ、ありがとうございます!」
もっといろいろずっと話していたと思うんだけど全然頭に入ってこず、いつの間にボール・ルームの前に着いてしまった。
扉の前に立ち一度深呼吸する。
(ふぅ、さぁ……行きましょう)
舞踏会の会場に入るとそこはまるで別世界のようだった。
きらびやかなシャンデリアに、私たちと同じように着飾った生徒たちが、思い思いに談笑している。
「うわぁ……すごいですねぇ……」
ナタリーが感嘆の声を漏らしながら目を輝かせていた。私も思わずナタリーと一緒になって会場を眺めてしまう。
正直圧倒されていた。
「あ、レヴィアナさん!ナタリーさん!」
ぱたぱたとアリシアがこちらに駆け寄ってきた。
「もう、遅いですよー!」
「ごめんなさいね」
「私1人で不安だったんですよ?」
そう言ってアリシアが私とナタリーの手を握る。
「ほらほら!こっちです!おいしい飲み物もあるんですよ?」
そのままアリシアに導かれ、私たちは飲み物が置かれたテーブルへと移動する。所狭しばかりに置かれたグラスには色鮮やかなジュースが注がれている。
「でも一人って、ほかの生徒会メンバーの方々はどうしたんですの?」
「まぁ、そうなんですけど」
飲み物を口に含みながら会場を見渡すとだんだんとアリシアの言う意図が読み込めてきた。
会場ではにぎやかに談笑はしていたものの、見事に会場の半分で男女が分かれており、会話しながらもそれぞれを横目で盗み見ながら牽制しあっているのが分かる。
生徒会メンバーも一か所に固まって何やら会話をしているようだった。
タキシードを着てびしっと決まった4人はもちろん、あのノーランですらなんだか今日は雰囲気も味方しているのかかっこよく見えてなんだか笑ってしまう。
マリウスとセシルは胸元に薔薇を挿しており、それが実に様になっていた。
イグニスも一緒にいるのは視界には入っていたけど、正直直視できなかった。
「それで?皆さんはだれと踊るんですか?」
アリシアが興味津々といった様子で尋ねてきた。
「えっと……」
ちらりとナタリーを見ると、ナタリーは飲み物をのどに詰まらせたのかむせていた。
「あらあら……大丈夫?」
背中をさすってやると涙目になりながらもごほごほと咳き込んでいたが、しばらくさすってやると落ち着いたようだった。
「すいません。ちょっと変なところに入ってしまって」
「慌てて飲むからですわ」
そんな私たちの様子をアリシアはにこにこしながら見つめていた。
「わたくしは……まだ決まっていませんのよ」
「そうなんですかー。でもレヴィアナさんならきっとすぐに決まりますよ」
そういうアリシア自身は、飲み物を手に、だれと踊ろうか品定めをしているようだった。
なんだか慣れているようにも見える。
「あ、そろそろ始まりそうですね」
ナタリーが壇上に上がってきた舞踏会実行委員の生徒を見て声を上げた。
周りの雰囲気もだんだんと静まっていく。
「……ごめんなさい。少々飲み物を飲みすぎたみたいですわ。お手洗いに行ってきます」
「え?もう始まってしまいますよ?」
「すみませんですわ」
ナタリーとアリシアにそう告げ、そそくさと会場を後にした。
外に出ると、冷たくなった夜風が頬を撫でた。
「ふぅ……」
大きく深呼吸をする。心臓が高鳴るのがわかる。
「どうしよう……」
このままボール・ルームに戻って、イグニスと踊って本当にいいのか。
騙したままで、レヴィアナじゃないのに、私だけそんな素敵な思いをして本当にいいのか。
そして何より、ゲームのシナリオにない展開をしてしまっても本当に大丈夫なのか。
そんな不安がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「アリシアは誰と踊るんだろ……」
間違いなく生徒会メンバーのほうを見ていた。
失礼ではあるもののノーランということはないだろうから、攻略対象の4人だろう。
このシナリオのアリシアはガレンとイベントを起こしたようには見えない。でもそれ以外の3人は全員可能性がある気もする。
もし、イグニスだったら?
イグニスはアリシアの誘いを断るのだろうか?
もし、マリウスだったら?
マリウスはアリシアの誘いを断ってナタリーと踊るのだろうか。
もし、セシルだったら?
テンペトゥス・ノクテム戦でも息がぴったりだったし、アリシアがいじめられているところを颯爽と助けていた。
そこから発展することは十分に考えられる。
今日一日中考え続けて結局答えが出なかったことを、今またぐるぐると考え始めてしまう。
「はぁ……」
思わず大きなため息が出る。
ボール・ルームから楽しそうな音楽が響き始めた。
このところずっと舞踏会実行委員たちが練習してきた成果を発揮しているんだろう。
だんだんとにぎやかな声も風に乗って届いてくる。
「もう、どうすればいいのよ……」
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