悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

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反乱

男の友情?

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「あ、あの……先生?」

セオドア先生から譲り受けたフードに身を隠すとそのまま馬車まで連れていかれた。
いま馬車の中にはセオドア先生と追われているはずの私たち3人という不思議な状況になっている。

「ん?どうした?」
「お伺いしたいことは沢山あるのですが、なぜわたくしたちがあの場所に隠れているとおわかりに?」
「俺の特技だな。俺もアルドリックさんに教わったんだが」
「……マナ探知!」
「お、なんだ知ってるのか。さすが娘さん、当然か」

確かにそれならピンポイントで私たちの場所が特定されたのも納得がいく。

「で、先生は俺たちの事をどこに連れて行こうというんですか?」

ガレンが警戒した声で言う。

「はっはっはっ、そう睨みつけるな。お前たちの事を捕まえるだけならあのまま放っておけば星辰警団に良かったんだ。だからきっとこれ以上悪いことにはならんよ」
「でも先生が星辰警団を呼んだのでは?」
「……あぁ、さっきのやり取りでか。あ、ちょっとじっとしてフード被ってろ……」

言われた通りフードをかぶり視線だけで外を盗み見ると、門のところで星辰警団が検問をしているのが見えた。

「ご苦労様です。これからアルドリック公に事情聴取で、はい、外出許可は取っております。ええ、こちらの子たちは課外学習でして。ではー……っと、これでよし。もうフードも外していいぞ」

セオドア先生は私たちにいつもと同じように話しかけてくる。

「お前らの事だから無理やり突破とかも考えていたんだろうが、こうしてすべての道を封鎖してから中を調査する。学校きっての秀才三人がそろってこの検問の事にも頭が回らないとは、まだまだという事かな?」

無理っす無理っすとばかりにセオドア先生を見ながら3人そろって首を振る。

「先生は……先生はわたくしたちが犯人だとは思っていないんですか?」
「犯人……?なんのだ?」
「その……わたくしの家の襲撃事件です」

そこまで言うと、セオドア先生は私の顔を見て少しだけ困ったような顔をした。

「そのことなんだがな……。まぁもう少し開けたところに出てからにしようか」

そういうとセオドア先生は窓の外を見ながら自分の口の前に人差し指を立てた。
馬車はシルフィード広場を離れ郊外へと向かっていく。

馬車が揺れる度にガタンガタンと体が跳ねる。夏休みの時とも違う、お父様の元へ向かっていた時とも違う、また独特の沈黙が馬車の中を包んでいた。
1時間ほど馬車を走らせると先生は馬車の運転手に「ここで少し止めてください」と言い、馬車から降りて行った。

「お前たちもおりて来いよ。今日はずっと窮屈な思いしてきただろ?風が気持ちいいぞ」

にこやかに手招きして先生は外で待っていた。
私たちは未だに現状を理解できては居なかったが、とりあえず言われた通り外に降りる。
先生の言う通り、広々とした草原で頬を撫でる風は、こんな状況でも心地よかった。

「こんなところで……一体何をすると言うんですの?」
「いや……な?」

セオドア先生は言葉を探している様に頭をかく。

「俺はお前たちの事を信じている。でも、状況的にはお前たち以外アルドリックさんを襲撃できた人は居ないんだ。だから、俺も本心で納得がいってから、本気でお前たちに協力したい」

今までと打って変わってセオドア先生が急に真面目な顔になる。
授業中も模擬戦闘中もこんな真剣な表情は見たことが無かった。

「イグニス……前に出ろ!!」

有無を言わせない迫力にイグニスがビクッと体を震わせ、それでもいつものように堂々と歩き始める。

「俺の魔法は何か後ろめたいことがあるやつは絶対に真正面から受け止めることはできない」

そういうとセオドア先生は右手をイグニスに向けた。

「お前の最強魔法はインフェルノゲイザーだったな。俺も今から全力でインフェルノゲイザーをお前に放つ。後ろめたいことが一切ないのなら真正面から受け止めろ!!」
「ちょ!?ちょっと待ってくださいまし!?」

突然の展開に思考が追いつかない。

「ただし、もし少しでも俺に対して、世界に対して後ろめたさがあるならお前の体は俺の魔法で一瞬で蒸発するだろう。だからその時はまぁ、避けるか、諦めてくれ!!!」
「あぁ……わかったぜ……先生……」

イグニスも両足をしっかりと踏みしめて詠唱の準備を整え始めた。

「だーかーらー。こんなことやっている場合では……!」
「「地獄の炎を纏いし眼差し、敵を薙ぎ倒せ!業火の討手」」

私の言葉を無視して2人は詠唱を始める。完全に置いてけぼりだった。

「あぁもう……!!」

こんな近くであんな巨大魔法が衝突したらどれだけの爆発が起きるというのか。慌てて距離を置こうと振り返るとガレンは既にストーンバリアで防御態勢を取っていた。

「ほら、レヴィアナも早く来いよ」
「全く、なんなんですの?」

ガレンの手招きに従って慌ててストーンバリアの陰に逃げ隠れた。
辺りには二人の魔法が空間を満たして、そしてそれぞれの手元に収束していく。

「「インフェルノゲイザー!」」

二人の手から巨大な炎が放たれる。
巨大な龍の様なそれは、まっすぐ、ただ真っすぐ相手の魔法めがけて進んでいく。そして炎と炎が交わった。轟音。熱風。閃光と、そして、爆発。

「へっ……ちょっ!?っちょぉぉおっっっっ!?!?」

目を開けていられないほどの光が辺りを包み込んでいき、私の想像をはるかに超えた衝撃波が青々と茂っていた芝生ごと地面をえぐりながら目の前に迫ってくる。私は思わず腕で顔を覆い隠す。

「ぐっ……」

隣でガレンが防御魔法を張り続ける。こんなに分厚いストーンバリア越しなのに全身を刺すような衝撃が襲い来る。

徐々にその勢いは収束していくがそれでもなお吹き荒れる暴風に吹き飛ばされない様に必死に堪えていると、次第にあたりは静けさを取り戻していった。

「……ありがとうございますですわ……ガレン……」
「いやいや、なんのその……」

全身から冷や汗が止まらない。もしかしたら私がこの世界に来てから一番の命の危機だったかもしれない。
爆煙が晴れると、そこにはボロボロになったセオドア先生と、満身創痍のイグニスの姿があった。
私はその光景を見てただただ唖然としていた。
しかしそんな私とは対照的に、二人は満足そうに笑いあうと握手をしていた。

「全く……ついて行けないわ……」

私はため息交じりに二人のこの謎の儀式を呆然と眺めていた。

***

「よし、これで俺は完全にお前たちの味方だ!」

セオドア先生は表情を崩しこちらに近寄ってくる。イグニスもなんだかやり切った顔をしているのが実に腹立たしい。

「全く……今のやり取り本当に必要でしたの…?二人ともそんなにボロボロになってしまって……」

イグニスの服装はところどころ焦げているし、右の袖も完全に魔法の影響でなくなってしまっているし、セオドア先生も部分的ではあるがすすけている。

「当然だ。魔法は自分の精神の持ちように左右される。もしイグニスがアルドリックさんを襲撃していて嘘をついていたらあの威力の魔法なんて放てるわけがないからな」

セオドア先生は爽やかに笑った。

「それに……この程度の威力の魔法でアルドリックさんをどうにかできるとも思えん」

まぁなんにせよ誤解が解けたならよかった。でもいきなり最大魔法の打ち合いって……。
男ってみんなこんな脳筋なんだろうか?もっとこう、なんか話し合いとか、アリバイ調査とか、動機の確認とかさ!!

(あ……でも…、そっか、アリバイも動機もきっと帳尻が合うようにできているのか……)

そうでないと、学校に戻った翌日にいきなり私たちが疑われるなんてことにはなっていなかっただろう。きっと本当に今この瞬間は私たちが襲撃したという事で辻褄があってしまっているんだろう。

そんな状態でもセオドア先生が私たちの事を信じようとしてくれて、それでもしかしたらこれが唯一の理解しあえた方法だったのかも?と思うようにした。

「で?わたくしたちの疑惑が無事晴れたのは大変うれしいのですが……」

2人の魔法の衝突で大きくえぐれた地面を眺めながら言う。

「お二方の大変立派な魔法で、馬車が逃げてしまったのですが……」

私はとっておきの笑顔で二人に笑顔を向けた。

「これから一体どうするのでしょうか?」


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