65 / 143
反乱
予定外の来訪者
しおりを挟む
「で……どうするよ……この状況……」
イグニスがぽつりとつぶやく。
「どうしましょう?」
その言葉に私はそんな風に返すことしかできなかった。
馬車を借りて移動しようとシルフィード広場に来たものの、すでにシルフィード広場には星辰警団が警戒網を敷いていた。見慣れないきらびやかな馬車も広場中に停まっている。
「ここもバレるのも時間の問題だよなぁ」
ガレンも困った顔で笑う。
今は民家の路地裏に隠れていることができているが、私たちが潜伏できるのはセレスティアル・アカデミーかシルフィード広場のどちらかくらいしかない。この人数でしらみつぶしに探されれば見つかるのも時間の問題だろう。
「いっそストーンバリアで基地でも作ってモンスターの森でサバイバルで時間をつぶすか?」
「いえ……時間をつぶしたところで星辰警団が警戒を緩めるとも思えないですし、ナタリーに早く無事な姿を見せたいですわ」
「そうだよなぁ……馬車屋さんにも話言ってるだろうし、どうする……?歩いていくか?」
「そうですわね……。マナを全部使いきるつもりで移動すれば……馬車と同じ……とまではいかなくてもある程度は何とかなるんじゃないかもしれませんものね……?」
「冗談だよ冗談。風魔法使いでもないのにそんな曲芸できるのお前だけだって」
ため息交じりにガレンが笑う。
「あら?ナタリーも高速移動用の魔法を身に着けていたって言ってましたわよ?」
「いや、ナタリーも師匠が師匠だし大概バケモンだっての……」
ガレンははぁ……とため息を漏らす。
「あとこの広場はこの区画です!!」
そんな雑談をしていると、広場に集まっている星辰警団の団員が声を大きく張り上げた。
「ご苦労。ではこの場所を包囲して、A班は順に路地を確認していけ!」
「おいおい……この近く……っていうかここじゃねーか?」
イグニスが珍しく焦った声を出す。
思ったより早い。さすがこの世界の絶対的な警察組織の星辰警団だ。
「……俺が囮になる……!お前たち二人は先に行け!」
「バカ!そんなことできるわけねーだろ!!」
「もっと声押さえろって。どのみち機動力は俺が一番低いし、もともと俺はあの屋敷でアルドリックさんの身代わりになる予定だったんだ。だから俺が一番都合がいい」
そんなガレンの言葉にイグニスが反射的に胸倉をつかむ。それでもガレンは一歩も引く様子はない。
(――――どうする…?どうする…?)
本当にガレンの言う通りに囮になってもらって星辰警団に捕まっても大丈夫なのか?
ゲームだと捕まったら二度とその周回では出てこない。もしこの世界でもそうだったら?
かといって全員で捕まるわけにも……!!
「……ガレン……お願いできますか?」
「おい、本気で言ってんのか?」
「ええ。ここで全員捕まるのが一番最悪な事態ですわ。そうなってしまったらもう弁解の機会すらありません。ガレンが捕まってもいきなり処刑という事も無い……でしょう」
「…………」
「それにお父様と会話ができればガレンが釈放されるかもしれませんわ」
「でも、だったら3人で戦って……!」
イグニスもきっと本気で言ってはいない。ただ、捕まったガレンがいきなり処刑される可能性が無いわけでも無い今、どうしようと気が気じゃないのだろう。
「あの数の星辰警団にですか?」
イグニスは少しだけ迷って、ガレンから手を離した。
「……わかった……。ガレン!ぜってーつかまんなよ!」
「おう……でもお前たちも絶対につかまるなよ?」
「わかってますわ」
ガレンは私たち二人と軽く拳を突き合わせ、路地から飛び出そうとした時だった。
「おーい、エリオンド!!!」
聞き覚えがある声が路地の先から聞こえる。
「え……?あなたは……!セオドア団長!!!」
「ははっ、もう俺は星辰警団を抜けたんだ。今はセレスティアル・アカデミーのセオドア先生だっての」
「いえ、私にとってはいつまでも尊敬すべきセオドア団長です!」
広間で星辰警団の人とセオドア先生がやり取りをしているのがわかる。
(どういうことですの……?)
イグニスとガレンと視線を合わせるが、二人も同じように混乱しているようだった。
「いえ、私にとってはいつまでも尊敬すべきセオドア団長です!」
「まぁでも、エリオンドが団長を継いでくれたってのも不思議なもんだよな」
「セオドア団長の指導のおかげです!で、どうしたんですか?」
「あぁ、いまエリオンドたちが探してるうちの学生なんだけどな。ほかの生徒からモンスターの森で目撃証言があったんだ。あそこは広いから、ちょっと全員で探してくれないか?」
(セオドア先生……?)
私たちの目撃情報?それもモンスターの森で?どういう事だろう。
「モンスターの森……?本当ですか……?」
「あぁ、うちの生徒はたくましいからな。きっとあの森で1カ月くらいのキャンプは平気でしかねん」
「なるほど。それにこの広場にいたらほかに住民から目撃情報も上がるでしょう。わかりました。私たちはモンスターの森を探索します」
「あ、あとよ、もう一個頼みがあってさ。俺、これからアルドリック公の様子を見に行きたいんだけど、馬車の外出証発行してくれないか?」
「はい、もちろんです。こちらをお持ちください。これがあれば問題なく検問も進めるはずです」
「ありがとよ。これ落ち着いたら今度飲みにでも行こうぜ。団長仕事でいろいろと愚痴も溜まってたりするだろ」
「いえ、部下たちもよくやってくれているんで。でもセオドア団長との食事は楽しみです。ぜひよろしくお願いします」
そういってエリオンドと呼ばれた人物は他の星辰警団に声をかけに行ったようだ。
突然のセオドア先生の来訪、そして星辰警団との関係性、モンスターでの私たちの目撃情報、何が何だかわからない。
「……で?三人ともこのローブを貸してやるからそろそろ出てきたらどうだい?アルドリック公のところへ行くんだろ?」
そのまま身動きが取れずじっとしているとセオドア先生は私たちに向けてそう言った。
イグニスがぽつりとつぶやく。
「どうしましょう?」
その言葉に私はそんな風に返すことしかできなかった。
馬車を借りて移動しようとシルフィード広場に来たものの、すでにシルフィード広場には星辰警団が警戒網を敷いていた。見慣れないきらびやかな馬車も広場中に停まっている。
「ここもバレるのも時間の問題だよなぁ」
ガレンも困った顔で笑う。
今は民家の路地裏に隠れていることができているが、私たちが潜伏できるのはセレスティアル・アカデミーかシルフィード広場のどちらかくらいしかない。この人数でしらみつぶしに探されれば見つかるのも時間の問題だろう。
「いっそストーンバリアで基地でも作ってモンスターの森でサバイバルで時間をつぶすか?」
「いえ……時間をつぶしたところで星辰警団が警戒を緩めるとも思えないですし、ナタリーに早く無事な姿を見せたいですわ」
「そうだよなぁ……馬車屋さんにも話言ってるだろうし、どうする……?歩いていくか?」
「そうですわね……。マナを全部使いきるつもりで移動すれば……馬車と同じ……とまではいかなくてもある程度は何とかなるんじゃないかもしれませんものね……?」
「冗談だよ冗談。風魔法使いでもないのにそんな曲芸できるのお前だけだって」
ため息交じりにガレンが笑う。
「あら?ナタリーも高速移動用の魔法を身に着けていたって言ってましたわよ?」
「いや、ナタリーも師匠が師匠だし大概バケモンだっての……」
ガレンははぁ……とため息を漏らす。
「あとこの広場はこの区画です!!」
そんな雑談をしていると、広場に集まっている星辰警団の団員が声を大きく張り上げた。
「ご苦労。ではこの場所を包囲して、A班は順に路地を確認していけ!」
「おいおい……この近く……っていうかここじゃねーか?」
イグニスが珍しく焦った声を出す。
思ったより早い。さすがこの世界の絶対的な警察組織の星辰警団だ。
「……俺が囮になる……!お前たち二人は先に行け!」
「バカ!そんなことできるわけねーだろ!!」
「もっと声押さえろって。どのみち機動力は俺が一番低いし、もともと俺はあの屋敷でアルドリックさんの身代わりになる予定だったんだ。だから俺が一番都合がいい」
そんなガレンの言葉にイグニスが反射的に胸倉をつかむ。それでもガレンは一歩も引く様子はない。
(――――どうする…?どうする…?)
本当にガレンの言う通りに囮になってもらって星辰警団に捕まっても大丈夫なのか?
ゲームだと捕まったら二度とその周回では出てこない。もしこの世界でもそうだったら?
かといって全員で捕まるわけにも……!!
「……ガレン……お願いできますか?」
「おい、本気で言ってんのか?」
「ええ。ここで全員捕まるのが一番最悪な事態ですわ。そうなってしまったらもう弁解の機会すらありません。ガレンが捕まってもいきなり処刑という事も無い……でしょう」
「…………」
「それにお父様と会話ができればガレンが釈放されるかもしれませんわ」
「でも、だったら3人で戦って……!」
イグニスもきっと本気で言ってはいない。ただ、捕まったガレンがいきなり処刑される可能性が無いわけでも無い今、どうしようと気が気じゃないのだろう。
「あの数の星辰警団にですか?」
イグニスは少しだけ迷って、ガレンから手を離した。
「……わかった……。ガレン!ぜってーつかまんなよ!」
「おう……でもお前たちも絶対につかまるなよ?」
「わかってますわ」
ガレンは私たち二人と軽く拳を突き合わせ、路地から飛び出そうとした時だった。
「おーい、エリオンド!!!」
聞き覚えがある声が路地の先から聞こえる。
「え……?あなたは……!セオドア団長!!!」
「ははっ、もう俺は星辰警団を抜けたんだ。今はセレスティアル・アカデミーのセオドア先生だっての」
「いえ、私にとってはいつまでも尊敬すべきセオドア団長です!」
広間で星辰警団の人とセオドア先生がやり取りをしているのがわかる。
(どういうことですの……?)
イグニスとガレンと視線を合わせるが、二人も同じように混乱しているようだった。
「いえ、私にとってはいつまでも尊敬すべきセオドア団長です!」
「まぁでも、エリオンドが団長を継いでくれたってのも不思議なもんだよな」
「セオドア団長の指導のおかげです!で、どうしたんですか?」
「あぁ、いまエリオンドたちが探してるうちの学生なんだけどな。ほかの生徒からモンスターの森で目撃証言があったんだ。あそこは広いから、ちょっと全員で探してくれないか?」
(セオドア先生……?)
私たちの目撃情報?それもモンスターの森で?どういう事だろう。
「モンスターの森……?本当ですか……?」
「あぁ、うちの生徒はたくましいからな。きっとあの森で1カ月くらいのキャンプは平気でしかねん」
「なるほど。それにこの広場にいたらほかに住民から目撃情報も上がるでしょう。わかりました。私たちはモンスターの森を探索します」
「あ、あとよ、もう一個頼みがあってさ。俺、これからアルドリック公の様子を見に行きたいんだけど、馬車の外出証発行してくれないか?」
「はい、もちろんです。こちらをお持ちください。これがあれば問題なく検問も進めるはずです」
「ありがとよ。これ落ち着いたら今度飲みにでも行こうぜ。団長仕事でいろいろと愚痴も溜まってたりするだろ」
「いえ、部下たちもよくやってくれているんで。でもセオドア団長との食事は楽しみです。ぜひよろしくお願いします」
そういってエリオンドと呼ばれた人物は他の星辰警団に声をかけに行ったようだ。
突然のセオドア先生の来訪、そして星辰警団との関係性、モンスターでの私たちの目撃情報、何が何だかわからない。
「……で?三人ともこのローブを貸してやるからそろそろ出てきたらどうだい?アルドリック公のところへ行くんだろ?」
そのまま身動きが取れずじっとしているとセオドア先生は私たちに向けてそう言った。
3
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~
TOYA
ファンタジー
~完結済み~
「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」
この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。
その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。
生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、
生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。
だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。
それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく
帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。
いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。
※あらすじは第一章の内容です。
―――
本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる