上 下
64 / 143
反乱

ざわつく学校

しおりを挟む
「ねぇ聞いた?」
「何のこと?」
「とぼけちゃって、ミネットも気になってるんじゃないの?」

ミネットはため息をつきながらジェイミーに向き合った。

「ジェイミーこそあんな事信じてるの?」
「信じてるわけないじゃん。レヴィアナさんがそんな事するわけないもの」
「でしょ?だったらそれでいいじゃん」

パンをスープに浸して口に運ぶ。ジェイミーには興味がない風を装ってはいるけど、いつもは美味しい食堂の料理が今日はなんだか味気なかった。

「でも……ほら……」

ミネットに促され視線を上げると、どこもかしこも同じようにこそこそとうわさ話をしているようだった。

『噂は本当らしいぜ』
『あぁ、3人とも教室に来てないらしいじゃんか』
『アルドリック公を襲ったって本当かよ』
『どうやら星辰警団も動いたらしいな』
『ねぇ、なんでそんなことしたのかな』
『しらなーい。あ、もしかして交際を反対されたからとか?』
『じゃあなんでイグニス様とガレン様が一緒なのよ』
『さぁ?それは知らないけど……』
『ショック―。私結構ガレン様の事好きだったのに』
『それを言ったら私だってイグニス様の事……』

聞きたくもない噂話がそこら中から聞こえてくる。
生徒会の筆頭であるレヴィアナ、そしてイグニス、ガレンの3人を知らない人はこの学園には居ないし、それがまさか自分の家に対しての反乱。まぁ噂のネタとしてはこれ以上ないほどのネタなのはミネットにもわかっていた。

しかし、それでも許容できるかどうかは全くの別問題だった。

「はぁ……レヴィアナさんに会えたらなぁ」

昼前に噂が舞い込んできてから会えないかと学校中を探していたけど結局見つからなかった。

「でもさ、会ってなんて聞くのよ。いきなり噂は本当ですか?とか聞くわけ?」
「はぁ……。付き合い長いのになーんもわかってないのねー」

ミネットはため息をつきながらカバンの中から1冊のノートを机の上に出した。
ジェイミーは首をかしげる。

「ほら、私たち目標書いてきたじゃない?それで私の目標、これだけになったの!」

ノートに書き記した『レヴィアナさんと一緒に戦う』という文字を指さしてミネットは嬉しそうに笑った。

「あんたも飽きないわねぇ」
「あたりまえでしょ?って言うかジェイミーだってそうじゃん!」
「まぁね。でも私の目標はこうよ」

ジェイミーも負けじとノートを取り出して、同じようにミネットに指し示す。そこには『レヴィアナさんと一緒に戦ってレヴィアナ様の役に立てるようになる』という文字だった。
その文字を二人で見つめあい、そして笑った。

「当たり前よね!レヴィアナさんがそんな事するわけないんだから」
「そうそう。それにもし何かしたとしても、絶対に何か理由があるもの」

ミネットは残ったパンをスープで流し込み、ノートを仕舞い席を立った。

「いこ!」
「ん?」
「決まってるでしょ!レヴィアナさんを探しに!」
「午後の授業どうするのよ?」

ジェイミーもやれやれと言う顔をしながらも嬉しそうに立ち上がる。

「教室にレヴィアナさんがいればちゃんとクラスに戻るって。それにここに居てもさ」

食堂には先ほどよりも多くの人で溢れ、先ほどまでの噂話もどんどん尾ひれがついて大きくなっていっていた。

『3人の凶行は計画的なものだった?』
『お金目当てだったんじゃ?』
『実は他の生徒会メンバーも陰で協力していたりして』などの根も葉もないうわさ話まで出てくる始末だ。
やっぱり大好きな人のこうしたうわさ話程、聞いていてつまらないものも無い。

それに、ミネット自身もただレヴィアナの声が聴きたくて、あの優しい微笑を見たくて居ても立っても居られなかった。

食堂を飛び出した二人は、レヴィアナの居そうなところ、行きそうなところをしらみつぶしに探した。
寮の部屋もノックしたが居ない。教室にも当然いない。

「これって……なにがあったのかな……?」

生徒会室に向かうと、扉が壊されていた。

「もしかして……もう……」

ジェイミーが手を口に当てる。ミネットも心臓が締め付けられるような思いだった。

「ば、馬鹿な事言わないでよ!ほら見てよ!」

ミネットは廊下に散らばった扉の残骸を指さしながらジェイミーに言う。

「扉は内側から壊されてる。それに……」

生徒会室の中をのぞくと誰もいなかったが、荒らされた形跡も残っていなかった。

「ほら!もし誰かが来たなら部屋の中はもっとぐちゃぐちゃなはずでしょ?」
「あ……そっか!そうだよね……」

でもやっぱりここにもレヴィアナはいない。本当にどこに行ってしまったのだろう。

「お、君たち。もう授業は始まっているんじゃないのかい?」
「あ……セオドア先生……」

廊下の角を曲がってこちらに歩いてきたセオドア先生に呼び止められた。

「おや?それにその扉はどうしたんだい?」
「ち、違います!私たちが来た時からこうなってて!」

ミネットは説明をするが、どうにも言い訳の様になってしまう。

「そうかい?ケガもしてないみたいだしそれならいいのだけれど……。さて、君たちに話があるんだ」

セオドア先生が二人に目線を合わせて少しだけかがみ込む。二人は目線を合わせたままゴクリとつばを飲み込んだ。

「君たちはレヴィアナと仲が良かったよね?レヴィアナはどこにいるか知らないかい?」

その言葉に、ミネットとジェイミーは同時に息をのんだ。
セオドア先生がレヴィアナを探しているという事は、もしかして……本当に……?
二人は顔を一度見合わせると、静かに首を横に振った。

「いえ、私たちもレヴィアナ様に用があって探していたのですが見つからず」
「はい、ちょっと魔法の事で聞きたいことがありまして」

セオドア先生は少し考えるそぶりを見せると、顎に手を当てた。
そしてニコリと笑うと二人に言った。

「そうかい、じゃあもし見かけたら私のところに来るように言ってくれるかい?」
「はい」

そう言い残しセオドア先生は背中を向けて歩いていった。

「せ、先生!」

ミネットがその背中に声をかける。

「なんだい?」
「あの、その……先生はレヴィアナ様に会って……どうするんですか……?」
「どうって?」
「いえ……えっと……だから……その……」

うまく言葉が出てこない。もし先生がレヴィアナに暴力を振るうようなことをしたら?そんな事は想像したくなかった。

「ははっ。君たちが心配するようなことは何もないさ。ただ、少し話がしたいだけだよ」

じゃあね、と一言だけ残してセオドア先生はその場を立ち去った。
先生が見えなくなったのを確認すると、ミネットとジェイミーは詰めていた息を一気に吐き出した。

「ねぇ……今のどう思う?」
「わかんない……。でも、きっとあんまりよくないよね……」
「だよね……。先生まで動いてるなんて……」

ミネットは頭を抱えた。もうどうしたらいいかわからなかった。救いを求めて外を見ると、学校の中に見慣れないきらびやかな馬車が入ってきているのが見えた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。

櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。 才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。 敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。 新たな婚約者候補も…。 ざまぁは少しだけです。 短編 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

ラスボス姫に転生したけど、ドS兄貴はシスコン設定になっていたようです

ぷりりん
ファンタジー
転生ラスボス姫がドS兄貴の溺愛に大困惑する、ラブコメファンタジー

悪役令嬢がグレるきっかけになった人物(ゲーム内ではほぼモブ)に転生したので張り切って原作改変していきます

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢になるはずだった子を全力で可愛がるだけのお話。 ご都合主義のハッピーエンド。 ただし周りは軒並み理不尽の嵐。 小説家になろう様でも投稿しています。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【完結】妹の特殊能力が凄すぎる!~お姉さまの婚約者は私が探してみせます~

櫻野くるみ
恋愛
シンディは、2ヶ月以内に婚約者を探すように言われて困っていた。 「安心して、お姉さま。私がお姉さまのお相手を探してみせるわ。」 突然現れた妹のローラが自信ありげに言い放つ。 どうやって? 困惑するシンディに、「私、視えるの。」とローラは更に意味のわからないことを言い出して・・・ 果たして2ヶ月以内にシンディにお相手は見つかるのか? 短いお話です。 6話+妹のローラ目線の番外編1話の、合計7話です。

「貴女を愛することは出来ない」?それならこちらはこちらで幸せになって後悔させてやる。

下菊みこと
恋愛
初夜で最低な態度を取られて失望した妻のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 イフルート!追加しました。こちらは本編ですっきりしなかった方向けのイフルートです。ラスト以外変わりません。 自立出来る女性ならイフルートも有りですよね!

処理中です...