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モンスターシーズン

ストーリーテラー_1

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「これってどういう事なんでしょうか?」

ナタリーが心配そうに声をかけてくる。ミーナもずっと心の中に引っかかっていた。

「みんなどこいっちゃったです?」

もともとクラスメイトがいた場所はすべて確認した……はずだ。
しかしいくら探しても、クラスメイトすら1人も見つからない。

(どういうことですか……まさかもうみんなモンスターに……)

最悪の想像が頭をよぎり、思わず身震いする。

(そんなことないです……!みんな頑張ってるです。ミーナたちも……)

「刃よ、天を突き刺し敵を貫け!天剣の嵐、エアロクラッシュ!」

ミーナの魔法は周りのモンスターを一掃した。
体中に溢れる力は尽きる事を知らない。でも、目につくモンスターは殲滅して移動してきたはずなのに、一向に数が減っている気がしない。

「ミーナさん!もうそろそろ戻りましょう」

ナタリーさんがそう声をかけてくる。あれからもう30分以上は舞い続けているだろうか?

「はいです……でも……」

今日はずっとおかしかった。
今朝起きてからの悪寒。さっきレヴィアナさんと別れる時の違和感。そして今ずっと感じ続けている得体の知れない不安。

「ナタリーさん、少しの間、10秒くらいミーナ動かなくなるので、少しだけ守ってくださいです」
「ミーナさん!?こんな場所で!?」
「ごめんなさいです。でも、たぶん今がきっと最後のチャンスだと思うです」

そういってミーナは耳に手を触れ、眼を瞑り意識を深く堕としていった。

***

「氷の結晶で織り成す盾よ、我らを守り護れ!氷結の防壁、フロストシールド!」

私はミーナさんに言われるがまま、全力で防御魔法を展開した。
意図は全くわからなかったけど、ミーナさんの眼は真剣そのものだったから。

(っ……!)

割られた箇所にマナを集中して全力で修復していく。さっきまでのミーナさんは簡単に退治していたけど、私には1体倒すのもやっとなモンスターたち。
ミーナさんはこんなところで足を止めて一体何をしているのだろうか?

(だめ……割られちゃう……)

一か所を修復する間に他の箇所はどんどんと壊されていく。防御魔法をすべて崩壊させられて暴走したら2人とも終わりだ。
そう思った矢先のことだった。
ミーナさんが急に眼を見開いたかと思うと、口を動かさないまま何かを詠唱した。

(え……?)

それと同時にミーナさんを中心に光り輝く巨大な竜巻が吹き荒れた。

「ストームガーディアン!!」

それは一瞬の出来事だった。さっきまで私の防御魔法を攻撃していたモンスターは吹き飛び、空高くまで巻き上がっていた。あれだけ苦戦していたモンスターたちが1匹残らずに散っていったのだ。

(すごい……!)

モンスターと私たちの間に巨大な風の渦が吹き荒れる。十重二十重に私たちを包囲したモンスターは次々にミーナさんの防御魔法に攻撃を仕掛けて、しかし近づく度に竜巻に吹き飛ばされていく。

「ナタリーさん、すこしのあいだ手を握っててください……です」

そんな竜巻の中心でミーナさんが笑いかけた。少し休憩をしているのだろうか。

「は、はい!でもこの魔法すごいですね……!」
「へへ、たまたまですよ!ちょっとだけ……、あ、魔法の詠唱をする間お話ししてくださいです」
「お話ですか……?」

辺りの木々はあんなにも揺れているのに、中心にいる私たちにはそよ風1つ当たっていなかった。まるで世界からここだけ切り離されているような不思議な感覚だった。

こんなモンスターに囲まれている状態で一体何を話すんだろう?

私はミーナさんの手をぎゅっと握った。すぐにミーナさんも握り返してきた。お互いの手は少し汗ばんでいたけど、毎晩のように眠りに落ちる時につないでいた手の感触は変わらなかった。

「えへへ……ナタリーさんとは夏休み終わってからずーっとこうして手を握ってたですねー」

ミーナさんが私の手の感触を確かめる様に、にぎにぎと何度か感触を確かめている。

「ナタリーさんの手ってあんなに冷たい氷魔法使ってるのに、いっつもあったかいんですよねー」
「魔法の属性は関係ないでしょ」

遠くから聞こえてくるはずのモンスターたちのうなり声や息遣いも聞こえてこない。
こんな世界にいるとは思えないくらい平和な空間だった。

「今度みんなで朝から演劇を見に行こうです!それで、お昼ご飯をたべてー、あ、みんなでストーンサークルズで勝負しましょうです。ミーナも強くなったですよ!」
「知ってますよ。どれだけ一緒にやったと思ってるんですか」
「えへへ、そうでした。ナタリーさんとは毎日やったですからねー。おかげで上手になれました!今度レヴィアナさんにリベンジですね」

ニコニコ笑うミーナさんだったけど、もしレヴィアナさんと勝負したらまたけちょんけちょんにされる気がしてしまう。
でも、負けながら「もう一回勝負です!」なんて笑いながら何度も再戦をする光景が簡単に想像できて思わず笑ってしまう。

「それでー、午後はみんなでお買い物行くんです!お揃いのお洋服を着たり、あ、ナタリーさんにはもっと派手でフリフリの……今度はあのお店のワンピース買いに行きましょうよ!」
「もしかしたらあれですか!?あんなの恥ずかしくて着れませんよ」
「えー?かわいいのにー。それで、それでですね!みんなでアリシアさんの家みたいにみんなでお風呂にはいっていろんなお話するんです!」

ミーナはこんな状況なのに眼をキラキラさせながら楽しそうに話す。

「それでみんなでのぼせて、みんなで顔真っ赤にしながら草むらでゴロゴロして、気づいたら朝になるまでずーっと話し続けててー。あ、それでみんなで授業遅刻してごめんなさいって学校にいって。それからそれから、あ!アリシアさんのティーパーティもしないとですね。絶対、絶対に楽しいですよ!」

本当にいつも学校にいるときと何も変わらない笑顔で話し続けていく。本当になんでもない日常の話を楽しそうに話し続ける。

「それに、レヴィアナさんの家でダンスの練習もさせてもらわないとですね!ちゃんと踊れないと舞踏会なんて出られないですからね。ナタリーさんもちゃんとしないとマリウスさんががっかりしますよ!」
「ちょっ!?なんでマリウスさん!?」
「あ、イグニスさんの方が良かったです?それともノーランさん?」

いたずらっ子のような笑顔でミーナさんがからかって来る。

「ち、ちがいますよ!なんでみんなが出てくるんですか!」
「えへへ!楽しみですね!それでみんなで一緒に卒業式に出て……、それでもっと、もっと沢山お話ししましょうです!」

ミーナさんはまた手をぎゅっと握る。
今となっては育ての親である師匠よりも触り慣れた手を私はその手を優しく握り返す。少しの間2人の間に沈黙が流れた。

「ナタリーさんにお願いがあるです!」

その手が離れていき自分の両耳についたイヤリングを外し、そして私の方に差し出してきた。片方は私の耳についているイヤリングの片割れ、もう一つはレヴィアナさんのイヤリングだった。

「ミーナの新しい魔法は自分が身に着けているものを目印にして飛んでいくことができるです!ナタリーさんはミーナのイヤリングを持って、生徒会のみんなの所に先に逃げてくださいです!」
「そんな魔法……私知らないよ?」
「本当は今使ってる魔法と一緒に魔法大会で見せてみんなを驚かせたかったです。でも、初お披露目としてはわるくないですよね!突然パッとみんなの前に現れてみんなを思いっきり驚かせるですよ!」
「ミーナさんはどうするんですか?」
「ミーナはもう少し先まで探してみるです!」
「私はミーナさんを置いて逃げません!」

そうきっぱりと言ってのける。せっかくここまで一緒に来たのに、1人だけ置いていくなんてできない。

「―――――いえ、ナタリーさんは戻ってください」

さっきまでの笑顔とは対照的な、初めて見る真剣な、でも泣きそうな顔でそうつぶやいた。

「だ、だめです!一緒に逃げましょう!」
「……――――ミーナ一人ならもう少し先まで行けるです!だから!」

私に2つのイヤリングを握らせ、そのまま両手で私の右手をぎゅっと握る。

「……お願いです!ナタリーさんは先に戻っててください。それで、生徒会のみんなと合流出来たら天高く氷魔法を使ってくださいです!それを合図にミーナは飛んでいくです!」

(あ……え……?)

「生徒会のみんなにかっこいいところを見せたいですから!だからお願いします!」

私に笑いかけながらそうお願いをしてくる。有無を言わせぬ迫真な表情だった。
イヤリングをぎゅっと握りしめ頷いた。

「ありがとうございますです!ミーナが道を開くです!まっすぐ向かって下さい!」

そこからミーナさんの行動は早かった。
右手を私の後方に突き出し、そのまま敵陣に向かって魔法を唱え始めた。

「――――――空を裂く極限の嵐、すべてを破壊する力を我に!終焉の風、テンペストブレイク!」

ミーナさんの詠唱でモンスターたちの周囲の大気が急激に変化する。強烈な強風が巻き起こり、モンスターたちを天高く吹き飛ばしていく。

「また、また会いましょうです!」

ドンと突き飛ばされた拍子に反射的に開けた視界に向かって体が飛んでいく。ミーナさんが私の体にシルフィードダンスかけてくれていたようだ。

「グレイシャルスライド!!」

一掃されたモンスターの間に開けた道をシルフィードダンスでさらに加速していく。一瞬振り返るがもう先ほどのモンスターの集団は見えなくなっていた。

(ミーナさん……!)

何故か一人でミーナさんは先に向かっていったようだ。
でも、生徒会のみんなと合流すればミーナさんは飛んで私のところに帰ってきてくれる。
受け取ったイヤリングを落とさないようにイヤリングを握りしめたまま、ただ一心不乱に前へと走った。


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