40 / 143
モンスターシーズン
翠の嵐
しおりを挟む
「はぁ……はぁ……シルフィードダンス!!」
マナはまだ残っている。体力もまだ残っている。ナタリーとのコンビネーションも抜群だ。
モンスターの数は全然減っている気がしない。むしろ増えているようにさえ感じる。
「アイシクルランス!!」
「ありがとうございますです!!」
ナタリーさんの魔法で何体ものモンスターが凍り付いて動かなくなる。その横を2人ですり抜けて先へ進む。
こんな状況でも安心感すら覚えてしまうのがなんだか不思議だった。
「ナタリーさん!そっちに居ましたか?」
「いえ……!見つかりません!」
こんな状況なのに、夏休みにアリシアさんの故郷で行ったウサギ探しを思い出してしまう。
(楽しかったなぁ……)
郷土料理を作ってくれるというアリシアさんのお母さんの依頼で、みんなで野山を一日中駆け回って、泥だらけになりながら暗くなるまで探し続けて……。
捕まえてきたウサギをみんなで調理して美味しく食べたあの時間はついこの間の様に鮮明に思い出せる。
セレスティアル・アカデミーに帰る途中に寄り道したレヴィアナさんの家は敷地内で迷子になるくらいの豪邸だった。3賢者のアルドリックさんも本当に気さくにしてくれて、今度ぜひ遊びに来てくれと言ってくれた。
イグニスさんの家で身動きが取れなくなるくらい豪華なドレスを見に纏っての舞踏会は忘れられない思い出になった。
あの小旅行を経て、生徒会のみんなとすごく仲良くなれたと思う。
学校が始まってからも特にナタリーさんとは部屋を交代しながら、お互いの部屋の同じベッドで勝手に瞼が落ちるまでずっと話し続けていた。
そんなナタリーがこうして横にいていると、2人でシルフィード広場にお買い物を行っているような気すらしてくる。
『ミーナは将来何したいんだ?』
ウサギ狩りをしているときにノーランさんに聞かれた質問をふと思い出した。
あの時、ミーナは質問の意味が分からず首をかしげたが、今ならなんとなくわかる気がした。
(そっか……ミーナは……ミーナは……!)
「ミーナさん?どうしたです!?」
急に立ち止まったミーナをナタリーさんが心配そうに覗き込んだ。
「ううん!なんでもないです!」
首を振って、ミーナはまた走り出す。
(ミーナは……ミーナはずっと、ずっとこうしてみんなと遊んでいたいです!)
卒業式が終わって、またレヴィアナさんの家に行ってみんなでお泊りして、みんなでイグニスさんの家に遊びに行って、今度はちゃんとドレスを着ながら舞踏会をする。
今度はセシルさんの家にもいってみたい。本当にただ広い草原が目の前に広がっていて、思いっきり駆け回ってそこにみんなで寝転がるだけのお泊り会もしてみたい。
そんなことを想像したら自然と笑顔になってしまった。
こんなに楽しい時間を作ってくれたみんなと、もっともっと楽しいことをしていたい!
(そのためには……)
他のクラスメイトも見つけたい。でも、今はそれよりもここを離れて、ナタリーさんと無事に生き残るほうが……。
「ナタリーさん……――――っ!!」
―――――敵の攻撃も激しくなりましたしもう戻りませんか?
そう声をかけようと振り返った時だった。
「きゃっ!」
小さな悲鳴が聞こえた。ナタリーさんがモンスターに襲われそうになっている。
(あぶない……っ!)
とっさに魔法を詠唱しようとしたが、一瞬躊躇した。
無詠唱のエアースラッシュを放ってもこの強力なモンスターたちを退けるには至らない。
ガストストームを詠唱している暇は多分ない。
(でも……!)
迷っている間にもモンスターはどんどんナタリーさんに迫っている。
(迷ってる暇なんて……ないっ!)
手をかざして必死にありったけのマナを込める。
「――――エアロクラッシュ!!」
口が勝手に動いた。知らない魔法だった。不可視の衝撃がモンスターたちを吹き飛ばした。
(いまのは……?)
それでもモンスターの猛攻は止まらない。
またナタリーさんが襲われてしまう、と思った瞬間には体はもう動いていた。
「嵐の力を宿し、全てを防げ!猛威の嵐の盾、ストームガーディアン!」
再び使った事の無い魔法を詠唱する。ミーナとナタリーさんの周りには遥か上空まで渡る巨大な盾が展開されモンスターの攻撃を防いでいた。
今まで使っていたウィンドウォールとはけた違いの防御魔法だった。
(え?なんだったです……?いまの……?)
自分が使ったはずなのに、まるで自分ではない他の誰かが使ったような、そんな感覚だった。
得体の知れない力に恐怖を覚えながらも、必死にモンスターからナタリーさんを庇い続けた。
「稲妻と共に破壊せよ!破壊の嵐の瞬間、ブリッツストーム!」
風の刃が飛び交い、強大な嵐が現れ、一気にモンスターたちを殲滅していく。
たった数秒間の出来事だった。
辺り一面のモンスターは姿を消し、その代わりに赤い地面が広がっていた。
(すごい……すごい……!)
はじめて使った自分のオリジナル魔法の力に驚きを隠せなかった。
(ミーナが……やったです……?)
「すごい!すごいよミーナ!」
ナタリーさんが興奮して駆け寄ってくる。
「いつこんなすごい魔法を使えるようになったの?」
「わ、わからないです!なんか勝手に……?」
右耳に触れようかと思ったけどやめた。理由はどうあれ、この状況でこんなに強力な魔法を使えるようになったのは良い事しかない。理由は後で考えればいい。
(これなら……みんなを守れるです……!)
まだ気を抜くわけにはいかないけど、この力があればこの窮地を脱することはもちろん、当初の予定通り他のみんなを探すことも出来る。
「風よ、我を天へと導け!飛翔の風、レヴィテーションブリーズ!」
シルフィードダンスより何倍も体が軽くなった様に感じられる。風の力でナタリーさん体を抱きかかえて空高く舞い上がった。
「わっ!わっ!!」
「ミーナが運ぶのでナタリーさんは牽制してください!」
「うん!任せて!」
まだ魔力の残量も体力も十分残っている。これならなんとかなるかもしれない、と少しだけ迷って再び歩を前に進めた。
マナはまだ残っている。体力もまだ残っている。ナタリーとのコンビネーションも抜群だ。
モンスターの数は全然減っている気がしない。むしろ増えているようにさえ感じる。
「アイシクルランス!!」
「ありがとうございますです!!」
ナタリーさんの魔法で何体ものモンスターが凍り付いて動かなくなる。その横を2人ですり抜けて先へ進む。
こんな状況でも安心感すら覚えてしまうのがなんだか不思議だった。
「ナタリーさん!そっちに居ましたか?」
「いえ……!見つかりません!」
こんな状況なのに、夏休みにアリシアさんの故郷で行ったウサギ探しを思い出してしまう。
(楽しかったなぁ……)
郷土料理を作ってくれるというアリシアさんのお母さんの依頼で、みんなで野山を一日中駆け回って、泥だらけになりながら暗くなるまで探し続けて……。
捕まえてきたウサギをみんなで調理して美味しく食べたあの時間はついこの間の様に鮮明に思い出せる。
セレスティアル・アカデミーに帰る途中に寄り道したレヴィアナさんの家は敷地内で迷子になるくらいの豪邸だった。3賢者のアルドリックさんも本当に気さくにしてくれて、今度ぜひ遊びに来てくれと言ってくれた。
イグニスさんの家で身動きが取れなくなるくらい豪華なドレスを見に纏っての舞踏会は忘れられない思い出になった。
あの小旅行を経て、生徒会のみんなとすごく仲良くなれたと思う。
学校が始まってからも特にナタリーさんとは部屋を交代しながら、お互いの部屋の同じベッドで勝手に瞼が落ちるまでずっと話し続けていた。
そんなナタリーがこうして横にいていると、2人でシルフィード広場にお買い物を行っているような気すらしてくる。
『ミーナは将来何したいんだ?』
ウサギ狩りをしているときにノーランさんに聞かれた質問をふと思い出した。
あの時、ミーナは質問の意味が分からず首をかしげたが、今ならなんとなくわかる気がした。
(そっか……ミーナは……ミーナは……!)
「ミーナさん?どうしたです!?」
急に立ち止まったミーナをナタリーさんが心配そうに覗き込んだ。
「ううん!なんでもないです!」
首を振って、ミーナはまた走り出す。
(ミーナは……ミーナはずっと、ずっとこうしてみんなと遊んでいたいです!)
卒業式が終わって、またレヴィアナさんの家に行ってみんなでお泊りして、みんなでイグニスさんの家に遊びに行って、今度はちゃんとドレスを着ながら舞踏会をする。
今度はセシルさんの家にもいってみたい。本当にただ広い草原が目の前に広がっていて、思いっきり駆け回ってそこにみんなで寝転がるだけのお泊り会もしてみたい。
そんなことを想像したら自然と笑顔になってしまった。
こんなに楽しい時間を作ってくれたみんなと、もっともっと楽しいことをしていたい!
(そのためには……)
他のクラスメイトも見つけたい。でも、今はそれよりもここを離れて、ナタリーさんと無事に生き残るほうが……。
「ナタリーさん……――――っ!!」
―――――敵の攻撃も激しくなりましたしもう戻りませんか?
そう声をかけようと振り返った時だった。
「きゃっ!」
小さな悲鳴が聞こえた。ナタリーさんがモンスターに襲われそうになっている。
(あぶない……っ!)
とっさに魔法を詠唱しようとしたが、一瞬躊躇した。
無詠唱のエアースラッシュを放ってもこの強力なモンスターたちを退けるには至らない。
ガストストームを詠唱している暇は多分ない。
(でも……!)
迷っている間にもモンスターはどんどんナタリーさんに迫っている。
(迷ってる暇なんて……ないっ!)
手をかざして必死にありったけのマナを込める。
「――――エアロクラッシュ!!」
口が勝手に動いた。知らない魔法だった。不可視の衝撃がモンスターたちを吹き飛ばした。
(いまのは……?)
それでもモンスターの猛攻は止まらない。
またナタリーさんが襲われてしまう、と思った瞬間には体はもう動いていた。
「嵐の力を宿し、全てを防げ!猛威の嵐の盾、ストームガーディアン!」
再び使った事の無い魔法を詠唱する。ミーナとナタリーさんの周りには遥か上空まで渡る巨大な盾が展開されモンスターの攻撃を防いでいた。
今まで使っていたウィンドウォールとはけた違いの防御魔法だった。
(え?なんだったです……?いまの……?)
自分が使ったはずなのに、まるで自分ではない他の誰かが使ったような、そんな感覚だった。
得体の知れない力に恐怖を覚えながらも、必死にモンスターからナタリーさんを庇い続けた。
「稲妻と共に破壊せよ!破壊の嵐の瞬間、ブリッツストーム!」
風の刃が飛び交い、強大な嵐が現れ、一気にモンスターたちを殲滅していく。
たった数秒間の出来事だった。
辺り一面のモンスターは姿を消し、その代わりに赤い地面が広がっていた。
(すごい……すごい……!)
はじめて使った自分のオリジナル魔法の力に驚きを隠せなかった。
(ミーナが……やったです……?)
「すごい!すごいよミーナ!」
ナタリーさんが興奮して駆け寄ってくる。
「いつこんなすごい魔法を使えるようになったの?」
「わ、わからないです!なんか勝手に……?」
右耳に触れようかと思ったけどやめた。理由はどうあれ、この状況でこんなに強力な魔法を使えるようになったのは良い事しかない。理由は後で考えればいい。
(これなら……みんなを守れるです……!)
まだ気を抜くわけにはいかないけど、この力があればこの窮地を脱することはもちろん、当初の予定通り他のみんなを探すことも出来る。
「風よ、我を天へと導け!飛翔の風、レヴィテーションブリーズ!」
シルフィードダンスより何倍も体が軽くなった様に感じられる。風の力でナタリーさん体を抱きかかえて空高く舞い上がった。
「わっ!わっ!!」
「ミーナが運ぶのでナタリーさんは牽制してください!」
「うん!任せて!」
まだ魔力の残量も体力も十分残っている。これならなんとかなるかもしれない、と少しだけ迷って再び歩を前に進めた。
4
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。
櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。
才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。
敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。
新たな婚約者候補も…。
ざまぁは少しだけです。
短編
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
悪役令嬢がグレるきっかけになった人物(ゲーム内ではほぼモブ)に転生したので張り切って原作改変していきます
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢になるはずだった子を全力で可愛がるだけのお話。
ご都合主義のハッピーエンド。
ただし周りは軒並み理不尽の嵐。
小説家になろう様でも投稿しています。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
【完結】妹の特殊能力が凄すぎる!~お姉さまの婚約者は私が探してみせます~
櫻野くるみ
恋愛
シンディは、2ヶ月以内に婚約者を探すように言われて困っていた。
「安心して、お姉さま。私がお姉さまのお相手を探してみせるわ。」
突然現れた妹のローラが自信ありげに言い放つ。
どうやって?
困惑するシンディに、「私、視えるの。」とローラは更に意味のわからないことを言い出して・・・
果たして2ヶ月以内にシンディにお相手は見つかるのか?
短いお話です。
6話+妹のローラ目線の番外編1話の、合計7話です。
「貴女を愛することは出来ない」?それならこちらはこちらで幸せになって後悔させてやる。
下菊みこと
恋愛
初夜で最低な態度を取られて失望した妻のお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
イフルート!追加しました。こちらは本編ですっきりしなかった方向けのイフルートです。ラスト以外変わりません。
自立出来る女性ならイフルートも有りですよね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる